あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その後のロイグと

 心臓というものは、どうしてこうも身勝手に鼓動を早めたり、時にはぎゅっと締め付けるような行動に移したり、穏やかな心を保つ事が出来たりするのだろうか。

 私はとある人からお手紙を頂いた。それは予告状と呼ばれている物である。

 もう一人については……。そちらはまた別の機会にしておこう。女性と会う前に他の女性の事を考えていたら拳で殴られても弁明できない。

 

 私がまだこちらの世界に来たての頃、アレシマで追われているところを匿ってもらい、感謝の印としてお手紙を渡した事から始まったお話。

 当時は何も考えず、何かに導かれるようにしてとんでもない文章を書いてしまった。それは破棄をしてメモ書きにすればいいやと当時は思っていたのだけれど。

 だが、本日待ち合わせをしている女性が目敏くその紙を拾い上げ、読み解こうとし始めた。

 日本語で書かれていた物だったので、当時はそこまで気にも止めずにおり、書かれている内容について問われたら、貴女は綺麗だと返せるぐらいに余裕はあった……気がする。

 

 手元にある予告状はとても可愛らしい装飾が施され、怪盗団アカツキのマークが描かれてある。

 ラハマで治療に専念していた時に届いた予告状。何故、私の元に予告状が届いたのだろうか? 考えても仕方ないと思い、ペーパーナイフをお借りして中身を見る事にした。

 予告状の中身は、本日待ち合わせをしている女性からの物であった。ただし、一つだけ問題があったのだ。私にとっては。

 そこに書かれていた文字は一行だけ。とても簡素で他の人が見た場合は一体何の事だと思うであろう。

 しかし私には理解が出来た。予告状に書かれていた短い文章は、アレシマで出会った時に日本語で間違えて書いたお手紙の内容について、返答として使われている文章だったから。

 

 彼女は当時から知っていたのか、それとも何かしらの方法で答えに辿りついたのかは分からない。

 それを知る為にも、お互いの気持ちを確認する為にも、少しだけ遅くなってしまったデートを始めたいと思う。

 

 

「お姉さんを無視して考え事かしら、ハルト?」

「いらっしゃい。お待ちしておりました。ロイグ」

 

 始めて出会った時と変わらない。むしろ他人同士であったあの頃よりも、もっと魅力的になったお姉さんが待ち合わせ場所に現れた。

 椅子に座っている私に向けて、少しだけ前屈みになり、こちらに視線を合わせる為に首を傾けている。

 こういうちょっとした仕草が見た目麗しい姿との違いを引き立て、可愛らしさを強調しているのだろうと考えてしまう。

 先手を取り、上手くデートでリードをしたいと試行錯誤していたのに、仕草一つでこれからどうすれば良いのか吹っ飛んでしまう。

 そんな私の状況など露知らずのロイグは店員に注文を頼む。珍しく樽ジョッキとは縁のない飲み物を注文している。

 

「珍しいですね。いつも通りの物を注文されないのですか?」

「だって……。デートでいきなり樽ジョッキを注文する女性はハルトからしたらどうなのかなぁーって」

 

 私から視線を外す様に顔を背け、照れつつも指先を弄りながらそう私に伝える。先手を打つだけでなく追撃まで入れてくる。それにまたキッチリと当たってしまう自分の情けなさ、ロイグの巧みな攻撃故か。こういうのは卑怯なのではないか。

 不意打ちどころか真正面から攻勢をかけられる。上手く返す方法は無いものかと考えるが、私の視線はもにょもにょと動くロイグの艶やかな唇に目を奪われたままだ。

 いつもとは違い、薄く紅色に染まるその唇。ロイグも今日は私とデートなのだと意識してくれていたと思うと嬉しさが湧いて来る。

 

