あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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ゲキテツ一家 その5

 

「ついに最後か……」

「はい。ローラさんのシマですね」

「それで、ここでは何をするつもりなんだ? ハルト?」

「交流会の名目で招待券をいただいたのです。キクチヨさんから」

「ローラの副長か。ローラの歌謡祭を見るのが本日最後の仕事ってことか?」

「そのとおりでございます。前四件に比べれば気を張らずに済みます。歌っているローラさんの応援をするのが仕事といえば仕事ですね」

「なるほどな! それなら私も参加できそうだ!」

「えぇ、私も楽しみに待っておりました。楽しんでいきましょう」

「そうだな!」

 

 案内された事務所の特設ステージは、既にローラさんのファンで埋め尽くされている。招待制という事もあって人数は小規模ながらも熱気は凄い。

 天井に設置されているミラーボールが光り輝き、今か今かと始まりを待ち望んでいる

 

「ハルト! これだとローラが見えないじゃないか!」

 

 私達の場所は最後方。招待制ではあれど指定席ではないので場所は早い者勝ちなのである。

 私たちは他の用件を済ませてから来たので、当然ながら前には行けるわけもなく。

 

「そんな事もあろうかと、こちらに踏み台を用意させていただきました」

「流石だな! ってなんでここにそんな物があるんだ?」

「私も背は高くないのでイザという時の為にキクチヨさんからのご配慮をいただいたのです」

「そうか~。ハルトはちっこいもんなぁ~」

「そーですよー。ちっさいですよー」

「あんまり気にするなって! 背で何かが決まる訳じゃないのはわたし達がよく分かっているだろ!!」

「そうでしたね。流石は親分。心にグッとくる」

「そうだろそうだろ! もっと褒めてもいいんだぞ!」

 

 照明が少しづつ落とされていく、そろそろ始まりそうだ。

 

「褒めたいのはやまやまですが、始まる様子で」

「仕方ない。終わったら存分に褒めさせてやるからな!」

「了解しました。ということでいつものお願いします」

「おう! 踏み台!」

「へい」

 

 スッと横にあった踏み台を親分の前へ。副長の務めを代理で行わせていただきやんした。

 

「って、ハルト。お前の分が無いじゃないか?」

「元々は一人の予定でしたので、親分が利用している踏み台しかないのです」

「それじゃお前が見えないだろ!?」

「歌声は聞こえますし。姿も多少なら隙間から見えますのでおかまいなく」

「バカをいうな! ほら、私の隣に立てば見えるだろ?」

「手狭になりますよ?」

「それぐらい気にするんな! せっかくなんだから一緒にローラを応援するぞ!」

 

 差し出された小さな手。それに掴み親分の隣へと移動する。踏み台は頑丈に作られており、二人が乗っても安定性が崩れる様子は無い。肩が触れ合う距離感ではあるがお構いなしだ。

 

「よく見えますね」

「私はここからの景色が大好きだ! なんでも見通せるからな!」

「確かに。憧れの世界を垣間見ている気がします」

 

 程よい高さの踏み台は、全てを見通せる場所へと変化させ最後方とは思えない程の贅沢な席へ。

 

「では、こちらもどうぞ」

「なんか光ってるな? 何に使うんだこれ?」

「ローラさんの歌に合わせて色を変えたり振ったりして応援するんですよ」

「ほほう! そんな物があるのか!」

「曲に合わせて、縦に振ったり横に振ったりと。歌唱中に声を出して応援をするわけにはいきませんから」

「これはハルトの分もあるのか。二本も持ってきたのか?」

「周りの観客を見て頂ければ分かるかと」

 

 熱狂的ファンか、親衛隊と呼ぶべきか。一つの手に一本が当たり前のようであり、二刀流の人がほとんどである。

 

