あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第20話

 ラハマへと帰還中の飛行船内。執事さんとの対談を終えてそのまま帰路へ着く少し強硬なスケジュールだった。それでも得る物はたくさん。

 帳簿も見せてもらえた。所々の翻訳を私が。執事さんとユーリア議員は物資の流れについて調べてくださった。

 その結果、モノの流れに違和感を感じる場所がいくつか見つかる。この場所に、この物資が、この量が必要なのか。疑問が浮かぶ。

 その一つをいま、上空から通過をしようとしている。名前が付けられている地形。オフコウ山。

 

「あんな所に墓所なんてあるのかしら」

「ですがユーリア議員にも手伝っていただいた結果。ここも候補地の一つです」

「そうね。夜で視認性が悪いのが癪だけど、通過点だから見るだけ見てましょう」

 

 飛行船の甲板から外を眺める。飛行船の周りにコトブキ飛行隊の隼一型が飛んでいるのが目に映る。地面には独特の形状をした地形が広がる。

オフコウ山は卓状の形をしており、ここをユーハングの人達は離着陸の訓練として利用していたと伝えられている。私が知っている空母の形そっくりである。

 山のふもとから谷底まで飛行機の残骸が散らばり、訓練の過酷さと離着陸失敗の多さが伝わってくる。

 

「相変わらず残骸ばかりね。ここは」

「結構な数ですよね」

「そうね。その分、死んだ人間もいそうなモノだけど」

 

 辺りを見渡してみるが、墓標らしきものは見つからず。ユーリア議員はいつの間にか双眼鏡を取り出し覗いている。それ、私にも。

 通過後もしばらく眺めていたが、上空から分かる事はなし。

 

「結局、通過する間だけでは何も分からなかったわね」

「仕方ないです。きっとここまで来い。という事なんでしょう」

「悪いわね、そこまで手伝いをしてあげられなくて」

「とんでもない! ユーリア議員には既に返しきれないぐらいのお力添えを頂いています。これ以上、甘えてしまっては罰が当たりますよ」

 

 別に今更よ。そんな言葉を返される。

 

「このままだと谷底まで降りなければいけない可能性が高いわ。幸いクソウザイ生物は見かけなかったけど危険な事に変わりは無いわ。注意して」

「はい。分かりました」

 

 しばらくの間、二人でそのまま外を眺める。月と星々の光に包まれたイジツ。飛行機が跋扈する日常も賑やかで楽しいけれど、ゆっくりと星を眺められる夜の風景もまた美しい。

 

 

 飛行船がラハマに着港する。外見を隠されたまま震電が降ろされる。

執事さん曰く、イサオ様が差しあげたと申した物を返せなどと私の口からは到底。ですがお気を付けを。イサオ様を盲信する連中は少なからずいる事を忘れずに。との事。

 震電はこのまま日本に帰るまで封印しておくことが一番安全なのだろうとは思うが、ケイトとの約束も守りたい。塗装の変更も含めてまたナツオさんに相談してみようか。

 出迎えにマダム、アレンと車椅子を押してきたのであろうリリコさんがいた。

 

「おつかれさま。彼女と一緒に居ると疲れるでしょう?」

「何を言っているのよ! ルゥルゥ! 無事に事を済ましてきたわよ。ねぇハルト」

 

 コクコクと頭を下げる。この二人の会話に割り込める勇気はまだ持っていない。

 

「あら、ずいぶんと打ち解けたみたいだじゃない」

「話が通じる相手ならいがみ合う理由なんてないわ。色々と興味深い話が聞けたもの」

 

 ねぇ。という顔でこちらを見るユーリア議員。何かと最後に私に話をふるのは止めてください。

 

「驚いた。貴方達、本当に仲良くなったのね」

「利害が一致しただけよ。それだけだわ」

 

 それだけかぁ。沸々とユーリア議員を困らせてみ隊が誕生する。奥義、レオナさんの困り眉。八の字に変形する私の眉毛。挙動不審になるユーリア議員。こうかは、ばつぐんだ! 

