所狭しと並ぶ料理の数々。アカツキの仲間達の再開と私の歓迎会も含めているとの事。大変嬉しく思います。
ロイグ、リガルは言うまでも無く。
長い髪をポンデリングのように巻いて、左右の頭にちょこんと乗せているモアさん。
頭から足まで覆うコートを着て、イジツでは珍しい眼鏡を身に着けているベッグさん。
ロイグと負けず劣らずのスタイルの良さに、前髪に特徴的な赤毛が混じるレンジさん。
身の丈に少し合わない白衣を着て、袖口を余らせているカランさん。
怪盗団アカツキのパーソナルカラーなのだろう。皆、其々に赤い何かを身に着けている。布であり、リボンやネクタイ、マフラーであったりと。
「そんなわけで! 私たちが煮詰まっている現状を打開してくれる人を呼んできました!」
「ハルトと申します。打開できるかは分かりませんが、依頼された以上は頑張らせて頂きます」
「来てくれたのは嬉しいが、調べ物ってロイグの部屋に散乱している物だろ? なんか分かりそうなもんなのか?」
「散乱って失礼ね! レンジ! 分かりやすく機能的に置かれていると言って欲しいわ!」
「だとよ、部屋掃除をやらされているモアからしたらどうだ?」
「もう少し部屋を綺麗にしてもらえると助かるのですが……」
「はい、すみません」
ロイグの部屋は機能性重視の配置になっているらしい。必要な物が手を伸ばして届く集中配備型か、床が見えない程、適当に物が置かれた散乱型か。
レンジさんとモアさんの言う事が正しければ、調べ物をする為にロイグの部屋へとお邪魔させてもらうのは、私にはレベルが高すぎる。
お片付けをしていただくか、掘り出してもらい、この広間で調べる他、なさそうだ。
「以前、ここへ来た彼とは違う人なのね」
「アレンならラハマで元気にしていたわよ。彼の足の治療とユーハングについて教えていたのがハルトなの」
「へぇ、治療については興味があるわ」
「医者ではないので、ご期待に添えられるかどうか」
「アレンの足に何かをグルグル! って巻いて立たせたのよ! 訓練用器具を用意したり!」
「内科的な手法ね。後で詳しく教えなさい」
「ベッグは震電を弄りたいのだ! 許可して欲しいのだ! ハルト!」
「一度に言われましても! 一つずつ順番に!」
追加で置かれた椅子、そこに私が座らせてもらう状態。隣にいるベッグさんからはどうしても震電を弄りたいという要請が激しい。
時折、クフフ……というカランさんからの含み笑いと視線も。
アジトの広間で行われている歓迎会。周囲を見渡すと本当に様々な物が置いてある。
壁には絵画が幾つも掛けられており、目を奪われる。
どちらかと言えば、なんでこんなところにあるの? と聞きたくなる物が。
「おう。何か気になる物でもあったか?」
「馴染み深い物から見た事がない物まで盛り沢山で、情報に埋め尽くされそうです」
「オマエ、分かるのか? ソコの棚に飾られている刃物は?」
「刀ですね。ユーハング由来の武器です」
「ならこのバカみたいでかい置物は?」
「熊、ですよね。胸に特徴的な白い毛があるのでツキノワグマだと思いますが」
田舎に住んでいると、ある一定の時期に必ず警報が出される。
熊が出没しましたので付近に気を付けるように。との警告が。
ここにあるのはまだしも、何故この剥製はポーズが付けられているのだろうか。
「さすがね! ユーハング由来の物だと分かって、名称まで当てるだなんて!」
「ただのガラクタじゃなかったのか」
「ちょっと! ツッキーの悪口は許さないわよ!」
「へいへい、どうも失礼しましたと」
謝る気がサラサラなさそうなレンジさんの態度にぷんすかしているロイグ。
既にお酒が回っているようで酒瓶を手にしている。それをモアさんに叱られてしょんぼりする姿は可愛らしい。
「ハルト、一つ聞いていいかしら?」
「なんでしょうか? リガル」
「この旗はなんとなく分かるのだけど、アレは一体何なのかしら?」
視線の先には、壁に貼られた三角形の布地が二枚。
その一枚に書かれている文字は、洞〇湖。
剥製の熊、地名が書かれたペナント、やはり北の大地からやってきた物なのだろうか……。
「あちらも旗の一種です。主に船舶で掲げられる旗なのですが、壁に貼られているのはお土産品として売られていた物かと」
「お土産って! ロイグの奴、ユーハングの土産品を盗んではしゃいでたのかよ!」
先程の反撃と言わんばかりにお腹を抱えて笑いこけるレンジさんの姿に、ロイグが再びおこな状態に。おこなの? おこだよ!
