あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その10

 アジトに来て初めての朝。

 前日に行われた再開と歓迎会でお酒をいただいた事もあり、いつも以上に意識が定まらない。相変わらず朝が弱い事が自覚できる。

 無理矢理、身体だけはなんとか動かして身支度を整える。そうしなければレオナさんに顔向けが出来ない。

 ゆっくりと時間をかけながらも、人にお見せできる姿になったのではないだろうか。あとは脳味噌さんの覚醒待ち。

 

 広間に顔を出して皆さんに挨拶を交わす。テーブルには既に色とりどりの食事が並べられ、とても良い匂いがする。

 ポンポンと椅子を手で叩くリガルの姿が見え、そちらにお邪魔する事にする。

 朝食を頂いたら直ぐにでも依頼を始めるべきだろう。少しでも早く情報収集が出来るのならそれに越した事はない。

 少しずつ覚醒し始める脳味噌に気合を入れ、ロイグからの依頼を遂行すべく、作業に取り掛かりたい。

 

「ロイグのヤツが起きてこなけりゃ、何も出来ないだろ?」

 

 そう、取り掛かる予定であったのだが、待てど暮らせどロイグが起きてこないのである。

 周囲の人達の様子を見る限り、どうやらこれが日常である様子が伺える。

 ため息が漏れる広間でモアさんは諦めがついた様子で立ち上がりロイグを起こしに行く。

 

「やっとロイグの世話から解放されたわ」

 

 一人だけ生き生きとしているリガルがそう語る。

 しばらくの間、道中を共にしてきた二人ではあるが、その際もロイグは中々起きてこなかったようだ。

 

「宵っ張りなのよ。怪盗なんてやっていれば仕方ない事でしょうけど」

「タダのダメ人間じゃねえか」

「そんな事、今更でしょう?」

 

 本人の居ぬ間に好き放題、言い合うアカツキの皆。

 始めて出会った時のあの衝撃から追加されていくロイグの情報。

 表情豊かで親しみやすい性格。整理整頓が苦手で朝がとても弱い。

 完璧にも思えた存在がとても身近に感じられる要素が判明していく。だが、以前として長身で綺麗な方である事には違いない。

 ……でも急ぎなのであればこういう時ぐらいは起きて欲しいな。ロイグの項目に自由の単語を追加しておこう。

 

 

「おはよぅ~」

「もう! ロイグったらそんな格好で広間に行かないでください! ハルトさんもいらっしゃるんですよ!」

 

 あれからしばらくの時間が経過した後、ようやく姿を現したロイグ。

 モアさんが根気よく起こしたのだろう。少しだけ疲れた表情をしつつも、嬉しそうにしている姿に二人の信頼関係が伺える。

 ただし、問題点が一つある。ロイグの今の姿だ。

 アレを身に着けてない。アレ。

 寝ぼけているロイグを無理矢理、着替えさせたのか分からないが、上半身に身に着けておくべき物を身に着けていない。これが初期型か。

 咄嗟に顔を横に向ける。視線の先にはカランさんがおり、こちらに視線を合わせてくる。

 

「別に顔を背ける必要なんてないわよ、あんな格好で出てくる方が悪いんだから」

「色々と道徳的な問題がありまして」

「ユーハングから来る度胸はあるのにそういう所は慎重なのね」

 

 独特の含み笑い。余った袖口。色白を超えて色素が薄いと表現しても通じてしまいそうな程の透明感。

 昨日の会話しかり、見た目の格好しかり、お医者さんなのだろう。

 現時点で分かるのはこれぐらいだ。せめてマッドなお医者さんでない事を祈るほかない。

 耳から伝わる騒ぎを聞いていれば未だロイグの恰好で揉めているようだ。

 

「別に見られて恥ずかしい体形してないし~」

「そういう問題じゃありません!」

「時間の無駄よ、諦めなさい、モア」

「そんな事よりもお腹すいたのだ……」

 

 全員揃ってから食事をする方式らしく、美味しそうなご飯が目の前にして待ての状態。

 それを決めたのもロイグのようだ。自由過ぎるのも考えものなのだなとこの賑やかな朝の景色を見て思う。

 

 

 床に積まれていく書類と本の束。

 レンジさんにご協力いただいてロイグの部屋から運び出してきた物だ。

 現状でもかなりの数があるように見えるのだが、それでもロイグの部屋の隅に無造作に置かれていただけであり、本棚に置かれているのを持ちだしたら倍以上になるとの事。

 これらを今から読み解いていく。夜明けの鷹や私の探し人の範囲を絞り込めるように。

 一番手前にあった本を手に取る。一体何が書かれているのか、好奇心と不安に包まれながらもそっと本を開く。

 