「いつも通りのロイグも好きですけれど、アルコールはもう少し暗くなってからにしましょうか。丸一日お付き合いして頂きますから」

「す! 好きって! ……って言われても、樽ジョッキで飲み干している姿を好きと言われて女心としては複雑なんだけど!」

「始めて出会った時からそうだったじゃないですか。そのせいかどうしてもロイグは樽ジョッキって印象が先行するのと、美味しそうにお酒を飲んでいる姿が目に浮かんで」

「私も普段は紅茶にしようかなぁ……。ってハルトはやっぱり紅茶なの?」

「ここで頂いたアールグレイが美味しかったもので」

 

 そう伝えると顔をぷくぅと膨らませて怒る……いや、いじけてしまったロイグがいる。

 私にアールグレイを注文してくれた人はもう一人の女性だったせいもあるのだろう。でも心休まる私にとって大切な思い出の味なのだ。

 この気持ちもロイグに共有して欲しいな。あの時、私がどれだけ二人に助けられた事か。

 

「ロイグ。よかったら一口、如何ですか?」

「一口? って何を?」

「勿論、アールグレイの紅茶ですよ。私があの時、この一杯でどれだけ心を落ち着かせる事が出来たのかロイグにも共有して欲しくて」

「どこにでもある普通の紅茶だと思うけれど?」

「この場所で、このお店で、ロイグとこの気持ちを共有したいと思ったのです。無理にとは言いませんが」

「む、無理じゃない! そっか、共有かぁ……へへっ」

 

 ロイグの前に自分の使用していたカップをソーサーの上に乗せ、音を立てないようにゆっくりと置く。

 きちんと保温されているティーポットから空のカップへと紅茶が注ぎ込まれていく。この時、茶葉からとても豊かな香りがする。

 差し出されたカップ。注がれた紅茶。ロイグはソーサーとカップに手を伸ばし、香りを楽しみ、紅茶に一口。その仕草は紛うことなきお嬢様。

 気品に満ち溢れ、貴族の令嬢だと勘違いされても仕方ないと思わせる程、違和感を感じさせない。

 傾けられたカップから少し遅れて動く喉。音を立てず、日常的な行為とも思わせるのだが、次第に顔を俯かせていく。口に合わなかったのだろうか。

 

「ねぇ、ハルト」

「なんでしょうか?」

「アールグレイって心を落ち着かせる効果があるのよね?」

「はい。心と身体をリラックスさせてくれる効果がありますが、どうかしましたか?」

「心臓の鼓動が、先程よりも落ち着かないのだけど……」

 

 ロイグの視線がカップに注がれている。

 唇を当てた場所であろう。そこには薄っすらとロイグの紅色が付いている。

 あぁ、そうか、間接的な何かになってしまったのか。緊張のしすぎでそこまで頭が回らなかった。

 善意の行動だとはいえ、指摘されてようやく気が付いた自分も恥ずかしさを覚える。

 

「所謂、間接キスになっていましたね」

「そういう事は言葉に出さなくていいから!」

「大事な事だと思ったので」

「大事だけど! 恥ずかしいの! ハルトは恥ずかしくないの!?」

「ようやくロイグとデートが出来る機会に巡り合えて、嬉しくて舞い上がっている状態なものでして」

「もう! そうやって上手く誤魔化すんだから!」

「本心です。頭の中では必死に本日の計画表を立てていて、ロイグに何をしたら喜んで貰えるかずっとお悩み中です」

 

 ロイグの照れた姿を見て吹っ飛んでいた本日の予定を少しづつ思い出す事に成功する。

 この連日、暇を見つければアレシマの観光マップを覗き込み、何処へ向かうか、何をするか、一緒に楽しんで貰えそうな場所はと思考を重ね続けてきた。

 おすすめスポットをザラさんやエンマ、羽衣丸の操舵手をしているアンナさんとマリアさんに聞いた事も。果てはキリエにオススメのパンケーキまで聞く程に。

 そうして得た情報を元に緻密な計算を行い、向かう先のお店が休業日だなんてオチがつかないように調べ上げていたのだ。

 なんだか偉そうな事を言っているが、いざ本人が目の前に現れ、これからデートを始めましょうという現実を目の前にすると、緊張のあまりに頭が真っ白になり、先程までどこかにすっ飛んでいたのですが。

