あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第3話

 結局、二人して最後までロケットの打ち上げを見てしまった。

 その間に曽祖父が寿司を用意してくれた。桶に入った凄いやつ。事前に予約して届けて貰えるように連絡しておいてくれたらしい。

 咄嗟に出た照れ隠しだというのはきっと気づいているだろうけど、本当に用意してくれると感動する。出前なんて無理だろうと思うぐらい周りに何もないこの場所でなら尚の事。

 三人揃っての食事。久しぶりに誰かと一緒に食べるなぁと考えてふと目に止まるのはイサオさん。

 海も川も無い世界から来た人に生魚ってどうなのだろかと心配するも、ワサビの辛さにやられている姿を見て大丈夫そうだと根拠のない確信を得る。

 後で聞いたところ、湖はいくつか存在していて、イケスカにも大きな湖があり、魚は貴重ではあるけど専用の施設で養殖されており、お祝い事の際にもの凄く奮発すれば食べられるそうだ。しかしアロワナモドキって何だろうか。

 

 

 夕飯も一段落ついて、私にとって本題である曽祖父が何処へ何をしに行くのかを聞かなければならない。

 下手をすれば今生の別れ、間違ってもそんな事になってはならないと祈らなければ。そうでなければ国籍不明の戸籍ナシのイサオさんをどう扱えばいいのでしょうか。

 

「さて、私の目的も伝えておくべきだな」

「それは勿論聞きたい。二人はもうお互いの目的とかは伝えてあるの?」

「それなりにねー。ジイサンはイジツで人探し。僕はユーハングで調べ物。利害が一致したからね、協力した方がいいって話にはなったのさ」

「なるほど……、ん? もしかして私、イサオさんのお手伝い係? 呼び出し食らった理由が嘘だった?」

「こちらの世界でも中々珍しい物は用意してあるから嘘ではないよ。ただジイサンが重要な部分を話さなかったという事さ」

 

 曽祖父に視線を移す。とても気まずそうな顔をしているが、イサオさんの話を否定もしない。確信犯か! 

 

「その事については謝罪する他に無い。ただ私の話を聞いてはもらえないか?」

「……まぁひーじぃの事だから、余程の理由なんだと思う。とりあえず聞いてから考える」

「ありがとう。優しい曽孫を出会えた私は幸せ者だよ」

「そういうのは照れ臭いので話をお願い。イサオさんはそのニヤニヤした顔やめい」

 

 こうして今度こそ、曽祖父の話が始まった。

 曽祖父は弟さんがいた。私からすれば曾祖叔父だ。いた、というのは残念な事だけど戦争で亡くなられたからである。

 兄弟して軍人さんをしていたのだが、弟さんが一通の手紙を残して忽然と消えてしまったのだという。

 書類上では戦死とされ、書類に書かれていた場所では確かに争いがあったが、遺体も遺品も何も残らず。

 戦争。軍人として戦って亡くなったのなら、何も残らないのは不思議ではない。とは曽祖父の弁。

 だけど曽祖父には気になる事が残っていた。生前に弟さんから届いた最後の手紙。

 この手紙には穴に関する事が書かれていた。

 

 その話をしている最中に、曽祖父は私にその手紙を差し出してくる。手紙が気になったのかイサオさんが私の真後ろに移動してくる。こちらの文字が読めるのだろうか。

 手紙の内容でイジツに関する事だけを抜粋する。三つの輪が空に浮かんでおり、それらが徐々に一つの輪になりつつある。このまま観察を続け、状況次第では偵察命令も出るだろう。面倒。

 

「面倒だったんだ……」

「昔からのらりくらりとした性格でな。人から見れば落ち着きのある性格だ。などと言われていたがアレはただ怠けたいだけだったと思うぞ」

 

 曽祖父の顔に少し笑みが浮かぶ。弟さんとの事を思い出しているのだろうか。

 三つの輪、これが重なる事で一つの輪になって、穴と呼ばれる物に変化するのだろうか。

 

「ハルト君ハルト君。アレを見て見なよ」

 

 イサオさんから呼ばれて顔を向けると手招きをしている。こちらに来いという事らしい。

 