『美味しいチャーシューの作り方』

 

 頭に疑問が浮かぶ。チャーシュー、焼き豚、そうだよね、合っているよね。

 一度、本を閉じて掠れた表紙を見つめる。僅かに読み取れた文字は間違いなく日本語。

 書かれていた文字を意味する言葉は『家庭で作る美味しいラーメン』

 そうか、君はイジツにラーメンを伝えにきたのか。海ならぬ穴を抜けて伝道師たちのように。

 表紙は無骨にも題名だけが書かれている。文字の意味が分からなければ、ひらがな、カタカナ、漢字で書かれた本も、よく分からないけど貴重そうな品に見えなくもない。

 積まれている書籍を見て頭が痛くなる。専門用語が満載で書かれた物が見つかったらどうしようとか考えていたが、早々そんなものがある訳がない。

 これは根気との戦いになりそうだ。

 

 

 いくつかの山を崩し終えて分かった事がある。

 書籍に関しては料理、日本文化に纏わる本が多いという事。これらを日本へ逆輸入出来れば資料として値がつくのではないかと。

 そして書類に関しては、これまたどこかの会社の内部情報が書かれていたり機密と書かれていた物も複数あるが、あくまで地球、日本では有効なのだろう。残念な事にイジツでは無用の物ばかりだ。

 少しばかり溜息が漏れる。一番初めの書籍で分かってはいたが、こうも関連性のない物ばかりかと。

 逆にユーハング、日本軍の資料が出てきたらそれはそれで大騒ぎになってしまうが、掠りもしないと中々厳しいものがある。

 鑑定内容をロイグに提出する為、用意してもらった紙に内容を短文で書き込み、休憩も兼ねてゴロンと後ろに倒れ込む。

 これは夢の島から情報を見つけ出すというよりも、ゴミか、それ以外かの選別作業かな。

 それも大事な事だよね。モアさんからすれば、ようやく部屋が片付けられます! って喜んでいたぐらいだから。

 両手の指を絡ませて親指をクルクルと回したり擦らせて、精神を落ち着かせていると、不意に覆いかぶさるように影が差し込む。

 

「大丈夫なのだ? お疲れのようなのだ!」

 

 独特の口調に眼鏡を光らせて現れたベッグさん。レンズを通して見えるその瞳はトパーズに良く似た黄色。人懐こい笑顔と共に映す瞳は不思議と周りに希望を与えてくれる。

 

「なかなか希望の品が出てきませんよ」

「当たり前なのだ。ロイグが拾ってきたガラクタに希望を持つ方がおかしいのだ!」

 

 与えられたと思っていた希望は、本人の口からバッサリと切り捨てられる。

 しかし、よくぞここまで集めたものだと感心してしまう。

 そこまでしてでもオタカラを探したいのだ。ロイグにとっての夢である夜明けの鷹のオタカラを。

 覗き込むのに飽きたのか、ベッグさんが仕分けしておいた鑑定済みの書籍を手に取りページを捲っていく。

 

「何か面白そうなものはあったのだ?」

「料理本と告発文書が面白いと思えるならそこら中に」

「料理のレシピならモアに渡すといいのだ! きっと美味しい物を作ってくれるのだ!」

 

 確かに。今朝、頂いた朝食はとても美味しく、モアさん一人で作られたと聞いて驚いた。

 テーブルに並べ慣れた彩のある食事。一時期ケチャップ丼にハマっていた己を恥じてしまう。あの丼は妙な中毒性があり、唐揚げと一緒に食べると更に美味しいのだ。

 

「ハールートー」

「なんだか嫌な予感がして聞き返したくないですけど、何ですか」

「震電を弄らせて欲しいのだー!」

「それについて一つ質問してもいいですか?」

「なんなのだ? 言ってみるといいのだ」

「ベッグさんは皆さんの機体の整備を担当されているのですか?」

「勿論なのだ! ベッグはアジトにあるみんなの機体を整備して改造まで施せる整備士なのだ!」

 

 実際にロイグ、リガルの機体は不備無くここまで帰って来れたのだ。整備の技術力は既に証明されている。

 後は単純に機械弄りが好きでたまらないのだろう。そして新しい物好き。

 ナツオさんから託されたこの手順書を渡しても大丈夫なのではないか? 

