あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その4

 たかが数日、されど数日、飛行船の窓からラハマの町が見えてきた時、ほっとする自分がいる事に気がつく。

 コトブキの皆とお二人は、ラハマにある駐機場に自分達の機体を下す為、飛行船から離陸していった。

 その際にお会いしたロイグさんは、昨日の様な考え込むような表情ではなく、初めてお会いした時と同じように接してくれた。

 

「デート、楽しみにしているわよ!」

 

 発艦する前にそんな事を言われ、驚きの余り口が開く。

 幸いにもロイグさんの愛機である鍾馗のエンジン音のおかげで周りには聞かれなかったようだ。

 こうして考えると、デートのお誘いをした時の私は何かがおかしかったのか、それとも余計なお節介が発動したのか。

 

 震電は飛行船の補給時に下して貰う事になっている。きちんとした整備が出来る人が限られているから念の為に。というのは建前なのは誰でも分かっている。

 私が飛行船から震電を上手く離陸させる事が出来るだろうか。元々がお尻の大きな子なのだ、そんな子で発艦訓練すらした事のない私が飛び出せば結果は目に見えている。

 

 荷物をまとめ、ユーリア議員と共に飛行船を降りる。

 出迎えに来て頂いたのだろうか、マダム、アレン、リリコさんの姿を見つける。

 

「おつかれさま。ハルト君、彼女に何か無茶な要求はされなかったかしら?」

「そんな事はしないわよ。色々と話し合いをしただけよ」

 

 マダムの表情は少し驚きにも似た表情。マダムから見ても、行きと帰りでユーリア議員に起きた変化に気づいたのだろう。

 

「……なによ?」

「いいえ、貴女がやけに大人しいと思っただけよ」

「私はいつもと変わらずよ。やるべき事はこなしてきたわ。これで良かったのでしょう?」

 

 一度目を閉じ、再び開くマダムの瞳。会釈をしながらお礼を伝える。

 

「ユーリア議員。この度はこちらの都合により、突然の無理難題を無事解決して頂き、ありがとうございました」

「いいわよ、別に」

 

 腰に片手を置き、正面からマダムを見つめているその姿は実に様になる。

 その体勢のまま、横にいる私に首を向けて名前を呼ぶ。

 

「ハルト」

「はい、なんでしょうか?」

「世話になったわね。何かあったら直ぐに私を呼びなさい。あと、例の件に関してはどうするつもりなの?」

「保留でお願いします。必要になった時にはご厚意に甘えさせていただきますね」

「分かったわ。ハルトがそう判断するのなら私からは何も言わないわ」

 

 その時、船内から連絡係が到着する。準備が完了したようだ。

 

「残念ながら時間ね。それじゃまたね、ルゥルゥ、ハルト」

 

 私たちに後ろ姿を向け、手をヒラヒラと動かしながら飛行船内へと姿が消えて行くユーリア議員。

 安全の為に飛行船から距離を取り、離れた場所からゆっくりと上昇していく飛行船を見つめる。

 

「ハルト君」

「はい」

「彼女に一体何をすれば、数日であそこまで変われるのかしら?」

「問われた事を返答していただけですが?」

「彼女はそれだけの事では変化を起こさないわよ」

 

 でも実際にそうなのだ。手を取り、目を合わせ、想いを伝える。そしてよく怒られる。これは自業自得だから仕方ない。

 

「まぁいいわ、後で今回の出来事について報告して頂戴」

「了解しました」

「じゃ、次は僕らの番かな?」

 

 車椅子に乗せられたアレン、押し手にはリリコさん。足の動かない状態でも出迎えてくれる姿に嬉しさが沸く。同時に私に出来る事で足の治療が出来るものならしてあげたいという気持ちも。

 

「ハルトから貰った資料に興味深い内容の書類が見つかったよ」

「何が記載されていたのかな?」

「物の流れ、かな。ユーハングの人達も輸送には苦労していたみたいだよ」

「イジツって空路じゃないと碌に物資を運ぶ事が出来ないですからね……」

 

