あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その13

「さぁハルト。昨日リガルに話していたオタカラについて教えて頂戴」

「もう一度だけ念を入れておきます。私個人の仮説ですからね? 私心入り混じりですよ?」

「分かっているわ、それでも聞いておきたいの。私たちが見つけ出した航空日誌とハルトが見つけてくれた機密文書。それらを基に立てた推論をね!」

 

 アカツキの皆さんが一同に集まった広間。

 朝食を食べ終わり、私がロイグから依頼された内容の調査結果を報告する。

 そして今日で私が怪盗団アカツキと共にする最後の日なのだろう。

 呼吸を整えて、報告を始める。

 

 まず最初に、航空日誌によって得た情報は虹の麓に夜明けの鷹のアジトが存在し、そこに隠されたオタカラが眠っているという事。

 サクラと呼ばれる記者から得た情報に飽くまで噂話程度の精度ではあるが、ムラクモ空賊団と夜明けの鷹がオタカラを巡って対立していたという事。

 そのオタカラはイケスカの穴から出現した何か。未知なる戦闘機との噂もあるが信憑性は分からない。

 ここまでを確認を踏まえて伝える。問題はここから先、オタカラという欲望に取りつかれた可能性がある人達のお話。

 

 噂をそのまま事実として考えるのであれば、二つの伝説はイケスカに穴が発生した事を契機に姿を消す。

 穴が出現した事は間違いない。このアジトから現れた機密文書にはラハマとイケスカに出現した穴から日本軍が出入りしていたとされる記号が記録されていたのだから。

 オタカラは当時のイジツの人達では手の届かない所、湖の底に沈んで引き上げる事が困難である可能性と、出現した穴に魅入られて飛び込んで行った可能性もある。イサオさんのような人が居ればだけど。

 現在のイケスカには湖に立派な橋が掛けられており、ユーリア議員と共に訪れたばかりのイサオタワーなる建物が鎮座している。

 その建物の存在理由がオタカラを引き上げる為に作られた物だとしたら? 

 誰の手にも渡る事無く、引き上げる術も無く、現在も湖の底で眠っているとしたら? 

 

 虹の麓に夜明けの鷹のアジトがあるという。

 イジツの人達は虹の存在を把握しており、雨が降ったあとに現れるという事までは知識として知っているようだ。

 ただし、実際に見た事がある人はいないともされている。

 もし、日中のイケスカの地で二つの伝説が争いを行っていた時、水面を低空飛行で飛び、風圧によって水しぶきによって虹が発生していたら? 

 

 イサオさんと執事さん。このどちらかが夜明けの鷹の関係者か、或いは当人か。

 風貌から推測すれば可能性として執事さんが上回る。ではイサオさんがあの位置にいるのは何故か。

 ユーリア議員曰く、妙な運と財力だけで世界を渡っている世界で一番ズル賢いタイプ。

 もし、この妙な運と財力が他者から提供されていた物だとしたら、イサオさん本人が持ち合わせている実力とカリスマが合わさった結果だとしたならば。

 スメラギ卿。彼にイサオさんは見出され、何かかしらの取引をしていた執事さんと、アタルさんとラムダの様な関係になったのであろうか。

 

 だが、そうすると執事さんの立ち位置が分からなくなる。夜明けの鷹の関係者だとしたら、引き上げた後のオタカラはスメラギ卿の元に行く事になってしまう。

 それを夜明けの鷹が許すのか、ムラクモ空賊団は納得するのか。そんな訳がない。

 二つの伝説が争い、手に入れる事が出来なかった物を、金にモノを言わせたヤツに奪われてたまるものか。

 イサオさんを駆り立てるモノは野心と欲望。スメラギ卿の力を受け入れる事で自分の町を守る為、廃墟となった他の町の様にならないように、思い描いた明日という未来に向けて。

