「ハルトくんー、ちゃんとのんでるー?」
「はい。ありがたく頂戴しております」
「またまたかしこまっちゃってー、もっとリラックスしていいのよー」
はい。いいえ。無理です。
ザラさん距離が近すぎます。大きくてやわらかいのが当たっております。
この空間、良い香りしかしません。美味しい食べ物は勿論ですが、女性特有というべき甘い香りで頭が蕩けそう。
前見ても横見ても女性陣。コトブキ飛行隊の皆々様に、二つに分けた三つ編みをしているウェイトレスのリリコさん。
男性は私も含めて三人。ケイトのお兄さんのアレンさん、マスターのジョニーさん。柔らかな笑みをしていらっしゃる方である。
そして現在進行形で幸せ……絡み酒に巻き込まれている私である。
レオナさんの後ろを雛鳥の様に付いていく。
「結構な距離を歩いているが大丈夫か?」
「こちらに来る前に体力作りをしていたので、この距離ぐらいならまだ」
「そうか。それは良い事だ。サボらずに続けていけばハルトも戦闘機乗りとして活躍できるかもしれないな」
お世辞を言われましても、こんなものですって。みんなおだて上手だから困る。調子こいて失敗する未来しか見えないので気をつけねば。
顔をキュッと引き締める。そんな顔をレオナさんが苦笑いしながら見ている。
引き締めた顔を解いていくと、地面に何やら影が見える。自分のでもレオナさんの影でもない。どんどん大きくなる。これはもしかして空から何かが……。
その瞬間、ドンと大きな音をたてて大きな鳥らしき生き物が着地する。
「うわぁぁぁどわぁその鳥どっかやって!」
「と、鳥?」
気づけばレオナさんが私の後ろに逃げ込んで両肩を掴んでいる。
この世界に来てから幸せな事が起きる。大きい。やわらかい。何より震えてて物凄く可愛い。
とはいえそのままでいる訳もいかず、鳥を見直す。あれ、何か咥えてる。
「もしかして、手紙を届けに来てくれたのですか」
口をグイッと上に向けてくるので受け取る。ご苦労様です。グワァァァ。そう一言鳴いて羽ばたく。意思疎通出来てないかい、あの鳥。
後ろにいるレオナさんはまだ怯えたまま。ただね、ちょっとね、肩がそろそろね。
そんなレオナさんの反応が面白いのか、大きな鳥がグワァァァと鳴きならが羽ばたく。
「ヒィィィ! 頼むどこかにやってくれ!」
「だ、そうです。すみませんが本日はお帰り頂けると助かります。手紙ありがとうございました」
グワァァァと一鳴きしてから別の方角へと羽ばたいて行った。あれは一体なんなのだろうか。
なんにせよ、私の肩もそろそろ限界を超えそうなので助かった。幸せの後に死を感じるのはそろそろ辛い。
「ねぇ、もういない? いないよね?」
「レオナさん。鳥さんはもうお帰りになりましたよ」
肩越しから鳥の気配を伺うレオナさん。十分に確認した後にようやく落ち着いたのか、肩におかれた手が離れる。
「すまない……。みっともない姿を見せてしまったな」
「大丈夫ですか? 私は気にしてませんが」
「あぁ大丈夫だ。少し落ち着いてきた」
「あの鳥さんの事、知ってるんですか?」
「羽衣丸のドードー船長だ。時々ああやって手紙を運んできてくれるのだが……」
