「ロイグたちの能力に疑いを持つ訳ではないけれど、どうやって潜入するつもりなのだい?」
「これを見て頂戴。ハルトが私たちのアジトから見つけ出して解読してくれた地図よ」
アジトから発掘されたユーハングの機密文書。そこにハルトが私にも分かる様に解読してくれた紙と手帳を並べる。
アレンはとても嬉しそうにそれらを隅々まで眺める。
「素晴らしい資料だね。イジツにユーハングが居た頃に作成された地図か。落ち着いたら是非とも僕にも見せてもらいたいよ」
「無事に済んだらね! 犯人が北へ逃げて行った事、地図上でラハマから北に、イヅルマからは西の方角にユーハングの訓練施設がある事が分かったの」
「そこへ富嶽が加われば、着陸できる地点としても必然的にこの訓練施設に奴等が居る事になる可能性は十分ありえそうだね」
「でしたら私の団員たちから連絡が来るのも時間の問題かもしれません! そちらの方角にも捜索隊を派遣してありますから!」
「それで、潜入はどうするんだい? 囮を用意してそちらに意識が向いている間に、近くに着陸でもして入り込むのかい?」
「半分正解で半分間違いね」
「ほぉ、答えを聞いても?」
「勿論! これから日が沈み夜になるでしょ? 真っ暗な荒野に着陸するのは危険だし、だからと言って救助を諦めるつもりは無い。そう考えながら地図を眺めていたら答えが目の前にあったのよ!」
敵がいるであろう訓練施設に指を指す。
「訓練施設、そういえばここは何の訓練をする場所なんだろうね」
「その答えは手帳に書かれていたわ!」
「へぇ、何をしようとしているんだい?」
「パラシュートを装備して機体から飛び降りる、空挺降下と呼ばれる行動よ!」
「団長~、本当に私たちはみなさんのお手伝いをしなくていいんですか?」
「残念ですがイヅルマとラハマ間の協定はまだ協議の途中です。両町の協定に正式な辞令が発令されていない以上は私たちに出来る事はこれが限界です」
「リッタ、アコの言う通りよ。私たちに出来るのはここまで。後はあちらさんを信じるしかないわ」
「シノさんの言う通りです! リッタさんのおかげで震電と基地を見つける事が出来たのですから、大戦果ですよ!」
「そうですか? 団長に褒めてもらえると嬉しいです!」
「さぁ帰還しますよ! 私たちの仕事はまだ他にも沢山ありますからね!」
皆さん、ご無事で!
「相変わらず、私たちは置いてきぼりね」
「仕方ないじゃない。私たちが出しゃばるような真似をしたところであの子たちの邪魔になるだけよ」
「……それでも歯がゆいわ」
軽く爪を噛むユーリア。その癖は止めなさいと伝えて以来、久しく見る仕草。
待つという行為。それはとても不安で、じれったくて、今すぐにでも加勢してあげたいところだけど、それは叶わぬ事。
世代交代。私たちはもう戦闘機に搭乗して物事を解決する立場では無い。
その代わり、あの子たちが帰ってくる場所を精一杯守り通すのみ。
「夕日に去っていった者は、朝日と共に帰ってくるという」
「何よ、それ」
「ストレンジリアルから始まる伝承みたいなモノよ」
呆れるように建物へ戻っていくユーリア。
その先にはいつもの姿で待ち構えているアレン。あの姿も時期に見れなくなるのでしょうね。
気を付けていってらっしゃい。私の小鳥ちゃんたち。
「カラン! 富嶽からの対空射撃が凄いのだ! 安易に近寄れないのだ!」
「別に近寄る理由なんてないわよ。私たちは囮なのだから」
「そうは言うけれど一撃ぐらいお見舞いしてやりたいのだ!」
「無茶しないの。一部の敵は既に私たちを追い回しているのだから、ここで落ちたらロイグとリガルに迷惑がかかるわよ」
「うぅ! 我慢するのだ!」
「いい子いい子」
この間に、コトブキに向けて無線を入れる。
敵基地に三時の方角を頭にして富嶽が駐機。上部に備え付けられている機銃から攻撃を受けている。
駐機場にいる疾風と震電らしき機体が可動をし始め、空へ上がるのも時間の問題。
富嶽に関しては機銃掃射以外の動きは無し。直ぐには動けない模様。