 執事さんはあの時代に手に入れる事が出来なかったオタカラを、仲間達や好敵手の夢を取り戻す為。

 二人は手を組み、イジツに歯向かう事を選んだのか。

 

 

「……イサオさんの近くに居過ぎたせいなのか、怪盗団アカツキの熱にあてられてしまったのかは分かりません。機密文書を解読してからは頭の中はずっとこのような状態です」

 

 この話の最も恐ろしい所がある。

 

「そして私は二人と面識があり、執事さんであれば連絡を取る事で事実か否かを確認出来てしまうところです」

 

 アジトに置かれた黒電話を見つめる。連絡先は聞いている。受話器を取り上げ、ダイヤルを回せば全てが分かるかもしれない。

 それが良い事なのか、悪い事なのか、分からない。誰が判断をして誰が受け入れるのか。

 

「でも、その方法は取らない方が良いと心が訴えています」

「……どうして?」

 

 そう問いかけてくるロイグを見つめて、本心を伝える。

 

「当人から答えを聞いたオタカラに価値はありますか? 航空日誌を集める事から始まったこの話を、怪盗団アカツキの活躍を、そんな無粋な行為で無駄にしたくないじゃないですか」

 

 恥ずかしいけれど、想いは言葉にしなければ伝わらないからね。

 はい、真面目なお話は終了! 

 執事さんはともかくとして、イサオさんがそこまで考えているかと問われたら、否って答えるよ。

 本能特化型すぎるのだ、あのオッサンは。自身の欲望の為にショウトという町を吹っ飛ばしているし、ラハマにだって爆撃を仕掛けた人だ。

 誰かに喋る事でようやく頭がスッキリとしてきた。やはり魔の手からの誘いは恐ろしい。貯め込むとあり得ないだろうという事さえ事実のように思い込んでしまう。

 

 唐突として誰かの手が、私のいつもの定位置に置かれ、粗々しく動かされる。

 それは一度だけでは済まされず。二度、三度と続き、その人の性格が手の動きを通じて伝わる。

 上目遣いで辺りを見れば、アカツキの皆さんの笑顔と笑い声。

 時には行動で示す方が伝わる事もあるようだ。

 

 

「よし! それじゃみんな! 行くわよ!」

「一番渋っていた人に言われてもねぇ、でもいいわ、お金持ちのお祖父様に会いに行こうとした事は評価してあげる」

「あの話を聞いた後でもブレないのな、この尻軽女」

「うるさいわね、この脳筋女。お金は悪くないのよ、いつだって悪いのは使う側の人間なのだから」

「ならリガルは悪女なのだ! 悪い女なーのーだー!」

「今更よ、ベッグ」

「あはは……」

 

 怪盗団アカツキの次の行動が決まった。

 マヨナカ探偵団というチビッ子三人が組んだ隊があり、本来はその子たちの依頼主に会わなければならなかったのだが、ロイグが駄々をコネて引き延ばしていたのだ。

 依頼主はロイグの知り合い、もとい育ての親ともいえる祖父だという事。余り会いたくないそうだ。

 ラムダやスメラギ卿よりも先手を打つ為にも、チビッ子たちに依頼をしてまでロイグを呼び寄せた祖父に会わなくてはならないと。

 

「向かわれる事については何も問いませんが、なぜ私まで震電に搭乗してみなさんに付いて行く事になったのでしょうか?」

「素直に会いに行くのも悔しいじゃない! ハルトが付いてきてくれるなら、おじいちゃんだって見た事のない機体を見せつけられるし、少しは溜飲が下がるってことよ!」

 

 拝啓、墓場で眠っているであろう曾祖叔父へ。

 お会いできる日が少しだけ伸びました。不義理な曽孫をお許しください。

 決して誘惑に負けた訳ではありません。私は依頼を終えてラハマに帰還しようと考えていたのです。

 両手をガッチリと握られ、潤んだ瞳と艶やかな唇から放たれた「お願い、付いてきて……」という言葉と共にロイグの谷間へと引き寄せられた両手を救いたかっただけなのです。

 すごく、よかったです。

 

