あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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4月1日
ゲキテツ一家


 目の前には無垢な瞳とキラキラと輝く笑顔。自分の思いどおりになると信じて疑わない、無邪気さすら感じとれる。

 だが残念。世の中はそう上手くいく訳もなく、私が今からする行動だってフィオさんにとっては予想外となるだろう。

 しかし、私には為さねば成らぬ事がある! 遂行できなくても私を信じて待つ人達と帰る家もある! 

 自分自身を鼓舞するかのように言い聞かす。いわゆる、がんばれがんばれ。ハートマークがつくアレは人から言われたいセリフだった。

 再び目の前に意識を集中する。同じ悩みを持つ同志は光り輝き眩しさを覚える。

 

「フィオさん!」

「おう!」

「ごめんなさい!」

 

 唐突に下げられた頭にフィオさんとローラさんが呆気に取られている。チャンスだ、全てをここに集中させる。

 かくして、唐突に開催されるアレシマ杯、G(頑張れば)1(ワンチャン)スタートです。

 ハルト、絶好のスタートを切ります! 後ろからは二名が遅れて追走。その内の一人は罵声に近い怒声を上げながら猛追していきます。

 ここから先は人込みの多い中央通り、ここに紛れ込めれば……あぁっとまさかの閉鎖! 自警団によって閉鎖されています! 早々にこれは痛いロス。

 脇道へと反れ、なんとか逃げ切ろうとしているハルト。慣れない道ながらも地図を片手にゴールである飛行船へと向かいますが、後ろも徐々に差を詰めてくる。既に射程内でしょうか!? 

 それでもなお、脇道に積み上げられている物を倒してまでは妨害をしないハルト。これはユーハング人の性なのか! 生まれつきの性分なのか! 大馬鹿野郎なだけか! 後方には豊かな果実を揺らしながら追いつく女性が手を伸ばし始める! 

 最終コーナーを回り、直線コースへと参ります。共に最後の加速を始めるかと思われたその瞬間、ハルトの目の前に人が現れる! 避けきれない! 

 

 両足を使って急停止を試みる。地図を見ていたせいで前方不注意になっていた。この勢いでぶつかってしまったら相手に怪我をさせかねない、それは避けなければ。

 最後の力を振り絞りギリギリまで踏み止まるが、まずい、止まらない。ぶつかると思った瞬間、首根っこを思いっきり引っ張られる感覚がする。それと共に私の意識が飛んだ。

 

 

「ニコ! よくやった!」

「……?」

「よし! 今の内にハルトを連れていくぞ! 今日からハルトはフィオ様の部下だ!」

「いいのかしら……。無理に新しい子分を作らなくても良いのでは? フィオ?」

「子分じゃない! 部下だ! ハルトはフィオ様の部下一号だ! 教えれば喜ぶぞ!」

「はぁ……。仕方ないわね」

「ニコ! ハルトを担いでタネガシまで戻るぞ!」

「……訳が分からない」

 

 高笑いと共にこの日、アレシマから一人の失踪者と一機の戦闘機が盗まれる事件が発生する。

 保護者がわりの隊長は動揺を隠し切れず、ガドールの議員はアレシマの警備体制に鬼のような形相で迫り、責任を追及する。

 かくして散り散りとなったハルトと震電。舞台はアレシマからタネガシへと移される事になった。

 

 

「そして一ヶ月の時が過ぎた」

「誰に言ってるんす?」

「独り言です、副長」

 

 手帳に記載されているアレシマからタネガシまで連れてこられた日数を数える。もうこんなに月日が経っていたのか。それともまだこれだけで済んでいるというべきか。

 現在、私は親分の元でせっせかとマフィアの仕事をこなしている。まさか自分がこのような職業につくとは誰が予想出来たであろうか。

 

「朝食が出来上がるんで親分を起こしてきてほしいんすよ」

「また私ですか?」

「ハルト君が起こしてくれると被害が少なくて助かるんす」

 

 余り寝起きの良くない親分。起こすのは大変な苦労を強いられてきたようで、大切な集まりの時でさえ遅刻する程だと聞いている。

 おかげで素直に起こせるというだけで、最近は親分を起こす役目を押し付けられている。

 

「それでは起こしてきますね」

「お気を付けてー」

 

 人を起こしに行く時に言われる台詞とは思えない言葉を受け取る。

 