 仕草一つで私を混乱状態に貶めている本人は、何か面白い事に気づいた様で実に楽し気でイタズラ心満載の表情を浮かべている。

 

「ふーん。今のハルトは私の事だけを考えていて、私に夢中なんだ?」

「そう言われるとロイグの顔を直視する事が出来なくなります」

「さっきのお返しよ! でも、嬉しいなぁ!」

「嬉しいですか」

「ハルトが私の為に必死に考えてくれているんだもん。それだけで愛しくてたまらないわ」

「今日のロイグは押しがお強い」

「決まっているじゃない! 先手必勝! 今日中に勝負をつけておかないとね!」

 

 久しぶりに感じるイジツの女性の肉食的なまでの勢いと力技。

 では私は草食か? 今回に関しては違うと言い切っておこう。本日は私も全力でお相手務めさせて頂きます。

 そうしなければロイグに大変失礼な事をしてしまうから。それどころか後ろから刺されても仕方ない事だ。ああでも怒った顔も凄く綺麗で可愛らしく感じてしまう。知らず知らずに病にかかっているのかも。

 始めて経験する病。動悸息切れ食欲不振に注意力散漫、暇されあればその事しか考えられなくなる。まさに大病だ。

 でも本日はその病に身を任せよう。ロイグの事だけを考えていたいから。

 

 

 店を出て身に任せてのアレシマ散策。という訳ではないが、目的地の道中には目移りしてしまう様々なお店や物で溢れかえっている。

 時折、足を止めてお店を冷かしてみたり、ちょっとした着せ替えごっこの様な事をしている。

 ロイグがいつも着ているノーカラーコートを別の物に変えてみたり。襟付きのスタンドカラーコートやトレンチコート。正直に言ってしまうと全てが良く似合っている。

 そこにチロリアンハットの帽子を被せてみれば、華やかで人目を引くほど流麗な線を見せつける美人さんの登場だ。

 ロイグは自身の姿を見て思いついた事があったのだろう。私に向けて銃に見立てた指を差し、放つ。可愛らしい発砲音付きで。

 そんな事をされたらこちらはいとも簡単に撃ち抜かれてしまう。せめての抵抗として上半身を動かして避けるような仕草で返す。

 避けられた!? そんな表情をするロイグはもう一つの手もこちらに差し向けてくる。

 流石に二丁銃を扱うような相手には勝てない。肘を曲げる程度に手を挙げて降伏。

 それを見て満足そうに見つめてくるロイグ。それでも指を戻す事無く、私の心臓の真上に指を押し付け、再び聞こえる発砲音。

 

「バーン!!」

 

 降伏するも空しく、私の心臓はロイグの手によって撃ち抜かれた。

 

 

「コート一つ変えるだけでも印象が変わりますね。とても良くお似合いですよ」

「ありがとっ! ハルトはどれが好みだったかしら?」

「個人的にチェスターコートの柄とシルエットが素敵でした。盗みを行う時には派手すぎて駄目かもしれませんが」

「派手にやるのは好きだけど、そういう時に着て行くコートではないかなぁ」

「まぁそうですよね」

「ただし! デートとなれば話は別だけどね!」

 

 そう言いながら私の腕に自分の腕を絡ませ、急接近を仕掛けてくるロイグ。

 突然の事で対応が出来ず、完璧な奇襲を決められ近距離で目と目が合う。

 やられる。いや、そう意味であるのならば、私は既に撃ち抜かれている。

 喰われる。こちらの方が正しい気がするが、結局のところ攻められている側なのは変わりない。

 どうすればこの場を乗り切れるのか。むしろ逆にここから攻め返したらどうなるのだろうか。

 考えを巡らしているおかげで一つだけ気づいた事がある。圧倒的優位に立っているはずのロイグの表情だ。

 引き締まっているとも緩んでいるとも掴みとれない表情。もしかして行動を起こしておいて自分でも照れているではないか。口の両端が僅かに震えているので隠しきれていない。

 そんなロイグの姿を見て冷静さを取り戻す。と言いたいところではあるのだが、抱きしめられている腕を今風に言うならば、凄いデカイ何かに固定されているのだ。

 表情に現れないよう必死に顔に力を入れているのだが、それが逆に仇となってロイグと似たか寄ったかの状態に。

 