 

「ベッグさん、整備手順書とかは読まれるタイプですか?」

「読まないのだ! ベッグは見れば分かるからちょちょいのちょいなのだ!」

「ではこの話は無かったという事で」

 

 身体を起こして再び作業に戻る。

 先程までの推測はちょっとした気の迷いだ。習うより慣れろ派に渡しても意味のない物だもんね。

 さぁ次は何の料理本が出てくるのやら。

 

「ま、待つのだ!」

 

 背中に衝撃が走る。ベッグさんが器用に後ろからしがみついてきて、首回りには腕を、腰部分には足をまわし固定する。身動きが取れない。

 

「ちゃんと読むのだ! 震電に関する資料なのだ!?」

「ただの資料じゃありません。ラハマでお世話になっている方の注釈が記載されているとても大切な手順書です」

「了解したのだ! きちんと読むのだ! そうしたら震電に触らせてくれるのだ?」

「勿論です。読んでいただいて理解が出来たのであれば、ベッグさんに是非とも震電の整備をお願いしたいのです」

 

 ほぁぁぁ、と感激しているような叫びが背中から聞こえる。

 そのままの体勢でベッグさんを背負ったまま四つ足で歩き、持参したバッグの中に手を突っ込む。

 背中を通じて精神が削られそうになるが、ロイグ、リガルの猛攻を退けた今の私ならば耐えられる。

 

「ありましたよ、ベッグさん。これを読んで内容を把握出来ましたら、また呼んでください」

「ハルト! ありがとうなのだ! 直ぐに読むから待ってて欲しいのだ!」

「私はここで作業の続きをしていますから、慌てずゆっくりと読んでください」

 

 気合を入れて再び作業を再開させなければ。

 ベッグさんは私の近くで寝そべり、実に楽し気に手順書に目を通している。時折、あの瞳がキラキラと輝いてとても綺麗だ。

 今日の目標はこの山を終わらせる事。ペース配分を覚えれば明日以降は素早く処理できるだろう。

 

 

 あれから数時間後、外は日が暮れ始めている。

 身体を軽く動かすと所々で骨の鳴る音が聞こえる。同じ体勢で長時間、調べ物をしていたせいであろう。

 そういえばベッグさんはどうしたのだろう。いたはずの場所に視線を向けるとうつ伏せ状態のままピクリとも動かないベッグさんの姿が見えた。

 

「ベッグさん、今日はもうおしまいですよ。起きてください」

「うぅ……。久しぶりに大量の文字を読んだのだ」

「それはお疲れ様。どう? 覚えられた?」

「勿論なのだ! これをまとめた人は機体の愛情が深い人なのだ! 尊敬するのだ!」

 

 ナツオさんは細かな部分も一切手を抜くことなく整備を行う人だ。

 自身の技術力に奢る事もなく、機体と正面から向かい合う姿勢。

 まさにプロである。勿論、手順書を書いてくれたひーじぃも。

 

「それじゃ、行こうか?」

「どこに行くのだ?」

「勿論、震電の所にだよ」

 

 キョトンとしていた表情をしていたが、理解をしたのか喜色満面へと変化する。

 頑張った後はご褒美が必要だと思うんだ。私がそうだから。

 

 

「ハルト! 本当に好きに触ってもいいのだ!?」

「いいですよ。お願いした通り手順書を読んでくれましたから、ベッグさんになら任せても大丈夫だと信じます」

「ありがとうなのだ! 早速調べさせてもらうのだ!」

 

 これだけ喜んでくれると許可した甲斐もあるというもの。

 機体周辺をちょこまかと走り回り、触れている姿が、ベッグさんの少し小さめの身長と服装がかみ合いとても可愛らしい。

 操縦席に乗り込もうとぴょんぴょん跳ねるが、震電の特徴的な高さもあり、届かない。

 近くに寄り、一言断りを入れてから腰部分を掴み、持ち上げる。

 機体部分を掴み、這うように搭乗する。しばらくすると操縦席からは歓喜の溜息が聞こえた。ここまで自身の喜びを正直に表現をされると、こちらまで嬉しくなる。

 現状では唯一の稼働状態にある震電。だが執事さんの話によれば、イケスカ動乱のドサクサに紛れて空賊共が資料を強奪。

 その内、貴重ではあるが金を積めば買える機体になるでしょう。寂し気というよりも呆れた声色でそう教えてくれた事を思い出す。

 

 それでも、この震電は私にとって思い出を共にする唯一の相棒だ。

 

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