 

「そ、それ以外にも一致する事があったのよ! 思考が似ているとか、あ、相性とか!」

 

 あたふたという言葉がよく似合う。やはり鉄仮面を被っている時よりも素敵だなぁ。

 マダムは額に手を当てて呆れている。

 

「その件については後日、ゆっくりとお伺いさせていただくとします」

「そ、そうね。うん。そうしましょう」

「ハルト君は何か伝える事はあるかしら?」

 

 マダムに話をふられる。

 

「今回は大変お世話になりました。ありがとうございました。お手数ですがもう一つの件についてもよろしくお願いいたします」

「任せて頂戴。連絡を取ってみるわ。あの話を持ち出せば直ぐにでもラハマに飛んでくるでしょうけど。彼女、報酬がすこぶる高いわよ?」

「逆立ちしても足らなかったら……土下座でもしてみます」

「はぁ……いざとなれば私が立て替えるよう伝えておくわ。それじゃまたね、ルゥルゥ」

 

 ちょ、止める間もなく飛行船に搭乗するユーリア議員。安全の為に距離をおかなくてはならなくなる。

 ラハマから遠ざかる飛行船。僕たちは見送ったー。太陽が眩しい。

 

「変態のあの子に気に入られるなんて余程の事ね」

「変態同志で気が合ったんじゃないかな」

「変態ね。あの時も私とケイトの足を舐めるような視線で見つめていたもの」

 

 散々な三連撃を食らう。

 

 

 夜。コトブキ飛行隊の食事会兼ご苦労様会が開かれる。参加確認の為、どちらかにしるしをご記入頂き返信をして頂ける様お願いいたします。不参加と。

 飛行船に乗り、調べ物をして、人と会っただけだが、身体が悲鳴を上げている。特に腕。私に優しく触れてくれたのはアレシマで出会ったロイグさんだけだ。

 

「参加だって」

「おっけー」

「人の話を聞いてましたかね?」

 

 参加確認の為に二人で尋ね周っているのだろうか、キリエとチカが宿屋に来た。理由は上記の通り、食事会するよ! 拒否権なんてないよ! である。そもそも既に日は暮れて夜である。コトブキの皆も夜間飛行からの明けで疲れているはずなのに。なんて体力だ。

 

「同志ハルトはもう少し私達を労わるべきである!」

「そうだそうだー!」

「ハルトには! 私達を満足させられる手腕を持っている!」

「いいぞいいぞー!」

「パンケーキを要求する!」

「かっれーえ! かっれーえ!」

 

 好きな物が食べたいだけでしょうに。この二人は。

 

「でも今日の会場は普通のお店の一部屋を借りた場所でしょ? 厨房なんて簡単に借りられるものでもないし、諦めてくださいよ」

『えぇぇぇ!!』

 

 不当だ! 横暴だ! 私達には要求する権利がある! 好き放題な言われ方である。とはいえ食べさせてあげたいのも事実。特にチカにはまだカレーを作ってあげていない。

 

「始まるまで時間ってある?」

「無いよ!」

「無いんかい!」

「だってハルトが最後だもん。コトブキのみんなは全員参加だし。エンマとケイトは其々タミルとアレンのお出迎え中」

「そうだとすると、二人はわざわざ私の所へ迎えに来てくれたのですか?」

「そうだよ! だからカレー作って! キリエばっかずるい!」

 

 抗議の声を挙げるチカに対してキリエはなんだか得意げ。

 

「パンケーキが好きな者は世界すら超えて導かれるのだよ!」

「カレー好きだって超えられるし! ねっ! ハルト!」

「う、うん? カレーは私も好きですけど」

「ホラホラ! キリエがたまたま先だっただけでハルトはカレーの方が好きなんだよ!」

 

 ぐぬぬぬといった表情をするキリエ。嬉しそうなチカ。そういう問題なのだろうかと思うがらちが明かない。

 

「一先ず、ジョニーさんの所へ寄りましょう。もしかしたら材料と下拵えがあって使わせてもらえるかもしれませんし」

『ヤッター!!』

 

 両手を挙げて喜ぶ二人。そら行くぞ! はよ行くぞ! そんな二人を静止させて鞄に荷物を放り込む。

 

 

 ジョニーさんと無事会う事ができ、練習用として用意した食材を頂ける事になった。本当にすみません。ありがとうございます。たまにある事だから気にしないでと声を頂く。たまにあるんだ。

 とはいえだ、会場であるお店で調理をする訳にはいかない。持ち込みはいいのかと言われればそれまでだが、二人が何とかしてくれるだろう。不安だ。

 待ち合わせの時間の問題もあるので二人には先に会場に行ってもらう事にした。絶対だよ! 来なかったら怒られるの私達だからね! 多分ね、私と一緒来ないだけでレオナさんに怒られると思うよ。

 まずはキリエのパンケーキ。ジョニーさんの手伝いもあり、前回同様にうまくできたと思う。教えてくれたジョニーさんからお褒めの言葉もいただく。

 

