こちらの事情を話してからは誤解を招かないように自分でも確認をするかのようにマダムに伝える。
探し人は私の曾祖叔父である事。私が来た理由に曽祖父の存在がある事。まだ健在である事。イジツの人には百歳超えてなお元気は衝撃的らしい。
それでも当人が来ない理由は体力的な事よりイサオさん絡みという事も。美女二人の表情が苦い顔になる。やっぱり悪党だったんだね、イサオさん。
「あの男、ユーハングでも好き放題しているのね」
「よく曽祖父に怒られてますよ。でもイサオさんが現れたおかげでイジツに来れた事も事実でして」
実際にあの提案を受け入れて震電をもらい受けていなければ穴から脱出した瞬間に撃墜されていたと思う。
震電で赤のカラーリングじゃなければもっと友好的に始められた。という話もある。むしろその方がよかった気も。
はい! 結果論で物事考えても仕方ないので終わり!
「それで探し人の足取りを追うのに何かアテはあるのかしら」
「しらみつぶしにユーハングの施設や居たであろう場所に足を運ぶ以外には特に……しいて言うなら」
レオナさんに視線を送る。少し困ったような顔をする。罪悪感で心が少し痛む。
「レオナさんに貸した借りを私の手伝いをする事でチャラにするとイサオさんが言っておりました」
「……貴女、まだあの男に借りを返す事を考えていたの?」
「マ、マダム! 私はただ彼に救って貰った恩を返したいだけで今のイサオには」
「今も昔も同一人物よ」
落ち込むレオナさん。
「それにハルト君の手伝いをすればチャラだと本人が言ったのよ。それで終わりにしなさい」
「で、でも!」
「命を救われたのは分かるわ。では救われた命の分と同等の借りを返す方法は?」
拳を作って項垂れるレオナさん。なんだかすみません。こんな方法で貸し借りを使わせてもらってしまい。
そんなわけだからとマダムが口を開く
「しばらくの間はレオナの世話になりなさい。私の方からも手伝えそうな事があれば手伝うわ」
「いいのでしょうか。返せる物なんか逆立ちしてもありませんけど」
「あら、十分あるわよ。貴方の頭の中にね。知り合いにユーハングの研究者がいるわ。彼の話し相手になってあげて頂戴」
どうやらアレンさんの事らしい。彼は穴に関する研究をしていたみたいで、
穴の予測地点を計算していた事で様々な事件に遭遇した模様。私が飛び出した穴の場所にいたのも納得。
そしてお手当もくれるという。え、いいんですか! 紙幣の価値が全然分かりませんけど!
私はホクホク。レオナさんはしょんぼり。なんだかいたたまれない気持ちになる。
「日も暮れてきたから詳細はまた後日。宿の手配もしておくからしばらくはそこに住みなさい」
「色々とありがとうございます。お世話になります」
誰かと違って素直で話が早いわ。そんな事を言われてしまう。誰だろう、誰かさんって。
お礼を言って意気消沈のレオナさんと一緒に表に出る。あの青空は夕焼けで真っ赤に染まっていた。
「すみません、レオナさん。私事に巻き込んでしまった形になってしまい」
「いや、いいんだ。いつかは決めなければならない事を先送りにしてきた私も悪い」
弱弱しくも微笑みかけて伝えてくる。責任感が強くて逆に心配になってくる。
迷惑をかけないように……もう既に遅い。邪魔にならないように……やっぱり遅い。存在してるだけで十分悩みの種になってる。
隣でうーうー唸っていたら頭に手を置かれる。
「子供が心配をするな。大人の好意には素直に甘えていいんだぞ」
あれ、私が成人している事って伝えてなかったっけ? 伝えてないわ。
そんなに童顔だっけ? 髪も染めず生まれも育ちも日本人だから童顔だった。
身長低いっけ? レオナさんよりは低いや。
年齢は……どの世界でも女性には聞かない方が身の為だよね。
わしゃわしゃしてくるレオナさんの顔を見上げる。どうした? と母性に満ち溢れたお顔で返される。
これから先、大変だとは思うけれど。こういうご褒美も頂けるなら頑張れそうである。
あの後、手配していただいた宿に案内をされる。近くにはラハマ自警団詰所と書かれた看板が置かれてある建物が見える。
防犯対策をしてある宿にしてもらったという事だろうか。案内された部屋に金庫が置かれてあったので間違いないと思う。マダムに感謝感謝。
震電の中で野宿プランも考えていた事もあり、屋根付きベッド有りのこの部屋が天国に見える。
一人で浮かれているとレオナさんから視線を感じる。
「ハルト。なにか他に荷物は持ってきていないのか?」
視線を下に向ける。そういえばずっとパイロットスーツのままだった。帽子はマダムとの面会前に脱いでいたけど。
多少ではあるが震電の中に詰め込んだ荷物が仕舞いっ放し。とはいえ緊急で必要な物は無い。漏らさなかったからね!
