あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

54 / 100
怪盗団アカツキ その16

『そう、ハルト君が誘拐されたのね』

「申し訳ございません、マダム。依頼申し上げておきながらこのような状況になってしまい」

『こんな事になるだなんて誰にも分かりやしないわよ。それで貴女達はどうするつもりなの?』

「北へ向かって行ったのを頼りに、一度ラハマへ向おうと考えております」

『他に頼れる人はいるのかしら?』

「ハルトが残してくれた連絡先にユーリア議員と……」

『イケスカにいるイサオの執事ね、悩んでいるのなら連絡した方がいいわ』

「何故……でしょうか?」

『敵であれば相手にされない、味方であれば何か教えてくれる可能性も。過度な期待はしない事ね』

「ご助言ありがとうございます。連絡が済み次第、私たちもそちらへ向かいます」

『了解したわ。こちらも依頼の為に出掛けているコトブキに連絡を取り次第、教えていただいた周波数を使って捜索を始めるわ』

「よろしくお願いいたします」

 

 マダムへの連絡を終え、大きく深呼吸。

 あの人はどうも苦手だ。嫌いではないのだが、全てを見透かされているように感じる時がある。

 でも頂いた助言は確かだ。次はユーリア議員に連絡を入れよう。

 もう! こういう時に限って私の身内は誰も側にいてくれないんだからっ! 

 

 

『もう一度、言ってみなさい』

「申し訳ございません。ハルトが何者かに誘拐されました」

 

 何かが軋むような音が受話器を通じて聞こえてくる。

 ユーリア議員のお怒りはごもっともだ。

 お気に入りを、もしかしたらそれ以上の人が攫われたのだから。

 こちらにも聞こえる程の大きなため息。ハルトは何をどうしたらこの方と良好な仲を築き上げたのだろう? 

 

『それで、貴女たちは今、何をしているのかしら』

「オウニ商会のマダムへ連絡を。この後、イケスカにいるイサオの執事に連絡を入れ次第、ラハマに向かう予定です」

『ラハマへ? 何かアテがあるようね。それにあのクソジジイの連絡先なんてよく知っているわね』

「仲間が震電に取り付けていた発信機と逃亡して行く方角が北だった事、ハルトが残してくれた手帳のおかげです」

『救出したら手掛かりを残してくれたハルトに感謝しなさいよ。私もラハマへ向かうわ』

「ユーリア議員もですか!?」

『あら、私がラハマへ向かってはいけないのかしら?』

「いえ、少し驚いてしまっただけです」

『流石に一人身では行かないわよ。親衛隊と傭兵を一人連れて行くわ』

「ナオミさんでしょうか」

『よく知っているわね。ハルトから聞いておいた情報を使わせてもらうわ。そうすれば必ず飛んでくるでしょうからね』

 

 この人は本気だ。あらゆる手を使ってでもハルトを救い出そうと考えている。

 情報というのはサブジーという方の事だろう。伝えるべきだろうか。

 こういう時、ハルトならどうする……? 

 

「ユーリア議員。その情報についてお伝えしておく事があります」

『何かしら。手短に』

「サブジーと呼ばれている方の事でしたら、私の実家で保護されておりました。ハルトも確認済みです」

『……』

 

 しばしの沈黙。

 

『その話。他に誰か知っているのかしら?』

「私の仲間と家族、友人たちのみです。サブジーと直接係わり合いを持つ方々にはまだ」

『ならそのまま黙っていなさい、イケスカのクソジジイには特に』

「了解しました」

『聞き分けの良い子ね。飛行船で貴女たちにハルトの話を聞かせてよかったわ』

 

 意外だ。あのユーリア議員からこのようなお言葉を頂く事になるとは。

 

『事は一刻を争うわ。その件に関してはこちらに任せて。貴女たちも連絡が済み次第、ラハマに向いなさい』

「了解しました。よろしくお願い致します」

『もし、あのクソジジイが関与していたら伝えておいてくれるかしら。絶対に許さない。と』

 

 本日味わった恐怖の中でも一番と言っても過言は無いだろう。

 銃口を向けられるよりも恐ろしい一言。

 ハルト、貴方は本当にどうやってこの方と仲良く出来たの……? 

