あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第24話

「あれ、ナオミじゃん! どしたの急に?」

「コイツに呼ばれたのよ」

「コイツってハルトに? 二人とも知り合いだっけ?」

「今日始めて会うわよ。用事があるからキリエも来なさい」

「えぇーまだ朝ご飯も食べてないんだけどー」

「どうせ毎日パンケーキでも食べてるんでしょ。一食ぐらい抜いたぐらいで死にはしないわよ」

「いやぁーそれとこれはまた別問題だと思うんだけどなぁ」

「い・い・か・ら! それ以上食べると太るわよ!」

 

 キリエのお腹を摘まもうとするナオミさんと、絶対阻止を崩さないキリエの場外乱闘が始まる。二人とも朝から元気だ。

 宿まで足を運んでくれたナオミさんに、まだキリエにもサブジーの事を教えていないと伝えると、私の首根っこを掴んでここまで運んでくれた。

 時代劇で見た市中引き回しをまさか体験する事になろうとは誰が想像できたか。それも女性の片腕で。

 こうして本題に入る為の必要な人物は揃った。カフェに入り、コーヒーを三つ頼むナオミさん。私とキリエには選択肢がない。

 運ばれてきたコーヒーをこちらの意も介さず口に運び、一息を入れる。キリエは気怠げを隠そうともしない。私はまだ舟を漕ぐ。

 

「ハルト、コーヒーでも飲んでさっさと目を覚ましなさい」

「あい……あい……」

「ハルトもまだ眠いってさ。もう少しゆっくりしようよ。ナオミ」

「こいつが! 私を!! 呼んだのよ!!!」

 

 この圧は誰かに似ている。黒髪のショートカット。身体の線が出る服に、上から髪の色と同じジャケットを着こなしている。アイラインと口紅が映える、誰が見ても大人の女性。

 今回の件でナオミさんと私を繋いでくれたユーリア議員と少しだけ似ている。少しだけね。

 

「ハルトがナオミを呼んだの? 一体なんのために?」

「それを今から話すのよ! いいからコイツを叩き起こしなさい!!」

「ハルトー、命が惜しかったら起きた方がいいよー」

 

 キリエに大雑把に肩を揺さぶられる。そんなに揺らされると胃がもたれるってば。でも命は惜しいから頑張って起きよう。

 

「おはようございます」

「私を相手にアンタも根性が据わっているわね」

「そりゃナオミの事を知っているわけはないだろうしねぇ」

 

 気が付けばパンケーキを頬張るキリエ。こっちはこっちでまた朝から重たい物を食べている。

 

「そうだったわね。だからこそジジイの事を知っているのよね」

「ジジイって……サブジーの事?」

「そうよ。コイツが私を呼び出した訳、イサオの野郎に撃墜されたサブジーの墜落地点を知っているのよ」

「え、えぇぇぇ!!」

 

 朝から鳴り響く声。耳から耳へと通過される事によって脳みそが刺激を受ける。起きた。起きたぞ。

 

「何で! どうして!? ハルトがサブジーの事を知ってるの!?」

「こっちに来る前に少しだけ名前が出たんですよ。まさか知り合いの方と出会うなんて誰が想像できますか」

「でもでも! それなら尚の事、撃墜された場所まで覚えているの!?」

「イケスカにいるイサオの執事から詳細を聞いたのよ」

「へ、なんで?」

「なんでって、サブジーの知り合い。キリエと出会ったからじゃない」

 

 いまだ混乱状態に陥るキリエをナオミさんが呆れたように見つめる。落ち着かせるようにゆっくりと砕いて喋る。

 

「執事さんから詳細を聞いてから伝えると決めるまでに少し悩んでいたんだ。余計なお節介だと思っていたから。けど……イジツって撃墜されたぐらいでは感傷に浸る暇もない事に気づいてね」

「そりゃそうよ。毎日が空戦よ。落とす方も落とされる方もいちいち考えていたらキリがないわ」

 

 私は落とす側だけど。機嫌よくコーヒーに一口。ここからあの話を聞いてみなければならないのか。難易度が高い。

 

