あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その15

 アカツキの皆さんは三つの班に分かれ、夜明けの鷹の子孫を探しに向かう為の打ち合わせをしている。

 その様子を目に映した後、昨日の夜、ロイグから借り受けた一冊の小説を読み始めた。

 イジツ語に翻訳されたユーハングの小説。ロイグはこの中のどれかを見て怪盗を目指したと言っていた。

 この空き時間に怪盗を始めたきっかけとなる小説を読めればいいなと、その時は考えていた。

 

「ハルトさん。一人になるからといってご飯を抜いたりしてはいけませんよ」

「あい、気を付けます」

「毎日、きちんとお風呂に入って着替えをして身なりに気を付けてくださいね」

「あい、善処します」

「善処じゃダメです! 帰ってきた時に出来ていなかったら怒りますよ!」

「はいぃ! すみません!」

 

 曖昧な返事で誤魔化そうとしていたが、あっさりと看破されてモアさんに怒られてしまった。

 

「今日のお説教対象はハルトか」

「心配する対象が増えて大変ね、モアママも」

 

 お家でだらだらと夢の読書タイムでも、モアさんからの良く出来ましたのハンコを頂かなければ雷が落とされてしまう。

 日常では目覚ましぐらいしか使っていなかったスマホのアラート機能をフル活用して、必ず朝は起きて朝食を忘れずに食べなければ、モアさんお手製スタンプカードにハンコを押してもらえない。

 そんな夏休みのラジオ体操のような事を考えていると、どこからか飛行機のエンジン音が複数聞こえる。

 

「おじいちゃん達、帰ってきたのかしら?」

「その割には早くない? 昨日の今日よ」

「忘れモンでもしたんじゃないのか?」

「……んー? 確かに屠龍のエンジン音も聞こえるのだ。でも他の機体……疾風のエンジン音も聞こえるのだ!!」

「まさか! ラムダ達にこの場所を知られた!?」

 

 その問いかけに誰が答える隙もなく、荒く扉が開かれた。

 突入してきたのは覆面姿で武装した人が数名。銃をこちらに向けている。

 

「貴方たち! 一体何者なの!?」

「答える義理はない。我々の用事は貴様たちではない、震電とそのパイロットだ」

 

 こちらにやってくる一人の覆面。体格の良さから男性だと思われるが……。

 私の事など気にも留めず、両手足を縛り上げられてさるぐつわを付けられる。

 

「んんー!!」

「ハルトに手荒な真似はしないでちょうだい!!」

「動くな、女。我々に関わらなければこれ以上の事はしない」

「すまんな小僧。儂らに付き合ってもらうぞ」

「団長、震電の確保に成功したとの報告が」

「よし、長居は無用だ。引き上げるぞ!」

 

 口調からして私を担ぎ上げている人は年配の方なのだろう。だがそういった気配は一切感じさせない程、力強い。

 身体をよじらせてみたものの、振り落とされる事すら叶わない。

 

「先程も言った通りだ。これ以上、我々に関わらなければ貴様たちには何もしない。我々の邪魔立てをしなければな」

 

 団長と呼ばれる人が発煙筒を投げつける、部屋は煙で覆われ、その隙に私は部屋から運び出され屠龍の後部座席に無造作に放り込まれる。

 顔を上げた時に見えた、空に映る機体は紛れもなく私の震電であった。

 

 

「ちょっと何なのよ、もう!!」

 

 ハルトが正体不明の奴等に攫われてからまだ僅かな時間。

 それにも関わらず既に奴ら全員は空の上。手際が良すぎる。

 

「アイツ! 何者かに狙われるような事をしていたか!?」

「ハルトを、というよりも震電を狙ったように見えたわね」

「大変です! 早く助けにいかないと!」

「無理よ。奴等は既に空の上、むやみに追いかけようとしても姿さえ見つけられないわ」

「じゃあどうしろっていうんだよ! このまま放っておくわけにはいかないだろ!?」

「みんな落ち着いて!!」

 

