『コトブキ! 聞こえるか!? 富嶽が噴火した!! 繰り返す、富嶽が噴火した!!』
「了解した! 後は我々に任せてくれ!」
噴火。すなわち潜入したリガルが富嶽の機能を停止させた事を意味する。
これでこちらが気を付ける点は施設に損害を与えない事。そしてあの疾風を撃ち落とすだけだ。
「全員聞こえたな! 次は我々の出番だ!」
「今回は空に護衛対象はいないわ、地上にいるハルト君はロイグに任せて全力で行くわよ!」
「やっとかぁ! 前回はうやむやにされた勝負だけど、今回は負けないからね!」
「私とタイマン張って逃げ切れるかな!?」
「ケイトは震電を撃墜した後に合流する」
「それまで皆さま、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
「コトブキ飛行隊! 一機入魂!」
『はい!!』
「元気一杯ね。そういうとこ、羨ましいわ」
コトブキとナオミが渓谷から抜け出し、機体の高度を上げていく。
視線に入った富嶽からの対空射撃は無し。リガルのおかげで目の前の敵に集中できる。
敵偵察部隊は三機、本体は離陸したての機体も含めれば十一機。震電を除けば全て黒塗りの疾風か。
ならば、狙うならまずは。
「悪いけど、一番槍は頂くわよ!」
我々の後方にいたナオミが機体を一気に加速させ、離陸したばかりの疾風に狙いを付ける。
奇襲に成功した我々を止められる敵はいない。
偵察部隊と一部先行した部隊はロイグの仲間たちによって距離が離されている状態の為、援護も間に合わない。
ナオミの正確無比な射撃により、最後尾にいた疾風が一機撃墜される。
「星一つ!」
「あーーーっ! それ! 私の役目だ! 最近ようやく電光石火のチカって二つ名が広まってきたばかりなのに!」
「あらごめんなさいね、一人で傭兵活動しているとチンタラ飛んでられないものでね」
「くぅぅぅ!! キリエ! ナオミよりも絶対に多く落とすぞ!」
「りょうかーい! ナオミにばかり良い格好させられないかんね!」
「敵本隊がこちらに向けて反転を始めた! 体勢が整う前に一機でも多く落とすぞ!」
隼一型の高度上昇力と疾風の旋回能力、どちらが上回るか!?
相手の内、二機がこちらの射程圏内よりも早く体勢を整え、こちらに機体を向ける。
その内の一機は……震電か!
「あの機体でここまで早く旋回出来るのか!?」
「憎たらしいけど良い腕してるって事ね。隊長機かしら?」
「部隊から離れた震電を落とすのは今が好機」
「疾風は私とザラ! 震電はケイトとエンマ! 後から追いついてくる本隊をキリエ、チカ、ナオミで足止めを!」
「レオナー? 別に落としても構わないんでしょ?」
「勿論だ、遊撃として好きに暴れてくれ!」
「さっすがー! 話しが分かる人って私大好きよ! キリエ! チカ! 私のケツを死ぬ気で追いかけて来なさいよ!」
「なんでナオミから命令されなきゃいけないんだよ! キリエもなんか言えー!」
「言葉遣いが下品だよ、ナオミぃ」
「そういう問題じゃないだろ!!」
私と正面から向き合うように疾風が降下してくる。
射程圏内に疾風を補足する。射撃を開始するがエルロンロールで綺麗に躱される。
機体横を通り過ぎ、後方からザラの射撃も開始されるがそちらも尾翼操作だけで避けきる。
あれだけの操縦技術にも関わらず、交差する際にこちらに発砲する意思が無い。どういう事だ?
考える暇も無く次の攻撃姿勢に入る為に旋回を始める。
例え疾風とは馬力の差があろうとも、旋回性と機体の軽さでは隼が上だ。
だが疾風も自身の機体性能を生かしてピッチアップによる百八十度ループ、再び正面からの一騎打ち。これではキリがない!
