あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第25話

 カイチに辿り着いてからの行動は早かった。ナオミさんは到着早々にガソリン! 八割よ! 満タンにしたらぶん殴るわよ! と整備の人に言葉をぶん投げる。キリエは機体の中でそわそわ。私は生理現象が我慢できなくなってきたので猛然と手洗いの為に突き進む。うートイレトイレ。

 きちんと手を洗いハンカチで拭き拭き。格納庫への帰り道に屋台があったので二人のお土産に買っていく事にした。

 道に迷う事もなく無事に到着。まだ補給は終わっていないようで一安心。ナオミさんが搭乗している三二型に近づき声をかける。

 

「ナオミさん。事のついでに屋台で食べ物を買ってきましたが食べます? 串焼きですけど」

「あら、気が利くじゃない。いただくわ」

「ではどうぞ。口元と手を拭く物も置いていきます。飛び立つ前に回収にきますね」

 

 サンキューと返事をいただいたかと思えば既にかぶりついている。流石、荒野の雌豹。このままキリエの元へ向かう。

 

「キーリエ」

「うわっ! びっくりした」

「大丈夫? 中々おちつけないみたいだけど」

「まさか本当に……ってハルトを疑ってたわけじゃないよ! ただ実際に目にすると身体がぞわぞわするっていうのか。チリチリするっていうのか」

「そっか。まぁとにかくパンケーキでも食べない? 屋台で可愛らしい大きさのがあったから買ってきたんだ」

「食べる! お腹も空いてきたし! ありがとハルト!」

「どういたしまして。また後でゴミとかを回収にくるね」

 

 私も搭乗してきた隼の傍の近くでパンケーキを頬張る。

 今回お借りた隼一型はナツオさんが利用している機体だ。コトブキ飛行隊の機体から流用できる部品をかき集めて一機に仕立てあげた予備機。

 部品ごとに迷彩も違い、主翼の端には整備班のマークが描かれている。イメージカラーは黄色みたいだ。急遽お借りした予備機とはいえ、コトブキの皆が使用していた機体を操縦する日が来るとは思わなかった。

 流石のナツオさんでも二機作る予算で三機を作り上げるよう事は出来ない。

 

 補充が完了しそうなので、また二人の元へ行きゴミの回収。再び隼一型のエンジンを始動させるために押したり引いたり。問題ない。二人を追いかけるように再び空へと戻る。

 行きの半分以下の時間で再び不時着地点に到達する。サブジーさんの機体が谷底にあることを確認。ナオミさんからの指示で着陸できそうな場所の指定を受ける。

 

「私が先に降りるわ。その次がハルト、最後にキリエよ」

「この場所へ着陸出来るか不安なのですが」

「私の着陸を良くみていれば簡単。少し地面が荒い程度よ」

「それが凄く不安なのですけど」

「ここまできたら腹を括りなさい。ほら行くわよ」

 

 ナオミさんが着陸を試みる。ここら一帯では唯一の平地。救いなのがそれなりに直線が長い事。車輪が接地して機体が揺れているのが見えるが、問題なく成功し、機体を端に避ける。

 次は私の番。震電で培ってきた三点着陸をいつもより意識すれば降りれる。そう自分に言い聞かせて足を出し、徐々に高度を下げる。

 車輪が接地して同じように機体が揺れるが、速度は徐々に低下して機体がひっくり返る事もなく無事に着陸が出来た。

 出すものは出したはずなのに何かが出てきそうなぐらい怖かったけど。

 三二型の隣まで機体を移動させて停止。気が付けばキリエが着陸を試みる。私のようなたどたどしい着陸とは違い、簡単にこなしている。同じ機体でこうも違うのか。

 荷物を取り出し、サブジーの機体が見える位置まで近寄る。

 

「はぁ、本当に見つかるなんてね」

「防風、やっぱり開いてるよね」

 

 実は私、双眼鏡を持ってきたのですよ。アレンから借りた奴だけど。ユーリア議員が使用していて羨ましかったのと、二人ほど視力が良くないので。

 荷物から取り出して覗き込もうとしたら、横からナオミさんに颯爽と取られた。酷い。

 

「三二型にあの塗装、尾翼に赤い鳥、間違いないわね。ジジイの機体よ。だいぶ土埃で汚れているけど」

「ナオミ! 操縦席はどうなってるの!?」

「防風は開けられて、血痕のような物は見当たらないわ。当然骨もね。少なくとも不時着した時点では生きてたでしょうね」

 