 

 

『ほぅ、ハルト様が』

「はい、手帳に連絡先が記載されていましたので、事実確認も含めて連絡をさせて頂きました」

『事実確認。我々の犯行ではないかと申し上げたいのですな』

「……はい。犯人が搭乗していた機体は疾風と屠龍。どちらも黒色で統一されており、チームマークも描かれていませんでした」

『ふむ。イサオ様が為された事を知っておられるのならば、疑うのも無理はないですな。しかし大胆不敵ですな、流石は怪盗団アカツキのリーダー。と申し上げるべきか』

「私たちの事を知っているの!?」

『貴女たちが何者であるのか、何を探しているのか、誰と対立をしているのか、存じ上げております』

 

 イジツは未だイサオの手中にあるのか。

 だが主無き今の状況で手綱を引いているのは。

 

『私の事を知りたくば仲間たちと協力して辿り着きなさい。手引きされたオタカラには価値がありませぬからな。夢も、ロマンも』

 

 価値が無い。やはり、何かしらこの人は夜明けの鷹について知っているのだろうか。

 

『あぁ、もう一つ手がございました。ハルト様と恋仲になられては如何でしょう。ハルト様はブユウ商事の次期会長になられる方ですからなぁ』

 

 顔が熱を持ち、急激に赤くなるのが分かる。それと同時にとんでもない情報まで伝えられた。

 

「ハルトがブユウ商事の次期会長?」

『おや、聞いておられませんでしたか。もっとも、社外秘が早々漏れる状況は芳しくありません。ハルト様のご厚意と考えておきましょう』

 

 頭が混乱し始める。あれだけ身近にいたハルトの考えが分からなくなる。

 

『歳を重ねると本来の目的を忘れていけませんな。老婆心ながらもう一つ、空賊共によって奪取された富嶽の内、一機が雲に隠れながらそちらへと向かっていたようです』

「ふ、富嶽ですか! 何のために!?」

『さぁ? イサオ様ですら成功させる事が出来なかった作戦を成し遂げる事で自分達の溜飲を下げるおつもりか。はたまたこれをきっかけに発起するつもりなのでしょうか』

「随分と他人事のように言われますね」

『他人事でございます。ブユウ商事としても、イサオ様が率いていた自由博愛連合としても。主無き今、イサオ様の意志を引き継ぐとお考えの方は腐る程。問題はイサオ様がご存命である事を知らない事でしょうか』

 

 イサオがこの世界からいなくなってから、空賊の襲撃は増加の傾向にある。

 巨悪が存在していたおかげで、小悪党共が鳴りを潜め、一定の平和が保たれていたのは皮肉な話だ。

 

『もしくはハルト様の事ですから、自身を攫った犯人たちに舌先三寸で説得にかかっておられるかもしれません』

「例え相手が誘拐犯であっても、ハルトはうわべだけのうまい言葉で人を騙すような事はしないわ!!」

『……そうでございましたな。良くも悪くも素直な方でありますから。だからこそ、イサオ様もどこか惹かれる部分がおありだったのでしょう』

 

 しみじみ思う事があるのだろう。この人について気になる事は山ほど。だけど今はそれを確認する時ではない。

 

「情報ありがとうございます。私たちはこれよりハルトの捜索を始めます」

『お気をつけて。ハルト様によろしくお伝えください』

 

 富嶽。まさかここで聞く事になるとは。

 でも教えてくださったという事は、今は敵ではないという事? 