「おぉ、本当に三つの輪だ」

 

 自宅から少し離れた距離に低空で薄っすらと三つの輪が浮かんでいる。

 

「あれが重なると穴になるって事です?」

「多分ね。一応、あそこから僕は脱出してきたからね」

「でもイジツ側では爆破されたとか言ってませんでしたっけ」

「そこが謎なんだよね。穴は一度、閉じればしばらくは痕跡すら残さずに消えるのに今回の穴は輪になって残ったままなんだよ」

「という事は、再びあの輪が穴となればイジツに行ける可能性がある?」

「その通り! ジイサンはそのチャンスを狙ってイジツに行きたいんだってさ」

「うーん……」

 

 曽祖父を見る。まだ聞きたい事はそれなりにあるので今の内に聞いてみよう。

 

「ひーじぃはイジツに行って弟さんを探したいの?」

「あぁ、とはいえ年齢が年齢だ。生きているとは思わないさ」

「そこまでする理由を聞いても大丈夫?」

 

 あぁ。と返事をして曽祖父が教えてくれた。

 弟さんが亡くなった事は悲しく辛い事ではあったが受け入れた。だけど最後の手紙に書かれていた事がどうしても頭に引っかかる。

 でも時は戦争中。がむしゃらに自分の仕事をこなし、気が付けば終戦。

 今度は食べてゆく為に働かなければならず、また働き詰め。その間にも時は流れ、気が付けば自分が棺桶に入る順番かと考えた時に思い出す、弟さんからの手紙。

 あれは一体なんの事だったのだろうか。自然現象か。戦場で見た幻覚のたぐいなのか。だが弟がそういった内容を書いた手紙を送ってきたのはあれが最初で最後だった。

 このままもう少し時間が経てば本人に直接、聞く事が出来るのだろう。あの手紙の後に何が起きたのか。何をしていたのか。どこで亡くなったのか。それともまだ生きているのか。

 

「ジイサンも言ってるけど、生きてはいないと思うなぁ。イジツにいたとしたらまず僕の耳に入ってくるだろうし」

「そういえば、ユーハングからおいていかれた爺さん。って人もいましたよね。お名前とかは分かるんですか?」

「いいや、ただサブジーって呼ばれてたよ」

 

 手紙に書かれていた名前とはかすりもしない。曽祖父の反応を見てもイサオさんが何かをした。という事はないようだ。また渋い顔はしているけど。

 

 話を戻そう。

 気になる事をそのまま放置してこの世を去るのも未練が残る。なにより弟から出された問題を解けずにあの世で会いに行くのは兄として悔しい。

 曽祖父はそれ以降、手紙に書かれていた現象について調べ始めた。現地に直接赴いた。噂話でも足を運んで聞き取りをした。数少ない生き残りの人達からの協力も得た。そして得た情報をまとめた資料に幾つか共通点を見つける。

 三つの輪は一つに重なり穴となる。その先には一つの世界があり、イジツと呼ばれていた事を。

 

 曽祖父が住んでいるこの場所も、噂話の一つだった。

 実際にこの場所に来て、三つの輪を見つけた時は内から溢れ出てくるものを抑えきれなかったという。

 そして三つの輪が見えるこの場所に居を構え数十年。日々監視し続けたが何も起こらず年齢的に限界かと感じ始めていた矢先に、三つの輪に変化が起こり始める。

 ただし、余りにも突然で用意してきた物を使用する時間も無く穴が開かれた。しばらくその穴を呆然と見つめていたが、何かの音が聞こえ始める。

 その音は穴から聞こえるものであり、次第に大きくなり一つの戦闘機が飛び出してきた。

 それがイジツから来たイサオさんであった。

 

「不時着出来る所があってよかったよ。流石に岩肌があるような場所だったら死んでいただろうしね」

「その代わりに私の畑が一部お釈迦になったがな」

「ままっ、人の命が救われたという事でそこはね!」

「生きててよかったですね、イサオさん」

「ありがとう! 心配してくれるのはハルト君だけだよ!」

 