 

 広すぎる。

 駐機場から徒歩三十分ってどんな立地条件なのだろうか。暮らしていて不便ではなかろうか。そもそも個人で駐機場持ちってどれだけお金持ちなのだ。余計な事をつい考える。

 ここからはマヨナカ探偵団の三人に案内されて道をひた歩く。

 ようやく辿り着いた立派な家、ここがロイグの育った場所。室内にお邪魔して辺りを見回し、皆がそれぞれに感じた事を口に出す。

 その時、突如として表れる一人の男性。

 ロイグと同じ髪色に白髪が混じり、年齢を感じさせるが、その口から発せられるテンションが高めの発言の数々。久しぶりに孫と会えて嬉しそうなおじいちゃんである。

 ロイグとの会話を聞いていると私を呼びつけたひーじぃを思い出す。その後ろに同じようなテンション高めのイサオさんも。

 イジツへ来てからどのくらい時間が経ったのだろう、後で手帳を覗いてみようか。

 

「ところでロイグ、彼は一体何者かね? まさか! 私の考えを先読みしてひ孫を見せてくれる準備をしていたのか!?」

「おじいちゃん! 変な事を言わないで! さっき説明した通り、ハルトには夜明けの鷹について調査を手伝ってもらっていたのよ!」

「そうですわよ! ハルトはあんな痴女に靡くような薄っぺらい男ではありませんわ! お祖父様!」

「その痴女は私の孫なのだが……」

「メンドクセェから、一度黙ろうな。ってベッグとハルトがいねぇ」

 

 

 痴話騒ぎから逃げ出すようにベッグさんと共に機体が置かれている格納庫へやってきた。

 あのまま話を聞いていたら深みに嵌りそうな気がしてならない。このままでは夜明けの鷹のオタカラが手に入るまで付き合う事になりそうな程に。

 モアさんが暴走を始めた時に、これはチャンスなのだ。という声が聞こえてベッグさんの後ろを付いて来たのである。

 戻る頃にはモアさんも落ち着いているだろうし、夜明けの鷹の子孫の話もまとまるのではないか。

 

 格納庫には多種様々な機体が所狭しと並んでいる。ロイグの祖父は機体コレクターとしても有名なのが良く分かる程に。

 隣にいるベッグさんは、それはもう嬉しそうに辺りを見回し、機体に触ろうとしていたので止める。

 

「離すのだ! 機体がベッグを呼んでいるのだ!」

「駄目ですってば! よそ様の機体ですよ!」

「ロイグのおじいちゃんの機体なら、ベッグの機体のようなものなのだ!」

「どんな理論ですか! 三人とも! 見ていないで止めるのを手伝ってほしいのだ!」

「口調、うつってるよ~」

「そこでなにをしているのだ! ここはお屋敷の人間以外は立ち入り禁止の場所なのだ!」

 

 その声の主に視線を向けると、ベッグさんとよく似た格好の女性がいた。

 

「ニッカ? ニッカなのだ!!」

「ベッグ? ベッグなのだ!? こんなところで会えるとは思わなかったのだ!」

「それはベッグも同じなのだ!」

 

 私の手からすり抜けてニッカと呼ばれている人と再会を喜ぶベッグさん。

 和気藹々としている姿と、特徴的な口調で頭が混乱し始めた。

 

「一体なんなのだ?」

「ワタシに聞かれても分からないわよ!」

 

 一度、使用すると癖になる口調を整えるとして、目の前にはベッグさんによく似た女性が一人。

 見た目の服装と会話を聞いている限りでは、とても親しい関係にあるようだ。

 そんな二人を探偵団と眺めていると、誰かの足音が聞こえる。

 もう一人、誰かがこちらにやってくる。

 