「親分、ハルトです。入りますよ?」

 

 一言、断りを入れてからふすまを開ける。部屋の中にはアレシマで出会ったあの人、私を此処まで連れてきた元凶であるフィオさんが寝ている。

 布団を蹴り飛ばし、片足は畳の上、自身の服装も少し乱れている。この姿をみて鼓動が走るか頭痛を覚えるか。私は後者である。もう慣れですよ。

 穏やかな顔をして口を半開きにしながら寝ている親分に優しく問いかける。

 

「親分。朝ですよ。起きてください」

 

 これで反応があれば苦労はしない。返事があった事は一度もないのだから。

 仕方なしにいつもどおり肩を掴み、ゆっくりと揺らす。一緒に揺れ動くモノもあるが、慣れだ。寝ている人にまでそんな感情はいだけない。

 

「んっ……」

「もう朝ですよ、朝食も出来上がるそうです。起きてください、親分」

 

 ゆっくりとだが確実に意識を取り戻しつつある親分。伸ばされた手を引っ張り起こすのも仕事の内。

 

「おはようございます。親分」

「……おはよう。ハルト」

「必要な物は揃えておきましたから、準備が出来次第、朝食をとりに来てくださいね」

「わかった」

 

 本日も無事に任務完了だ。これより帰投……したいところだが、親分にスーツの裾を引っ張られる。

 

「ハルト、お前は何時になったらわたしの事を名前で呼んでくれるんだ?」

「もうしばらくは嫌どす」

「無理矢理連れてきた事に対して怒っているのか?」

「怒らずに従順であったら逆に怖くありませんか?」

「それはまぁ確かにそうだが……」

「そういう事なので、もうしばらくは親分呼びです」

「むぅ!」

 

 不満げな態度を隠そうともせずにむくれる親分。そういう顔をされても可愛いだけですよ。

 一言伝えてから部屋を出て副長の元へ戻る。

 

「お帰りなさい。親分を起こすのはハルト君に任せるのが一番んすね」

「これでも結構、気疲れして大変なのですが」

「他の奴らが行くと怪我をしてしまうので我慢して欲しいんすよ」

 

 寝返りをする際であったり、夢で格闘をしているらしい。巻き込まれたら世話がないですなぁ。

 

「はぁーご馳走様! 朝は米とミソシルに限るな! ミルク!」

「ご馳走様でした。今日も美味しかったです、副長」

「お粗末様でした。ハルト君にそう言ってもらえると作り甲斐があるんすよ」

「おおい! 私の為に作っているんじゃないのか!?」

「親分のはついでっすねー」

「コイツぅ!!」

 

 なんだかんだで仲の良いフィオ組。慕われる理由は性格か、あるいは不思議な魅力を持ち合わせているのだろう。

 台所に食器を置いて本日の日程を調べる。親分たちは特に何も無し。私は少々出掛けなければならない。

 

「ん? ハルト? どっか行くのか?」

「前日にも報告しておりましたが」

「そうだっけか? 悪い悪い! 聞いてなかった!」

「もう……。本日は他のシマの方々と意見交流会をしてきます」

「あぁ! そんな事も言っていたな!」

「一人で大丈夫でやんすか?」

「空賊に出会ったら尻を向けて逃げてきますよ」

「そんな事をしたらフィオ組の恥になるじゃないか! 出会ったら全部叩き落とせ!」

「そうはいいますが、私の操縦能力もしかり、空戦前に仁義を切るにも最近は聞いてくれる人の方が少ない始末で」

 

 仁義を切る。いわば名乗り上げのようなモノなのだが、空賊の皆さんはそんな事をいちいち聞くわけもなく発砲してくるわけで。

 

「そうだ! 今日は私がついて行ってやろう! ありがたく思えよ!」

「邪魔をしに行くだけっすよね?」

「副長! うっさいぞ!!」

「下っ端の仕事に親分がついてくるのはちょっと……」

「とはいえだ! 空賊にケツ向ける事はわたしが許さん! 素直に護衛されろ!」

「親分に護衛される子分ってどうなんでしょうか?」

「子分じゃない! 部下だ! ハルトもいい加減覚えろ!」

「副長、子分と部下ってどう違うんですか?」

「親分のその時の気分ですから気にしたら負けっすよ」

「おまえらぁーーー!!」

 

 お怒りの親分。結局、私について来る事になってしまった。

 副長はシマの人達から建物の修繕を頼まれているからついて行けないと言われる。本当かなぁ? 