鳥なのに船長なのか。そこは横に置いておくとして、この手紙はきっとレオナさん宛てでは。落ち着いたレオナさんに手紙を渡す。
しばらくしてレオナさんが顔を上げてこちらを見る。
「先に歓迎会を始めているから早くこないと終わっちゃぞ。だそうだ」
「それは大変ですね。急がないと」
「あぁそうだな。急ごう」
入口の看板が二つ、仮店舗と本日貸し切り、そう書かれた建物の前に連れてこられた。
そこから聞こえる笑い声と胃袋を刺激する美味しそうな香り。活動停止していた胃が反応してお腹が鳴り始める。
建物に入るとそこは酒場のような光景。丸いテーブルがいくつかあり、バーのようなカウンター席もある。
その奥の一角で既に始まっていた歓迎会。こちらに気づいたコトブキ飛行隊の面々がそれぞれに声をかけてくる。
「レオナおっそーい!」
「ハルトも早く! 早く! 主役がいなきゃ意味ないよ!」
チカさんがはよはよと急かすように手を振る。
レオナさんはザラさんの隣に。私はキリエさんの隣に招かれる。
テーブルには大量の食事とお酒で埋まっている。カレーやら謎の肉に飲み物、どれも美味しそうな匂いを漂わせている。
「さて、せっかく主役が揃ったのだから挨拶でもしてもらおうかな」
「こんなに大層な歓迎会で挨拶なんかした事ないですよ」
「いいのいいの、乾杯の音頭でも取ってくれるだけでも」
「その前にアレンさんもザラさんも飲んでるじゃないですか」
「それはそれ、これはこれ。はいそれじゃハルト君が挨拶をしてくれるみたいなので注目ー」
お顔がこちらに向けられてお目目が集中。こんな大勢に注目されるなんて初めて! 美形率たっか!
「あい、みなさんこんばんは。ユーハングと呼ばれている世界から来ましたハルトと申します。本日は「かんぱーい!」」
横入りしてきたキリエさんの言葉で全員がグラスや樽ジョッキの音を鳴らす。
「ちょ、まだ感謝の言葉が」
「長いからパスパス! ほらせっかくの料理冷めちゃうよ?」
キリエさんに言われた通り、せっかく温かな料理が出されているのに冷めたら勿体ない。
長くしないようにと頭の中では考えてはいたけれど、いざその場になるとお礼を伝えたくなってしまい、結果長々と喋る事になっていたかも。
世の社会人の皆様もそうなのだろうか。短く、されど感謝を伝える方法。難しい。
そんな中、視界に飛び込んでくる物があった。パンケーキ?
「ほらほら、そんな悩む事でもないでしょ。特別にリリコさん特製のパンケーキを分けてしんぜよう!」
「キリエさんの好物ですよね、いいんですか?」
「いいのいいの! パンケーキを愛する同志が悩んでいるのなら、パンケーキを差し出すのが礼儀でしょ!」
愛が重たい同志がここにいる。しかもフォークに刺さったパンケーキを差し出されている状態。いわゆるアーン的な。
食べないの? と軽く頭を傾ける。この人も注視すると美人さんである。
黒髪でふわっとした髪質にショートボブ。赤いトレンチコートに青いマフラーを巻いている。眉毛は細長くておめめはいうまでもなくパッチリ。
それで好きな食べ物がパンケーキ。女子力レベルがたけぇ。レベルってそもそもなんだって話だけど。
せっかく頂けるのなら待たせておくのも失礼か、てか一口サイズ大きくないかこれ。さっそく女子力がレベルダウンですよ!
