あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第15話

 先日のユーハング工廠探索を終えた後にマダムと町長にお礼の挨拶に行ってきた。

 町長からは無事でなによりとの言葉を頂いた。ややふっくらとした腹回りの男性であるが、穏やかで親切な方だ。

 昔はラハマの貴公子と呼ばれ、エンマ曰く、町に対して難癖をつけてきた空賊達の要求にも屈せず、二度も断った。との事。その一つが自由博愛連合だったという事も。イサオさん、貴方の組織が空賊のゴミムシレベルの扱いをされてますよ。

 工廠で発見した物の一部であるウイスキーを渡そうとしたが、丁重に断られる。町長の立場もあるし、自分が見つけた訳ではないからと。ここに大人の男性がいるよ。

 

 

 マダムへの報告も同じ内容である。ウイスキーを渡したらすんなりと受け取ってくれた。売って資金にすればいいじゃないの。とも言われる。

 リリコさんにも同じ事を言われて、いざ売ろうかと考えたら相場が分からなかったのです。

 なので下手に売るぐらいなら、日頃お世話になっている方に譲るのが良いと思いまして。

 感謝の言葉と共にお辞儀をする。だって日本人だもの。

 マダムは少し呆れた顔をしながらもキセルから煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。緩やかな動作で椅子から立ち上がり、謝礼と共にお辞儀をする。私と同じ動作なのに上品さがまるで違う。

 驚いた顔をしていると、これも商売に必要な事よ。と教えられる。母性に満ち溢れた顔で言われる。羽衣丸副船長のサネアツさんがお熱になる理由が少しだけ分かった。

 でもドレス姿でお辞儀は眼福になり危険なので気を付けて欲しい。それもマダムなら予想範囲内か。

 

「ハルト君に伝える事があったわ」

「なんでしょうか?」

「ハルト君と搭乗していた震電。ユーリア議員と共にアレシマに行きが確定したわ」

「視察したという名分だけでは納得させる事が困難になった。という事ですか」

「えぇ。あちらの世界も色々と大変みたいよ」

 

 少し辟易とした物が混じった溜息をつく。その姿さえも美しい。一枚写真を撮らせてもらってサネアツさんにでも売るか。

 

「震電の輸送については予定通りガドールの飛行船に搭載させる事。飛行船の護衛にユーリア議員の親衛隊と、コトブキ飛行隊が役目を請け負ったわ」

「コトブキの皆さんがですか」

「震電がラハマからアレシマに輸送されている間に何かがあっても、自警団で対応できるレベルでしょうしね。厄介者の震電を持ち運ぶ事がラハマの治安維持も繋がるからって彼女、大層値切ってきたわ」

「そ、それはなんとも」

「それでも他の依頼より報酬は破格よ。何かと物入りな時期ですもの。正当な依頼なら断る理由はないわ」

 

 その為にも。マダムが続ける。

 

「震電が稼働できる状態か、確認して欲しいの。整備士なら腕利きの子を紹介できるわ」

 

 

「それがナツオさんの事だったんですね」

「まっそういう事だな」

「ナツオの整備は完璧。安心して機体を任せられる」

 

 格納庫で出会った女性は、羽衣丸所属の整備士で名前はナツオさん。以前、同じ場所で見たあの美少女であった。

 どうやら私よりも年上らしい。周りからはハンチョーや姐さんと呼ばれているのを見かける。人は見た目で判断してはいけない。

 震電の動作確認の時に呼ぶと約束していたケイトと一緒に訪れた訳である。

 

「しっかし、まさか震電を整備する機会があるとはなぁ」

「ナツオさん程の方でも震電の整備は初めてですか」

「当たり前だ。存在自体が幻の機体だぞ。イケスカ騒乱で初めて稼働状態の機体がある事を知ったぐらいだ」

「ケイトもあの時に初めてみた」

「そういう割には撃墜してたじゃねーか」

「イサオが油断していたから出来た事」

「そうだったんですか」

「とは言ってもだ。機体そのものはイジツで生産された以上は使われている技術で、ある程度の憶測はつく。改修されている部分も胴体部分や装甲のガワぐらいで済んでいるしな。そちらの整備は可能だが、問題はエンジンだ」

 

 震電のプロペラに触りながら話が続く

 

「こちらも原理も動作もある程度は把握できる。ハルトが震電にレシプロエンジンを積んできてくれたおかげでな。イケスカ戦でイサオが搭乗していた時のエンジンだったらお手上げだったかもな。ただ、それでも初めて触る事には違いない。その場合、万が一も発生する可能性はある」

「飛ばせなくなる事も?」

「あぁ、十分ありえる。下手をすればエンジンが吹っ飛んでお釈迦だ。その可能性がある事を伝えた上で聞いておかなければならない事がある。私達に整備を任せてもいいかどうかだ」

 

 ナツオさんがどうする。と問いかけてくる。

 震電が飛ばなくなる。そんな未来を考える。だけど震電は既に私に様々なチャンスを与えてくれた。その機体性能で命も。

 愛着はある。だがこれ以上、イジツでこの機体に搭乗するのは危険が伴う。震電から始まったドタバタも良い方向に向いてくれたんだ。

 

「エンジンが破損したり機体が飛べない状態になったとしても、ナツオさんを責めたりはしません。無茶なお願いをしているのは重々承知していますから。

 それにマダムやコトブキの皆さんが信頼している方ですから、そんな状況になったりはしないと信じてますよ」

 