 生物、瘴気、陸路が繋がっていない地形。安全なのは空の上。当時はまだしも今となってはその空すら危うい。

 

「そんなわけで、今回のハルトが仕入れた情報も含めて意見交換をしたいと思うけど、どうかな?」

「勿論、喜んで。あ、でもその前にナツオさんにお願いをしておきたい事があるんだ」

「ナツオに? また何かをするつもりなのかい?」

「ケイトを乗せてあげたいんだ。震電に」

 

 

「おう! おかえり、ハルト。アレン達も一緒なのか?」

「ただいまです。ナツオさんにご相談がありまして寄らせてもらいました」

「相談? って事はコイツの事か」

 

 布に被されて機体が見えない状態の震電。だが、独特なフォルムは隠し切れないので、形を知っている人が相手なら簡単に判明してしまう。

 

「震電の塗装を塗り替える事が出来るかどうかの確認をしに来ました」

「塗装か、勿論できるぞ。でも良いのか? 塗装もそうだが、塗り替えるって事は飛ばすつもりなんだろう?」

「問題が起こる可能性はありますが、あれだけ飛行させてみたいと表情に出されると搭乗させてあげたくなるものでして」

「アレシマでもそういう事があったのか。ケイトにしちゃ珍しいが良い事かもしれないな。よし! それじゃ念入りに整備してから、塗り替えをすっか!」

「お願いします、ナツオさん」

「おう! 任せておきな! 塗装はどんな風に仕上げておけばいいんだ?」

 

 そうか、塗装と言っても一色に染めるのからパターンまで色々とあるのだった。

 真っ赤な震電。この子に似合う塗装ってなんだろうか。正直、赤以外の姿は想像が出来ないが、まだ日本に居た時に資料で見た震電は暗緑色だった記憶がある。

 だからといってイジツでその色もなんだかなぁ。という感覚がある。私ではなくケイトが搭乗するのだから、そうなると浮かぶ選択肢は一つ。

 

「コトブキ飛行隊の塗装パターンって出来ます?」

「出来るぞ、それで良いのか?」

「はい、飛行後にまた戻してもらうと思いますが、それでお願いしたいです」

「うし! 了解だ! 念の為にマダムとレオナには伝えておいてくれよな!」

「分かりました。よろしくお願いしますね」

 

 会釈してこのままアレンの病院に向かおうとする前に、再びナツオさんから声がかかる。

 

「ハルト! 言い忘れてた事がある!」

「どうかしましたか?」

「アレンに使う器具、きっちり用意しておいたぞ!」

「本当ですか! これでさっそくアレンのリハビリが開始できます。ありがとうございます! ナツオさん! 後で差し入れ持ってきますね!」

「ついに地獄の日々が始まるのかぁ」

「自業自得ね。さっさと治してケイトを安心させなさい」

 

 項垂れるアレンを横目に一度、病院へと向かう事にした。意見交換や今後の計画も含めて、色々と打ち合わせの予定。

 道中、復活したアレンの期待に満ちた楽し気な声と比例して、リリコさんの正論が突き刺さる。それでもアレンはお構いなしに笑っている。

 名前で呼び合うぐらいなのだから、気心が知れている相手なのだろう。そうだ、リリコさんに聞いてみよう。

 

「リリコさん、質問よろしいでしょうか?」

「何かしら、事の次第では高いわよ?」

「高い話も気になりますが、単純に料理の話になります」

「あら、パンケーキならこの間、頑張って作れるようになったじゃない」

「それとはまた別で、下手をしたら今夜にでもカレーを食べさせろというチカからの要請が」

「無理ね。作れるかどうかじゃなくて、美味しく食べさせてあげたいのなら一晩は置かないと」

 

