あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その20

 目の前にいる一人の男性。

 周りの方々からは団長と呼ばれている人。

 じーさまが出撃の為にこの部屋を出てからどれくらい経っただろうか。

 何度目かの衝撃音が地面から伝わり響き渡るのが感じられ、その度に心が揺れる。

 アカツキの皆さんではない事を、コトブキの皆ではない事を。

 団長は今、真剣な眼差しでイケスカで撮影した執事さんが映し出されている映像を見つめている。

 

 

「そうか……我々が成そうとしていた事は無意味であったか」

「意味の有無は私には分かりません。ですが私たちが争う理由は無いかと」

「イサオ様の言付通りであれば、我々は処分されるだろうな。時期ブユウ商事の会長になられる小僧に手を出し、攫ったのだから」

「そんな事はさせませんよ。只のハリボテか、飾りの名誉職だとしても、事実確認をしない限りは手出しはさせません」

 

 映像を見つめていた視線がこちらへと移る。

 先程までのような情熱と力強い意志を秘めていた瞳はどこへやら。

 まるで捨てられた犬か猫のような弱弱しささえ感じられる程に。

 

「小僧、貴様はこの様な目に遭ってもまだ先へ進もうというのか」

「進みますよ。まだまだ知らない事だらけのこの世界。唯一、分かってきた事すら確認出来ていないのですから」

 

 大まかな場所を掴んだまま、未だ会いに行けていない。この旅の第一目標である曾祖叔父の確認さえ出来ていないのだ

 蛇行するようにあちらへ行ったり、そちらへ行ったり。それが嫌だったかと問われれば、否と答えますが。

 

「……小僧。いや、ハルト様はお強いのですな」

「背中が痒くなるので小僧でいいです。あと私はイジツ基準で考えればまったくこれっぽちも強くありません。そこらの子供にさえ撃ち落されますよ?」

「それはあくまで戦闘機の操縦技術であろう? 精神的な事さ」

「私からすればイジツの人達の生命力と行動力には驚かされる事ばかりです」

「お互い、無い物ねだりか、あるいは隣の芝生は青く見える、という事か」

「ユーハングの諺をよくご存じで」

「師がそういった知識を好むおかげでな。時折、私に投げつけて来るのだ。分からないと答えた時の師は憎たらしい程、良い顔をするぞ」

「あのじーさまならそういう事をしそうですね。人をからかうような事を言って相手を落ち着かせようとしたり」

「だが、戦闘機の腕は確かだ。我々でも落とせる者がいるかどうか」

「どれだけ凄いのですか、あのじーさま」

「腕前を買われ、イケスカ飛行隊の指導教官になられたお方だ。おかげで我らは未だにヒヨッコ扱いさ」

 

 自虐的な笑みを浮かべているようだ。

 目元しか分からないが、それでも先程よりは瞳に力を感じる。

 

「今すぐ停戦命令を出し、双方の被害を……。いや、我々の負けだ。今すぐ戦闘を中止させ、降伏しよう」

 

 その時、部屋の出入口から声が聞こえ、誰かの姿が写る。

 団長に銃を向け、鬼のような形相でこちらの方を見つめる一人の女性。

 言うまでもなく、ロイグだ。

 

「動かないで! 両手を挙げて、ゆっくりとこちらを向きなさい!」

「富嶽の対空砲をすり抜けて降り立ったか。大した度胸の持ち主だ」

「仲間たちのおかげよ。貴方たちに攫われたハルトを返してもらうわ!」

「あぁ、好きにしたまえ。我々は降伏する」

「降伏? 一体どういう事かしら?」

 

 もう一人、女性が現れて部屋へと進入してくる。

 眉間に皺を寄せているが、ロイグに比べれば、幾分か表情は柔らかいリガルさんの姿。

 両手を挙げて立ち尽くしていた団長を膝立ちさせ、持ち物検査を始める。

 銃にナイフと様々な物が部屋の外へと放りだされる。

 

「言葉通りだ。ハルト様から話を聞き、イサオ様の言付を聞かせて頂いた。我々が君たちと争う理由が無くなったのだよ」

「それで降伏? 都合が良すぎるのではなくて?」

「そうだな、都合の良い事を言っている自覚はある。だが、私が停戦命令を出さなければ、我々は弾も燃料も尽きるまで君たちと戦い続けるだろう」

「ロイグ! リガル! お願いです! 団長に停戦命令を行わせてください!!」

 