 駄目で元々。そういう風に受け取られるかもしれない。だけど信じているのは確か。

 静寂の間。腕を組んで黙っていたナツオさんがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「おもしれぇじゃねぇか。その期待に応えてこその整備士ってもんだ! 野郎共、準備しろ!」

 

 部下と思われる人たちから『ウっす!』『喜んで!』の声が挙がる。一人、喜んでる人がいるよぉ。

 

「よろしくお願いします。あ、ダメだった時はユーリア議員への言い訳を一緒に考えてくださいね」

「そんな心配をしないで済むぐらいに、完璧に仕上げてやるよ!」

「お願いします。無事仕上がったらケイトに動作確認をして貰おうと思っているのですが、大丈夫ですかね」

「んぉ、ケイトも気になっていたのか?」

「イジツにはないユーハングのエンジン。大変興味深い」

「それならこのまま手伝ってくれよ。ケイトの豊富な知識なら作業もやりやすくなるってもんだ!」

 

 ちらりとこちらを見るケイト。是非ともよろしくお願いします。分かった。

 

「なんだぁ、随分と仲がいいんだな」

「ハルトにはケイトを好きにしてもいいと伝えてあるから」

「おい! ハルトぉ、ちょっとこっちこいや」

「いやいや! その言い方だと絶対に誤解されてますから! 違いますから!」

 

 要約する形でナツオさんに伝える。

 

「なるほど、アレン絡みの事か。確かに治ればいい事は確かだが……」

「そこでですね、ナツオさんに質問があるのですよ」

「質問? なんだ?」

 

 自分で書いた汚い工作図を広げて見てもらう。書かれている物は平行棒が左右に並んで固定されている物と、車輪が付いた歩行器。赤ん坊が歩行訓練の時に乗ってるアレ、で伝わるだろうか。

 これを書く前に病院を訪ねてみた。リハビリという治療行為をしているのは分かった。だけど父親の怪我の時に見たような器具は見当たらなかった。

 図書館にも足を運んでユーハングに関わる事と共に医療に関する事、リハビリの項目を読んだがやはり見かけず。

 これならもしかして可能性はあるのではないだろうか。勿論、アレンの神経に何らかしらの問題があれば全ては意味がない。それは穴の先にある私の世界であっても。

 それでも一部の望みを託して可能な限りの記憶を頼りに形と使い方が浮かんだのがこれ。

 

「ここに書かれている器具を作りたいのですが、生憎こちらではアテがありません。ナツオさんはこういった機材を作る事はできませんか?」

「この器具はアレンの足の治療になる物なのか?」

「はい。これらを使って歩かせる事により、足の筋肉を少しづつ元に戻していけば、自力歩行の可能性は上がるかと」

「病院にある器具では代用出来なかったのか?」

「平行棒であれば病院にもあるのは確認出来たのですが、壁伝いにしか設置してないので、それを利用すると筋肉のバランスが偏ってしまうので余り身体には良いとは言えないです。車輪付きのは見た限りではありませんでした」

 

 そうか、バランスは大切だな。と呟くナツオさん。

 

「歩かせるのは分かった。ただアレンはまだ立つ事すら出来ないが、そこはどうするんだ」

「ユーハング式……という言い方は変ですが、こちらの技術で外部から処置すれば無理矢理立たせるだけなら可能だと思います。歩行に関しては急には無理でしょうが、日に何度か両足で立たせて筋肉に刺激を与えて、そこから歩行へといければと考えています」

 

 ふーむ。とナツオさんが思考する。無理難題を言っている事は確かだし、医者でもない人間の知識でどうなるかなんて分からないのだから当たり前ではある。

 だが、ケイトが横から口を挿む。

 

「ナツオ。私からもお願いする。この短期間でアレンの足の治療が可能かもしれない事を探してくれたハルトには感謝している。そしてハルトが探し出してくれた治療行為に必要な道具がある事も知った。ケイトはそれを是非とも手に入れたいと考えている。金額が多少かかってもかまわない」

 

 お願いします。と頭を下げるケイト。私も追って頭を下げる。

 腕を組んで思考していたナツオさんが慌てて頭を上げるように言う。

 

「分かった! 分かったから頭を上げてくれ。私だってアレンの足が治るならそれに越した事は無いと思っている。ただうまく想像が出来なくて考えてただけなんだ」

 

 少し焦った表情をしていたナツオさんが一度、深呼吸をして再度、会話を続ける。

 

「これぐらいならなんとかなるだろう。作り上げてみせるよ」

「おぉ本当ですか」

「一度やるって言い切ったんだ、任せておけ!」

 

 頼もしい。見た目はきゃわきゃわなのに、中身は熟練の整備士さんが入っているよ。

 

「でも、震電の事が済んでからになるぞ。初めての作業を二つ同時進行は無理が出るからな」

「問題ない。ナツオ。ありがとう」

「おう! 任せておけ。ケイトもこき使ってやるからな! 覚悟しておけよ!」

 

 了解した。と返事をするケイト。

 私はこのままここにいても邪魔になると判断したので、一度引き返す事にした。お礼を伝えると共に一緒に持ってきた差し入れを渡す。米菓だからカッチカチでしょっぱいぞ。

 なんでも入っているのな、その鞄。そんな事を言われたが喜んで貰えた。日頃、間食する物としてはこういう物が好みらしい。覚えておこう。

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