「落とす側のナオミさんに質問です。落とされた事ってありますか?」

「無いわよ!! いや、昔の事も含めればあるかもしれないけど……」

「サブジーさんがイサオさんに撃墜されて、渓谷に不時着。その際に死んだふりをしていた可能性があります」

「はぁ!? あのジジイが? 死んだふり!?」

「まだ可能性ですよ! 不時着した場所が場所なだけに実際に近づいて確認した人がいないのです。イサオさんは撃墜が出来た事を喜んでいるだけで確認した執事さんも上空から眺めての確認。機体の中で防風に寄りかかっていた。それだけなのです」

 

 何かを思い出そうとしているのか、急に沈黙するナオミさん。

 

「弟子ともいえる二人が死んだふりをした事があれば、師匠は……色々と可能性を感じませんか?」

「……あるわ。まだひよっこの頃に。だけど」

「キリエは?」

 

 パンケーキを刺したフォークを握る手も止まり、思考中。つい最近、アレンとの調査で同じ事をしたのは聴取済み。それがアレンの指示だったとしても。

 

「……ある。アレンの調査の手伝いをした時に墜とされて死んだふりをしろってアレンに言われて」

「指示があった行動だとしてもどうでしょうか?」

「……行くわよ」

「は?」

「今から行くわよ!! ジジイが撃墜された場所に!! こんなところで考えるだけ無駄よ!!」

「はいぃ!! 直に準備しますので少々お待ちください!!」

 

 一泊二日の大冒険詰め合わせをまた用意しなければ。杭とロープの確認に食料とかそんなもんでいいのかな!? 慌てて席を立ち、準備に向かう。

 

「キリエ。さっさとそのパンケーキ食べちゃいなさい。支度が済み次第飛び立つわよ」

「う、うん。分かった」

「しっかし、とんでもない爆弾を抱えていたわね。完全に予想外からの手掛かりよ」

「……サブジー生きてるのかな?」

「分からないわよ。だから死んで骨になっているのか。どっかに逃げ出しているのか。それを確認しに行くんでしょうが」

「そ、そうだよね。うん。どちらかが分かるんだよね」

「そういう事よ。さ、胃袋にソレぶち込んで。覚悟を決めなさい」

「分かった!」

 

 

 必要な荷物を再びぶち込み、ナオミさん達の元へ戻る。そのまま格納庫へ。ナオミさんの機体は零戦三二型。なんでもサブジーさんと同じ機体だとの事。

 それが原因で、昔キリエから一方的に敵対されて何度も空戦に陥ったらしいのだが、それはまた今度。

 

「私には目的地点までの空路は分かりません。なので撃墜地点について詳細を説明致します。サブジーさんが撃墜された地点はここラハマからは南東。タネガシと呼ばれる場所からは北。カイチからは西南西に位置する場所だと聞かされました」

 

 手帳を取り出して確認する。地図に書かれているのと同じ地名がある事を確認。間違いは無い。ただそこまで辿り着く方法は私には分からない。

 

「山岳地帯に渓谷もある地形ね。めんどくさい所で落とされたものね」

「それでも着陸をして谷底まで降りる予定ですか?」

「当然! 機体だけ見つけてハイおしまいで満足出来るわけないじゃない」

「なら着陸ができそうな場所を探す時間も必要ですね。谷底に降りる為の準備と知識と経験は、先日実践したばかりなので問題はないです」

 

 口笛で返される返事。アンタも中々やるじゃない。お褒めの言葉をいただく。

 

「最短で行くのならカイチで補給。念入りに行くのならロータを経由。キリエ、アンタならどうする?」

「うーん。カイチに向けて直行だと最短ではあるけれど長時間の飛行と迷子になる可能性もあるし、ロータに寄れるなら楽ではあるけど時間がかかるよねぇ。どうしよ」

「はぁ……ハルト、アンタは何かある?」

「カイチに直接向かうのであれば道中飛行経路から少しだけ迂回をすれば撃墜……不時着地点を上空視察する事が可能かもしれません。ついでに着陸できそうな場所の確保も。ですがキリエの言うとおり疲労と迷子になる危険もあるかと思います。ナオミさんが迷子の部分を何とかできるのであれば気合で直行に一票」

「……ハルト。アンタ戦闘機の操縦は出来る?」

「えーと……飛ばすだけでいいのなら。隼一型であれば訓練は受けましたけど」

「ハルトも隼に乗ってたの!?」

「赤とんぼなんていう素晴らしい機体があの時は無かったのです。隼で空の飛び方を叩き込まれた後に震電への転換訓練を受けていたんだ」

 