 ナオミさんからキリエに双眼鏡が渡される。それ、私の。

 しばらくの間、キリエも双眼鏡で不時着した機体を確認していたが、心を決めたのかゆっくりと双眼鏡を下す。

 

「後はこの渓谷を降りるだけね。ハルト、谷底まではいける?」

「もう少し機体の傍まで近づいた後に降下地点を調べます。この高さであれば降りること事体は可能です」

「そう。それじゃ歩きましょう。ここから先はアンタが頼りなんだからね」

「頑張ります」

 

 三人で機体側の崖まで歩く。この時ばかりは終始無言。私も集中する為に心を整える。

 谷底にある機体のほぼ真上まで辿り着き周囲を探る。近くに第二懸垂下降に適した岩を見つける。

 念の為に双眼鏡を使い横からも確認。谷底まで接地している。これなら上に乗っても安定しているだろう。

 ハーネスを装着して、谷から少し離れた位置に杭を打ち込む。

 前回と同様に二本に束ねたロープを通した部品をハーネスに着用。ロープの長さも十分。杭も安定して外れるような事は無い。

 

「それじゃ準備をしてきます。戻ってきますので少しお待ちを」

「頼んだわよ、ハルト」

「気を付けてね、ハルト」

 

 各々の性格が出る返事を受け取り、降下開始。焦らずに。再びリリコさんの声が頭に響く。

 ケイトやチカのように器用には出来ないが、ゆっくりと確実に降下して岩の上に降り立つ。

 再び、崖に向けて杭を打ち込む。少し硬いが杭は無事に刺さる。

 同じ手順でロープを通し、着用。第二懸垂下降を開始する。足から伝わる感触が少し変化する。

 意識をしつつも、手元はしっかりと。こうして谷底まで降下する事に成功する。

 周囲の警戒もするが危険生物も無し。本当に油か何かに弱いのだろうか。チカ先生のご意見に耳を傾けてしまいたくなる。

 

「降りれたよー!」

 

 二人に手を振り無事を伝える。後はもう一度、上まで戻りハーネスの着用と降下の手伝いをしなければならない。

 手間ではあるが手順を知らない二人を危険に晒すよりは絶対に良い。

 最低限の物だけを身に着けてまた来た道へと戻る。意外と登るほうが楽なのである。筋肉痛は必須だけど。

 

「アイツ、意外とやるじゃない」

「凄いよね、オフコウ山でも今みたいに降りたみたい」

「あんな場所で谷底まで降りたの? よくやるわね」

「うん。それでも会いたい人がいたんだよ」

「その立場が今の私達って事ね。はぁ何かを考えてあげたくなるわ」

 

 谷底から二人の元へただいま。大口叩いたけど結構辛い。深呼吸をして息を整える。

 

「さて、どちらから行きます?」

「私からお願いするわ。流石に待ちくたびれたわ」

「すみません」

「謝んな! 本気にするな! 頼んだわよ」

 

 頭をくしゃくしゃにされる。一言断りを入れてハーネスを着用させる。

 降下時のロープの扱い方。岩上でのハーネスに取り付ける部品の着用順番。注意事項を伝えてナオミさんは降下していく。

 それを見つめる私とキリエ。

 岩上に到着して教えた手順を行い再び降下。無事に谷底まで辿り着き手を振る。やはりこの世界の住人は何かが違う。

 

「それじゃ今度はキリエの番」

「うん。お願い」

 

 ナオミさんの時と同じように同じ事を伝える。二度目かもしれないがそれだけ危険なのだ。

 とはいえ、私の心配も他所に谷底まで辿り着くのだから羨ましい。荷物を身に着け私も再び谷底へと向かう。

 

 無事に到着した時には、二人は既に機体を調べている最中であった。思い入れがあるのだろう、感慨深げに機体を見つめている。

 左主翼が半分以上も失い、プロペラはへし折れている。近くで見れば見る程、損傷の激しさが分かる。

 積み重ねられた土埃が歳月を感じさせ、機体の色は灰緑色……より暗めの暗緑色。この色は日本にいた時にイサオさんの資料で見かけた。

 やはり七十年前のあの時にサブジーと共にやってきた機体なのだろうか。

 胴体部分の埃を払うと、何かを塗りつぶしたような跡がある。白と赤。色々と仮説は尽きないが、口に出すべき時ではない。

 

「この機体の操縦席に乗せてもらって初めて上空から空を眺めたなぁ」

 