 そういってハグをしてくるイサオさん。身内の所有する土地に死体発見とか洒落にならないからなぁ。という意味だったのだが黙っておこう。暑苦しいのでそろそろ離れてください。

 

「大まかにだけど分かった気がする」

「そうか、知っての通り私がイジツに行く理由は自己満足だ。弟がイジツに行った可能性も低い、イジツに行ったとしても生きてる可能性はほぼ無い。ただ、それでも可能性があるのなら知りたいのだ。あいつの生きてた証みたい物をな」

「それで、イジツに向かうとしてもあの穴がいつ頃開くか分かるの?」

「そこは僕にお任せあれ! これでも一応、研究者から分捕ってきたノートは記憶してあるからね!」

 

 頭の痛くなるような事を平然と言ってのけるイサオさん。とはいえ現状はそのノートとやらに記載されていたであろう予測に頼る他もなくそのまま話を聞く。研究者さんごめんなさい。

 

「輪の動きと光り方からすると、およそ一か月後に再度開くと予想されるよ。ただしイジツ側のどこに出られるかは分からないけど」

「一か月後かぁ。夏休み終わりそうな頃だけど……あれ、イサオさんの世話をするなら休みが足らない気が」

「一時的に休学してもらうしかないな。こればかりは私のせいだ。色々と便宜を図ろう」

「当初の予定からどんどん大事になってきた気がするよ」

「仕方ないね。まぁ諦めも肝心だよ。と、言いたい所なんだけど一つ提案があるんだ」

「提案ですか。イサオさんも一緒にイジツに行ってくれるとか?」

「いやいや! いま戻った所で袋叩きにされるのがオチだよ! なによりまだこの世界で知りたい事が山ほどあるからね!」

「それは残念。それで提案とは?」

 

 少ししょんぼりするイサオさん。でも立ち直りも早い。

 

「なに、イジツに向かうのをジイサンではなくてハルト君が行けばいいのさ」

 

 ……はい? 

 何を言っているんだお前は。そんな事を口に出すよりも曽祖父の行動が早かった。

 

「それは駄目だ。私の自己満足に曽孫を差し出すわけにはいかない」

「理由はそれなりにあるんだ。とりあえず聞いてみたりしない?」

「駄目だ」

 

 ハルト君ーと助け船を求めるイサオさんからの懇願。どうしろというのですか。

 

「ひーじぃ。話だけでも聞いてみたら?」

「駄目」

「少しでも情報を聞き出せた方がいいんじゃないの?」

「駄目」

 

 あかん。意地になってる。とはいえ私の身を案じての事だから嬉しい気持ちもあるけど、理由も気になる。

 

「じゃあ私がイサオさんの話を聞いてみるから、そこに居るだけでいいから居て」

「……」

「と、いうことでイサオさん。理由が知りたいです。お願いします」

「任せてよ! といっても理由は単純だよ。ジイサンがイジツに行くには歳を取り過ぎて目立ちすぎるんだ。イジツでは生き死にが当たり前で年寄りは少ないからね」

「最初に聞いた話でも言ってましたね。生き死にの話」

「そっ、その問題も含めて何とかしようと思って行動を起こしたんだけど……まぁそれは置いておこうか。後は生命力。年齢的に風邪でも引いたら終わりなんじゃないの? 幾つなのか知らないけど」

「私が小さい頃に百歳おめでとう的なイベントがあった気がします」

 

 あ、固まった。そうだよね。口も達者で肉体労働も平気でこなしているけれど、曽祖父は百歳を越えていたんだ。

 今何歳なんだろう。思い出そうとしていたら固まっていたイサオさんが動き出す。

 

「予想以上でびっくりしたよ……。次はイジツに向かう機体だよ。ジイサン、あの隼で行こうとしているだろ?」

「……あぁ。イジツでも珍しくないのだろう?」

「勿論。ただ性能的にイジツでも低い方の機体だよ。その隼に乗って空賊にかち合ったらジイサンどうするつもり? 逃げ切るのは不可能、格闘戦に持ち込んだとしてもジイサンのパイロットとして能力は未知数。そして先ほど言った通り体力的な問題」

