あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その8

 インノへと旅立つ直前のラハマ駐機場。

 私にとって初めて自分で操縦する長距離移動。しかも機体は震電。

 何事も無い事を祈りつつも、空賊に遭遇した場合は高度を上げて逃げる。そうしないとお二人の邪魔にしかならないから。

 

 震電の塗装に若干の変化が加えられた。大幅な変更をした訳では無く、ケイト仕様の震電から暗緑色を取り除いたぐらいであるが。

 これぐらいの塗装変更をお願いしておかないとコトブキ飛行隊に大変なご迷惑をかけてしまうから。

 こうして新しく塗装された震電は、機体全体が灰色、主翼先端と胴体前方にエンマ機の流線、そして酔っ払い共が描いたパンケーキマークである。このマーク、なんとかならんのかね。

 今回は弾薬も積まれている。ケイトが搭乗した際に機銃の動作確認をしてもらったが「良い」の一言を頂いた。

 素人なのでもう少し解説が欲しいところではあるが、ケイトが良いというのならば良いのだろう。

 問題は撃ったところ当てられない私の射撃能力であるが。

 

「アレシマ、イケスカへと向かったと思えば、今度はインノか。中々忙しそうじゃないか」

「手掛かりが何も見つからない、宙ぶらりになるよりは良いのかなと思っていますよ」

「確かに。目的が明確である間は、逆に楽かもしれないな」

 

 話ながらも作業を緩める事無く、機体の確認を行ってくれるナツオさん。

 ここ数日はずっとお世話になりっぱなしで頭が上がらない。整備班の方々には用意しておいた差し入れを渡しておこう。

 

「うっし、これで作業終了だ!」

「ありがとうございます。ナツオさん」

「いいって事よ。それよかコレ、持っていけ」

「これは前回、手帳から書き写した整備手順書ですよね」

「そこに私なりの注釈を追記しておいた。ラハマから離れるんだ、信用できそうな奴に渡して震電をキチンと整備してもらえよ!」

 

 中を見させてもらうと、アレンに押し付……手伝ってもらい完成させた手順書に、ナツオさんが記載したであろう文字が書き加えられてある。

 少しずつだがイジツ語も理解し、読み書きが出来るようになった身ではあるが、残念ながら専門用語までは分からない。

 ナツオさんの飛行機に対する愛情と情熱に、胸の内からこみ上げてくるものがある。

 自分が整備出来なくても、機体に真正面から向き合える人に自身の知識を託す。

 手に職を持たれている方からしたら、それがどれだけの重みのある行動であろうか。

 

「ナツオさん……」

「そんな泣きそうな顔をするな! 私にできる事をしたまでだ!」

「そう言われましても」

「今度はハルトが出来る事をこなして来るんだろ? 餞別だと思え」

 

 私の胸に拳をトントンと軽く叩く。そして次の仕事へと向かうナツオさんの後ろ姿に、また涙腺が緩みそうなわけでありまして。

 

「うんうん。美しき友情かな」

「ハルトは泣き虫」

「否定できません」

 

 見送りに来てくれたのだろうか、駐機場までアレンとケイトがやってきた。

 いつも通り車椅子に乗りケイトに押されているアレン。この日常をケイトに渡したリハビリ書で変化が起こるだろうか。

 まさか自分の足を折って手取り足取り教える訳にもいかない。

 

「あら! 二人とも見送りに来てくれたの!?」

「部屋に籠ってばかりいると気が滅入ってしまうからね」

「そんな事を言ってケイトとの訓練から逃げ出してきたのではないかしら?」

「バレたか」

 

 準備が整ったのか、お二人もやってきてしばし談笑。

 その間にケイトが何やら取り出し、私に向けて差し出してきた。

 

「これは……手紙?」

「レオナからの預かり物。コトブキはケイト以外、任務に出た為、ケイトが預かってきた」

「開けて読んでもいいのかな?」

 