「あーなるほど、ソウダッタ。ここはそういう場所ダッタナ」

「ですが応援の仕方はそれぞれです。危険な行為や他人の邪魔になるような行動は取らずに礼儀正しく応援すれば問題なしです」

「なら任せておけ! フィオ様ほど礼儀正しい人間はそうそういないからな!」

「そっすね。あ、ローラさんが出てきましたよ」

「いま物凄く素っ気ない返事が聞こえたぞ……」

 

 舞台に現れたローラさんは、光に照らされてとても美しい。その場に立っているだけなのにローラコールが鳴りやまない。

 

「こうしていると、ローラの歌を真面目に聞くのは初めてかもしれないな」

「お二人とも長い付き合いなのでは?」

「ガキの頃からずっと一緒だったな。何をさせてもローラが一枚上手で悔しかったなぁ」

「それでも他の幹部の方たちからすれば仲が良いですね」

「マフィアの何たるかを教えてくれた先生みたいなものだからな。頭が上がらないんだよ」

「なるほど。親分が何かしでかした時はローラさんに頼めばいいと」

「何かってなんだゴラァ!!」

「シーッ! 始まりますから! 後で後で!」

「くぅーっ! 後でシメてやる!」

 

 そうこうしている内に始まったローラさんの歌謡祭。優しく、切なく、時に激しい歌声は、その場にいる人達を魅了していく。

 私達も例に漏れず、光る棒を振ってローラさんの応援に夢中になっていったのであった。

 

 

 そして全ての公演が終了し、現在は握手会へと突入する。盛大な列が出来上がっており、しばらくはかかりそうだ。

 

「いやー凄かったな! こういった事は初めてだったが悪くない! 体験して初めて分かる事もあるってことだ!」

「そうですね。合唱部分ではつい熱がこもり歌ってしまいましたよ」

「わたしもシマでもやってみるのもいいかもしれないな!」

「それは止めてくださいね」

「なんでだよ!!」

 

 現在、私たちは端の方で待機をしている。姐さんが挨拶をしたいので良ければお待ちいただけないかと、キクチヨさんから言付をいただいたのでこうして待っている間に感想会を開いているのである。

 私もこういった行事に参加をするのは初めてである。一人で参加をする事に少々不安を抱いていたのだが、それも親分がいてくれたおかげで不安は吹き飛び、目一杯楽しむ事ができた。

 

「親分。本日はお付き合いいただきありがとうございました」

「んお。どうしたんだ? 急に?」

「今日一日を振り返りまして、親分にはとても助けられている事に気づきまして」

「わたしだってハルトには日頃から世話になっているぞ? お互い様じゃないか!」

「そういう事を言葉に出せるから、親分は親分なんでしょうな」

「そうだろ! なら名前で呼んでいいんだぞ? ほら、言ってみ?」

「ありがとう。フィオ」

 

 本当に言われるとは思わなかったのだろう、予想外の名前呼びで硬直する親分。

 

「ごめんなさい。遅くなってしまって。あら、フィオ? どうしたのかしら?」

「いやいやいや!! なんでもないぞ! ローラ!」

「それならいいのだけど……?」

 

 挙動不審の親分を連れて、別室へと案内されていく。

 

 

「本日は楽しんでいただけたでしょうか?」

「ローラ! おまえは凄いな! 歌があんなに素晴らしいなんて初めて知ったぞ!」

「隣に同じくであります。とても素敵な歌謡祭でした」

「ありがとう。そう言ってもらえて頑張ったかいがあるわ」

「親分、こちらをローラさんに」

 

 本来、自分で渡そうと用意しておいた花束を親分に手渡す。

 

「ハルト……。どこに仕舞っておいたんだ、この花束?」

「秘密です。ささっ、ローラさんに心を込めてお渡ししてください。キクチヨさんからの許可は頂いておりますゆえ」

「ハルトが用意したんだろ? ハルトが渡せ」

「いやしかし、私の代表は親分でありますから」

「なら命令だ。私の代わりに渡せ。嫌か?」

「とんでもない。その令、ありがたく従わせていただきます」

 