 軽く首を振る。それを考えるのは後だ。もう一度、マダムに連絡を入れなければ。

 イサオが富嶽を利用した町は二つ。ショウトとラハマなのだから。

 

 

「ロイグ。用事は済んだかしら」

「遅くなってごめん。連絡出来る所には全て伝えたわ。内容については空で」

「ロイグ! 機体のチームマークはどうするのだ? 前回のように一時的に隠しておくのだ?」

「いいえベッグ。もう隠すような事はしないわ。このマークは私たち怪盗団アカツキを示す大事なマークだから」

「けどよ、ラハマにコトブキやらが集まるんだろ? バレたらヤバくないか?」

「大丈夫。堂々としていれば意外とバレないものよ!」

「念の為に聞くけど、バレたらどうするの?」

「そこは怪盗らしくパーっと逃げ出せばいいのよ! ハルトを救出した後にね!」

「ロイグ……今度は私たちが誘拐犯にされてしまいますよ!」

 

 それはそれで楽しそうな生活が待っている気がする。

 仲間たちと、ハルトと一緒なのだから。

 

 

 ラハマに到着後、向えてくれたのはレオナだった。

 彼女に謝罪する私に対してレオナは。

 

「顔を上げてくれ、こちらから責める理由は一切無いんだ。大切なのはこれからだ。何、ハルトなら無事さ」

 

 そう言って私を軽く抱きしめて背中を優しく叩いてくれた。

 もう……本当に貴女って人は。

 自分だって大変な状況なのに、人を労わる余裕を見せてくれるんだから。

 

 

「みんな集まったな? それでは作戦会議を始める」

「そちらにいらっしゃる方は?」

「私に依頼を申し込んできたお客様よ。守秘義務があるので詳細は教えられないけれど、信用できる方よ」

「……マダムやレオナさんがそう仰るのであれば、了解致しました!」

 

 こちらを向いて姿勢を正し、正面から見つめてくる。

 イヅルマ特有の真っ白な自警団の制服に身を包み、赤髪でやや小柄な体格。クリソベリルキャッツアイによく似たその瞳からは、思いやりの気持ちが伝わってくる程、純粋な金眼。

 

「カナリア自警団、団長のアコと申します! ロイグさん、よろしくお願いします!」

「よろしくね、アコ。それとありがとう。自警団の方と聞いていたからびっくりしちゃって」

「気になさらないでください。私の率いている自警団は他と違って色々とありますので……」

 

 遠い眼差しを始めるアコの姿。あちらはあちらで問題が山積みのようね。

 

「自己紹介は済んだかしら?」

「申し訳ございません! ユーリア議員!」

「そんなに怯えなくてもいいじゃない」

「そういう貴女も、少しはそのおっかない気配を押さえなさい」

「眉間に皺を寄せた恐ろしい女でごめんなさいね、ルゥルゥ」

 

 少し不貞腐れるユーリア議員の姿に肩を上げるように呼吸をするマダム。

 視線をレオナに向けて、話を進めるように指示を出す。

 

「現状を確認する。誘拐された人物の名はハルト。犯人は機種や色、手口からみて元自由博愛連合の人間である可能性が高い。それを裏付けるように提供された情報の一つに富嶽の存在が確認された」

「初代羽衣丸を占拠した奴等かしら? 忌々しいわね」

「これらの情報とハルトを攫った際に放った言葉の内容から推測するにあたり、奴等の目的の一つは富嶽によるラハマ爆撃の可能性が浮上してきた」

「一度ならず二度も、それも今度は一機で行おうとしているのだから、余程自分たちの実力に自信があるのか、ただの大馬鹿野郎のどちらかよ」

「我々に出来る事は一つ。犯人が計画を実行する前に襲撃し、富嶽の破壊とハルトの救出を行う事である」

「あの、質問よろしいでしょうか?」

「どうした、アコ」

「震電に取り付けられたという発信機を元に犯人の居場所を特定し、富嶽を破壊するまでは分かります。ですが誘拐されたハルトさんを救出する方法は……?」

「それについては私たちに任せてくれないかしら?」

「ロイグさん達がですか? でもどうやって?」

「勿論、みんなの力添えは必要よ。協力して貰えるならハルトの救出に関しては任せて頂戴」

「随分と自信があるようだが……」

 

 空中戦に関していえばコトブキに任せた方が適任だろう。

 私たちだって負ける気はしないけれど、ここは役割分担が必要な大事な場面。

 

「職業柄、潜入捜査はお手のものよ!」

 




今週中に終わるよ。てい。
皆様の脳内補完とご指摘によって成り立っている本作ですが、もう少しだけお付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。