あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その14

「大丈夫、命に別条はないわ。大勢の人と会って少し疲れがでたのよ」

「よかったのだぁ……。カラン? ありがとうなのだ!」

「どういたしまして。こっちのベッグは素直ね」

「酷いのだカラン! ベッグは元々素直なのだ!」

「欲望にでしょ? 処置は済んだわ、しばらく安静にしてあげて」

「助かったよカラン君。このジジイは頑固でな、前にも似たような事があったのだが医者は嫌だと駄々をこねよって」

 

 部屋から戻ってきたカランさんからの報告を受けて、ほっとする。

 いきなり大勢で押しかけて、一人で勝手に思考を巡らせて奇声まで上げていた自分を恥じる。

 イサオさん達の話しを聞いていた時点でご老人なのだから高齢だと分かっていたのに。

 流石にひーじぃと同じ年代ではないと思うが……。

 

「無事でよかった……」

「ん? ハルト君はこのジジイの知り合いなのか?」

「私ではありませんが、友人が十数年間探している方かもしれません」

「ほう! よければ詳しく教えてくれないかね。荒野で大の字に寝そべっているのを見つけて面白半分で拾ってきたのだが、このジジイは無口でイカン。きっとムッツリジジイだな!」

「物凄い経緯と断言する理由も知りたいところですが、先にこちらから教えられる範囲でよければ」

 

 サブジーは、キリエに空を教えた人であり、飛び方を教えた人。ナオミさんはサブジーから技を盗んで覚えたとレオナさん達から間接的に聞いた。

 二人にとっては師匠と呼んでも過言ではないだろう。

 共通点はそれ以外にも。ある一定期間を過ぎた時、突如として姿を消す事である。

 その理由はイサオさん達からの追跡を逃れる為に姿を暗ます為であるが、ここの部分を伝えるべきか否か、悩んでいる。

 

「ふむ、イケスカ動乱以降、名を上げたコトブキ飛行隊に所属している娘に、荒野の雌豹と呼ばれるナオミか」

「まさかおじいちゃんの傍に居るだなんて思いもよらなかったわ」

「そうだろう? 帰ってきてよかっただろう?」

「おじいちゃんだって知らなかった癖に。でもそうね、帰ってきてよかったわ」

 

 その言葉が聞けて嬉しいのだろう。歯を見せる程の笑顔で笑うロイグのおじいちゃん。

 ロイグも微笑むようにしておじいちゃんの顔を見ている。

 少しだけ開いていた距離が縮まったのであれば何も言う事はない。

 

「しかしこのジジイ。エースパイロットを生み出す程の操縦技術を持ち合わせていたのか。それも二人も」

「こちらに来てからも飛行をされていた様子ですが」

「時折だが機体の保守作業の一環で飛ばしてもらっていたぞ。あまりに綺麗な飛び方をするものでな、好きな機体があれば一つくれてやると言ったのだが、いらんと言われてしまったわ」

「そうでしょうなぁ……」

「それについても知っているのかね?」

「搭乗していた機体であれば」

「ふむ」

 

 腕を組んで何かを考え始めるロイグのおじいちゃん。

 

「嫌な予感がするわ。おじいちゃんがあぁしている時の姿って、その後が大変な事になるのよ」

「ロイグのジイサンだからなぁ」

「突拍子もない事を言い始めそうですね」

「ハルト。私の評価が辛辣なのだけど」

「行動力溢れて皆を引っ張ってくれる頼れるリーダーって事ですよ」

 

 花を咲かせるように満面な笑顔を見せてくれるロイグ。

 ヨイショ一つで機嫌を直してもらえるのならお安い御用でござる。

 

「悪い子ね、ハルト」

「リガルさん程ではありませんよ」

 

 二人して悪党がしそうな笑い方をして誤魔化す。フフ怖。

 組んでいた腕を元の位置に戻し、決心がついたようにこちらに喋りかけてくる。

 

「よし! ハルト君よ! 私は決めたぞ!」

「なんでしょうか?」

「あのジジイについて全てを教えてくれるのならば、私の可愛い孫娘をキミにくれよう!」

「男女間の問題が噴出するような条件はお断りします」

「何故だ! 身内贔屓だが美人で長身でスタイルも抜群だぞ? それとも平たい方が好きなのかね?」

「そういう問答が始まると日が暮れても終わらないからですよ! 単純にこの件については他言無用でお願いしたいだけです!」

「欲の無い人間は信用できんのだが」

「あるから! ちゃんとあるから! 今ここにいる全員に聞かれると危険が及ぶ可能性があるんですよ!」

「ふむ……それならば部屋を用意しよう。そこで私と二人だけであれば教えてくれるか?」

「ちょっと待っておじいちゃん! 私が間に入るわ!」

 

 二転三転とした返答は、ようやく一つの答えに辿り着き、話し合いの場を設ける事ができた。

 