「あの馬鹿二人は放っておいて、船って水に浮かぶ乗り物よね?」
「はい、その通りです」
「なら、ハルトから貰ったこの写真を撮影した場所も船だったのかしら?」
テーブルに置かれる、ぼやけた海と鳥が映し出された写真。この一枚からこのような事になるとは、誰が思いついたであろうか。
「そうです。曽祖父に呼ばれて向かう途中に撮ったものですね」
「ちょっと待ちなさい。イジツには先も見えないような大きな水溜まりはどこにも無いわよ」
「あら、伝えてなかったかしら。彼、ユーハングからやってきたのよ」
カランさんからの問いかけにリガルが答えると、辺りは嵐の前の静けさに。既に伝えられているかと思われていた事が伝わっていなかった。レオナさんの拳が今にも頭の天辺に触れそうな距離まで近づいてきた予感がする。確認は大切。
大笑いしていたレンジさんですら黙って写真を見つめている状況下。先に口を開いたのはモアさんだった。
「あの、ハルトさん。今のは本当ですか?」
「本当です。既にご存知かと思っておりました」
「リガルぅ! みんなに連絡を入れてってお願いした時に伝えていなかったの!?」
「あら、必要だったかしら? ロイグからの呼び出しなんて盗むか自慢かのどちらかじゃない」
思う所があったのだろうか、皆が頷く。
「実際に集まってみれば、ロイグのガラクタを鑑定出来る人を連れてきた話なのだ。だけど震電を持ってきてくれたのでベッグは満足なのだ!」
「ベッグぅ~」
邪魔なーのーだー! と引っ付いてくるロイグを振り切ろうと必死にもがくベッグさん。
そのガラクタの山から私は自身の必要としている情報を見つけなければならない。夢の島を発掘して無事に見つけだす事が出来るのだろうか。
「このまま話を続けていくと危険な気がしてきたわ。一度、お互いの事実確認をした方がよさそうね」
「同意です。拗れたまま進めると後々大変な事になりそうですから」
「そうね……。まずは二人から聞いたアカツキの現状を教えてくれるかしら」
「了解しました」
偽アカツキの登場により、情報を探る毎日。その為に偽名を利用して記者から情報を仕入れたり。
だが、そのタイミングでレンジさんの弟さんの事が発覚し、弟さんを救出する為に色々と仕込んではいたのだが、相手の方が一歩上手であった。
人質を取られ、アジトまでやってきた偽アカツキならぬ、ラムダという女性。ロイグとは面識のある方。
その際に集めた航空日誌は全て没収され、夜明けの鷹についての情報源は全て奪われる形に。
人質は無事に解放され、弟さんもカランさんのお父様がいらっしゃる病院へ運ばれ、生き残れる可能性が浮上した。
敵にアジトを知られたからには、襲撃される恐れもあって、一度アカツキは散り散りになった。という所まで。
「ほぼ合っているわ。詳細を付け加えると、人質になった子の中にチビッ子たちがいてね。その子たちは依頼主からロイグをある場所まで連れて来る事が目的だったのよ」
「その子たちは何処へ?」
「アジトが危険な事には変わらないわ。依頼主の元に避難させてしばらく待機しているようにしたのよ」
「ロイグはその子たちの依頼主に会いに行くつもりは?」
「当初はその予定だったわ。ダダをこねて少しだけ先延ばしになってしまったけど。そこでアナタを見つけたみたいね」
色々と偶然の重なり合いで今に至るのか。
「話を聞いて分かったと思うけど、このアジトに居られる時間は少ないわ。それでもアナタはロイグに見初められてここへとやってきた。可能な限り迅速に、必要な情報をかき集めて」