「あ! ししょー!」

「誰が師匠だ」

「ししょー? ニッカの師匠さんなのだ?」

「そうなのだ! ししょーの整備技術はピカ一なのだ! お願いして弟子にしてもらったのだー!」

「人の足元にしがみ付いて離さなかっただけだろ。それに弟子とは認めておらん」

「そう言いつつも整備作業を見せてくれるのだ! ツンデレジジイなのだ!」

 

 こちらにやってきたのは一人の老人。

 髪は完全に白髪で染まり、少し猫背気味になっているが、足腰は丈夫なようでキチンとした足取りで歩いて来る。

 

「しかし今日は騒がしいな。一体何事だ」

「この家のじーちゃんの孫が帰ってきたんだよ」

「ついでにニッカの幼馴染であるベッグも付いてきたのだ!」

「……それで後ろにいる奴は誰だ」

「ベッグ達の仲間なのだ! ハルトっていうのだ!」

「ハルトと申します」

 

 頭を下げて会釈する。返事はない。

 

「ししょー! 自己紹介ぐらいしたらどうなのだ!」

「そんなもん必要ない。その内帰るだろ」

「そりゃそうだけどさぁー、それでも必要だと思うのだ!」

「そうよ! 名前ぐらい教えてあげなさいよ! ジジイ!」

「嗚呼煩い、分かったから黙れ」

 

 チビッ子たちの猛攻に諦めがついた様子のご老人。

 こちらに顔を向けてぶっきらぼうに言い放つ。

 

「サブジーとでも呼べ。この家のジジイに拾われて整備士のような事をしている。これでいいか?」

「ししょーはね! 機体の整備以外にも飛行技術が凄いのだ! 機体を鳥が飛ぶかのように優雅に飛ばすのだ! 流石ししょーなのだ!」

「鬱陶しいぞ。少し黙れ」

「嫌なーのーだっ! 尊敬するししょーの事を他の人に自慢できる数少ない機会なのだー!」

 

 サブジー。まさかご存命だとは思いもよらなかった。

 長き間、イサオさん達から協力をするように迫られ続け、その度に姿を暗まし、最後は命を狙われて撃墜された人。

 トンビのような飛び方をしてイサオさんを驚かせた程の飛行技術の持ち主。

 こうして直接お会いする事になるとは。かなりの高齢なはずだが。

 ユーリア議員と相談をして一時的に待ったをかけた状態のお節介がここに来て再び浮上を始めた。

 キリエやナオミさんにこの事を伝えるべきだろうか。今の私にお節介を焼く程の余裕があるのだろうか。

 今の二人に会わせたらどうなる? 精神的に何らかしらの変化が発生するのは確実。二人とも既に凄腕の傭兵、戦闘機乗りだ。

 そうした場合、今後の仕事に何か影響が発生するのではないか、懸念すべきは……。

 

「んがぁぁぁ!!」

「いきなりどうしたのだ! お腹でも下したのだ!?」

 

 自ら頬をつねる、馬鹿な事を考えている自分を恥じる。

 この荒野で強く逞しく生きている人達の事を、私如きが推し量る事が出来るであろうか。

 生きていれば嬉しいに決まっている。死んでいれば悲しいに決まっている。

 そこへ相手に対して今後の精神状態がどうたらと考える方が失礼だ。

 あ、でもキリエだけはちょっと不安。いざとなれば新作パンケーキで励まそう。

 

 変顔になっていたせいか探偵団に笑われる。ついでと言わんばかりにニッカさんもベッグさんも笑いすぎじゃないですかね。

 サブジーは表情を変えずに後部を掻きながら立っている。

 

「お前は一体何をしに……」

 

 その先の言葉は続かなかった。胸を押されるようサブジーが床に膝を付ける。

 

「ししょー!」

「ベッグさん!」

「カランを呼んでくるのだ!」

 

 先程の雰囲気から一転、重苦しい雰囲気へと包まれていく。

 

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