なんとか口を開けて差し出されたパンケーキを口に放り込む。ふわふわで甘すぎずバターの味が効いてとても美味しい。これお店で出せますよ! いや酒場だここ。
もぐもぐしながら言葉を探る。短く、されど感謝を伝える方法。もう復習のお披露目会ですか。えーとえーと。
「トテモオイシイデス」
「何故、片言」
ケイトさんの鋭いツッコミ。だけどキリエさんは気にせず好きな物を分かち合えた事が嬉しいのか、ひたすらにパンケーキ愛を語りだす。
おう、おう、と失礼にならない程度で相槌を返すが一向に止まない。食べながら器用に喋る。そして話がループをし始めた頃に横からパンケーキを載せたお皿が私の前に置かれる。勿論キリエさんの前にも。
「はいそこまで。美味しいと言って貰えるのは嬉しいけど冷めたら勿体ないわよ」
運んできてくれたウェイトレスさんが言う。ありがとうございます。どう致しまして。普通のやり取りが新鮮に感じるぐらいに精神はどこかに旅立っていたようだ。
キリエさんは一先ず横に放置して、出されたパンケーキを頂く。うん美味しい。お店……いや、これはもう言った。
「パンケーキってデザートなのに最初に食べ始めちゃうのだから、ハルト君もキリエに感化されちゃったのかしらね」
「ち、違いますよザラさん! 目の前に出されたから美味しく頂いているだけでありまして」
「パンケーキが好きなら何も間違ってない! 出来立てを食べているハルトはむしろ正しい!」
キリエさんのパンケーキ愛がグラビティだよ。
空の上であった質問攻めの続きが始まり一つ一つに答えている。賑やかで会話も尽きる事を知らない。
イジツに来る前に三人で考えていた様々な状況。それらの中でもかなり良い状況なのだろうか。
陸海空、例えどの環境に置かれていても初陣で生き残れるという事は実力以上の何かが必要だと曽祖父が言っていた。
穴に突入した直後のキリエさんからの追撃を逃げ延びる為に必死に飛んだのは実力かと言われれば絶対に違う。実力以外の何かだったのだろう。少なくとも、パーソナルマークがパンケーキだったおかげなのは間違いない。
ちょっとした会話途切れの間にそんな事を考えていた。空いたお皿から視線を上げるとザラさんが手招きをしているのが視界に入る。なんでしょうか。
席を立ってザラさんの元に行くと、空いている椅子に手をポンポンと叩かれる。座りなさいって事だよね。
「お邪魔します」
「いらっしゃーい。ハルト君はお酒は飲めるのかしら?」
「ザラ。子供にアルコールを進めるのは良くないぞ」
「あら、レオナ。ハルト君はもう大人よ。ね?」
横目でザラさんに見つめられる。レオナさんは驚いている。隠す理由もないけどなんだか恥ずかしさを感じる。
指を年齢に表すよう形を変えて前に差し出す。
「ほら、その年齢ならイジツでは立派な大人よ」
「まさか成人を迎えていたなんて。あ、いや変な意味ではなくてな。頭を撫でてしまったり大変失礼な事をしてしまったのではないかと」
「大丈夫です。顔つきと身長で間違えられる事はありますから。それに頭を撫でてくださったのも安心させる為だったと思っています。おかげでイジツにきてから初めて落ち着けました」
二人して何故か頭の下げあい。隣にいるザラさん微笑ましそうに見つめてくる。
レオナさんとまた違った美人さん。髪は長く綺麗で濃い黄みの橙色。胸元には青いリボン。青い何かを身に着けるのはコトブキのルールなのだろうか。よく周りを見渡すとコトブキの皆は何かかしらの青い装飾を身に着けている。
しかし注目はそこではない。青いリボンが台か何かに乗せたような斜めの状態になっているのである。大きい何かがリボンの下にあるのだ。言葉にすると意識してしまうから駄目です。
平然と出されたお腹、短いスカートに膝上まであるタイツを履いている。お姉さん、凄いです。
「はーい。終わり。これじゃ空にいた時と同じになっちゃうわよ。という事で」