 

 

 最初に辿り着くのはイサカさんのシマ。酒場で落ち合う予定となっている。

 親分を席に座らせて注文をしにカウンターへ。商品を受け取り親分の座る席まで戻る。

 

「親分、今日は暑いですからオレンジジュースでいいですよね?」

「おぉ! 気が利くな! ハルトはリンゴジュースか、相変わらず甘いのが好きだな!」

 

 オレンジジュースだって似たようなものだと思うのだが、そこに触れると喧嘩になるので黙っておく。ここはイサカさんのシマだから騒いだ日には怒られてしまうのだ。

 身に着けていた懐中時計を確認すると時間にはまだ余裕があるようで一安心。

 

「ん? ハルト? お前いつからそんな時計を身に着けてたんだ?」

「キノクで自由に行動が出来るようにってイサカさんから頂いたのですよ」

「なにぃぃぃ!! そんな事聞いてないぞ!!」

「いやいや、副長込みでご飯の時に伝えましたがな」

「聞いてない!」

「それじゃ今、伝えましたという事で」

「ハルト!! 最近私の扱いがおざなりだぞ!! 教育し直してやろうか!?」

「それはシマに戻ってからでお願いします。そろそろ相手方が到着される時間なので親分はここで見守っていてください」

「おう! 分かった!」

 

 席を立ち、親分から少し離れた位置で立ちながら待つ事数分。本日のお相手がご到着。

 

「相変わらず時間通りだな、ハルト」

「お時間をいただきありがとうございます。イサカさん」

「なぁっ!?」

 

 親分の驚いた表情、それと共に口も動く。

 

「なんでイサカがここに!?」

「それは私の台詞だ。フィオと会う約束はしていないはずだが?」

「ハルトは私の部下だ! 部下を守るのも親分の甲斐性だろ!」

「あのような権幕でついて来られました」

「はぁ……。まぁいい、そこで大人しく待っていろ。今日はハルトに用がある」

「意見交流会だろ? わたしも混ざったって問題ないだろう?」

「事前準備をしたうえでの会議だ。何を議論するのかも理解していないだろう?」

「親分。本日は私の仕事を見守っていてくださると心強いのですが」

「……仕方ないな。部下の仕事を見守るのも親分の仕事か! 頑張れよ、ハルト!」

「あい、ありがとうございます」

 

 満足げに椅子に腰をかける親分。これで横入は無くなった。

 

「……随分と手綱を引くのが上手くなったじゃないか」

「一月ほど一緒にいますから」

「ふふっ、では始めようか」

「よろしくお願いいたします」

 

 意見交流会。なぜか相手は幹部編。

 

 

「……なのでこうすればイサカさんの負担も減るかと」

「しかしだな、これもシマの治安と秩序を守る為でもあるのだが」

「理解はしているつもりですが、こうする事が出来れば部下の教育と実績、積み重ねの努力を評価に出来るわけでありまして……」

 

 頂けた僅かな時間に意見交流は続く。私はイサカさんから用件を頼まれていた側なので、事前に調査をし分析を行い、資料を基に提示しているだけともいう。

 私の親分は暇そうに椅子に跨いでオレンジジュースが無くなった容器をカリカリと齧っている。

 

「組長、お話し中に申し訳ありませんが次の会合が」

「もうそんな時間か? まだ終わっていないのだが……」

「気にしないでください。幹部の方々が忙しいのは当たり前ですから。よろしければまたこちらから足を運ばせていただきます」

「……すまないな」

「いえ、他の組の、ゲキテツ一家のいち子分に対してもったいないお言葉です」

 

 お互いに席を立ち、握手をする。その際に胸ポケットへと仕舞っておいた懐中時計を取り上げられ、イサカさんは私の懐中時計をみて満足そうな顔を見せる。

 

「時計、身に着けているようだな」

「身に余る物ではございますが、シマの許可証の意味も含まれているのであればと思い、着けさせていただいております」

「それだけか? 常日頃から手入れをされている。目立った傷もない。針は私の時計と同じ時を刻んでいる」

「大切な物ですから」

「……ハルト。私の組に来ないか? お前ほどの人材をフィオの元に置いておくのは勿体ない」

 