 愛おしそうに機体を優しく撫でるキリエ。ナオミさんも思う事があるのだろう。同じように機体を優しく手を置いている。

 この機体と搭乗者の過去については二人が共有する思い出があるのだろう。少しだけ機体から距離を離し、手ごろな岩に腰をかける。

 そっとしておこう。太陽は再び沈み始め、茜色に染めていく。機体も、二人も。

 

 辺りが闇に包まれる前に、たき火の用意をする。周囲を探索して多少ではあるが拾えた燃えそうな物と荷物に入れてきた僅かな薪。ついでにゴミも燃やしてしまおう。

 経験した事を参考に荷物の構成を僅かに変えた。あの短時間で整えられたのも、オフコウ山での出来事があったおかげだ。

 三人でたき火を囲む。

 二人の口から聞かされるサブジーにまつわる昔話。楽し気に、嬉しそうに、二人の共有を分かち合える喜びに嬉しさを感じる。

 見上げればいつもの星空。日本にいた頃は余り空を見上げる事なんてなかったな。

 

 

 楽しい時間も終わりを迎える。キリエが船を漕ぎ始めて、口数が少なくなる。

 

「眠くなってきた……」

「寝なさい。朝起きれなくなるわよ。明日またここをよじ登らなくちゃいけないんだから」

「うん。先に寝させてもらうね。おやすみ」

 

 キリエに毛布を渡す。たき火から少し距離を置いて横になる。

 ナオミさんと二人きりになると、暫しの間、静寂が訪れる。たき火から聞こえる、薪が割れた音が響く。

 

「ハルト。聞きたい事があるわ」

「なんでしょうか?」

「この谷底から道具無しで登る事は可能?」

 

 辺りを見回すが、道具を使わずに岩登りを出来そうな高さでも地形でもない。

 当時の年齢と体調を加えると流石に。少なくとも私は無理だ。

 

「無理です。命を懸けてまで登る理由があってもここから登るのは無謀です」

「そうなるとやっぱり移動したのかしら」

「操縦席に何も残されていないのであれば、そう考える方が妥当かと」

「はぁー、これだけあちこち徘徊されると骨になってもらった方がマシだった気がするわ」

「一つ解決すると直に新しい問題が発生しますね。でも良い方向だと思いますよ」

「そうね。ハルト、アンタには感謝してるわ。ありがと」

「どういたしまして、お値段なりの価値はありましたか?」

「むしろ私が払わなければいけないわよ、何がいい?」

「特に何も、お節介なので気にしないでください」

「それじゃ私の気が済まないわよ」

 

 腕を組んで悩み始めるナオミさん。本当に気にしなくてもいいのに律儀な人だ。

 ご飯でも奢ってもらいチャラにした方が良さそう。よし! と一言あってから私の隣に移動してくるナオミさん。

 

「ハルト、一ついい案が浮かんだわ」

「何でしょう、って別にご飯を奢ってもらえればいいのですが」

「そんな事で済むわけないでしょう! そこに落ち込んでいる痛い気な可愛い女の子が横たわっているわよね?」

「え。どこ?」

「アンタ目ん玉ついてんの!? キリエよ!」

 

 頭を掴まれ思いっきり握られる。握力が半端ないよ! 

 

「ごめんなさいごめんなさい! います! 可憐でか弱い女の子がそこに!」

「よかったわ。お互いに同じ認識で」

「その……キリエがどうかしたんですか?」

「いまあの子は突然の出来事で色々と参っている状態よ。頭はもちろん心もね。そんな時に一番効く方法は知っている?」

 

 オフコウ山の出来事が頭によぎる。確かにね。そうだけどね。

 

「えーっと、人の温もり……ですかね」

「分かってるじゃない。なら答えは知ってるわね、私は寝るから後は好きにしなさい」

「それはおかしい」

「おかしくないわよ! さっさと慰めてこいっての! その延長で何かあっても私は寝てるから知らないわよ!」

「そんなの無いです! 無理です! それなら尚の事ナオミさんでいいじゃないですか!?」

「私がやったらお礼にならないでしょ! ほら行った行った! 抱き寄せて撫でてりゃすぐよ!」

 

 卑猥な仕草を手で表現するナオミさん。なんて雌豹だ。こんなに獰猛な女性を飼いならせるナオミさんのお相手を知りたい。

 このままでは不毛な争いになるので枕と毛布をもってキリエの傍に近づく。オフコウ山でしてもらった事をするだけ。慰めるだけ。

 近づいてみるが反応がない。寝てる。良かった、少し距離を置いて寝て、朝に怒られれば済みそうだ。

 そう思いキリエの正面となるべく右側へと移動したが、そんな簡単に済むわけもなかった。

 寝ているのは確か。呼吸に合わせて身体が僅かに動いているから。だけど目から流れるモノを見てしまった。

 私とおじさんの距離感でも、私の心は欠き乱れた。ではキリエとサブジーさんの距離感ではどうなる? 安堵? 悲しみ? 