 リリコさんお手製カレーは一晩派だった模様。ジョニーさんお手製は普通とチカからの評価を頂いているみたい。がっくりとするジョニーさんの姿が目に浮かぶ。

 やはりここは日本から持参したレトルトで対応するのが良いのだろう。許されよ、チカ。

 

 

「しかし、ハルトがあの二人と知り合いになるとは思いもよらなかったよ」

 

 アレンを病室まで送り届けたリリコさんは、次のバイトへと出かけていってしまった。私たちの話に興味がないところもリリコさんらしい。

 

「アレンの顔見知りの人数にも驚くところだと思うのですが」

「似たような事をしていると、不思議と出会うものなんだよ。ちなみに彼女たちについて何か知っている事は?」

「ロマンと美しいを追い求めているとしか」

「なら僕から何かを言えるような事は無いかな。ケイトにだって内緒にしているぐらいだからね」

 

 人差し指を立てるイケメン。様になっているのだから嫉妬も湧かない。

 アレンからの報告、イケスカでの出来事。お互いに伝えあい、悩み合う。

 そして予想ながらも幾つか怪しげな箇所を複数見つける。影も形も見えなかった曾祖叔父の姿が絞り込めてきた。

 その時、コンコンと柔らかなノックの音が聞こえ、扉に視線を向けるとケイトがそこにいた。

 そこからはケイトも含めて三人で語り合い。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものである。

 気が付けば太陽は既に昇りきり、下降を始めている。話に熱が入り過ぎていたかもしれない。

 

「今日はこのぐらいかな。いやー喋った喋った、話し相手がいなくて寂しかったよ」

「それはよかった。色々とありがとう、アレン」

「こちらこそ。趣味と実益を兼ねている事だから資料を貰えたおかげで捗るよ」

「……実益?」

 

 ケイトからの素朴な疑問が聞こえたが、当の本人は知らんぷり。楽し気に今日の出来事を書き留める事に集中している。

 

「そうだ、ケイトにお願いがあるのだけど」

「分かった」

「まだ、何も伝えていないよ?」

「ようやくハルトから頼られた。ケイトはハルトを信用している。問題ない」

 

 大丈夫か、の後に続きそうな言葉を発するケイト。こんなにも近くに信用値がストップ高になられている人がいた。

 ナツオさんからはリハビリ器具の作成が出来たと報告を頂いた事だ、しばらくはアレンの足の事を優先しよう。私の探し人は逃げたりしないからね。

 

「ケイトの信用に答えられる内容か分からないけれど、ケイトに震電に搭乗してもらい、飛行も含めて動作確認をお願いしたいのだけれど」

 

 表情変わらず、されど空気は先程までとは違う。この兄妹はどうしてこうも煌びやかな雰囲気を出せるのだろうか。

 

 

 また後で、二人にそう伝えてマダムに報告をする為の付き添いと塗装の許可を得る為に、レオナさんの元へ向かう。

 ケイトから聞いた場所に、ザラさんと共にしているレオナさんを発見。

 用件を伝えると快く承諾していただいた。塗装に関してはマダムに一言伝えておいた方が良いとの助言を頂いたので、お会いした時に伺う事にした。

 こうして、本日ラハマに戻ってきたとは思えない程に慌ただしい日が終わりを告げようとしている。

 賑やかを通り越してやかましいと思う程の楽しい食事会。案の定、パンケーキからの使者からの要望、レトルトで妥協してもらったカレーを美味しいと言ってくれるチカの笑顔が心に突き刺さり、その心を優しくそっと包み込んでくれるタミルさんの存在。凄い、何が、全てだ。

 お二人は用事があって参加できなかったのが実に残念である。

 

 今日という日にお別れを告げ、明日を迎える為にベットへ身体を預けようとしたその時、扉から聞こえる控えめなノックの音。迷惑にならないように返事をして、扉をそっと開ける。

 

「こんばんは、ハルト。夜遅くにごめんね」

 

 片目を閉じ、両手を口元で合わせながら可愛らしい謝罪から始まるその人。ロイグさんである。

 

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