モアは大丈夫かしら。これだけ派手に機銃の音が聞こえていれば、もう一人のモアが表に出てきそうなものだけど。
「各員、聞いての通りだ。敵基地では富嶽による対空射撃が始まった」
「それって囮に引っかかったって事?」
「あぁ、二人が敵偵察部隊を撒きつつ現状を報告してくれている。大した奴等だよ」
「後はロイグとリガルが基地に潜入して、ハルト君の救出と可能であれば富嶽の動きを止められればいいのかしら?」
その時、深い溜息が聞こえる。
「アタシとしてはまどろっこしい事をしてないでさっさと撃ち落したいんだけれど」
「そんな事をしたらサブジーの情報が聞けなくなっちゃうよ、ナオミぃ」
「ユーリア議員から聞いてすっ飛んできたものの、報酬の対価はジジイが撃墜された場所を教えるだけ。割に合わない気がしてきたわ」
「それでも……。操縦席にサブジーが居れば諦めも付くし、居なければ可能性だって」
「……そうね。私とした事が気が立っていたわ。ごめんねキリエ」
「ううん! ホラ! きっと大丈夫だよ! ハルトを救出する事が出来れば何か新しい情報だってあるかもしれないし!」
「前向きねぇ。でも今はそれが必要かもしれないわ」
「だってハルトだもん! いつもおかしな行動ばっかり取っているけれど、みんなの事を最優先で考えてくれる人だし!」
「レオナ、今の内に相談が」
「どうしたケイト、出来れば手短に。ここの渓谷は狭くて操縦に思考が」
「震電の相手をケイトに任せてもらえないだろうか」
「震電を? なにか勝算が?」
「ハルトにお願いして飛行試験をさせてもらった際に、震電の得意分野、苦手分野を把握した。相手が震電に搭乗してきた場合、それらの情報を駆使して相手が機体に慣れさせる前に撃ち落とす」
「なるほど、だがいいのか? ケイトが震電を撃ち落とすのは色々と思う所があるのでは?」
「ハルトが言っていた。大切な機体である事は確かだが、命の方が言うまでもなく大切だと。ケイトは早急に震電という不確定要素を排除し、隊の安全を少しでも上げたいと考えている」
「……そうか。了解した。エンマ」
「ケイトの援護ですわね。いつも通りですわ、お任せあれ」
「エンマ、ありがとう」
「あら珍しい。雪でも降るのかしら」
「イジツに雪は降らない」
「分かりませんこと、穴から人がやってくる時代ですもの」
「ロイグ、準備はよろしいですか?」
「モアこそ、機銃の音が聞こえてきたけどまだ平気なの?」
「この距離でしたらまだ大丈夫みたいです」
「リガルー準備できたかー?」
「ちょっと! モアみたいに心配事の一つや二つ無いのかしら!?」
「あーリガルなら大丈夫。きっと成功するわー」
「今ここでカラン特製の催涙剤を使うわよ?」
「やめろ! 洒落になってねぇから!」
「そろそろ降下地点ですよ! 気を引き締めてください!」
ほれみろ怒られた。誰のせいよ誰の。
後部ハッチを空けて下を覗く。こういった理由で外へ飛び出すのは初めてだ。
「ロイグ、準備はできたかしら?」
「リガルこそ! その頭に付けているゴーグルが飾りじゃない事を証明してよね!」
「貴女はそのバカみたいにデカいモノをちゃんと収めてから飛び降りるのよ!」
「わ、分かっているわよ! もう! それじゃ行ってくるね! モア! レンジ!」
「二人ともお気をつけて」
「さっさとハルトを連れ戻してこいよ!」
意を決して機体から飛び出す。両手足を広げて身体を安定させ、機体に干渉しない距離になったらパラシュートを開く。
私たちを乗せていた二機は、少しでも私たちが降下している事を敵にバレないよう、進路を変えながらベッグとカランに合流しようとしている。
もうすぐ着陸、下手に足を付けて着陸をするとそれだけで足が折れてしまう。
ハルトの手帳には、足を軽く曲げたまま横に跳ねるようにして転がれば比較的安全に着陸が出来ると書かれていた。文章の後にハテナが付いていたのがちょっと怖かったけど。
私たちの目の前には既に地面が見える。ハルトを信じて今降り立つ!
