あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第2話

 玄関に現れたのは、曽祖父ではなく見知らぬ男性であった。

 反射的に誰だと言ってしまったが、男性は私の失礼な問いかけに対して気にも止めずに名前を教えてくれた。ただし、強烈にハイテンションで。

 

「これは失礼。僕の名前はイサオ。トウワ・ブユウ商事の会長、イケスカ市長、そして自由博愛連合の議長でもあるのだよ! まぁ今頃は全部失っているだろうけどね!」

 

 名前がイサオさんである事は分かった。ただし後半は何を言っているのか分からない。

 ブユウ商事。これはきっと社名。イケスカ? そういう地域があったかなぁ、と半信半疑。最後のはなんとなく分かる。この人やべぇ奴だ。

 

「ひーじぃ、居るんでしょ。警察呼んだ方がよくない?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 自己紹介しただけなのになんでそうなるの!?」

「いけ好かん奴だと本能が喚いているもので」

「イケスカだけに? ハルト君は冗談も面白いなぁ!」

 

 一人で腹を抱えながら大笑いをしているイサオさん。咄嗟に出た言葉が冗談になってしまって恥ずかしさ全開の私。その空気の中、ようやく家の主が表れた。

 

「ハルト、遠い所からよく来てくれたな。歓迎するぞ」

「ひーじぃ、この人について詳しく」

「知りたい事は山ほどあるだろう。一先ず中に入って落ち着こう。シュワシュワも用意してある」

 

 曽祖父にかかれば炭酸飲料は全てシュワシュワである。でも大好きなので何も問題ない。

 バイクから荷物を降ろし家の中へと入ろうとすると、さも当たり前かの様にイサオさんが荷物を持ってくれた。見た目通りの紳士的な行動にちょっと驚く。

 持ち運びが済んだ後に、リビングにある椅子に腰をかける。曽祖父から渡されたシュワシュワを口にして一息つく。今日のような暑い日だと、いつもより炭酸が身体に染み渡る感覚がする。

 

「さて、落ち着いたところで本題に入るか」

 

 この場にいる三人が椅子に座り、曽祖父が喋り始める。

 

「ハルトを呼んだ理由を伝えようと思う。私はしばらくこの家を留守にする。その間、この男の世話をしてやって欲しい」

「はぁ、気をつけ……て?」

「ありがとう。もし私が一向に帰らなかった場合には、これを読んで欲しい。財産分与や手続きに関して記入しておいた」

 

 頭にハテナマークが浮かび続ける。帰らない? 財産分与? 手続き? 

 

「それって所謂、遺書ですか?」

「あぁ。歳が歳だけに前から用意はしてあったが、ここにきて役に立ちそうだ」

「いやいや! 遺書が必要な事って何をするつもりなの!? 留守にするって事は何処かに行くんだよね!? 何処に行くつもりなのさ!」

「イジツだよ」

 

 返ってきた答えを発したのは、イサオさんからであった。

 

「イジツ? 何処にあるのさ」

「んー別の世界かなー、少なくともユーハングとは別の世界だよ」

「ユーハング?」

「この世界の事だね」

 

 頭がこんがらがる。知らない単語と別世界の話。そういった物語なら何度も目にしてきたし、その手のジャンルは好きだ。創作だから。

 だからなのだろうか、イサオさんが発する言葉もおぼろげながらに意味は通じる。だけど理解出来ているかは分からない。今の自分はきっと口を開いたままの間抜けな姿なのだろう、そんな状況を見て曽祖父が口を開く。

 

「少し長くなるが、聞くか?」

 

 口を閉じて静かに頷く。聞いておかないと後悔する事になりそうだから。

 

 

 今日、出会ったイサオさん。この方は日本人でもなければこの世界の住人でもない。

 イジツという別世界から穴と呼ばれている所を通って、こちらに辿りついたらしい。

 あちらの世界では、ここの世界の事はユーハングと呼ばれており、何十年も前には穴を通じてユーハングからイジツへと人が来て生活をしていた。

 その時に持ち込まれた様々な物がイジツを一変し、生活が変化した。

 だがある時、ユーハングからやってきた人達は突然と姿を消した。穴と共に。

 そして現在、過去の言い伝えとして本当にあったのかどうかも分からない程の年数が経ったある日。消えたはずの穴が再び現れる様になり、そこから様々な物が降り注いでくるようになった。

 イサオさんはその穴を管理し、穴から降り注ぐ物を独占する為に行動を起こした。その為の一つとして作られたのがイケスカという町を中心とした自由博愛連合と呼ばれる組織である。

 連合に加入した町とは上下関係。空賊と呼ばれる連中達から町を守る為に戦力の提供をする。ただし、加入した町がイサオさんの要求に応じないなら武力で潰すという始末。ここで言う要求は主に穴に関する事らしい。

 

 勿論、そんな事をすれば反発も食らうわけで、反イケスカ連合という組織が立ち上がり、大規模な空戦が発生する。

 イサオさん自身も参戦して反イケスカ連合に対してダメージを与える事に成功する。昔はエースパイロットとして空を飛んでいたとの事。しかも二つ名付き。

 順調に事は進み、反イケスカ連合も潰せそうだった時に誤算が生じる。穴の出現である。

 穴。これは毎回、同じ場所に現れる物ではないらしく、見つけるのはなかなか困難だったみたいだが、イジツには穴の研究者がいてその人の研究結果として穴が出現する際に予兆が発生する事が分かった。