「でもカレーはどうするんだい? 流石に時間が足らないと思うんだけど」

「ユーハングから保存食を持ってきました。これを温めてご飯の上にかけて終わりです」

「だ、大丈夫かなぁ」

「無理を言うチカも悪いのです。味は保証済みですからこれで我慢させます」

 

 温まったレトルトパウチを開ける。カレーの匂いが胃袋を刺激する。どんぶりによそったご飯の上に注ぎ込んで完成。料理とはいい難しだけど仕方あるまい。

 

「ジョニーさん。パンってあります?」

「ちょっと待ってね」

 

 探しに行ってくれている間にレトルトパウチを大きく広げる。まだ少しだけレトルトパウチにカレーが残っている。

 

「おまたせ。もしかして……?」

「行儀が悪いでしょうけど勿体ないですし、ジョニーさんもどうです?」

「いいのかい?」

「もちろん。こんなの形で申し訳ないですが」

 

 とんでもない! ユーハングのカレーを味わう機会に恵まれるとは。二人してパンにカレーを塗って食べる。

 イジツで食べる、いつもの味。私にとって新鮮みがないことが。嘘です。いつ食べても美味しいです。久しぶりに食べる日本の味付けにちょっとだけ感傷。

 ジョニーさんは大真面目に味付けについて考えている。結局、なにを言おうと私はキリエやチカ側の人間なのだ。

 

 

 本日の会場であるお店に到着。冷たくなる前に大急ぎでもってきたのと、保温バックのようにして持ち運べるようにしてくれたジョニーさんには頭が上がらない。

 

「こんばんわ。コトブキの皆さんに招待を受けた者ですが」

「キイテルヨー。オクノヘヤニドゾー」

 

 ありがとうございますー。指示された部屋に向かい足を早める。

 イジツに来てから随分と聞きなれた声が聞こえてきた。ここか。そっと顔だけ出して部屋を覗き込んでみるとコトブキの皆とアレンにタミルさんかな? あれ、あの二人がいない。

 そのまま視線を移動させる。いた。部屋の隅で直立不動で並んでいる。やはり怒られたのか……。私も怒られるのかな、大丈夫だよね、大丈夫。

 壁をノックしてご挨拶。

 

「すみません。遅れました」

 

 レオナさんが反応するよりも先に、隅で直立不動の体勢の二人が即座に反応する。

 

『ハルト!!』

「頼まれてた物、ツクッテキタヨー」

「本当に自分達が食べたい物を作らせる為にハルトを置いてきたのか……」

 

 怒りも通り越して呆れ顔のレオナさん。それをフォローするザラさん。いつものコトブキの光景だ。

 

「サメタラモッタイナイヨ。アタタカイ。ウチ。タベル」

「いつも通りの喋り方に戻っていただけませんこと?」

 

 あらあら。タミルさんが上品に笑う。よかった、笑ってくれる人がいて。

 

「はぁ、仕方ない。キリエ、チカ。席についていいぞ。反省はしているな?」

 

 してます! していまーす! 威勢の良い返事をして席につく二人。

 

「お待たせしました。パンケーキでございます」

「キタッ! ハルトのパンケーキ! このふわふわと雪解け食感を食べられるのはハルトが作ったパンケーキだけっ!」

「雪解けって、あの雪ですこと?」

「あながち間違いとは言いきれないところですわ」

 

 キリエではありませんが、いままで食べた事がない食感の美味しいパンケーキでした。まぁ。エンマも頂いた事があるのですね。

 

「お待たせしました。カレー丼でございます。ユーハングから持ってきた一品なので一杯だけしかなくてごめんね」

「そんな貴重品を食べてもいいの!?」

「いいよいいよ。食べたい人に食べてもらう方が一番だよ。イジツの食事も美味しいからお世話になる事もなかったし、気にしないで」

「ありがとう! ハルト! いただきまーす!」

 

 チカの挨拶と共に食事を開始する二人。容姿は違えど姉妹かと思うぐらいに息が合う。喧嘩する程なんとかって事なのかな。

 顔をあげればレオナさんの困り顔。大丈夫です。大丈夫ですよ、レオナさん。アレンの手招きが見えたのでそちらに移動。隣が空いてるので座れってことか。

 

「お帰り。そっちはどうだった?」

「これ以上を求めたらユーリア議員に怒られるぐらいには」

「それはよかった。こっちでも跡地から見つけた帳簿を分析していたけれど、報告できそうな事がいくつかあったよ。そこにいるタミルにも手伝ってもらったんだ」

 

 横を向くと、菩提樹の髪色に白いリボンとヘアピンをたくさんつけているタミルさんの姿。私、ドリル巻いてる髪型って初めてみるかも。

タンクトップ姿にハーフパンツ。可愛いサンダルを履いている。そこまでは何一つ問題はない。可愛い。

 美人さんは、なんでも着こなしてしまうのだろうか、その薄着の下からは、お帰り! イジツ山!