「ザラ! 私が囮になる! 相手が旋回に入った隙を突いてくれ!」
「了解! だけど無理は禁物よ!」
「相手がどういう意図があって攻撃をしてこないのかは知らないが、チャンスがある内にカタを付けるぞ!」
先程と違う点はお互いに水平飛行の状態で正面から攻撃を行おうとしている事だ。
再びこちらからの射撃を試みるが、掠りもしない! おまけに相手は前回同様、発砲もせず、再び機体同士が交差する。
急旋回を行いザラの援護体勢に入る。先ほどの繰り返しのように疾風の狙いが私からザラへと変化した。
「ザラ! 気を付けろ!」
正面からの一撃離脱戦。ザラの射撃が開始されるが再び回避される。
疾風からしても絶好の機会であるにも拘わらず発砲をしない。
一体どういう事なんだ。思考を張り巡らせる前に無線機から疾風に搭乗しているパイロットの声が聞こえる。
『これが噂に名高いコトブキかね』
「貴様! 何故攻撃を行わない!!」
『失礼、こちらにも都合があってな。しかし隼でよくぞここまで』
「機体性能を言い訳にするつもりはない!」
『だが実際に、疾風による一撃離脱戦を取られてはお得意の格闘戦には持ち込めまい。このまま上にいる儂の部隊が合流すれば、君たちは羽をもぎ取られていく鳥にしかならん』
その言葉の直後、上空から爆発音が聞こえる。
一機の戦闘機が被弾、徐々に高度を落として行くのが見えた。あれは敵の疾風!
『生きとるか? 脱出しろ。命令だ』
その言葉に答えるように疾風のパイロットが機体から脱出し、パラシュートを展開させる。
羽衣丸を占拠した奴等とは違う? あいつ等は自分の命を賭けてまでイサオの命令を遂行させようとしていたが、これではまるで。
『先程の言葉は訂正しよう。やはり君たちはここで落としておくべき存在だ。小僧に恨まれようがな』
「小僧? ハルトの事か!? お前たちは一体何を!?」
言葉を交わすよりも先に、三度目の正面からの一撃離脱。
今度は相手の発言通り、私たちを撃ち落とす為に射撃をしてきた。
こちらは射撃体勢が整わず回避に専念するのが精一杯だ。
ザラが射撃を試みたが当てる事は叶わなかった。
一体どうすれば!
『知りたくば、我々を撃ち落とした後に直接聞いてみろ。下で団長と小僧が話し合いをしているからな』
四度目、相手は再び私たちよりも高度のある位置から下りてくる。
対策を考えねばジリ貧だ。この敵に地形を利用した戦法が通じるだろうか?
眼前に現われる疾風。射撃に備えるが一つの違和感に気づくのが遅れた。
降下してくる疾風の機体が先程までのような速度を出ていない。まさか!
こちらの射撃を物ともせず錐揉み状態になりながら私を追い越してザラの真上さえも通り過ぎる機動に出る。
疾風から放たれた機銃がザラ機の主翼を撃ち抜く。
「ザラっ!!」
これまでの正面からの一撃離脱はこの為か! 自分の優位性を崩してまでの賭けをしてまで!
『騙したようですまんな。元は零戦乗りの儂からすれば、一撃離脱よりもこちらの方が性に合っておるわ』
被弾したザラは機体を水平に保つ事に成功し地上へと不時着。最悪の事態は回避できたか!
相手の無茶な機動のおかげで後ろに付く事は出来た。
だが未だ攻略法が思いつかない。最後の手段としてはイケスカの執事に行ったあの方法か……。
後ろを取られたというのにも関わらず、悠々自適と飛んでいる疾風が腹立たしい!