ビール樽ジョッキ三つねー。ウェイトレスさんに注文をする。しばらくすると器用に三つの樽ジョッキを運んでくるウェイトレスさん。お待たせしましたと告げられた後に置かれた樽ジョッキの存在感の大きさよ。ビールの量、というよりも容器に目が移る。日本で見かけるには自分の意思で見つけに行かなければお目にかかれないのではないだろうか。
「それじゃ私達の出会いにかんぱーい!」
乾杯。と告げて一口。ビールの苦味がパンケーキで包まれていた味覚を胃袋へと流し込んでくれるようだ。しょっぱい! 甘い! 苦い! 少なくとも日本にいた時ならあまりしない組み合わせである。
ゆっくりと味わってから樽ジョッキを置く。ザラさんは未だ喉を鳴らしている。レオナさんは私とおなじペース配分なのだろうか。すでにジョッキが置かれていた。
「ほら、口にヒゲが出来てるぞ」
レオナさんが取り出したハンカチで泡で出来たヒゲを拭ってくれた。どうやらビールを飲んでもレオナさんにとって私はまだ成人の枠組みには入らないらしい。
感謝を伝えると、隣のザラさんから大きな一息が聞こえた。気持ちのいい程の飲みっぷりである。
「一仕事終えた後のビールはやっぱり最高ね」
「確かにな。今日も特別な日だからか、いつも以上に美味しく感じるよ」
「毎日こうなら楽しいのになぁー」
「チカ。毎日だと特別では無くなってしまうぞ?」
「でもでも! みんなとご飯を食べれるのはやっぱり楽しいよ!」
「同感です。やっぱり一人だと何処か手を抜いてしまったりしますから」
「だよね! だよね!」
チカさんの気持ちは分かる。一人でご飯は自分から気持ちを上げていかないとただの栄養を摂取するだけの行為になりがちだ。でもぼっちご飯も慣れれば快適なのも分かる。だって現代っ子だもの。
「ハルト! ハルト!」
「はい、なんでしょうか。チカさん」
「さん。はいらないよ! 質問しつもーん!」
両手を振りながら手を上げる。はいどうぞ。
「ユーハングには海があるってホント?」
「はい。ありますよ」
「やっぱでっかいの? 見渡す限り水しかないの?」
「そうですよ、船が浮かべられるぐらいに大きいのですよー」
「ホントなんだ! ウーミに書いてあった通りなんだ!」
「ウーミは良く分からないですけど、あぁそうだ」
ちょっとお待ちをと断りを入れてスマホを取り出す。曽祖父の家に行く為に乗ったフェリーの画像や動画が残っていたはず。ウミネコらしき鳥が飛んでいた時に撮影をした記憶がある。
それを持ってチカさんのお隣にお邪魔します。キリエさんと食べたパンケーキの甘いさ。ザラさんと飲んだビールの苦味。そしてチカさんの目の前にあるものは刺激的な匂いが胃袋を刺激するカレーの匂いである
「なんですの、その板みたいな物は?」
「これに海の写真が入ってた事を思い出しまして」
「まぁ、私にも後で見せていただけます?」
「勿論ですとも」
動画を再生しようとしたら背後に気配を感じる。アレンさんとケイトさんがいた。ちょっとアレンさん酒臭いですよ! 何杯飲んだの貴方!
「この世界には海がない。ケイトも見てみたい」
「後ろに同じく。無い物が見れる機会なんてそれこそ滅多に無いからね」
チカさんは目を輝きさせながら、はよはよとせがむ。ちょっと待ってね。
「えーっと確かここら辺に入ってるはずだけど」
「へぇ、直接触って操作するのか」
「私も最初は慣れなかったですけどね。喋るだけならボタンがたくさん付いてる方が楽だと思いますよ」
そんな物もあるのかーとビールを飲むアレンさん。せっかくだから私とチカさんの間にアレンさんの車椅子を移動させてもらう。ほぼ密着状態になるが画面が小さいから仕方ない。
三角立てにしたスマホに表示されている再生ボタンをタップする。画面が動き出し自分の足元が映っている。それから数秒後に映し出されたのは船の手すりとうみねこの集団。そして海である。
「海だ! 本当に遠くまで水だらけだ! 船が浮いてる! むしろ乗ってる!? 鳥もいる!」
「これは凄い。見渡す限りの海だねぇ」
「ケイト。驚愕中」
各々、反応は色々。だけど驚きである事は確か。
「はえー海って本当にあるんだ」
いつの間にか丼を片手にやってきたキリエさんが呟く。女子力ダダ下がり中だよこの子!
