ハルトが穴に突入する前日。
イジツではオウニ商会所属のコトブキ飛行隊六名が全隊の復帰を祝う食事会を楽しんでいた。
「全員分の機体が直るのに時間かかったよねー」
「ナツオ班長が頑張ってくださったおかげでこの早さ。というべきですわ」
「そうだな、改めて礼に行くとしよう」
「お礼は大事」
「そうそう、ちゃんと言葉にして伝えなきゃね」
一か月前に起きたイケスカ動乱。そこにはコトブキ飛行隊も参加していた。
任務は達成できたがオウニ商会の所有していた飛行船、羽衣丸は穴を破壊する為に大量の爆薬を搭載し出航。目的通り穴の破壊に成功した。
当然であるが羽衣丸は全壊。コトブキのメンバー全員の機体も破損。修理を余儀なくされていた。
だがあの動乱の影響は大きく部品の流通が滞り、現在になってようやく全機復帰となった。
飛行船に関しては様々な問題もあり、運び屋稼業を再開するのは当面先になりそうだとマダムは言う。
「しっかしキリエの機体なんかそこら中、穴だらけだったよねー。よくアレで飛んでられたよね」
「うっさい! パイロットの腕がいいんですー」
「飛べない間にパンケーキ食べ過ぎて重くなってるんじゃない?」
「うぐっ!」
「また始まった」
「性懲りもなく好きですわね」
キリエとチカのじゃれあいが始まる。
皆とは会わない日々が続いた、というわけではないが機体の修理が完了した順に仕事をこなしていたので、すれ違うだけの時もあった。
最後にまわされていたキリエの機体修理が完了したと班長から連絡を貰った時に、前々から考えてた復帰祝いを兼ねた食事会が実現できてよかったと、この光景を見ていて思う。
「あら、レオナ。嬉しそうね」
「これでようやくコトブキ飛行隊全員復帰だと思えば嬉しくもなるさ」
「そうね、またみんなで飛べるのは幸せな事よね」
私もそう思う。イケスカ動乱が起きて気づかされた事がたくさんあった。
仲間達に頼る事、失いたくないものが増えている事、こうしていられる日常がとても幸せであるという事も。
ザラと二人で始めた飛行隊も今では六人。メンバーはみな個性豊かで隊長として苦労する面もあるが腕は確かである。
昔、思い描いてた飛行隊が目の前に実現出来ている。そう思うと少し涙腺も緩くなりそうだ。
きっとアルコールを摂取しているからに違いない。
「だからキリエはモタモタした動きなんだよね! 空戦以外でも!」
「空戦以外でも! ってどういうことさ! 空戦でもそれ以外でも私は機敏ですー!」
「それも一か月前の話でしょ! 今日までは長い休暇みたいなものだったし、色々と弛んでたりして」
「うっさいよ! 弛んでなんかないし! すぐ元に戻れるし!」
「ほう、それは良い事を聞いた」
「うげっ、れ、レオナ……」
「そこまで言い切れるんだから再訓練の時は期待してるぞ。キリエ」
怒られてやんのー。怒られてないし、いい加減うっさいバカチ!
また二人して言い合いが始まる。エンマとケイトはいつもの事といわんばかりに二人を鑑賞しながら食事を楽しんでいる。
ザラは……ジョッキが積み上げられた隣でテーブルに突っ伏している。幸せそうな表情だ。
これで羽衣丸が活動を再開し、ジョニーのサルーンが復活すれば……なんて事を想像をしていた。
一本の電話が掛かってくるまでは。
「タイチョーサン、オ電話デスヨー」
「いま行く」
少し外すと伝え、電話機に向かう。
『お楽しみ中にごめんねー。緊急事態が発生しちゃってさ』
「アレンか、緊急事態? なにか起きたのか」
『起きた、というよりも起こりそうなんだ』
「どういうことだ?」
『単刀直入に言うよ。ラハマより西に約70キロクーリル先で穴が出現した』
なっ、言葉にならない声が出てしまう
『とはいえ規模でいえば小さめ、おまけに地表から約十数クーリル。そして僕の計算外での出現。そういう事もあってマダムに相談しに行ったんだ』
「マダムはなんと?」
『隣に居るから直接聞いてみて』
はい、と受話器を渡す声に続きマダムから連絡が入る
『聞いてた通りよ、レオナ』
「我々はどうすればよろしいのでしょうか?」
『現在、その場所にラハマの自警団が向かっているわ。幸いにして空賊共には見つかっていないようだけど、早めに手を打っておいた方が良い事は確かね。本来なら契約を結んで料金を頂きたいところではあるけれど、事が事だけに私達だけ何もしないわけにはいかないわ。レオナ、早朝にコトブキ飛行隊を出撃できるようにしてくれるかしら』
「了解しました。では出撃準備をして待機に入ります」
『悪いわね、久しぶりの食事会を邪魔してしまって』
「問題ありません。仕事ですから」
『あとアレンも連れて行ってくれないかしら。肉眼で確認したいそうよ。いざという時の事も考えて、ね』
「了解しました」
受話器を下ろし、一度深呼吸をする。
この短い間で穴に関わる事が多くなった。
ほんの少し前まで存在そのものが怪しまれていたのに、おとぎ話の類ではないのかと考えていたのだが。
横に軽く首を振って考えるのを止める。すべき事をこなしてからにしよう。
まずは皆に伝えないと。
「えぇー! またあの穴出てきたの!?」
「あぁ。現在、ラハマ自警団が偵察に向かっているのだが、事が事だけにコトブキも早朝に出撃できるようにとマダムから連絡があった」
「場所はどちらですの?」
「ラハマより西に約70キロクーリル。アレンの計算外での出現だそうだ」
「アレンは何か述べていた?」
「出現する以外は何も。マダムからの指示で調査の為にアレンを連れて向かう事になる。ケイトは赤とんぼでアレンを搭乗させての出撃だ」
「了解した」
「他に質問は?」
「行かなくて済む方法はないのー?」
「無い! 別口の依頼ならともかく雇い主であるマダムからの命令は絶対だ」
「うへぇー、せっかくの食事会だったのにぃ」
「それは私も残念に思っている。だから今回の件が落ち着いたらまたゆっくりと皆で食事をしよう」
「ホント! 約束だからね!」
「あぁ、約束だ。ところでキリエ。何故俯いたままなのだ?」
レオナが明日の出撃について伝えている間、キリエはずっと俯いたままであった。ザラは言うまでもなく机に伏しているが……大丈夫だろう。
「……明日」
「明日?」
「新作のパンケーキを食べに行こうと思っていたのに! 許すまじ! 今すぐにでも閉じてしまえばいいのに!」
何を懸念しているのかと思えば、いつものキリエらしい理由であった。
立飛だよ!