 あの地獄のようなイサオさんの機動を思い出して身体が震える。会いたくて震えているわけではない。

 

「なら決まりね。ハルト、アンタも隼一型を操縦して私たちについてきなさい。赤とんぼの速度に合わせていたら日が暮れるわ」

「もしかして、今日中にサブジーさんの確認までするつもりですか?」

「当たり前よ! アンタもさっき言ったわよね、気合で直行って」

「いやいや! カイチまで赤とんぼの後ろで揺られながら行く。っていうのが私の前提なのですが!?」

「そんな甘っちょろい事を言ってるんじゃないわよ!」

「機体はどうするんですか? 私の機体は一応震電という事になるのですが」

「借りる!!」

「そんな無茶苦茶な!」

 

 ポン。と私の肩におかれるキリエの手。諦めろという事か。そういう事なのか! 

 

「さぁ! カイチに向けて飛行。道中でジジイの機体と着陸地点の確認。カイチで補給が済み次第引き返してジジイの生死を確認するわよ! 準備をしなさい! 出すもの全部出しな!」

「ナオミ、下品だよぉ」

 

 久しぶりの操縦。しかも隼一型。搭乗時間だけでいえば隼の方が確かに長いが……操縦席に座れば思い出せるのだろうか。エンジンの始動から。

 

 左手側にある調速器を押し込み、隣にある小さな桿を手前に引く。

 カウルフラップを開く為に右手側にある桿を回す。

 計器を見て燃料量を確認。点火開閉器を閉に合わせる。

 再び左手側にある手動ポンプで燃料を加圧する。計器を確認しながら3.5に目盛りの針が指す事を確認。

 スロットルを一回、ニ回と押し戻しをして始動の準備を開始する。

 

「ナツオさん、お願いします」

「ほいきた!」

 

 イナーシャハンドルを隼一型に差し込み、回転させるナツオさん。エンジン始動前の独特の唸り音が響き始め、ナツオさんからの合図。点火。

 点火開閉器を両まで動かし、右手側の小さな桿を回す。

 足元中央にあるペダルを踏み込み、エンジンを始動させる。

 少し詰まった音からプロペラが徐々に回り、排気音が響き渡りエンジンが唸りを上げると同時に回転数が上がっていく。

 機体が前進しないように足元にある左右別れたラダーを両方踏み込み、機体を静止させたままにする。

 油圧計の針が4を指し、エンジンの回転数の安定を確認、ラダーを左右順番に踏み込み尾翼の左右の動作を確認。

 操縦桿を押し戻しをして尾翼の上下の動作を確認。更に操縦桿を左右に倒し、主翼に付いている補助翼の動作を確認。

 操縦桿の黄色いボタンを押し込み空戦フラップの出し入れに問題がない事を確認する。

 調速器を手前に引き、スロットルを少し押す。

 点火開閉器を再び操作して右まで動かし両に戻す。異常がない事を確認。

 調速器を押し、戻しを一度行いエンジンの回転数の低下と上昇を確認。

 右側にある電盤のスイッチを入れる。脚信号燈の点検、青色に光る。

 スロットルを素早く押し戻りをして点検を行う。大丈夫、これで飛び立てる。

 

「それじゃ行ってきます!」

「おう! 気をつけてな!」

 

 滑走路に向けて隼を動かす。前方の視野が確認しづらいので少し頭を傾ける。

 前方には二人の機体が目に入り、その後ろで静止する。

 先に飛び立つ二つの機体。綺麗で優雅な離陸。あの二人の様になれるまではあと何十時間、機体に触れていれば私にも出来るのだろうか。

 安全バンドを装着して、スロットルを少し押し、機体を加速させる。

 操縦桿をゆっくりと押し込み、後輪の一輪が浮き始める。

 そして前方の視界が開く。速度が五十キロを超えるのを確認して操縦桿を引く。

 上昇し始める隼。足を仕舞う、赤く光る脚信号燈。操縦桿を操作して旋回をし、二人の後ろにつき、防風を閉める。

 