「まったくなんですの! すれ違い様に射撃を行うだけの戦法を取り続けるだなんて!」
「機体の特徴からすれば合理的。本来であれば疾風で行うはずの機動をそのまま利用している模様。イサオの操縦が歪であっただけ」
「それについては同意しますわ! そのイサオに被弾させたケイトからは何か妙案はございませんこと!?」
「ある。だがそれには準備と相手を信じる事が必要」
「信じるですって? このダニ共を!?」
「ケイトも空賊は嫌い。このような事を起こした奴等も嫌い。だが震電を落とすにはこの方法しか浮かばない」
「っ! それで何をなさるおつもりで」
エンマが最後まで言葉を発する前に、戦闘機から煙を出しているのが見える。
「あれはザラ! 大丈夫ですこと!?」
『私は大丈夫だから! あの疾風は危険よ! 誰かレオナの援護を……』
「ザラ! ……もう! ケイト! 貴女の事を信じていますよ!」
「了解した。ケイトはエンマの真後ろを飛ぶ、エンマはこちらを意識せずにいつも通り飛行を」
「分かりましたわ! 私に向けられた弾に当たらないようにお気をつけあそばせ!」
二人だけの編隊飛行。相手からエンマ機と重なる様に見えるよう位置に付く。
これまでのエンマの射撃、回避行動。相手の震電からの射撃、回避行動。
僅かな回数ではあるが、次に行うであろう行動を計算に入れる。
エンマであれば、あの震電であれば、どちらに当てるつもりで射撃行動を行うのか、それを回避する為にどちらへと操縦桿を倒すのか。
震電に搭乗している相手の徹底された戦闘技術。それを信じるしかない方法。それを行おうとしているケイト。
今後はアレンのする事について何かを言えなくなる気がした。
この考えが浮かび、行動に移そうとしているケイトは、アレンの妹なのだと思い知ったから。
「攻撃! 来ますわよ!」
再び震電と正面から対峙するケイト達。
ハルトの機体、ケイトも搭乗させてもらえた、思い出のある機体。
それを今から落とす。思い出も大切だが、今はもっと大事。
ハルトなら笑って許してくれる。ケイトはハルトを信じているから。
エンマが震電に対して、震電がエンマに対して射撃を行い、回避行動に移る。
今まで見て来た行動と、これから行う回避行動、それらを予測するならば……。
震電が回避するであろう方向に機体を向ける為、操縦桿を倒し、相手の姿を待つ。
「ケイト!!」
見えた。震電を至近距離で捉える。射線軸からは僅かに外れているが、問題ない。
ケイトが行いたい事はただ一つ。お尻の大きな子に隼の主翼先端をぶつけるだけ。機体諸共なんて事は流石にごめんである。
機体と共に全身に衝撃が走る。大変苦しいがそのおかげで何かに当たった事だけは確認出来る。
早急に機体を水平に保つ為に操縦桿を握る。その間に不時着できそうな場所を把握。
敵基地付近に存在する比較的真っ直ぐな地面を見つけ、擦りつけるように機体を押さえ、隼は土埃にまみれながらも停止した。
痛む身体を動かし、防風を開けて外を確認する。
震電のプロペラ部分に当てたとされる主翼は、先端だけでなく翼の半分ほどを持っていかれた状態へと変化していた。
これはナツオ班長に怒られる。少しの覚悟と共に、視界にザラの機体が目に入る。
既に防風は開けられており、操縦席にはザラの姿が見えない。
基地へと潜入を試みたのであろうか。なんという行動力。ケイト、驚愕中。
この位置からは距離が置かれた場所であろうか、同じように土埃が立ち、機体が不時着したのが分かる。
プロペラが根本から消え去り、不時着時に破損したのであろうか、片翼が丸々失われている。
言うまでもなく震電だ。プロペラが消え去っているという事は、破損したプロペラを自爆させ安定性を求めたのか。
相手は機体を捨て、パラシュートで脱出するかと思われたが、震電に搭乗していたパイロットは不時着を選択したようだ。少し意外である。
破損した震電の片翼は大地に突き刺さる様に自立している。
描かれているパンケーキとフォークの絵の様に。