 ウチの親分が何かを喚いているが相手にしていると大変なので放置する。

 

「大変ありがたいお誘いではありますが、私には既に親分がいますので」

「お前の為に席を……。いや、ハルトなら下から始めても直ぐに私の横へと並び立てるだろう」

「申し訳ございません」

「駄目か。いや、こういった誘いになびかないからこそ……か」

 

 離される手。冷たくも感じたが心はとても温かな人だ。私のような身元不明の人間にもこうして機会を与えてくださるのだから。

 

「予定が空き次第、また連絡をする。今度は邪魔が入らないように、な」

「邪魔とはなんだ! 邪魔とは!」

「ふふっ、それじゃまたな、ハルト」

「本日はありがとうございました」

 

 店を出て次の会合先へと歩いていくイサカさんは、そのままの体勢で手をひらひらとさせ、こちらに合図を示してくれる。下っ端相手に律儀なお方だ。

 本日最初の交流会は無事に終了。全身も使い胸を撫で下ろす。

 

「ハルト! お前はフィオ様の部下だからな!! どこにも行くんじゃないぞ!!!」

「行きませんよ。そう伝えたじゃないですか」

「それはそうだが……。イサカの奴! 私にはハルトが勿体ないだって!? 私がハルトを見つけてきたんだぞ!!」

 

 正確に言えばさらわ……やめておこう。

 お怒りの親分をなだめて次のシマへと移動を開始する。

 

 

 道中、後ろにいるサダクニを呼ぶために再び手を挙げて合図を送る。

 

「先程の話、どう思う」

「イサカ組の信念、方針とは相性が良い話かと」

「だが、今以上にお前たちに苦労をかけてしまう事になってしまう」

 

 ハルトの案を受け入れれば、私の負担は減る。私でなければ出来ない仕事に集中出来るようになる。だがしかし、部下達にはより一層の負担を強いる事になる。

 

「お言葉ですが、組長」

「なんだ?」

「この話、キノクだけを限定にした話ではございません」

「どういうことだ?」

「ハルトの提案してきた話はキノクの先、今あるゲキテツ一家の形を示しております」

「私達が首領からシマを預かっている現状と同じだという事か」

「そしてその先にあるマフィア統一後を見据えた、タネガシの在り方を示した内容かと思われます」

「……」

 

 一体、ハルトは何者なのだ。アレシマからフィオが見つけてきたとは言っていたが、タダの子分ではなかったのか? 

 童顔で小柄な体格ながらマフィアを相手に怯える事もなく意見をぶつけてくる度胸。とてもじゃないがカタギの人間だったとは思えない。珍しくはないが孤児だったか、あるいは私と同じく両親を。

 礼儀作法はフィオ組以外で習ったのか盗んで覚えたのか。そういえば、図書館から出てきたところで出会ったと言っていたな。自分の環境に腐る事なく、更に知識を得ようと努力をしてきたのか。

 その結果、私に提案をしてきた内容がマフィア統一後を見据えた話か。これだけ規模の大きな話をされたら笑いたくもなる。

 

「なぁ、サダクニ」

「なんでしょうか、組長」

「ハルトも争いを、孤児が生まれるのを止めたいと思っているのだろうか」

「分かりません。ですが争いを望む人間ではないでしょう。他人からはいいように顎で使われていると揶揄されていても、自ら足を運び、情報を仕入れ、信憑性の確認も怠っておりません」

「それだけ聞くと大馬鹿野郎だな」

「ですが信用に値する人物かと。我々も組長の為ならば労は惜しみません。ご命令があればなんなりと」

「……あぁ。ありがとう、サダクニ」

 

 本人に直接、聞いたわけではない。だが、私達は同じ道を歩もうとし、お互いに努力を怠らないよう努めている。

 ゲキテツ一家は家族だ。言葉で言うだけなら誰しも可能だ。では、ハルトの様に行動で組を超えた活動が、家族を助ける為に動ける日が来るのだろうか。

 フィオ組に居ながらもハルトは私に問いかけてきたのだ。私に首領となる決意を、義務を持ち合わせているのかと。

 

「ふふっ面白いじゃないか」

 

 お互いに為すべき事を為してやろうじゃないか。このタネガシから、イジツから争いや孤児が無くなる日を目指してな。大馬鹿野郎。

 

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