そうレオナさんに伝えると、次に震電に近づけるのは何時になるか分からないから、あるのなら取りに行こうという話になった。
「ザラが歓迎会を開くと言っていたのを忘れたのか?」
震電が置かれている格納庫に向かう道中の会話でそんな事を言い始めるレオナさん。
「アレってその場の空気を落ち着かせる為に言っただけじゃなかったんですか?」
「そんなわけないだろう。ザラが言ってくれたがコトブキとしても歓迎したいと考えているんだ。既にマダムからも歓迎会を開く為に人と場所の手配も受けている」
「いいのでしょうか。こんな正体不明の人間に歓迎会を開いてくださって」
「ハルトがユーハングから来たというのはあの場にいた全員が知っている。今日起きた出来事の中心人物を歓迎会に呼ばないでいたら私が怒られてしまう」
「それってつまり、空の上であった質問攻めの続きでしょうか」
「まぁ覚悟はしておくんだな」
頬を緩ませながら警告をするレオナさん。
あの状況から歓迎のムードになるとは誰が想像を。これはもう一度やったか。純粋に嬉しい。
道中、レオナさんから敬称はいらないと言われるが、癖みたいなものなので少しずつ善処しますと返す。笑われた。
再び震電の前へ。今は布が覆いかぶさっており、機体の形状ぐらいしか分からない状態にされている。
剥す……とまた面倒事になりそうだから布に潜り込むとして操縦席を覗き込む。僅かであるが荷物はそこに置かれたままであった。
取り出して振り向くと、レオナさんが誰かと喋る声が聞こえた。そして相手の方が私に話しかけてくる。
「おーい。どうしたー。忘れ物かー?」
そこにはツバ付き帽子を反対向きに被った可愛い少女がいた。
「操縦席に置いてあった荷物を取りにきました」
「おー中の物なら触ってないから残ってるハズだぞ」
「はい、無事に残っていました。機体に布を被せてくれたのは貴女ですか?」
「そうだぞ。ごく簡単にだけどな。それがどうかしたか?」
「いえ、手間をおかけさせてしまったので言葉だけで失礼ですがお礼をと思いまして。ありがとうございます」
背筋を伸ばして頭を下げて伝える。
「いやいや! 止めてくれ、大した事はしてないし一人でやった訳でもないからな」
「それでもお伝えしたかったものでして」
少女はレオナさんに視線を降る。アイツはいつもあんな感じなのか? 少なくとも、チカ達には見習って欲しい程度にはああだよ。
帽子を取り頭をクシャクシャする少女。
「あー! 分かった! まぁなんだ、また何かあったら呼んでくれ。手伝えそうな事なら手伝ってやるよ」
言うだけ言って少女は他へと歩き始めている。
「少し重かったでしょうか?」
「いや、ナツオ班長も慣れてないだけだ。これから慣れていけば大丈夫さ」
荷物も無事に確保でき、本日行われる歓迎会の開催所まで足を向ける事になった。