「分かりました。気を引き締めて取り掛かります」
返答に満足されたのか。特徴的な含み笑いが漏れる。
「そちらの確認は終わりましたか?」
「えぇ、私たち現状は全てカレに伝えたわ。次はこちらからの質問だけど、何かあるかしら? モア?」
「はい、ですが一つずつ聞く事になってしまうのでハルトさんにご迷惑をおかけしないかと不安です」
「知らない方が不安かと思います。気にせず聞いてください。お答えしますから」
モアさんがこちら見て深呼吸。そして頭を下げてよろしくお願いします。
こちらこそ、よろしくお願いします。
そうして始まった、イサオさんとの出会いから私がイジツに来る事になった理由まで。
「そうか、オマエは家族を探す為にイジツまで来たのか」
「年齢的に生き延びている可能性はありません。ですが、ユーハングで消息不明だった人がこちらの世界にいる可能性があるとしたら」
「穴にだって飛び込むよな。分かるよ。骨の一欠けらでも見つけて故郷に返してやりたいよな」
「協力してくれた皆さんのおかげで、家族が眠っているであろう場所は幾つか絞り込めました。ただ全てを回る時間も人手もありません」
「それでユーハング由来の品を多く持っているロイグと手を組んだのか」
「はい。手持ちの情報ではこれ以上、絞り込む事が難しかったので」
その時、挙手をして発言待ちをしていたモアさんに話を振る。
「あの、ハルトさんは家族の為とはいえ、見知らぬ世界に飛び込んできて辛くないのですか……?」
「飛び込んできて早々に、コトブキ飛行隊に撃ち落されそうになった時が一番辛かったですよ」
「それって! とても危険じゃないですか!」
「誤解が解けるまでは死ぬかと思いました。震電の性能に救われたってところです。それ以降はコトブキの皆さんに大変助けていただいて、辛いと感じた事は無いですね」
「そうでしたか……。ハルトさんは強い方なんですね」
「いやいや、全くです。ずっとみんなに助けて貰いながらここまでやってこれました。いつか受けた恩を返せるといいなと思いながら」
こうして答えていると自分の情けない姿が前面に出てくる感じだ。
でも実際に、私に出来るのは知識の提供ぐらい。それで何かの役に立てるならそれを頑張ろう。
モアさんに顔を向けて笑顔を向ける。ちょっと驚いた様子だったが、同じように笑顔で返してくれた。
「そちらの問題はイサオね。結局、あの震電はイサオの物なのでしょう?」
「一応、頂き物扱いになっています。どうせユーハングじゃ使わないし、性能は良いから使いなよ! という」
「あの男がそんなにあっさりとお気に入りを渡すだなんて、貴方よほど好かれたのかしらね」
「分かりません。ただ一応お願いとして、現在のイジツの情勢やらを調べておくようにと言われましたが」
「帰ってくる気満々ね……」
「色々と約束事を取り付けて、一年間はユーハングに滞在してもらっている状態です。その間にイサオさんの興味を別の何かに切り替えないと、再び戦争が始まる可能性が……」
「どこもかしこも、爆弾だらけね」
心底嫌そうに溜息をつくカランさん。本当にどうしよう。イジツも丸い説やら色々と考えるが、実行に移すにはまだ時間がかかりすぎる。
脳味噌で響くイサオさんの笑い声。だが、イサオさんが現れなければイジツに来れなかったという事実。
そして私はイサオさんの事が嫌いではないという事。だからこそ、争う為にイジツに戻っては欲しくない。
目一杯、考えよう。何もせずに後悔するのだけは絶対に嫌だ。