「もう! 笑わないの!」

「すみません。撃墜されかけたところに救いの手が差し出されたかと思ったらやっぱり罠だったもので」

「むぅ。あとちょっとだったのね!」

「前半戦で落とされていたら後半戦は一体どうなることやら」

「素直に落とされてくれてもいいんだけれどなぁー」

 

 パッと素早く私から離れるロイグ。

 自身の手を頭の後ろ側にまわし、何処か遠くを見つめるようにしながら口笛を吹いている。時折、空気が漏れる音が聞こえる。

 再びこちらに顔を向けてくれた時、視線が交わり、照れるように微笑み、笑い合う。

 しばらくして、こちらからロイグに向けて手を差し出す。慣れない事の連続で本来の目的を失いそうになっていたが、本日はデートなのである。

 喰うか喰われるか、それは一先ず横に置いておこう。この貴重な時間をめいっぱい楽しまなければ。とびっきりの思い出になるぐらいに。

 こういった事に慣れてないのなら、慣れていない人間なりに。

 

 私が差し出した手に、ロイグは自分の手を重ねてくれた。

 一度だけ、この手を離さないと誓うように握る。それに応える様に握り返される手。

 お互いにお互いの指を擦る様にして確かめ合う事で、ようやく本来の距離感に戻った感覚がある。

 それはロイグも同じだった様だ。先程までの力の入れようとは違い、肩の力が抜けたように落ち着いている。

 再び視線が重なり合う。照れるような事もなく、これが当たり前の様に振る舞う。

 これを日常に出来るかどうかは、この後の頑張り次第だ。

 

 

 オーシャン・サンフィッシュホテル

 本日行われたデートの最終地点である。

 このホテルの高層階に一つ部屋を借りている。ここでロイグと一緒に見たい光景がこれから行われるのだ。

 この時期に見晴らしの良い部屋を借りる事が出来たのは運だけではない。あの手この手と頭を下げてようやく手に入れたのだ。

 バルコニー部分に椅子とテーブル。樽のまま置かれたお酒であったり、ボトルに入れられたお酒であったり。ロイグが注文していた時にも思ったが、消費出来るのだろうか。私は下戸と言っても過言ではないぞ。

 とはいえだ、これから先の事を考えれば一杯頂いておく方が無難だろうか。

 いや、やはりこういう事を伝える時は素面の状態で伝えるべきか。でもロイグは呑んでる状態だろうしなぁ。

 イベントが始まるまでもう少し時間がある。考えてみよう。

 

 サンフィッシュホテルに辿り着く前、肩の力が抜けて純粋に楽しむ事が出来た日中の出来事。

 事前にアレシマの広間で神出鬼没に現れるという美味しい屋台があると聞きており、情報収集を行った結果、本日この時間に高確率で遭遇する可能性が非常に高い事が判明。なんていう会話をロイグと交わしながら広間の方へと歩いて行った。

 辿り着いた先には、一部に人だかり。地面に置かれた看板を確認すると、間違いない。このお店だ。

 順番待ちの列に一緒に並び、前の人から手渡されたお店のメニュー。これがまたどれも美味しいと評判なのだ。

 ロイグからは「何にするの?」と聞かれたが、実はもうこっそりと決めていたりする。

 事前情報が正しければ、ここのクレープが大変美味しいと評判なんですよ。ロイグに伝えると「それじゃ私もクレープにしようかな」と言われる。

 なら違う味を注文して食べ比べをする事に。二人別々の味のクレープを注文する。

 店員さんから渡されたクレープを大切に扱いながら、広場中央の縁石に座りいただきます。

 

 私の頼んだ抹茶クリーム。アレシマ限定商品らしい。一口食べて抹茶のほろ苦さを通常のクリームがカバーするように包み込む。甘すぎず苦すぎずたまらない。この際、材料はどこで仕入れているのだろうとかは気にしては駄目なのだ。