 私の大きな声が周囲に響き渡る。

 

「誰がハルトを攫ったのかを考えるよりも、まず相手はどこに向かったのかを確認しないと」

「それに関してならベッグにお任せなのだ! 機体を弄らせて貰った時に、内緒で震電に発信機を取り付けておいたのだ! 持ち物には自分の名前を記入しておくのは基本なのだ!」

「色々と問いたいところだけど……。ともかく発信機を受信するのに特別な機材は必要なの?」

「そんな面倒な物はいらないのだ! 無線の周波数を合わせれば、近くを飛行すると発信機から発せられる電波を受信して音が鳴る仕組みなのだ!」

「ベッグ!!」

「ぐえぁー、ぐるしいのだぁー!!」

 

 加減もせずに抱きしめてしまったせいで呼吸が出来なかったようだ。

 

「だとしてもだ、アタシ達だけで見つけられるものなのか? 人海戦術で探すとしても人手が足らなすぎるぞ」

「確かにね、そこで一つ提案があるわ。けどこれを行うと私たちが怪盗団アカツキである事がバレる可能性が非常に高いの」

「……最後まで聞いてみないと判断はできないわ」

 

 地面に落ちていたハルトの手帳を拾い、中を開く。

 ハルトらしい整理された文章の中にいくつかの連絡先が書かれている。私でも読める文字で。

 

「ハルトが託してくれた手帳にオウニ商会も含めた連絡先が書かれているわ。片っ端から連絡をいれて協力をしてもらうのよ」

「オウニ商会つーと、コトブキか! 確かにハルトの事情に関しても良く知っている相手だな」

「あそこのマダムは例えどのような状況下であっても依頼としてなら引き受けてくれるでしょうけど……報酬はきっちり請求してくる人よ。素直に応じてくれるかしら」

「金銭で応じてくれるなら、ハルトが見つけたくれたアジトのオタカラでも売り払いましょ!」

「手早くお金を集めるならそれしかないわね」

「最後に、みんなに確認の為に聞くわ」

 

 周囲は静まり返る。これは確認をしなければならない事。怪盗団アカツキとして。

 

「私はハルトを取り戻したい! ハルトをこのままになんか絶対にしておけない! ハルトは私たちの仲間だから! 取り戻す為にみんなの力が必要なの!」

「今更愚問ね、ハルトは私と美しい物を共有できる唯一の人間よ。このままにしておくわけがないじゃない」

「ベッグに震電を弄らせてくれた恩があるのだ! ハルトを救出してもっともーっと震電を弄らせてもらうのだ!」

「アタシも決めてあるぞ。まったく世話のかかる弟が一人増えたみたいなやつだな、アイツは」

「ハルトさんにはまだまだ料理のレシピを教えてもらいたいです! 作った料理を一杯食べて欲しいです!」

「……私? まぁ教えて貰いたい事は山ほどあるけど、こういうときはコインで決めるのが私たちの流儀じゃなかった?」

 

 ポケットから一枚のコインを取り出す。このコインも思い出深い物になっている。

 

「なんだか久しぶりですね。コインで決めるのも」

「それだけ選択に迫られるような事も無く平和だったって事よ」

「確かにな、んじゃさっさと決めようぜ!」

「表が出たら乗る、裏が出たら降りる。みんな決めて頂戴」

「そんなもの、言うまでもないわよ」

 

 せーのっ! 