 いずれにせよ、涙を流している事には違いはない。

 キリエの隣で並ぶようにして両膝をつき、左手を地面に置きながら、ハンカチで優しく涙を拭き取るとキリエの瞳が徐々に開かれる。起こしてしまったか。

 

「……ハルト?」

「ごめん。起こした?」

 

 私の持つハンカチに視線を移すキリエ。自分が泣いていた事に気づいていないようだ。

 理由があったとはいえ寝顔と泣き顔まで見てしまったのだから謝らなければ。

 体勢を戻そうとした時にハンカチを持つ手の裾を掴まれる。反動で傾く身体。バランスを崩してキリエと並ぶように倒れてしまった。

 それでもキリエの動きは鈍い。まだ夢の中にいるのか、私が近くにいても動揺するような行動をとるわけでもなく、ただ横になって涙を流している。

 

「キリエ?」

「よく分かんないの」

「分からない?」

「サブジーが生きてるかもしれないのに。嬉しいはずなのに」

 

 数日前に自信が経験した出来事。あの辛さをお節介からキリエに味わわせてしまった事。その発想に至り自責の念にかられる今の自分に対しての嫌悪。

 そんな事を考えている場合ではないと振り切り、体勢を整え横向きになり私の胸元にキリエの頭を寄せ、抱きかかえるようにして優しく撫でる。

 私にしてくれたあの二人の様に。ナオミさんにいい様に扱われて気もするが、これは自分の意思である。慰めるだけ。

 微動だにしなかったキリエが自分の頭を更に私の胸元に押し込む。握るように掴まれる服。聞こえてくる声。言葉が見つからないまま、それでも手は止める事をせず。ただゆっくりと時間が過行く。

 それからしばらくして、落ち着いたのか掴まれていた服は緩やかに解放されていく。

 最初の時のような力強さは無い。ただ軽く摘まむ程度になった。ハンカチを渡そうとしたが、その前に顔を胸元に押し付けられ拭うように頭が動く。

 

「……ありがと」

「こちらこそ」

「なんでハルトまで?」

「それはまぁ。色々とあるのです」

「なんだそれ」

 

 キリエの顔を直接見ようとはせず、たき火が視界に入るにしている。時々揺れ動く髪が目に映るがそれは許してもらおう。

 そろそろ離れないと誰かさんの目論見通りになってしまう。

 軽く頭をぽんぽんと叩いて離れようとする。だが、キリエが離してくれない。

 手に再び力が入り服が引っ張られる。

 

「あの、そろそろ離れていいですか」

「駄目」

「流石にこれ以上は失礼だと思うのですが」

「ダメ」

「このままだと添い寝になりますよ」

 

 返事の代わりに服が引っ張られる。意識のある内に泣いてしまったせいなのか幼児退行を起こしている。

 服は掴まれたまま。位置の関係で手を使って引き離すこともできず。覚悟を決めるしかないのか。

 

「離れるよ?」

「だめ」

 

 

 瞼に眩しい光を感じる。気が付けば朝だ。

 結局、あの後もキリエの頭を撫で、時折背中を擦っていた。

 キリエが眠りについた後に離れようとしたが私の方が先に寝てしまったようだ。

 胸元にあるキリエの頭。掴まれたままの服。あの状態でよく眠りにつけたものだと感心する。

 ただ、頭を撫でていたはずの右手はいつのまにかキリエの両手の中に納まっていた。

 絡まった指。離す事もできず、目覚めても身動きがとれない。仕方ない、もう一度寝よう。正気に戻ったキリエに何をされるのか少々不安ではあるけれど。

 開いた瞼を再び閉じ、眠りにつこうとした時に胸元で動き始めるキリエの頭。どうやら起きるようである。殴られるか、蹴られるか、罵倒されるか。最初に物理要素が浮かぶのはイジツのせいだと思いたい。閉じている瞼に力が入る。