 ロイグはベリークリーム。酸っぱい味に甘さが絡み丁度良い味になっているようだ。

 お互いにクレープを差し出し、一口頂戴する。ロイグの言う通り、酸っぱさと甘さが同居していてとても美味しい。

 堪能しているとロイグから「動いちゃダメよ」と指示が下る。大人しくその場で動かずにいると、近寄ってくるロイグの姿。

 とはいえ、動くなとの指示がある以上は何か理由があるのだろう。じっと我慢をしていると、頬の辺りに暖かな感触がする。

 流石に私でも分かる。きっと私の頬にクリームが付いていたのを、ロイグが……その、拭き取ってくれたのだ。

 唇以外にも柔らかなものが頬に当たり、沿う様にして動かされる。

 

 ありがとう。感謝を伝えると、酷く挙動不審なロイグからカタコトの返事が来る。

 その様子を見ていると、こちらまで感染する様に気恥ずかしさが全開になり、ロイグの顔を注視出来なくなる。

 傍から見ていれば私たちはどの様に見えるのだろうか。仲の良い兄妹か、いや、姉弟か。

 それを乗り越えて行きたい。ロイグの隣に居る事が不自然と思われない様に。

 

 

 目の前に邪魔をする遮蔽物の無い夜空に打ち上げられる花火。夜空に火薬の綺麗な華を開く度に「たーまやー!」の一言を乾杯代わりにして樽ジョッキを飲み干すロイグ。

 花火が始まった頃、バルコニーに配置してあった椅子から手すりの傍に移動し、二人並んでこの光景を眺めている。

 打ちあがる時に聞こえる、花火に取り付けられた笛の音。上空で爆発して遅れてやってくる大きな音。一瞬だけ眩い光を放ち、隣に居る人の横顔を映し出してくれる。

 手すりに腕を置き、そこに自分の頭を置きながらロイグを見つめる。お酒が回って来たのか、その表情はうっすらと赤みを帯びている。

 その姿を見つめながら今日の出来事を想い浮かべる。

 本日のデートで喜怒哀楽の内、哀以外の表情は見れたかな。自分の為に泣いてくれたあの姿も、神秘的で夢心地ですらあったけれど、表情としてはさせたくない。

 この日の為に色々と思考に耽っていたり、企てたりと頑張ってきたが、それも全てはこの気持ちを伝える為。

 きっとガチガチになりながら、舌とか噛みそうになりながら伝える自分の姿を思い描いていたが、現実はちょっとだけ優しかった。

 私の視線に気が付いたロイグが、首を傾げながらこちらに問いかけてくる。

 

「ロイグさん、好きです」

 

 ちょっとだけ優しいはずの現実は、あくまで円滑に伝えるだけであり、呼び方までは援護をしてくれなかった。

 私から発せられた言葉を聞き、固まっていたロイグは、次第に身体を震わせ笑いを堪えるように俯いていく。ここ一番でやらかした。

 溢れ出ている涙も感動して流れ出た訳ではないだろう。それでも楽しそう、愉快そうに、笑い泣きをしているロイグの姿を見つめていると、まぁいいかと思わせてくれる。

 こちらに伸びる手、正面を向かされた後、力強く抱きしめられる。勘違いでないのなら、離すまいという意志を持ちながら。

 

 しばしの間、その体勢のまま時間が過ぎる。夜空に浮かぶ綺麗な花火も、今宵だけは舞台装置となる。

 少しずつ緩まれていく腕の力に身体を委ねる。途中、耳元で囁かれ、ロイグの吐息がかかる。

 囁かれたその言葉に自分の身体が硬直するのが分かる。言葉の意味もそうだが吐息も含めて全身に何かが走る要因になった事は確かだ。

 そのまま首筋に力強くロイグの唇が押し付けられる。そこに残されたモノは、きっと紅色のマーク。

 

「ふふっ。これでハルトも立派な怪盗団アカツキの一員ね!」

 

 そして。

 この言葉の続きが紡がれるよりも先に、花火によって映し出されていた二つの影は再び一つとなる。

 

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