 うむ! と手を腰に当てて親分らしい姿勢で返事をする。その様子を楽し気にローラさんは見つめていた。

 

「ローラさん、ご招待いただきありがとうございました。こちらはほんのお気持ちではありますが、お受け取りいただければ」

「ありがとうございます。とても素敵な花束……用意していただくのも苦労されたでしょう?」

「いえいえ、タネガシ中を飛び回る事が多かったもので、その時のツテで用意が出来た物です。お気になさらずに」

「……ありがとう。こんなに素晴らしい花束を頂いてしまったら、何かお返しをしてあげないといけなくなってしまうわ」

「お気になさらずに、と言いたいところですが、ローラさんにお願いがございまして」

「あら、何かしら?」

「是非ともこちらにサインをいただきたく」

「おい! ハルト! 見返りを求める気マンマンじゃないか!!」

「ファンです」

「ファンです。じゃない! ローラの代わりフィオ様のサインを書いてやる!」

「あ、でしたら親分。是非とも絵も頂戴してもよろしいでしょうか?」

「わたしの絵か? どうしてだ?」

「選挙をされた際に書かれたという話を耳にしまして、親分の絵を見てみたいなぁと」

「しかたないなぁ! ハルトがそこまで望むなら描いてやらないこともないぞ!」

「是非ともお願いいたします。ささっそちらの席で、黒色しか無くて申し訳ありませんが」

「任せておけ! しばらくそこでローラとお喋りでもしていてくれ!」

 

 手渡したサイン色紙とペンを片手に椅子のある場所まで移動し、創作活動を開始する親分。予定どおりっ。色紙はもう一枚あるのだよ。

 

「つきましてはこちらにサインを」

「ハルトさんもずいぶんフィオの扱いになれてきたみたいですね」

 

 口元に手を当てて上品に笑うローラさん。見た目麗しい姿に歌謡祭を終えたばかりのせいか、熱がこもっており艶やかさが隠し切れない。

 

「ローラさんには色々と教えていただきましたから」

「そんな。私が教えた事なんて僅かですよ」

「ですが、その僅かが大切だったのです。こちらに来てからは」

 

 少し、表情が暗くなるローラさん。

 

「ごめんなさいね。アレシマであの時に無理に連れてきてしまい」

「あの時に出会えたのはこういう事だったのでしょう。あまり気にしないでください」

「でもハルトさんの事情も聞かずに連れてきてしまったでしょう? ご家族の方とかは心配されていらっしゃらないかしら?」

「その関係で少し帰省しようかと考えています。親分にはまだ伝えてませんが」

「ハルトさんには帰る場所があったのですね。大変申し訳ない事をしてしまいました」

「いやいや! 帰る場所といいましても、なんて言えばいいのでしょうかね」

「……何か事情が?」

 

 穴の先からやってきました。いえい。なんて言えるわけもない。

 一度はラハマに戻り、隊長さん辺りにもの凄く怒られるだろうけれど、日本に戻る為にはあれこれをしなければならないのも事実。

 次回、穴はいつ開くのか。同じ場所に開くのか。定期的な監視も必要だろう。あの酔っ払いの計算の手助けや現地の情報取集も必要なのだ。

 その為にも私は部屋に山積みとなっているお酒をラハマまで運ばなければ! 

 

「……ごめんなさい。失礼な事を聞いてしまいました」

 

 考え事をしていたせいで、暫く沈黙が続いてしまった。

 

「へ? あ、いや。大丈夫ですよ。監視とか計算とかもあって大変だなぁと考え事をしていたもので」

「……大変ですか?」

「えぇ、あとは家族の事を思い出しまして」

「……みなさんお元気にされていらっしゃるのですか?」

 

 元気にかぁ。曽祖父はこの穴の件が発生したおかげでまた寿命が伸びそうだ。祖父もまだまだ元気いっぱい。父親は足を怪我した事以外は問題ない。今では普通に歩けているからね。式守さん家の家系では特に持病持ちはいない。手を自分の胸に当てて鼓動を感じ取る。心臓系の病気もないから逆に頭がホゲホゲになるのではないかと心配する。