それだけではない。脇の部分は大きく見開いており山の形が横から見えてしまう。X軸とY軸、イジツ人のちょい魅せコーデがダブルで、だ。

 

「始めましてタミルさん。エンマからお名前を聞かせてもらっております。エンマとはご学友で、現在は学者さんだとお伺いしておりますが」

「まぁそこまで。まだ学者と呼ばれる程の身ではございませんが、日々、研究を続ける毎日ですわ」

「勉学が苦手な私からすれば頭の下がる思いであります。エンマから写真は受け取られましたか?」

「もちろん! あの一枚の写真からは、空と海、優雅に飛ぶ鳥たちの息遣いが今にも伝わってきそうでしたの!」

 

 両手を重ね。写真を思い出しているタミルさん。学者魂に火がついたか。熱の篭った言葉を伝えてくる。

 

「エンマ、ここにタミルさんがいらっしゃるという事は、アレをお見せしてもよろしいのでしょうか」

「えぇ。是非ともお願いいたしますわ」

「えっと。何かお見せしていただけるのでしょうか?」

「準備しますので、エンマに聞いてみてください」

 

 エンマ、何かしら、何かしら。それは見てのお楽しみですわ。背景に華が咲き誇りそうな美しい光景。

 少しだけ視線をずらすと、パンケーキを大口で頬張るキリエ。こんなの初めて! とカレー丼を胃袋へかきこむチカの姿。私も向こう側の人間なんだよなぁ。

 

 最近、出番の多いスマホ君を三角立てして動画の選択まで持っていく。

 

「あらあら。これで何かを見せていただけることですの?」

「その通りです。画面が小さい事が玉に瑕ですが、我慢していただければ」

「それでは、少し隣に失礼させて頂きますわね」

 

 タミルさんが立ち上がり、座っていた自分の椅子を私の真横にまで移動させる。そして着席。腕と腕が当たる距離。行儀よく、両手を両膝に上に置いて待つ。

 華麗で気品に溢れる仕草。一つ一つの動作が生まれ育った環境の良さが伺える。視線が合えば微笑みを。このまま見つめていたら自分の穢れた心が浄化されてしまう。

 目を瞑ったまま、固まる私を心配そうに見つめるタミルさん。いつもの事だから気にしない方が良いよ。とかいうアレン。そうだ、固まる時は今ではない。

 

「では始めますね」

 

 断りを入れてから画面をタップする。再生される映像は依然、コトブキの皆に見せた映像と同じもの。

 船、海、波、魚、鳥達の環境音と共に映し出される映像は写真で見る以上の美しい光景である。画面撮りはどうしても無理が生じるよね。

 まぁ。両手で口元を抑えて歓喜を抑えきれないタミルさん。両腕と連動するように閉鎖されていくタミルトンネル。あのトンネルには夢しか詰まっていない。断じて、段違い平行棒などという邪悪な存在はないのである。

 

 

 コトブキの皆に見せた時とはまた違った質問もあった。だが、残念な事に学者さんの質問全てに答えられる程の知識はなく、断片的な返事しか返せなかった。

 それでも、素敵なモノを見せて頂きありがとうございます。と頭を下げてお礼をされる。反射的にこちらも頭を下げて返す。逆に頂いてばかりな気がする。

 

「いま一度、ご覧になられるのでしたらここを触っていただければ再び鑑賞する事ができます。よろしけれはどうぞ」

「まぁ! あの美しい世界をもう一度見せてもらえるのですか?」

「お好きなだけどうぞ。私からお答えできる知識には限界がありますが、映像を繰り返し見る事によってタミルさんの中で新しい発想が生まれる可能性もあることでしょうし」

「なんとお礼申し上げたら良いのでしょう」

「アレンの手伝いをしていただいただけで十分ですよ。もしくはタミルさんにお見せしたいと伝えてきてくれたエンマに感謝を」

 

 エンマの方を向き感謝を伝えるタミルさん。友人の手伝いが出来てよかったと答えるエンマ。照れている姿は新鮮だ。

その隣二人は……いうまでもなく。更にお隣さんは美味しそうに樽ジョッキを傾ける。バングルで髪を結っている隣人は食事会全体を見通し、落ち着いた様子だ。

その隣で黙々と食事を進めている妹さん。そして私の隣にいるお兄ちゃん。本題が始まる。

 