 頷くケイトの了承を受けて、手紙を開封し、紙に書かれた文字を読み上げる。

 

 ハルトへ

 本来であれば見送りに行きたいところではあったが、こちらも任務がある為、すれ違いになりそうだ。すまない。

 代わりにケイトに手紙を託す事にする。

 アレンの足の治療の事もあるので、しばらくの間、ケイトはラハマに滞在している。

 何かあった場合は直にケイトに知らせる事。

 慣れないイジツの世界でまだ見ぬ土地へと向かうのだから、不安になるかもしれない。

 だが、共にするお二人の話をよく聞き、任務を達成して無事に帰還する事。それが一番だ。

 その中でハルトの得たい情報を手に入れられる事を祈っている。

 あぁ、大切な事を書き忘れた。朝はちゃんと起きる事。三度きっちりと食事を取る事。身だしなみは整えて、髪は結っておくこと。

 それから……

 

「レオナって心配症?」

「孤児院でお姉さんをしているから、ハルトを見ていると気が気でないんだろうね」

「つまり、私は未だに子供扱いされていると?」

「目が離せない。という点に関しては共通している」

「心配してくれる人がいるのだから、私たちから離れちゃダメよ?」

 

 この世界で迷子になった日には、身ぐるみ剥されて飛行機からぶら下げられそうだ。

 お二人のお尻……後を見失わないように気を付けなければ。

 

「さっ、ハルトの折角の門出だ。続きは任務を終えてからにしよう」

「それもそうね! アレン! ケイト! また来るわ!」

「ハルトの事、お願いする」

「任せておきなさい。邪魔立てする奴等は全て潰してあげるわ」

「リガル、何故にそこまでの気合を。行ってくるね、アレン、ケイト」

 

 機体に搭乗して整備の方に手伝ってもらい、エンジンを始動させる。

 手を振り二人に合図。返ってくる同じ合図に一抹の哀愁。

 前方に二機、赤をベースとしたロイグの鍾馗。胴体部分が桃色で主翼が鶯茶に似た色をしたリガルの飛燕。

 所々に塗り潰した後があるのは、どうやら怪盗団アカツキのチームマークみたいだ。念の為に隠しているのだろうか。

 先に離陸していく二人の後を追うように、震電をゆっくりと上昇させていく。よかった、操縦方法を身体も覚えていたみたいだ。

 三機でラハマの町を一度旋回し、ここから南西にあるインノまで向かう事になった。

 

 

「普通に飛ばせてるじゃない! ハルト!」

「一応、ユーハングでずっとイサオさんから指導を受けていましたから」

「でも射撃は当てられないと?」

「射撃訓練をした場合、色々と面倒な事になる環境でして。下手に撃つぐらいなら機体性能に頼って逃げた方が安全と判断されまして」

「そうね。機体の速さ、高度を考えればそれが無難かしらね」

「なので事前の打ち合わせ通り、ドンパチが始まりそうだった場合は上空に逃げさせて下さい」

「了解! そうしてもらえれば私たちもやりやすいしね!」

「戦闘機を襲うような馬鹿なら私たちの敵ではないわね」

 

 まさに戦力外。いいの、邪魔にならない事に徹した方がみんなの為だもの。

 そんな笑い話をしつつ、順調に飛行が続けられた。

 時折、大地を見下ろすと町らしきものが見える。

 町自体は小さいけれど、良い町よ。とリガルが教えてくれた。落ち着いたら色々な町を巡ってみたい気持ちが沸いてくる。

 その際には誰かについて来てもらおう。私一人で行動したら、絶対に何かが起こりそうだから。

 

 

 インノと呼ばれる町が見えた。そこを更に通り過ぎ、山岳地帯を沿うように飛行をしていたところでロイグからの無線が入る。

 