地面に足が着く感覚、それを正面から受け止めず、流す様にして対処する。
重力に従い降りてきた身体にズレが生じる。そして荒野の土埃を巻き上げるようにして私の身体が転がる。
しばらくして勢いは収まり、身体に異常が無いかを確認する。一通り動かしてみたが痛みもなく問題ないようだ。
リガルは? 見回すと私と同じように身体が土埃で汚れている。でも怪我はなさそうだ。
「もう! 美しい私が埃まみれじゃない!」
「怪我無く降りれただけいいじゃない! 風の流れも穏やかだったおかげで、ほら!」
私が指を向けた先には訓練施設があり、上部に通気路は見えるが窓らしき物はこちらには配置されてない。
パラシュートを外し、警戒をしつつ建物裏へと辿り着く事が出来た。
目の前には疾風と屠龍が何機か、内部にはまだ何人か残っているのだろうか……?
上空に向けて機銃掃射をしている富嶽も見える。
「リガル、本当に貴女に頼んでいいの?」
「あら、心配なら今すぐにでも役割を変えてもいいのよ。私がハルトを助けに行くわ!」
「ダメっ! ちゃんとくじ引きで決めたでしょ! お願いね、リガル」
「はいはい。そっちも必ず成功させなさいよ。コトブキが来る前に終わらせてくるわ」
手をひらひらと動かしながらも機敏に富嶽へと近づいていくリガル。
私は私の仕事をこなさなければ。
もう少しだけ我慢してね、ハルト。
「続々と機体が空へ上がってくるのだ! ロイグ達はまだなのだ!?」
「流石に危ないわね、せめて」
「カラン! 横から来ているのだ!」
「なっ!?」
このままでは疾風の機銃からは避けきれない。
被弾して落とされるのはまだしも、横からでは下手をすれば操縦席に。
「ぅぅうおおおーっ!!」
相手の機銃が火を噴く前に敵機を落としていく一機、モアの鍾馗だ。
「なにチンタラ飛んでんだよ!!」
「あ、はい、すみません」
「二人とも無事だったのだ!? 予定通りロイグ達を落としてきたのだ?」
「おかげで機体が軽くなったぜ。リガルの奴、尻がデカくて重いんだよ!」
「助かったわ、モア」
「そんな事よりも敵の偵察部隊ぐらいは叩き落してもいいんだろ? コトブキに全部持っていかれるのも癪じゃねぇか!」
「でも今回の私たちの役割は囮よ、あくまで状況確認をしてコトブキに伝えるのが役目よ」
「それで撃墜されかけた奴、手をあげろ」
「はい、私です。すみません」
「富嶽からカランお手製の催涙剤の色が見え、機銃掃射が止まったら成功! それがダメならコトブキが富嶽に損傷を与えた後に敵を全機撃墜だ!」
「うっし! 手始めに女の尻をいじらしく追いかけ回してくる偵察部隊を落とすぜ!」
「……女?」
「れっきとした女だよ! カランの母親みたいな言い方止めろよ!」
派手に機銃をぶっ放しているわねぇ。
おかげで音に気を付けなくても簡単に近づけてしまったわ。
搭乗口が開いている。まだ誰かが乗り込もうとしているのかしら。周囲に気を付けないとね。
再びゴーグルを身に着け、鼻と口を囲うように布を巻く。
現在、富嶽には操縦席に二名、レーダー担当かしら、一名に機銃を下品にぶっ放している奴が二人。
出し惜しみは厳禁ね。カランから預かってきた二つを全て使い切って一度で終わらせてしまいましょう。
そうしないとコトブキに富嶽ごと吹き飛ばされちゃうわ。
ピンを抜き、一つは操縦席に向けて放り投げる、もう一つは腹の真ん中辺りから機銃掃射している奴に向けて。
中から慌てるような声と共に、催涙剤が発生した音が聞こえる。
わざわざ夜でも視認しやすいようにと色付きにするんだから、薬剤調合が趣味なのも考えものね。
一息入れてから機内に突入する。目を押さえて苦しそうにしている奴等がゴロゴロといるが、容赦なく顔を踏みつけて気絶させていく。
上部の敵は全て排除。あとは腹の真ん中。慎重に身を隠しながら進むと、しゃがみ込むようにして辺りを見回している奴が一人いた。
危ない。素直に行ったら撃たれるところだったわ。
でも残念ね、そんなにうろちょろと不安げに周りを見渡していたら、美しい私を見つけ出す事はできないわよ。
こちらに向いていた視線が外れた時に、色付きの煙を利用して即座に近寄る。
相手も反応するが、遅い。手を掴み背中に回して捻り、顔面を機体にぶつけて気絶させる。
ふぅ。これで富嶽は無効化されたかしら。後はこいつらを一か所に集めて物騒な物を没収すれば問題ないでしょ。
さっさと終わらせて、ハルトを助けに行かなくちゃいけないんだから。