 背伸びでもするようにキリエの身体が動かされ。そして驚くような動き。それはそうだ、起きたら私の胸元に顔を押し付けていたのだから。その顔も離される。

 何もされませんようにと願っていたが胸元に衝撃が走る。やはり物理か。覚悟を決めていたがキリエの行動は少し違った。

 夜の時のように。それ以上かもしれない。私の胸元に顔を押し付ける。

 ゆっくりと呼吸をする音。擦り付けるように頭を動かす。拘束された右手はキリエの両手に撫でられ、放され、重ねられ、絡められる。

 何度も様々な発音で私の名前を呼ぶ。頭が動かされ、キリエの息遣いが首元に感じる。

 再び呼ばれる名前。頬に当たる温もり。その先から伝えられる感謝の言葉。

 私が起きている事を知っているに違いない。心臓の鼓動が高鳴るのを一番近くで感じ取るのは、他ならぬキリエなのだから。

 

 ラハマへの帰り道。どうしても明け方の事を意識してしまうが。それをナオミさんが茶化す。

 

「キリエちゃーんも立派な大人の女性だったわけね」

「は、はぁ!? 最初から大人だし!」

「それもそうかー。そうじゃなきゃ朝からあんな事は出来ないわよね」

「あ、あんな事ってなんの事かなー。記憶にないなー」

「誰かさんの胸元で乙女をしていたのは誰かしらねぇ」

「あーーーあーーー何も聞こえません! 無線が不調のようです! 喋らず前を向いて飛行した方がいいと思います!」

 

 散々弄り倒すナオミさん。明け方の出来事は全てお見通しのようだ。

 キリエが私の胸元で頭を動かしていた時に、ほんの僅かの好奇心で開いた目の先にニヤつくナオミさんと目が合ったから。つまり、全員知っている。

 会話が尽きる事を知らない。気が付けば既にラハマ近郊。一先ずは着陸をしてからという事になった。

 

「おーっす、お帰りー。今回はどうだったんだー?」

「タダイマッ! 万事全テ問題アリマセンデシタ! オ疲レ様デシタ!」

 

 ぎくしゃくしながら一人で格納庫から離れて行くキリエ。

 

「ナツオさん。機体ありがとうございました」

「お、おう。何かあったのか?」

「何か起きなければあんな風にはなりません」

「そうか……そうだよなぁ」

 

 腕を組んで納得してくれるナツオさん。班長の理解力は高い。後ろで大笑いするナオミさんの声が辺りに響き渡った。

 

 マダムに報告をするために向かったが、先約があるとのことで会う事はできなかった。

 その代わりに帰投した事を伝えてもらうように対応してくれた方にお願いをする。せっかくなのでそのままアレンがいる病院へと向かった。

 

「なるほど、無事にサブジーの機体を見つける事ができたんだね」

「この短い間で二度も谷底まで降りる事になるとは思いませんでしたけどね」

「迅雷ちゃんにお節介焼きたかったんでしょ。でも無事なら何より」

「ありがとう」

 

 ナオミさんは直ぐにラハマから飛び立っていった。次の仕事があるからと。雌豹の逞しさはイジツでも指折りだと思う。

 

「そうそう、報告しておくことがあったよ。再び同じ場所に穴が開く。二ヶ月ぐらい先だけどね」

「そっか……もう帰らないといけないのか。二ヶ月後なんてあっという間だよね」

「そうだね。きっと直ぐさ。それまでに穴の事について書きまとめておくから持っていきなよ」

「いいの? かなり貴重な情報だと思うけど」

「大丈夫。頭に入っている情報を書き写すだけだから」

 

 アレンの頭の中はどうなっているのだ。やっぱり普通の人とは構造が違うのだろうか。

 

 

「キリエ! ハルト! 無断で出撃をしてどこへ行っていたんだ!!」

 

 レオナさんに呼ばれて会いに行く。その道中でキリエと出会い、お互いに片言になりながらも同じ人に呼ばれた事を確認して一緒に向かう。そして叱られる。

 

「これで一体何度目だ! コトブキ飛行隊を名を貶めるような行動はあれだけ慎めと伝えているだろう!!」

 

 キリエに視線を移して聞いてみる。私、隊員だっけ? 違うはずだけど。じゃあキリエのせいか。いやいや! 今回はハルトも共犯だし! 

 視線を合わせている事がレオナさんにバレて更に怒られる。理由を伝えてもそれはそれ。伝言を残しておくことも出来ただろう。ごもっとも過ぎて反論できず。じっくりとこってりと絞られていった。

 窓から見えるイジツの空。あと二ヶ月。ようやくゆっくりと出来るだろうと考えたのがそもそもの間違いだった。


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