あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第14話

 引いてダメなら押してみよう。押してダメなら回してみよう。

 あれやこれやと試してみたものの、扉は答えてくれず。唯一の手掛かりは鍵穴があるという事。

 

「少し時間を頂けるかしら」

 

 そう言ってリリコさんが取り出した物は先端の細い道具達。ピッキングをして開けようとするらしい。ウェイトレスってなんだろう。

 

「鍵がかかっているならまだ誰も立ち入っていない可能性はあるね」

「同意。中にユーハングに関する資料がある事を所望する」

「そうだね。僕は穴の事について分かる物があると嬉しいなぁ」

 

 それぞれに知りたい物があるといいなと期待する。私も曾祖叔父の事が分かる物があるといいのだけど、無いかなとも思う。

 理由については、図書館で隠し部屋の事を探していた時に目に留まった内容。

 軍隊が何かを隠すという事は、大概が食料や武器弾薬を保管する為の行動だった。機密とか秘匿の類は読み終わったらその場で燃やされるのが通例みたいだ。

 違う世界に来たからといって早々、軍隊の行動が変わるとも思えない。

 そんな事を考えてはいれど、内心ではワクテカが止まらない。隠し部屋なんて夢とロマン。

 

 

「今度こそ、開けるわよ」

 

 見事に鍵の解除を成功させたリリコさんが伝える。さぁ何があるのでしょうか。

 舞い散る埃と共に目の前にある扉が開かれた。

 中は正方形の空間で人間なら縦横五人ほど並べるぐらいの広さ、一角には棚があり、箱が陳列されている。その中の一つに書かれていた文字は酒。

 他に目ぼしい物は見当たらない。箱の中身次第ともいえるけれど、ただの倉庫かな? 

 ひとまずアレンを部屋までおぶって連れてくる。

 

「いやー隠し部屋ってワクワクするよね。その部屋に置かれた箱。ロマンの塊だなぁ」

「開けて毒でも噴射されなければいいわね」

 

 リリコさんがおっかない事を言う。棚にある箱は三つ。特に何も書かれていない箱を一つ棚から降ろして開けてみる事になった。

 少しだけ慎重になりながら箱を開封。現れたのは……膨張している缶詰であったような物。

 

「ある意味で毒じゃないですか。これ」

「とてもじゃないけど食べる気にはならないわね」

「あ、でも中身は気になるから後で開封してみようよ」

「アレン一人でやってくださいよ、私は嫌です」

「拒否する」

 

 がっくしと肩を下ろすアレン。中身次第では爆発しそうだから地面にでも埋めようよ。汁とか飛び出して身体にかかったら大変だよこれ。

 そう思いながら二つ目の箱を降ろす。あれ、結構重たいよこれ。

 一つ目と同じようにやや慎重に開ける。中身は……紙の束? アレンがこうふんしはじめた! 

 

「凄い! ユーハングの人達が書き残した物が出てくるなんて! あぁ期待してよかったよ」

「そんな事を言われた記憶がないのですけど」

「今言ったから問題ないさ」

 

 ケイトさん。貴方のお兄さん調子いいですね。ってあれ、ケイトも興奮してる? 表情は全然変わらないけど雰囲気が少し熱を帯びてる。

 兄妹が箱の中身に夢中になってしまった。仕方ないから放置して一度、リリコさんと一緒に上に戻る事にした。

 

「あぁなったらしばらくは何を言っても無駄そうね」

「アレンはともかく、ケイトまで夢中になるとは思いませんでしたよ」

「そうかしら、ケイトは最初から貴方に期待をしていると言ってたじゃない。期待をして、本当に見つかったのだから、嬉しさがこみ上げて結果的に夢中になっているのよ」

「だとしたら嬉しいなぁ」

「もう一つ箱が残っていたけれど、アテがありそうね」

「アレはですね、ちょっとお耳を貸してください」

 

 リリコさんの横に立って耳に顔を近づける。至近距離から見るリリコさんの横顔は整っていてとても綺麗。甘い香りにうっすらとした汗が入り混じって頭がクラクラする。

 

『箱にユーハングの言葉で酒と書かれていたんです。アレンに見つかると大変でしょ?』

 

