今日も無事に仕事を終えて帰ってきたよ。記念碑の前で報告。も、もちろんサブジーの礎石にも立ち寄ったよ!
誰に言い訳しているのだろう。自分でもおかしくて小さく笑う。
このxヶ月の間に立ち寄る先が増えた。サブジーは勿論、ハルトにも会いに行き、無事を伝える為に。
会いたいな。寂しいな。顔を見たいな。声を聴きたいな。……触れたいな。
突然消えたわけではなく、亡くなったわけでもない。またね、ってお別れの挨拶をして見送ったのだから。
それでも時折、寂しさが沸いてくる。最初は振り切るようにしていたけれど、最近は受け入れる事にした。本当の事だし。自分の気持ちを無視できるわけがない。
でも悪い事ばかりでもない。受け入れた事で、ハルトの帰ってくるという言葉も思い出せるから。
その度に顔が緩んでしまい、挙動不審になる。チカによく揶揄われてしまうので気を付けなくちゃ。
ジョニーズサルーンでコトブキの食事会。そこにケイトと共にアレンが現れた。今日は車椅子で来たみたい。少し前までは歩く事さえ出来ずに、移動方法は一つだけだった。今では選択肢が増えている。
アレンから伝えられた事は、ふたたび穴が開くという報告。xヶ月前に開いた、ハルトがやってきた場所に!
自分でも分かるほど、体温と鼓動が高まっている。きっと顔は真っ赤だ。それを隠す暇もなく、心は歓喜の声をあげている。
会えるのかな? でもイジツに帰ってくるのは一年後とも聞いている。それでも穴が開いたら……自分の欲望が内から溢れてくる。私はこれほど執着心が強かったのだろうか。
ハルトがいるユーハングに繋がっているよね。もし会えなくても、無線で声が聞こえるよね。心が宙にあるようにそわそわ。一人で空へと飛び立っている。
早く穴が開かないかな。とまで考えてしまう。最初は今すぐにでも閉じてしまえばいいのに! って思っていたのに。こういう気持ちになったのも全て分かっている。
穴が開く当日、前回と同じくコトブキ飛行隊とアレンを加えて、穴へと近づく。
アレンの秒読みが始まり、三つの輪が一つに重なっていく。そして一つの穴へと変化を遂げた。
無線に雑音混じりの声が聞こえる。あーあー、と伺うように返事を求めている。本来なら隊長であるレオナが対応する場面なのだが、気持ちが抑えられない。叫ぶように相手の名前を呼ぶ。ハルト!
キリエ? 最初は疑問形で帰ってきた私の名前。それでも直に私の名前を明瞭に呼んでくれる。
嬉しい。好きな人に名前を呼ばれただけで、こんなにも弾んだ気持ちになる。このxヶ月間、感じられた寂しさが消え、体が溶けそうなほど心地いい。
私が幸福に包まれている間に、ハルトとレオナが話を進めていく。今回はハルトのひーおじいちゃんとおとーさんがイジツに来るらしい。しばらくすると穴から隼一型が飛び出してきた。
青色を基準に迷彩が施された隼。ハルトに見せてもらった海のように綺麗だ。操縦席に搭乗している人が手を振っている。こちらも振り返す。操縦しているのは、おとーさんじゃなくてひーおじいちゃんなんだ。
レオナに二人の事をお願いするハルト。これで貸し借りなしに出来ませんか? 貸した方が伺いを立てるところが、ハルトらしさを感じとれて自然と笑みが浮かぶ。
みんなにお世話になる故を端的に伝えるハルト。最後に私の番が来た。そしてアレンからのそろそろだよ。との合図も。
xヶ月間に起きた出来事、伝えたい想いを、全てぶつける勢いで話しかける。ハルトはそれを聞いて頷いてくれる。あの時と同じように、優しく、包み込むように。
穴の消滅が始まる。私の声はいつしか泣き声に近い状態へと変化していた。