この水ってやっぱり塩辛い? 飲み過ぎると死ぬ程度に。 どれぐらいの量がある? 私の世界の七割が海です。えぇ……軽く引かれた気がする。
風や鳥の鳴き声、船のエンジン音が聞こえてきた。この景色を見ながら曽祖父の家に行ったんだなぁ。お小遣い目当てに。
少しの間、画面を凝視をしていたチカさんが爆発したかのように喋り始める。テンションマックスでアゲアゲですね。あぁそんなに身体を揺らされると出てはいけない物がが。
長い間撮影していたからしばらくは再生され続けるはずだしお花摘みに行ってきまぁす! 席を立ち、ちょっとふらふらしながらいざお手洗いへ。
「しかしユーハングの技術とやらは凄いな」
板状の物から映画のような動き、音さえも聞こえてくる。こういった物が手に入るのであれば、あいつ等が穴に固執するのも少しだけだが分かる気がする。
「レオナも見に来たんだ」
「あぁ。キリエ、立ち食いはあまり良いとは言えないぞ」
「はぁーい。しっかしハルトってなんか抜けてるよね」
「どういう事だ?」
「こんな見るからにヤバそうな物を置いて手洗いに行ってるんだよ。自分で持ち込んだ物がどれだけ衝撃を与えてるかあんまり分かってなさそう」
目線をチカ達に向ける。ウーミの話が現実にある事が嬉しいのか、ケイトやアレンと大げさなジェスチャーをしながら議論……というよりは楽し気に疑問をぶつけ合っている。
「随分と賑やかな事ですこと」
「エンマは見たのか?」
「えぇ、とても素晴らしい光景で、是非タミルにも見せてあげたいぐらいですわ」
「確か地質学とユーハングの研究をされていた方だったな。イジツの世界でユーハングに詳しい人ならばハルトなら喜んで会うだろう。こちらでのユーハングの情報が欲しがっているからな」
「まぁ。それなら本人に許可を頂いたら連絡を取ってみるとしましょう」
エンマの頬が緩む。友人の力になれるかもしれないという事は誰しも嬉しく感じてしまう。ここにいる人達以外からも質問攻めに合いそうだぞ、ハルト。
ただいまーとの声でハルトが戻ってくる。少しふらついているが大丈夫なのだろうか。傍に近寄ってみたが。
「大丈夫かハルト。少し酔っているようだな。過剰なアルコールの摂取は身体に良くないぞ」
「ザラさんにおだてられてちょっといい気になってしまいました」
「あの底なしに付き合っていたら終わりがないぞ。次回からは気を付けるんだ」
「はぁい。気を付けます。水飲んできますー」
ジョニーの元に向かうハルトだが途中でキリエに捕まる。
酔い覚ましにほらアーン。ハルトの口にカレーをよそったスプーンを突っ込むが、ハルトが辛いと口と目を開く。
すかさずジョニーが持ってきた水で流しこむが、その様子をキリエが見て笑っている。あの馬鹿と注意をしに行こうとするが、片手をエンマに捕まれる。
「まぁまぁ、良いではありませんこと」
「しかしキリエの行動は余りに無礼すぎないか」
「確かにそうですけれど、ハルトの方は怒っている風を装いながら笑っておりますしね」
初対面の相手にもある程度は人並みに対処をするキリエだが、今日出会ったばかりの相手に自ら絡みに行って笑っているところは初めて見る光景かもしれない。
チカは相手に無礼な態度を取ってしまい、喧嘩ばかり吹っ掛けて大騒ぎを起こす事が多いのだが、今はハルトが教えた海の話に夢中で聞いている。
ケイトもアレンも研究者としての血が騒ぐのか、ハルトに質問をする事が多い。それを一つ一つ真面目に返すハルトもハルトだが。
ザラは……言うまでもなく、昨日と同じような状態だ。
しかし、どうしても頭に残る事がある。イサオの事だ。ハルトがイジツで探し人がいるという目的。これが嘘か誠か。あの独占欲が強いイサオがそれだけを理由に自分の震電を引き渡すのだろうか。もしあの場所で穴が現れていなければ。イケスカの上空に再び現れていたとしたら。