 伝える事が終わったらすぐにいた場所に戻る。幸せを少しでも長く感じていたい。でも固執すると大変な事になる。リリコさんに嫌悪されるのは嫌だ。雑な扱いも罵倒も、愛情が込められたのが好き。

 

「はぁ。なるほどね。確かにアレンにバレたら面倒な事になるわね」

「今も飲める状態かは分かりませんけど。大丈夫そうでしたらリリコさんもどうですか?」

「そうね。せっかくだから少し頂こうかしら。ジョニーに渡すのもいいかもしれないわね」

「それはいいかも。歓迎会でお世話になりましたし」

 

 まぁ本当に中身がお酒で飲める状態であれば。ですけどね。

 

 

「いやー大量、大量、だね」

 

 日も暮れ始めてきた帰り道の道中、隠し部屋から持ち出した資料を片手にご満悦なアレン。少し酒臭いのはご愛敬。

 あの酒と書かれた箱には。琥珀色をした液体が入っている瓶がそれなりの数。ウイスキーだと思われる。

 資料に夢中になっている内にトラックに運ぼうとしたら、瓶同士の触れた時に発生した音でアレンにバレてしまった。

 飲める状態なのかどうかも分からないのに、毒見でいいから飲ませてと懇願される。

 ケイトに確認すると「ハルトが許可するなら良い」との返事を頂く。お兄ちゃんがニヤニヤした顔でこっちを見てくる。

「どうせは確認する物なのだから毒見させて放置しておけばいいのよ」リリコさんの火の玉ストレートがあった事もあり、一本だけアレンに手渡す。

 結果的にアレン曰く、とても美味しい。コルク栓を開けた瞬間に瓶から溢れ出るアルコールと木の香り。初めて嗅いだ香りだけど落ち着く。

 もう一口を何度か続けているけれど、お腹を壊すようなシロモノではないらしく。飲む度に顔が綻んでいる。美味しそうに飲みますなぁ。

 そんなへべれけアレンを横に置き。ラハマへの帰り道を進む。路面に気を付けながら車を走らせ、トラブルが起こる事もなく無事にラハマへと帰ってこれた。何事も無い事が一番いいよね。

 ひとまずアレンを病院に押し込んでベットに放り込む。後は持ってきた資料の箱も病室へ。

 

「お酒はどうしようか。一人一本でもそれなりに余る数があるよね」

 

 ケイトは余り飲まない事と、資料を貰えるのにこれ以上はと、やんわり断られる。

 リリコさんは一本もあれば十分よ。との事で今回の護衛費用と一緒に一本だけお渡ししておく。

 後はどうしようか。私もあまり飲むタイプではないから飲みきれない。アレンはそれならとアピールするがリリコさんに睨まれて縮こまる。

 

「無理して配らなくてもいいのよ。この男みたいに酒一本渡せば動く男なんてわんさかいるでしょうし。なんなら売り払って貴方の活動資金に変えるのも手よ」

 

 その言葉にケイトも頷く。

 

「ハルトがこの世界に来た理由を考えれば、現金に変換するのが一番良い。探し物をするにも、その場所に行くとしても護衛費用がかかる。現金はあって困る物ではない」

「そっか。それじゃお言葉に甘えていいかな?」

 

 リリコさんもケイトも頷いてくれた。こちらで出会えた人達が彼女達で良かったと本当に思う。

 お礼を伝えて病院で解散。車の返却に行こうとすると、ケイトが付き合うと言ってくれた。

 その車内でケイトから質問が来る。

 

「アレンの足。見てどう感じた?」

「よく分からないけれど、リハビリすればまた動ける怪我なの?」

 

 ケイトが首を横に振る。

 

「医者の見立ではあのままの可能性も高いと言われた」

 

 しばらく間が空く。私も返答に困っていたから。でもケイトは言葉を続ける。

 

「ハルト。お願いがある」

「なんだい」

「アレンの足を治す方法を一緒に探して欲しい。勿論、礼はする」

「それは問題ないけれど……あぁユーハングの知識を利用してという事?」

 

 ケイトは頷く。ただし雰囲気は暗い。

 