会いたい。声が聞こえるだけでもいいと考えていたのに、それが叶うと次の欲望が溢れ出そうになる。いま、この穴に飛び込めば……。
その時、ハルトの声が聞こえた。キリエ、次回、穴が開いた時に一度こちらに来てくれないか? 会いたい。と。
今回の穴の出現により、アレンの予測と研究結果により、ある程度の間隔で同じ場所に穴が開く事、それがユーハングとイジツを結ぶ穴である事が証明できたからだと言っていた。
だけど、それよりも、そんな事よりも、ハルトが私に会いたいと言ってくれた。会いに来て欲しいと言ってくれた。先程の泣き声とは正反対の感極まる声で想いを伝える。
ハルトも私に想いを伝えてくれる。好き。大好き。
こうして、穴は消滅した。
二人の歓迎会が開かれる。その際にハルトから頼まれていた物を各自に手渡す二人。
レオナにはユーハングの航空戦術本。几帳面にイジツ語で翻訳されたメモ付き。
ザラとアレンはユーハングの各種アルコール。二人も一緒に乾杯をしている。
エンマはユーハングで咲かせているソメイヨシノが美しく撮られた写真集。見せてもらったら、余りにも綺麗な風景で息を飲んだ程だ。お手入れに関しては曽祖父が詳しいとメモ付き。
ケイトは手作りハンブルグサンドとユーハング戦闘機の科学技術本。ここにもメモ付き。オサカナを食べても平気なのか心配になったが、ケイトは迷う事なく食べ始め、美味しい。と一言。
チカは手作りカレー。大鍋でよく運べたなぁと思う。このメモはジョニーとリリコさん宛てになっていた。レシピなのだろう。
そして私にはパンケーキ! があると思ったら無い。私には何もないのだろうかと不安になっていたら、ひーおじいちゃんが私に手渡してくれた物がある。手紙だ。
人から手紙を貰った記憶がない。もしかしたら初めてかもしれない。それがハルトからだと思うと、また心は喜びに満ちる。
チカに開けて読まないの? と尋ねられるが断る。後で一人の時にじっくりと読むんだ! 後で教えてよーと言われるが、絶対に教えない。これは私だけの手紙!
しばしの談笑をしていた時に、二人がおもむろに立ち上がり、視線を集める。
そして、ハルトの事、今回お世話になる事の感謝を伝え、頭を下げる。慌ててレオナが立ち上がり頭を上げて欲しいとお願いするが、なかなか上がらない。
ハルトには心配してくれる家族がいるのだと。羨ましく感じた。その後にキリエさんはハルトと家族にならないのかい? と質問をされて顔が赤くなる。
まだ、好きという感情が強くてそこまで考えた事がなかった。ハルトがイジツに帰ってきて、ラハマに住んでくれるのなら、私はまた帰る場所が増えるのかなと想像する。心臓が激しく波打つ。幸せすぎて何も考えられなくなった。
ハルトのひーおじいちゃんから受け取った手紙を宿舎に戻ってから開封した。
それで正解だったと思う。ハルトからの手紙を読むたびに顔が綻んでしまう。こんな姿、誰にも見せられない。
ハルトの想いが私の心に伝わり、暖かい気持ちに包まれ、胸の高鳴りを抑えきれない。
ハルトが私の為に書いてくれた手紙。何度も読み直し、書かれている文字を愛おしく撫でるように触れ、一字一句逃さず心に刻みつける。
好き、優しさ、寂しい、触れあい、抱き締めて、温もりを伝えあい、お互いの顔に熱を残した。
思い出す度に、顔が熱くなる。それでも毎回、幸せを感じる。人と一緒にいる事が、好きな人といられる時間がどれ程、幸せなのかをハルトに教えてもらった。
もっと甘えればよかった。もう少しだけ勇気を出してハルトに……。
今度、会える時にもう一歩踏み込んでみようかな。うん。そうしよう。これからも、ずっと一緒にいられるように!