「よかった……無事に飛べた……」

「アンタ。どれだけ自信無かったのよ」

「ずっと地上で調べ物をしていたもので。どこかに連れていってもらう時も飛行船やコトブキの皆に後ろに乗せてもらっていたのです」

「はぁ……よくそれでイジツまで来たものね」

「それでも探したい人がいたのです。今のナオミさんなら理解していただけると思います」

「そうね。それもこれもアンタが来たおかげね。少しだけ料金を割り引いてあげるわ」

「ユーリア議員なら逆に正規料金を受け取れと押し付けてきますよ」

「あら。アンタが払うつもりは無いわけ?」

「値段を聞いて逆立ちしても無理な事に気づきました。ユーリア議員の足元にしがみつきます」

「情けないわね。借金してでも払いますとか言えないわけ?」

「そうすると返済までずっとナオミさんのお尻を追いかけ続ける事になりますけど」

「既に一人いるから十分よ」

 

 お相手がいらっしゃるようでなにより。荒野の雌豹と呼ばれるナオミさんのお相手の事だ、きっと凛々しくて頼れる人なのだろう。

 こうして無事に飛び立つ事ができ、ラハマからカイチまでの長い道のりが始まる。それでもお日様が昇りきる頃には近郊まで近づけるのだから、戦闘機は速い。

 

 

 サブジーさんが不時着した地点までもう少し。二人と喋っていると時間の進みは早い。

 

「空賊に出会わなくてよかったですよ」

「戦闘機を狙うような馬鹿がいないわよ。キリエ以外にね」

「あれは仕方ないじゃん! サブジーと同じ三二型に乗っているナオミが悪いんだよ!」

「あらぁ、キリエちゃん。その三二型に何度墜とされかけたのかしら? 一度は落としてあげたわよね?」

「んぐっ、今度は落とされないし! 落とすし!」

「ほっほぉー、帰ったら対戦してみましょうか。腕前の確認がてらね」

「ナオミが勝つ事前提で喋ってるよね! 結果論で喋ってるよね!」

「当たり前でしょ。まだまだケツの青いガキに落とされるような私ではないわよ」

「ぬぐぐぐ!」

「そろそろ目標地点の上空に辿り着きますよ。探索を始めましょう」

「りょうかーい。ジジイの機体を一番早く見つけた人に奢りね!」

「はぁ!? ナオミに奢ったら何も残らなくなるじゃん!」

「なら奢られる側になる事ね。ほら探した探した」

 

 なんとも仲の良いお弟子さんでありますかな。私は奢る側なのは目に見えている。

 前を見て隼を飛ばす事に集中していないとまだまだ怖いの。山岳と渓谷のある地形で谷底を注視していたら激突。なんて笑うに笑えない。

 しばしの時。いくつも分かれた渓谷。GPSなんて物があれば直に分かるのだろうが、ここはイジツ。無いものねだりをしても始まらない。

 高度を保ち下を覗き込む。二人は私なんかとは比べ物にならない程、低い所を飛んでいる。谷底は私の視力では岩の大小ぐらいしか分からない。そして、その時がやってきた。

 

「何かある! 主翼の片側が折れてるけど機体はひっくり返っていない!」

「キリエ! 尾翼に描かれているマークは分かる!?」

「……赤い鳥!? サブジーが乗っていた機体に描かれてるのと同じのだ!」

「でかしたキリエ!! 今からそっちに向かうわ!!」

 

 ナオミさんと同じくキリエの傍まで近づく。邪魔にならないように高度は保ったままだけど。

 

「ナオミ!!」

「どうしたのキリエ!?」

「防風が開いているよ! 操縦席に誰かが乗っている様子がない!!」

「っ! ていう事は……」

「サブジーはまだ生きてる!?」

「あぁ! もう! ここまで来てお預けだなんて! キリエ! 一度カイチに向かって補給を済ませるわよ」

「でも! サブジーが!」

「今更慌てた所で変わりはしないわよ! 確実に調べる為にも私達は万全の体勢で臨むべきよ。分かるわね?」

「……うん。分かった」

「素直でよろしい。周りを覚えていて。直に戻わよ。ハルト!」

「はいぃ! なんでしょうか!」

「飛ばすわよ! しっかりついて来なさい!」

「了解しました! 死んでもついていきます!」

「ホントに死ぬんじゃないわよ! まだやってもらいたい事があるんだから!」

「分かりました!」




地名に一部間違いがありました。ロイグさんに会いたかったせいです。
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