「みんなもう帰ってきてるみたい! 見慣れた機体が見えるわ!」

「なんだかんだで行動が早いわね」

「あの様子だとアジトに何か起きたわけでは無さそう! よかったぁ!」

「けど、目を付けられている事には変わりはないわ。ハルトに調べ物をしてもらったらまた移動しないと」

「そうなると、向かう先はやっぱりあそこかぁ。嫌では無いのだけど面倒だなぁ」

「匿ってもらえる場所があるのだから我慢しなさい」

 

 お二人にしか分からない会話をされているが、私のすべき事には変わりはなさそうだ。

 果たしてロイグに必要な情報と、私に必要な情報を見つけ出す事が出来るか。一抹の不安と高揚感に包まれながら、アジトへ着陸を行う。

 

「ハルト! 私が先に降りるから、よーく見てるのよ!」

「了解です」

 

 ロイグが先にアジトの滑走路に機体を降ろす。慣れた操縦で綺麗に着陸をする。

 続いて私も着陸体勢に入る。整備された地面、いつも通りやれば問題ない。自分にそう言い聞かせて震電の車輪を地面に押し付ける。

 徐々に減速していく震電、不備も無く、無事に静止する事が出来た。ナツオさんに感謝せねば。

 後ろからリガルさんも着陸へ。その前にロイグが機体から降り、仲間たちに会いに行こうとしていたその時、一人の女性が扉から飛び出してきた。

 

「ベッグ! ただいまっ!」

 

 両手を広げて受け入れ態勢万全のロイグ。感動の再会。かと思えば思いっきり横を通り抜けて震電の元へ一直線とやってきた。

 背中越しに見える両手を広げたままのロイグの姿に哀愁が漂う。

 機体をコンコンと叩き、グルグルと周囲を見回すベッグと呼ばれた女性。

 防風を開けると、こちらに気が付いたようで話しかけてきた。

 

「この機体の持ち主はキミなのだ?」

「そうですよ、ベッグさん」

「どうしてベッグの名前を知っているのだ!? 初めて出会ったばかりなのだ!」

「そこで膝を付けて悲しんでる人が呼んでいたもので」

 

 視線をロイグに合わせると、しまった! という表情で急いでロイグに駆け寄っていく。

 ベッグさんが上手に誤魔化したのか、そのままの体勢で抱きしめるロイグ。その顔はとても幸せそうである。

 

「相変わらず賑やかね、ハルトもさっさと降りてきなさい」

「了解です」

 

 リガルの言葉に答えるように、震電から降りる。一日ご苦労様。機体を撫でて労う。

 

「ロイグ、いい加減離してあげなさい。ハルトの事を仲間に報告しなければならないでしょ?」

「んーっ! 仕方ない、これで許してあげるわ! ベッグ!」

「助かったのだ! リガル! レアな機体を前に死んでしまうところだったのだ!」

「あの機体はハルトの物だから、許可を貰った上で触りなさいよ?」

「了解したのだ! ハルト! よろしくなのだ!」

「よろしくお願いしますね、ベッグさん」

「ベッグは整備士をやっているのだ! 是非、震電を触らせて欲しいのだ!」

「ベッグー。今日は諦めなさい。説明しなくちゃいけない事がたくさんあるのよ?」

「嫌なのだ! 今すぐ触りたいのだー!」

「はいはい、部屋に戻るわよ」

 

 リガルがベッグさんの首元を掴んで強制連行。ベッグさんは器用に両手足をバタつかせながら抗議をしている。

 ナツオさん。ベッグさんにあの整備手順書を渡したら、きっと大変な事になりますよね。

 不安を抱きつつ、後ろをついて行き、怪盗団アカツキのアジトへ足を踏み入れる事になる。

 




憧れの、インノの大地、今居んの

予定の約3分の1まで進みましたが、想定していた話数より伸びております。
もう暫しお付き合いいただけると幸いです。

熱中症にご注意ください。点滴をさす羽目になります。
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