考え始めるとキリがないのは分かってはいる。だがあの激戦の爪痕は隊長という立場上。切っても切り離す事は難しい。
「レオナ。大丈夫ですの?」
「……すまない。考え事をしていた」
「イサオの事です?」
「どうしても、な。エンマに聞きたい事がある。イサオの事も含めてだ、ハルトについてどう思うか聞かせて欲しい」
少しだけ悩むエンマ。私も慣れない事をしているのは実感している。だが、分からないなら聞け。と最近怒られたばかりだ。
「今日出会ったばかりですが、そうですわね……。誰かの言葉を借りるならば、ケツ頭野郎の知り合いとは思えないぐらいに礼儀正しく、素直な子だと思いますわ。この世界に来た理由がもし偽りであったとしても……既に震電は鹵獲済みでしょうに?」
「あぁ。格納庫に隠ぺいするように細工がしてある」
「ならば大丈夫ですわ。ハルトには悪いですが戦闘機乗りとしての腕ならラハマ自警団の方が上でしょう。何かが起きてもハルトが戦力として脅威になる事はありませんわ。本当の脅威はあの震電ですもの」
「イサオが震電を譲り渡し、ハルトに乗せた理由はイジツでの自分の存在の誇示だろうか」
「ダニ共があの機体を見たら狂喜乱舞する姿は想像に容易いですもの」
ハルトの操縦方法はまだ覚えたてとも言える位のよちよち歩きだ。戦力としては現在の所は期待できない。マダムが震電の隠ぺいを指示されたのも分かる。
だが少し胸に残る違和感。もやもやとした物。それが何なのかを考えているとエンマがクスクスと笑う。
「何か変な事でもあったか?」
「いいえ。ですがレオナが感じている答えは分かりますわ。顔に書いてありますもの」
書かれているはずもない自分の顔に手を添えてしまう。私が感じているモノの答え。これは言葉にして出さなければならないモノなのだろう。
「ケツ頭野郎……は置いておくとして。確かにハルトはこの世界では珍しい性格である事は確かだ。でも、もう少し砕けた感じに接して貰いたいと想ってしまうのはおかしいことだろうか」
「その想いこそ、赤の他人ではなく友人として接したいという想いなのでは?」
「……そうだな。ありがとう。エンマ」
どう致しまして。
よし決まりだ。
「そろそろいい時間だ。本日の歓迎会はこれで終わりにしたいと思う。みんな、また明日から頑張ってもらうぞ」
うぇーい、とやる気のなさそうな声が半数だが、食事会の後は大体このような感じなので放置する。
「それとハルトに伝えておく事がある」
「なんでしょうか」
「明日からはコトブキ飛行隊の皆に対して敬称を付けて呼ぶのは禁止だ」
「うぇぇぇ、そんないきなり言われましてもなんて言いますか……照れます」
「照れるのも続ければ慣れる。それにハルトに呼び捨てで呼ばれる事に反論する隊員はいないからな」
チカとキリエはニカっとした笑顔でハルトの顔を見る。
ケイトは頷き、エンマは片手を振ってごきげんよう。
ザラは……机に伏しているが気にしないだろう。
私も問題ない。
照れたような唸り声に続いて頑張ってみますの返事。あまり気にする事でもないと思うのだが彼なりの矜持があるのだろう。
友人として長い付き合いになりそうなのだ。頑張って欲しい。
「よし、これにて歓迎会は終了だ。ジョニー、リリコ、突然だったが手伝いをしてくれてありがとう」
どういたしまして。お気になさらずに。その返事をもらうと私は良い人達と巡り合えてよかったと本当に思う。
ハルト。その中にはお前も含まれているんだぞ。出会いは突然ではあったけど、事情を聞いて手伝ってあげたいという思いは本当なんだ。家族の為とはいえ世界すら超えて行動を起こせる人間とは初めて出会ったからな。