 団長の持ち物検査をしていたリガルに視線を合わせて懇願する。

 しばらくの間、見つめ合っていたままであったが、小さく頷き、無線機を取りに部屋を出て行く。

 

「妙な事を口走ったら……」

「分かっている。好きに撃ちたまえ。ただし角度には気を付ける事だ。万が一、弾が私の身体を貫通したら後ろにいるハルト様にも当たるぞ?」

 

 ロイグの顔が苦々しい表情へと変化する。

 コロコロと表情を変化させ、親しみを持たせてくれるロイグに、銃を人に向けさせて、このような表情をさせてしまった事に後悔の念に駆られる。

 戻ってきたリガルが団長に無線機を手渡し、私を一旦、横へとずらしてから、縛られている両手足を解放していく。

 半日ぶりだろうか、自由に動かせる両手足を軽く動かしつつ、顔を上げてリガルに感謝を伝える。

 今にも泣きだしそうなその瞳。何か上手く伝えて私は大丈夫だと伝えたかったのだが、その前にリガルに頭を抱えられるように抱きしめられる。

 服越しに伝わる心音、暖かな温もり、頭の先には吐息と流れ落ちてきた涙。

 団長の停戦命令と降伏を伝える声が、少しずつ遠い世界へ旅立つかの様な感覚へと変化していくのが分かる。

 

 

「大丈夫? 立てる?」

「ちょっと厳しいかもしれません」

「肩を貸すわ。一先ずそこの椅子まで連れて行きましょう」

 

 ロイグとリガルの手によって立たされ、一度部屋から出されるようだ。

 部屋に残された団長は先程までの私のような状態にされ、その場に座り込み、頭を下げている。

 

「ハルト、貴方、軽すぎよ。もう少し食べないと」

「小食なもので申し訳」

「ロイグは無駄にでかいモノが付いているものね」

「リガルこそ、その大きなモノをなんとかした方がいいんじゃないかしら。引っかかった、って聞いたわよ」

「カーラーン!! よりにもよってロイグに喋ったのね!!」

 

 私を挟んで口喧嘩を始める二人。

 半日ぶりなのに懐かしさを感じてしまい、笑みが零れる。

 だけど両耳は両人の声でそろそろお辛い状態になってきたので止めて頂きたい。

 女性の身体的特徴に関して、悪態のキャッチボールをするのは私が間にいない時に行って欲しい。

 部屋の出入り口まで辿り着いたところで、相手側の人間が覆面を被ったまま室内へと入ってきた。

 

「動かないで! 団長の話は無線を通じて聞いていたのでしょう!? 覆面を脱ぎ捨てて大人しく投降しなさい!」

「……団長の話は本当か?」

「本当よ。話の続きが気になるのなら、投降して団長本人から聞きなさい!」

「そうか。ならば聞く必要はない」

 

 腰に手をまわし、取り出した物は拳銃。

 何かを考えるよりも先に、腕が動いた。

 半日以上、縛られたせいで硬直していた身体は、私が何かを考えて決心をするよりも前に、私の望んでいた通りの行動を起こしてくれた。

 両足に力が入り、借りていた二人の肩を突き放すように押し出す。

 視線には相手の拳銃。それが火を噴くよりも先に、長く綺麗な足が拳銃を握る相手の手を蹴り上げようとしているのが見えた。

 ザラさんだ。どうやってここまで辿り着いたのか分からないが、無事でよかった。

 伸ばされた足が相手の手に触れ、拳銃が蹴り飛ばされるかと思われた。

 だが、残念な事に相手も握りしめた拳銃を離す事無く、角度を変えられたままの状態で引き金が引かれる。

 乾いた音が室内に響き渡る。その後に感じる、謎の衝撃。

 分かる事は、あれだけ力を込めて立っていた両足から脱力にも似た感覚を覚え、膝立ちの状態へと変化し、今にも倒れそうだという事だ。

 

『ハルト!!』

 




次回、最終話です。
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