 

『表!!』

 

 

 ここは一体どこだろう。訳も分からず拘束されたまま屠龍に積み込まれてそれなりの時間が経過した。

 横を向くと誰かの操縦で震電が飛んでいる。

 それ以外にいくつもの機体が編隊を組んで飛行をしている。残念な事に私には機種までは分からない。

 

「どうした? 気になるものでもあったか? 小僧」

「ふゃふぇふぇふぁふぇん」

「そうだったな、喋れる訳がないな。もうしばらくだ、我慢してくれ」

『翁、任務中の死語は慎め』

「すまんすまん」

 

 私を拘束して屠龍に乗せた老人は翁と呼ばれているようだ。

 

『団長、三時方向に機体が見える』

『こちらに向かってきているか?』

『いや、方角は変わらずだ』

『ならそのまま低空で基地に向けて飛行を続けろ。全てを手に入れた我々の作戦は短期決戦だ。支障はない」

『了解』

 

 全てを手に入れた? 震電の事も含まれているのだろうけど、何か引っかかる。

 この人達は一体何者だ? せめてそれが分かれば……。

 何も出来ない状況を受け入れる他なく、彼等の基地までエスコートされていく。

 

 

「燃料と弾薬の補充をしておけ、夜には出るぞ」

 

 団長らしき人の指示で機体から降りてきた人達が作業を始める。

 整備も補充も自分達で行っている。この基地自体は人数が少ないようだ。

 ……問題は目の前に見えている巨大な機体だ。

 あれは富嶽。以前、イサオさんがラハマに向けて送り込んだと言っていた大型の爆撃機。

 本人曰く、デカい! 快適! 言う事なし! の爆撃機と自慢していたのを思い出す。 

 あんな物を用意してこの人達は一体、何をしようとするのだ。

 

「お疲れさん。ほら行くぞ」

 

 同じ屠龍に搭乗していたじーさまにあっさりと担がれて建物内へと連れて行かれる。

 

「団長、連れてきたぞ」

「ご苦労。翁、いつも手間をかけさせるな」

「気にするな。それでこの小僧をどうするつもりなんだ? 震電だけが目的なら連れてこなくてもよかろうに」

「聞いてみたいのだ。あの震電をどこで手に入れたのかを」

「搭乗させてもらったけど、アレは間違いなくイサオ様が使用していた機体よ。本体そのものは大分弄られているけれど、操縦席付近は設計図通りの物だわ」

「ならば、イサオ様と面識があるという事か。もしくは」

 

 腰に備え付けられていた銃を抜き出し、こちらに向けてくる。

 

「何かしらの方法でイサオ様から強奪したかのどちらかだな」

「なんにせよ、さるぐつわを外してやらな喋る事もできんよ」

「舌を噛んで死のうとは思うなよ?」

 

 唯一動かせる頭で了解の意思表示をする。そんな恐ろしい真似は出来ません。

 じーさまの手でさるぐつわが外され、ようやく深呼吸が出来る。

 幾度か繰り返したのち、始まるのは尋問。

 

「貴様に聞く、イサオ様と面識はあるのか」

「あります」

「何時、どこでだ?」

「イケスカの穴からイサオさんが消えた直後。貴方たちで言うところのユーハングです」

 

 歓喜の声が上がる。

 この人達は執事さんが言っていた、所謂イサオ信者と呼ぶ人達だろうか。

 そうであるのならば、スマホに残してあるデータを見せればどうにかなるのでは。

 だがそれを行うにはまず両手を解放してもらわなければならない。

 怖い点が一つ。下手に証拠があると言って、スマホだけを取り上げられた場合。

 扱い方を聞いてくれるならともかく、操作が分からないから知らんで終わらされた日には、私の人生まで終了してしまいそうだ。

 

「イサオ様は生きておられるのだな?」

「腹立たしいぐらいに元気一杯ですよ」

 

 突如、襟首を掴まれて宙に浮く感覚を覚える。慣性に従い揺れる縛られたままの両手足。

 

「口の利き方に気を付けなさい!」

「副長、下したまえ」

「ですが!」

「命令だ、下せ」

 

 苦渋の顔をしながらも、放り捨てるようにして下ろされる。

 バランスが取れるわけもなく盛大に尻もちをついて、尾てい骨の辺りが痛い。

 訂正、少なくとも副長と呼ばれる人には皮肉も通じない。この人がいる限り、話にならない。

 たとえ映像を見せる事が出来たとしても「イサオ様、そんなこと言わない」とか屁理屈こねて破壊するに決まっている。

 じーさまの手によって地べたに座るような体勢に戻される。

 