「さて、情報交換を始めようか」

「単刀直入に。こちらで調べてみた結果いくつか怪しい場所が絞り込めた。その中で一番怪しいのはオフコウ山」

「おっとー、やっぱりその地名が出てくるか。こちらの帳簿でも名前が出てきた場所だよ」

「帰りに飛行船から眺めてみたけど、地形に対してモノの動きがおかしい。あんなに狭い所でこれだけのモノが必要とは思えない」

「木材とかもあったね。建物や他の事に使うとしても、ちょっと量が多いかな」

「そうなると、上空で眺める程度では気づかない何かがあるのかな?」

「だね。ここは基本に戻って現地取材かなぁー。行くんでしょ?」

「もちろん」

 

 行かなければ始まりもしない。ユーリア議員の助言通り、谷底まで降りる必要もありそうだ。その可能性も含めて必要な物を準備しなくては。

 あとはオフコウ山に行く手段。私が単機で向かい、あの山に着陸できるか。可能か不可能かの選択肢が出現するのなら止めた方がいい事は確かだ。ここまできて賭け事をする気にはならない。ならば。

 ケイトを見つめる。こちらはハルト。ケイト、私の声が聞こえますか? 視線に気づいてくれたのか、こちらに顔を向けてくれるケイト。ケイトに頼みたい事があるんだ。了解した。まだ何も伝えてないのにいいの? 頷くケイト。話は聞こえていたから、オフコウ山へハルトを連れて行く。そっか、お願いします。了解した。

 

「案内人は確保できた。あとは下準備が整えば向かえる」

「君たちいつから視線で会話できるようになったのかな?」

「今。ね、ケイト」

 

 食べ物を飲み込み頷くケイト。

 

「ハルトをオフコウ山に連れて行き、目的を遂げる」

「きちんと伝わってる。問題なし」

「兄として嬉しいのやら、嬉しいのやら」

「嬉しいのならいいじゃない」

「まぁね。そこから先は兄妹でも野暮って事さ。でも一機だけで向かうのは少し不安かな、せめてもう一機……。あぁ、空賊とか空の治安に関してだよ」

 

 信用してるから。そんな事をいわれても直前で何かをする勇気と根性は無いです。

 うーん。オフコウ山に離着陸できる人。コトブキの皆だったら全員可能だろうけど、誰に頼るか。確かキリエが一度、不時着したとかでオフコウ山にいた事があったはず。

 そう思い声をかけようとしたところ、チカから声が上がる。

 

「ハルト。またどっか行くの?」

「オフコウ山に用事が出来たんだ」

「それってイジツに来た理由の為?」

「うん。それでケイトに連れて行ってもらう事は決まったんだけど、念の為もう一機はいた方が良いとアレンから提案があってね」

「ハイハイ! それじゃワタシも行くーっ!」

 

 意外な所から助っ人が参上。念の為、ケイトに相談。視線を合わせて問いかける。ケイトさんケイトさん。チカを連れて行く事についてご意見を伺いたいのですが。チカは体積が小さく、身軽な為、今回の任務には最適。また、空で問題が発生した場合、電光石火で敵を翻弄してくれる。敵を自分に引き付けて私達が安全圏まで脱出した後でも単独で帰還が可能な技術も持ち合わせている。つまり、断る理由はないと? 頷くケイト。

 

「来てくれるならもちろん心強いけど、二人とも、仕事や用事は大丈夫なのかい?」

 

 レオナさんに向けて視線集中。あ、気づいた。レオナさん、チカとケイトのご予定は大丈夫なのでしょうか。目を閉じ、何かを考えて始めるレオナさん。

 

「ユーリア議員の護衛任務のおかげで少し余裕が出来た事は確かだ。ハルトをオフコウ山まで連れて行き、戻ってくる期間であれば問題ない」

「さっすがレオナ! それじゃ一緒に行ってきてもいい?」

「あぁ、ただし、油断せず、危険を感じたら即座に戻る事。ハルト。これにはお前も従う事。分かったか?」

『はーい』

 

 意外な事に通じた。もしかして信頼度が一定値より上昇すれば誰にでも通じるのか!? 念のためにもう一度、レオナさんに視線を送る。レオナさん、ありがとうございます! 穏やかで優しさに満ち溢れてた微笑みをこちらに向けてくれる。なんて事だ。この世界は意外と私に優しい。

 

「いあいあ。話の流れをちゃんと聞いていれば誰だって分かるっしょ」

 

 肩肘ついて新しいパンケーキを口に放り込むキリエ。だよね。ソウダヨネ。

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