 

「大丈夫です。みんな生きていますよ」

「ッ!!」

 

 途端に顔色が悪くなるローラさん。歌謡祭と握手会までされたのだから疲労困憊なのだろう。ここまでつき合わせてしまい、申し訳なさを感じる。

 ズボンに入れてあったハンカチでローラさんの汗を拭きとる。抵抗をする事もなく受け入れてくれるローラさんの信頼を感じる。

 

「大丈夫ですか? ローラさん?」

「ごめんなさい、ハルトさん。私は……」

「いいんですよ。誰しもある事ですから。気にしないでください」

「……」

「また、ローラさんの歌を聞かせてもらいに来てもいいですか? 私もすっかりファンになってしまいました」

 

 顔を上げてくれた。うん。やっぱり俯いているローラさんよりも日頃の凛としたお顔をされている方が何倍も魅力的だ。

 ハンカチを持つ手を握られた。

 

「……えぇ! また是非ともハルトさんにお聞きしていただきたいです」

「ありがとうございます。その時を楽しみにしておりますね」

 

 再び聞ける日が来るのは先の話になってしまうかもしれない。それもまた次の楽しみまでのワクワクする期間だと思えば苦はない。

 綺麗なお辞儀をして、先に部屋から退出していくローラさん。あ、ハンカチ……まっいいか。

 

「おやぶーん。帰りますよー」

「あれ、ローラはどうしたんだ?」

「お疲れの様子でしたから、先に退出されましたよ」

「そうか。あれだけの事をこなしたら疲労が溜まるのは仕方ないもんな」

「ところで、絵の方は完成しましたか?」

「おう! どうだ! フィオ様の自画像だぞ! ありがたく受け取るんだぞ!」

「……」

「何か言えよ!!!」

 

 芸術とは奥深い。

 

 

 二人がシマから離れ、自分達の家へと帰っていく。

 私はハルトさんに大変失礼な事を聞いてしまい、罪悪感で胸が詰まりそうだ。

 ハルトさんは帰る場所があると言ってくれた。それはきっと私に対しての心遣いだろう。

 監視と計算という言葉。実家に帰られる際にそれが必要な場所など、この世界に存在するのだろうか? 

 過去にハルトさんにも何かがあったのだろう。そして、それらが必要な場所に眠っているのだろう。ご家族が。

 胸に手を当てて、生きていると伝えてくれた。心の中にだけ残る家族との思い出。ハルトさんはそれを大切にし、生きているのだ。私と同じように。

 

 表情に出してしまった私に対して、ハルトさんは優しく汗を拭ってくれた。自分を傷つけるような事を発言した相手だというのに。

 それだけではない。私の歌を好きだと言ってくれた。この人はどこまで自分より、他者の事を考えてくれる人なのだろうか。

 自分の情けなさと同時に、嬉しさがこみ上げてくる。ゲキテツ一家に拾われた時のような、こうして皆といられるのと同じ思いを。

 

 心で何かを感じる。これはフィオに向けて感じたモノとよく似ている。私は一体何者なのだろうか。どちらに心が向いているのか。

 ……ハルトさんに事実を伝えてみようかしら。フィオにすら伝えていない事を。ハルトさんが知ったらどういう反応を示すだろうか。

 きっと、変わらないと思う。失望されるどころか、少し楽し気に笑った後、苦労を労ってさえくれそうだ。

 簡単に想像できてしまう姿に嬉しさを感じ、頂いた花束を抱きしめてしまう。

 

「今度はハルトさんの為に、精一杯、歌わせてもらいますね」

 

 持ってきてしまったハンカチを鼻を覆うように近づける。罪悪感で包まれていたモノが薄らいでいくのが分かる。

 僅かに、ハルトさんの匂いがしたからだ。

 




┌(┌^o^)┐
次回、最終話です。
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