 その予兆がイサオさんがいるイケスカに発生した。

 

 反イケスカ連合がこの機会を逃すわけもなく、イケスカにて空戦が発生。反イケスカ連合にもエース部隊がいたが、イサオさんの敵とまではいかなかった。前回の空戦で、そのエース部隊に油断して撃墜されているのは忘れたらしい。

 これでイサオさんを邪魔する奴らはいなくなる。穴を、全てを独占してイジツを手に収める。そう考えていた矢先に反イケスカ連合が穴を破壊する為に爆薬とブースターを搭載した飛行船を穴に向けて発進させる。

 勿論、そのままにしておく事は出来ず、撃墜に向かうイサオさん。だが相手をしていたエース部隊の一機が邪魔をし続ける。

 イサオさんも苛立ちが隠しきれず、相手の機体を飛んでいるのが不思議なぐらいまでに銃弾を浴びせる。そして残りの弾薬を全て飛行船の撃墜にまわし始める。

 しかし、尚も邪魔をし続ける相手に止めを刺そうと行動に移し、後ろを取り、引き金を引くだけで終わるはずだった。が、相手の予測不能な機体の動きに反応できず、機銃掃射を受けて自身の機体とエンジンに損傷を受ける。

 飛行船の撃墜が事実上、不可能になったイサオさんが起こした行動が、エンジンが止まる前に飛行船の爆破によって破壊されるであろう穴に先に飛び込む事であった。

 その穴を通じて辿りついたのがこの世界であり、こちらでの穴の出現場所が曽祖父が所有している土地の上だった事もあり、不時着して曽祖父に発見されて現在に至ると。

 

「本当に酷い連中だよね。よりにもよって穴を破壊しようだなんて」

「私には相手方の人達の行動が真っ当に聞こえてくるのですが」

「アハハ、ハルト君は面白い事を言うねぇ」

 

 楽し気に笑うイサオさん。目線を曽祖父に向けて見ると渋い顔。

 曽祖父から始まった話も途中からイサオさんの独壇場。身振り手振りも使ってこちらに来る前の話を語ってくれた。

 この姿を見ている限りだと楽し気な人なのだけど、所々でキツイ話も出てくる。空賊の連中と繋がりが有ったり、爆撃機を造って町を吹っ飛ばしただとか、ユーハングにおいていかれた爺さんが凄腕のパイロットだったとか。

 飛行機……特に戦闘機の話になるとそれはもう楽しそうに喋りだす。その話の間にイジツという世界がどのような風景なのかも少しづつ垣間見えてくる。

 

 イジツ。一面ほぼ荒野の世界であり、海も無く川も無い。地下資源に頼り、人々が生きてたり死んだりが当たり前。

 その世界に突如として表れた穴。穴からは様々な物が降ってきた。とりわけ、航空技術がイジツを変えたとも言われているらしい。

 昔あったであろう海や川の痕跡による渓谷、アノマロカリス等の狂暴な生き物達のおかげで陸路が壊滅的だった所に飛行機が登場。空路という移動方法により町の交流や物の輸送が盛んになる。アノマロカリスって毒ガス吐くんですか。

 

 それにより人々が手を取り合って。とならない所が難しいところ。物を運ぶとそれを狙う連中が登場するようになる。いわゆる空賊という人達。

 空賊達から人や物を守る為に自警団が出来上がる。そこから更に腕の良い連中達は飛行隊を結成して傭兵として雇われるようになる。

 結局、人々の争い事は終わらずに繰り返されていく日々。数年前にもリノウチ大空戦と呼ばれる程の空戦が発生した。そこでイサオさんは一度の出撃で十二機の敵を落とすという偉業を成し遂げて名を上げたそうだ。

 

 イジツでいう戦闘機はレシプロ機が主流で、機体の名前を聞くと日本語ばかり……というよりも日本機。

 隼に零戦、雷電と何かしらで聞いた事のある名前が出てくる。隼だと小惑星に探査機を送り出した話とかで。

 イサオさんに問いかけると、ユーハングという言葉はこちらの言葉で日本軍を意味していた。

 つまりユーハング=日本軍が数十年前に穴を通じてイジツに辿りつき、色々とやってたけど穴が閉じそうだから帰っていったと。

 戦闘機の名前や年代的に考えると、第二次世界大戦の真っ最中に起きてた出来事なのか。

 

「ちょっとストップ。一回内容の整理整頓をしたいのですが」

「一度、休憩にしよう。当時生きていた私でもこの男から聞いた話を理解するには苦労した」

「まっ時間は有るんだし、ゆっくりと理解していけばいいんじゃないかな」

 

 そういってイサオさんはリモコンを手に取り、ソファーに座り慣れた手つきでテレビをつける。

 そこに丁度、種子島から衛星を打ち上げるロケットが映し出されてイサオさんが興奮し始める。

 椅子に座っていた私を軽々と持ち上げて自分の隣に座らせて解説を求めてくる。

 勢いといい知識欲といい、小さな子供かと思う反面、大人がはしゃぐ姿もまた楽しそうだな、と思ってしまった。

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