「ししょーの事なら私も知りたいのだ……」

「ごめんね、直ぐには無理だけど、ちゃんと教えるから」

「本当なのだ? 絶対なのだ!」

 

 

 部屋ではロイグのおじいちゃん、ロイグ、私という並びで椅子に座る。

 私一人であれば信用してもらえるか怪しいところではあったけど、隣には心強い味方がいる。

 心を落ち着かせ、話し合いを始めよう。

 

 サブジーはユーハングの人間である可能性が高い事。

 突如として姿を消すにも理由があり、イサオさん達からの再三の協力要請を断り続ける為に姿を暗ましていた。

 だが、最後は協力する気が無いと判断され、命を狙われる事になる。

 最後はイサオさんの手によって撃墜され、機体は谷底へ。

 直接的な生死の確認はされなかったが、撃墜地点等を考慮すると生存は無いと判断される。

 以前、穴の調査をする為にキリエに依頼したアレンから、謎の集団から襲撃を受けて墜落、谷底で死んだふりをして難を逃れたと聞いた。

 サブジーもそうやって死んだふりをする事でイサオさん達の目を誤魔化したのだろうか。そこは本人に聞かなければ分からないが。

 サブジーに関して知っている事はここまで。

 

「なるほど、あのジジイにはそういう過去があったのか」

「イサオの奴は昔から色々と暗躍していたのね」

「そういう事もありましたので、あの仮説が出来上がってしまったわけです」

 

 なるほどね。考えながらも頷くロイグ。

 

「だが気になる事がある。なぜハルト君はここまで知っているのかという事だ」

「人払いをして頂いた理由はそれです。大っぴらにするのは良くないと思いまして」

「つまりだ、君はユーハングから訪れたという認識で良いのだな?」

「その通りです」

「ここへは穴を通じて来たのだろう、だが何故だ? イジツへ来る理由は?」

「おじいちゃん。ハルトは家族を探しにイジツへやってきたのよ」

 

 ちょっとした身の上話。

 もう生きてはいないであろう曾祖叔父のお墓探しの旅。

 ロイグのアジトを探索させて貰った事で、機密文書を手に入れる事ができ、墓所があるとされている箇所については絞り込めた。

 オタカラに関しても仮説を立てる事が出来、一定成果と共に依頼が達成され、私は私の家族を探す為に一旦ラハマへと帰還しようと思っていたのだが。

 

「孫の我儘でここまで連れて来られた訳なのだな」

「我儘を言われた事は否定しませんが、自らの意志で付いてきましたよ」

「何かオネダリされたのか?」

「潤んだ瞳は卑怯だなぁと」

「泣き落としてきたのか! ロイグも立派な女性になったものだな!」

「もう! おじいちゃんも! ハルトも! 揶揄わないでよ!」

 

 ロイグは間に入ってくれてよかった。

 どうしても私の身の上話しをすると、寂しい空気が漂ってしまうからね。

 

「さて、ハルト君。情報提供をしてくれた礼がしたい。なんでも言ってくれたまえ」

「お願いが一つ、私の友人たちにサブジーを会わせるまでの間、逃げ出さないように見張っていて欲しいです」

「それだけでいいのか? ハルト君に対して謝礼も用意出来るぞ?」

 

 お金。とっても大事。あって困る物ではない。

 それでも、ここで受け取るのは何かが違う気がする。

 

「私はここに至るまで様々な人達によって助けられてきました。そのおかげで私の家族が眠る場所もほぼ検討が付きました。一部ではありますが、その人達に対して恩返しが出来そうな事が目の前で起きているのです。私のお願いはただ一つ、彼女たちにサブジーを会わせたい。それだけです」

「ハルト君の言い分はよく分かった。だが、それでは私の気が済まないのだよ。お互いに何か良き落としどころはないかね?」

「一つだけ、提案があります」

「なんだね、言ってみたまえ」

「サブジーが搭乗していた零戦三二型の引き上げをお願いしたいです」

「三二型か、私の格納庫にもあるが、それでは駄目なのだろうな」

「サブジーにも彼女たちにも思い出の詰まった機体です。それにお祖父様も興味が湧く理由があります」

「私が? ハルト君の搭乗してきた震電ならともかく、零戦三二型なら腐る程見て来たのだが」

「サブジーの零戦三二型はユーハング製。イジツ生産の機体ではなくユーハングで生産された機体の可能性があります」

 

 ほぉ、今までとは違う。驚きも含まれた声。

 

「その機体を引き上げ、修理を行い、飛行できる状態にして頂きたい。彼女たちと再び同じ空を飛べるように。こういうのは駄目ですかね?」

 

 腕を組んだままこちらを見つめているロイグのおじいちゃん。

 じっと、二人で目を合わせて動かない。

 ロイグの落ち着かない様子と、時計の針が聞こえる。

 いつまでも続くかと思われた睨み合いとも言える目の合わせあい、それは突如笑い始めたロイグのおじいちゃんによって終わりを告げる。

 