「ひーじぃパイロット経験はあるの?」

「あるにはある。戦時中に負傷したパイロットの代わりに零戦に搭乗させられて何機か落とした」

「何機って下手すればエース扱いされるんじゃ」

「当時だとその程度のスコア持ちはゴロゴロいたよ。だがお祝いはして貰ったな」

「だ、そうです。でも70年以上も前なのは確かですけど」

「だよね! 経験があるのは意外だったけど、やはり厳しいかなーと僕は思うんだ」

「……イサオさんが搭乗してきた機体を修理して使うという手段でも取るのですか?」

「大当たり! 震電なら速度も上昇力も空賊連中が持っているような機体では追いつけないからね。無駄な争いを避けて逃げ切る事が出来るから体力も余裕が出来るんじゃないかい」

「でもその機体、目立つんじゃないのですか。イサオさんが乗り回していたんだし」

 

 んぐっ。という詰まる声が聞こえて呆れる曽祖父。これは却下な雰囲気。

 深呼吸をして落ち着くイサオさん。そのまま話を続ける。

 

「そこは塗装とかでカバーするとして。これが最後!」

「なんでしょうか」

「ジイサンがイジツに行ったとしたら僕とハルト君だけになるんだ。ハルト君だけで僕の手綱を握り続ける事が出来るのかなってね」

 

 心底、悪そうな顔でそんな事を発言する。

 

「ほう。曽孫をイジツに行かせろと言ってみたり、残したら残したで自分の手綱を引くのは無理だと発言したり。いい度胸だ」

 

 そう言い残して曽祖父が席を立つ。とても危険な香りがする。

 

「イサオさん。これ相当まずい状況ですよ!」

「とはいえなぁ。現実問題として伝えておくべき事だと思うんだよね」

「イサオさんの口から現実なんて言葉が出てくるとは思わなかったです」

「ひどっ! ハルト君って僕に対して辛辣だよね! 優しくしてくれてもいいんだよ?」

「言葉で返すだけ優しい方だと思いますよ」

 

 あぁ確かにと腕を組んで頷くイサオさん。冗談のつもりが本当にマシな方だったのだろうか。イジツって怖い。

 ともかく。人間誰しも怒れば怖い。特に曽祖父は私の知っている人達の中もっとも恐ろしい人。なんとかして落ち着かせないと。

 あれやこれやと考えているうちに曽祖父が戻ってくる。手に持っているのは……。

 

「あぁー! それユーハングの人達が持っていた武器だ! えーとたしか、カタナ! イジツじゃ数が少なくて凄い貴重品なんだよ! そんな物が早々にお目にかかれるなんてやっぱりこっちに来れてよかったなぁ!」

「そうか。じっくりと見るがいい。その後で試し切りもしてやろう」

「えっ! 本当!? 切れ味が凄いって噂なんだけどイジツにあるのは誰も整備出来なくてさ。もうボロボロで本来の性能も分からなくて困っていたんだよ!」

「そうか。なら体験してみるといい。己の体でな!」

 

 手に持っていた鞘からゆっくりと姿を現す抜き身の刀。天井から射す光が反射して眩しいほど綺麗に手入れがされている。曽祖父が手にしている刀は長さから見ると脇差。職業軍人をしていたから軍刀でも取り出してくるかと思っていたけど違った。

 

「ひーじぃ! それガチなヤツだから! イサオさんが言ってる刀はきっと軍刀の方だから! いや、そうじゃなくてソレ鞘に納めて!」

「そのお願いは聞けん! いくら忍耐強い私でも我慢がならん!」

「忍耐強いって話を聞いただけでこの状況なんですけど! 結構な早さの短気だよね! 私の事で怒ってくれてるのは嬉しいけど落ち着いて!」

 

 曽祖父とイサオさんの間に入り、説得を続ける。抜き身の刀を持っている曽祖父はとてつもなく恐ろしいけど、そうも言っていられない。

 後ろにいるイサオさんは自身の置かれている状況もなんのその。目を輝かせながら色々と聞いてくる。後で! 後で答えるからちょっと黙ってて! 

 そうした問答が収まりを見つけた頃には日付も変わろうとする時刻となっていた。

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