「ハルトには失礼な事を伝えている自覚はある。だけど時間が経てば経つ程、アレンは自分の足では歩けない状態に近づいてきている」

 

 この事に関しては真面目に脳味噌を回転させる。アレンの足も、ケイトの心配も解消してあげたい。

 残念ながら私には医療の知識は無い。あるとすれば父親が足の怪我をした時のリハビリ方法ぐらい。

 でも症状を教えてもらわなければ始まらない。覚悟を決めてケイトに聞く。

 

「ケイト。アレンの足があのような状態になった理由といくつかの質問に答えてもらえるかい?」

 

 ケイトは頷いた。

 

 

 またですよイサオさん。好き放題この世界でやりすぎじゃないかなあの人。この世界に来て名前が出てこない日が無いんじゃないかってぐらいの出現率。

 アレンの足に後遺症が残った理由。それはアレンが穴の位置を特定する為に調査へと向かった先に、イサオの手の者達が潜伏していて、アレンを襲撃。撃墜されたアレンは負傷し、足が動かなくなる状態になってしまった。

 これを聞いた時は頭を抱えてしまった。やっぱりとんでもないおっさんだったよ、イサオさん。

 この状況にケイトが言葉を発する。

 

「ハルトは悪くない。気にする事ではない」

「とはいえ面識があって、お世話になった人がそんな事をしていたと思うと頭を抱えたくもなりますよ」

「気持ちは分からなくもない。けどケイトも最初はハルトを疑っていたから」

「それは当たり前なのではないかい? 穴から飛び出してきたんだし」

 

 ケイトは首を横に振る。

 

「その後のイサオとの通信を聞いて、最初はイサオの指示でこちらの探りをしに来たのだと思っていた」

「あぁ、なるほど。私の手伝いしてあげてねってレオナさんに言ってましたからなぁ」

 

 馴染んできたかなとは思っていたけど、どう考えても私はイサオ一派の人間にしか見えないよね。

 

「でもそれは間違いだと、この数日で認識した。ハルトは本当に探し物を探しに来ただけで、イサオの行動を手伝いにきた訳ではないと」

「なんでそう言い切れる? 自分で言うのもアレだけど結構怪しいと思うよ?」

「歓迎会でチカに海を見せた事。今日のユーハングの工廠跡で見つけた貴重な物を分け与えた事。ハルトは質問をされれば精一杯、答えてくれる。手に入れた物を独占しようという気配はまったくしない」

「いやまぁ、聞かれれば可能な限りは答えたくなりますし、見つけたい物はあれど欲しい物とはまた別ですから」

「だとしても、独占をしたがる人間が多いのも事実。それをしなかったハルトだからこそアレンの足の事を聞いた。ハルトならきっと一緒に考えてくれて、何か治療法を見つけてくれるという期待。私にばかり都合のいい事を伝えている自覚はある。だからハルトはそれまで私を好きに利用してくれていい」

「好きに利用と言われてもなぁ……」

「護衛が必要なら最優先で予定を入れる。必要な物があるのなら可能な限り私が用意する」

 

 あ、そういう好きにでしたか。自分の思考が邪すぎてぶん殴りたくなってきたわ。ごめんよケイト。

 でもまぁ、アレンの、友人の為ですし記憶を頼りに頑張って探してみますかね。この世界の医療行為がどの程度なのかも分からないですし。もしかすればリハビリがアレンの足に合う可能性もあるし。

 

「可能な限り、手伝えるように努力するよ。ユーハングの研究作業の合間とかになってしまうだろうけど。その時はケイトにも手伝ってもらいたいな。脳みそ一つだと、どうしても煮詰まっちゃうからさ」

 

 ケイトはしばらくこちらを見つめたまま動かない。しかし思考が定まったのか口が動いた。

 

「ハルト」

「はいほい」

「感謝……」

 

 軽く頭を横に降るケイト。

 

「ありがとう」

「どういたしまして。ってまだ始まってないけどね」

 

 恥ずかしさを隠すように照れ笑いをする。ケイトは相変わらず表情に変化は無いけれど。雰囲気だけは今日一日、一緒にいたおかげか少し分かるようになった気がする。

 意外と喜怒哀楽がはっきりとしているのかもしれない。

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