「小僧を相手にムキになっても仕方あるまい。素直にイサオ様が生きていらした事を喜ぼうじゃないか」

「そうだな、翁の言う通りだ。生きておられるのを信じ続けるのと、確定では心構えが変わるだろう」

「ならば、何故イサオ様は帰還されずに小僧が震電に乗ってきたのだ」

「それは本人に聞いてみなければ分からないな」

 

 再び視線がこちらに集まる。

 覆面を外す事無く目だけがこちらを見つめてくる姿は恐怖を感じるのに十分だ。

 

「問おう、何故貴様が震電に乗ってイジツへとやってきた?」

「イサオさんとはあまり関係の無い話ですよ」

「震電に搭乗してきたというのにか?」

「それはイサオさんのご厚意によるものです」

「では何故、貴様はイケスカに足を運んだ。貴様の行動はアレシマ以降、全て把握している」

「私の探し物を知る為にはイケスカにいらっしゃる執事さんに会うのが一番だと教えて頂いたもので」

 

 銃口が再びこちらに向く。恐怖も抱く反面、実感も湧かない。撃たれれば死ぬのだろうなと。

 あまりに非現実的な状況下のせいで、未だ現実との境目があやふやだ。

 

「とぼけるな! イサオ様の執事とお会いしたならば我々の行動は把握しているだろうが!!」

「何をおっしゃっているのかまったく分かりません」

「この機に及んでしらを切るつもりか! 団長! 時間稼ぎをするような奴を相手にする必要はありません!」

「焦るな副長。計画実行までには猶予がある」

「ですが!」

「副長。お前さんがイサオ様に忠誠を誓っている事は誰も疑わない。だが少し頭に血が上りすぎだ。外の空気でも吸ってこい」

「しかし!」

「しかし、ではない。一度この部屋から出ていけと言っておるのだ」

 

 歯を食いしばり耐える様子の副長。

 

「何か分かり次第、内容は伝える。翁の言う通り、ここは我々に任せたまえ」

「……了解です」

 

 渋々という態度をまったく隠す事なく部屋から出て行く副長。

 男二人が小さくため息を付く。

 

「お前さん、肝が据わっているな」

「恐怖の余り漏らしそうですよ。それでもイサオさんに睨まれた時の方が恐ろしかったですが」

「ほう! イサオ様に睨まれるような事をしでかしたのか! 中々どうして面白い小僧じゃないか!」

「翁。お喋りは控えて頂きたい」

「どうしてだ? 儂は小僧の話に興味が湧いてきたのだが」

「会話を交わして親しみを覚えれば不都合な事も起こるでしょう。そう教えてくださったのは翁ですよ」

「確かにな。だが湧いてしまった好奇心はどうも抑えきれん。それに小僧の話を聞いておかねば後悔しそうでな」

「いつものカン、という奴ですか」

「良く分かっているじゃないか。ならば尋問は儂に任せてはくれぬか?」

「……くれぐれもお気を付けを」

「そちらもな、団長殿」

 

 そして残されたのは翁と呼ばれる老人と私の二人だけ。

 この方であれば対話が出来そうな気配はする。

 会話を聞いている限り、事実上この人が一番上の様にも。

 

「さて、小僧。貴様がイジツにやってきた理由を全て話してもらおうか」

「それなりに長い話になりますよ」

「日が暮れるまでには時間はある。喋ってみ」

 

 初手でイサオさんの話をするべきか、自身の事を喋り会話を重ねてから、あの映像の事を伝えるべきか。

 このじーさまは私に興味を持ってくれたのだ、下手な事はせずに自分の事を喋ろう。

 私の発言のせいで日が暮れる前に何か事を起こされては困るから。

 

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