「すまんすまん。こんな馬鹿みたいな話を聞かされたのは随分と久しくてな」

「やはり無理なお願いでしょうか?」

「いや! そういう意味ではないよ。自分の事を二の次にしてまで行動する人間を久しぶりに目の当たりにできて嬉しくてな」

「そうよおじいちゃん! ハルトはいつだって自分よりも友人や仲間達を優先してくれる人なんだから!」

「ロイグも大分、気に入っているようだな。どうだ? 本当に考えんか?」

「私の家族を見つけ出してからにしてください。これを達成させる前にユーハングへ戻った場合は嫁探しに行ったのかと曽祖父に怒られてしまいます」

 

 そうかそうか、楽し気に大笑いのおじいちゃん。

 横目を向ければ私も含めて照れているのを隠し切れないロイグの姿。

 私は家族を、ロイグはラムダとオタカラを、どちらも一息つけないとそういうのは厳しいと思うの。

 

 

「よし! 話がまとまったぞ!」

 

 居間に戻ってきたおじいちゃんに皆の視線が集まる。

 

「私は今からそこで寝てるジジイの機体を回収しに行くぞ! ニッカ君! 探偵団諸君! 手伝いたまえ!」

「ししょーの使ってた機体なのだ!? ついて行くのだ!!」

「それって私たちの力は必要なのかしら?」

「必要だとも! 座標は教えてもらったがな、確定ではないのだ。探偵団の知恵を借りられれば直ぐにでも見つかると思うのだがなぁ」

「し、しょうがないわね! 私たちマヨナカ探偵団の力で機体の一つや二つ見つけだしてあげるわよ!」

「良い様に使われてる気がする」

「よゆーよゆーだよー」

「寝ているジジイも運べるように屠龍で向かうとするか!」

「ちょっと待ちなさい、安静にしておかないと疲れが取れないわよ」

「すまないなカラン君。このジジイからは目を放すなとハルト君からの厳命でな。荒っぽく飛ばないように気を付けるから許してくれたまえ」

「ハルト。何を約束したのかしら、事によってはこの注射、貴方にも刺してもいいのよ?」

 

 注射はやめて! 昔から苦手なの! 

 私に迫ってくるカランさんを尻目に、早々と準備を終えて家から飛び出していくおじいちゃんズ。

 誰か止めてくれる人は!? 周りにいる皆さんに視線を合わせるが誰もが目を背ける! 

 

「大丈夫、チクっとするだけだから」

 

 ……クフフ。その含み笑いと共に注射を打たれたのである。やっぱり注射は痛いのだ……。

 

 

「痛かったよぉ……」

 

 ただの栄養剤と言われたが、痛いものは痛いのである。サブジーにも打ち込んでいたらしいので、今頃は悪態をつけるぐらいに体調が回復しているだろう。

 夜の帳が下り、辺りは既に暗闇、だけど空に浮かぶ大きなお月様のおかげでそこまでの暗さは感じない。

 モアさんの手料理を美味しく頂き、各自用意された部屋で明日に向けて寝るだけ。

 だが、中々寝付けなくて部屋を出て広間に行こうとしていたら、素敵なバルコニーを発見。

 お邪魔させてもらう事にして、椅子に腰掛けて月を見つめている。

 イジツの空に浮かぶ月はいつだってタヌキの姿。ウサギさんはどこへ行ったのだろうね。

 

「あら、ハルト。こんな時間まで起きてたの?」

「ロイグさんこそ、どうしたんですか? こんな時間まで」

「部屋で調べ物をしていたのよ。帰省した時でもなければ確認出来ない事もあってね。お隣、いいかしら?」

「どうぞどうぞ」

 

 二人して空を見上げ、月を見つめる。

 

「雲一つない夜空ね」

「本当に。月光浴は精神を落ち着かせると聞きますよ」

「そうなの? 私がこうして落ち着いていられるのは他の理由があると思うんだけどな~」

 

 何度目だろうか、ロイグに頬を弄ばれるのは。

 手で触れ合いう事が出来る距離で横並びになるように座り、ふたりぼっちの反省会と明日から始まる夜明けの鷹の子孫たちを探す事について。

 私はここでお留守番の予定。怪盗としての能力も無いし、空戦が発生しても何も出来ない。

 それならばと、ロイグの提案もあり、部屋にある小説を眺めて皆を待つ事にした。久しぶりの読書に胸が高まる。

 防犯上、この家を空けておく訳にもいかないという理由もあるけどね。

 月明りを含めてた夜に目が慣れてきたおかげで、周囲が良く見渡せる事ができるようになった。

 勿論、隣にいるロイグも含めて。月明りで照らされた彼女はとても綺麗で見惚れてしまう。

 それに気づいたロイグがイタズラ心満載の顔でじゃれ付いてきたり。

 僅かな時間だけど、心休まる貴重な時間。私が隙だらけの時に必ず現れるお二人さん。

 

 アレシマで間違えて書いた最初の手紙もあながち間違いではないのだろうか。

 

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