あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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怪盗団アカツキ その後のレンジと

 ゆっくりと両腕を肩の位置まで上げる。

 一旦下ろして一呼吸入れる。

 再び、同じ位置まで腕を上げる。痛みもなく順調にここまで腕が上がる様になった。

 鎖骨が折れた右側の腕に関しては、残念ながら肩より上に伸ばす事はまだ叶わない。

 ただ、それでもようやくある程度の事は、自分で出来るようになったという事だ。

 手術直後は右腕を動かすのは違和感を感じ、左腕でご飯を頂こうとすればポロポロと落としてしまい、お見舞いに来てくれる人達に餌付けをしてもらう日々であった。

 自分の不器用さに泣きたくなる時もあったが、ようやくそういった日々ともお別れだ。

 私は曾祖叔父を探すという本来の目的を達成すべく、身支度を整えてとある人物に会いに行く為、行動に移す事にした。

 

 

「無理ね、その肩では」

 

 ある人物とは、全てが謎に包まれているウェイトレスのリリコさん。

 本日も見慣れた服装で受付のお仕事に励んでいるようなのだが、誰一人と来ず、留守番状態である。

 それでもお給料が支給されるようで、気怠そうにしながらも私の相談事を聞いてくれる。

 

「オフコウ山の山頂なんて既に調べ尽くされた後よ、可能性があるとすれば崖を下るしかないわ」

「建物に何か隠された仕掛けとかありそうな気配はありませんかね?」

「無い、とは言い切れないけれど、残されている建物なんてボロ家もいいところよ。遭難する人が出るたびに木板が剥されていくもの」

 

 何か思い出すような事でもあったのか、口元を緩めながらそう語るリリコさん。

 夜間とはいえ飛行船でオフコウ山を上空から眺めた時も、周囲にはそれらしいものは見当たらず。

 もし私の探し人があの場所に居るとしたら、地表では分からない場所、山なり崖なりを掘り進めた先にいる可能性も。

 結局はそれらを確認する為にも、一度はオフコウ山へと向かわなければならない事は確かだ。

 

「貴方も大変ね、あっちへ行ったりこっちへ行ったり」

「それでもこの短期間で目星となる場所が見つかるのですから、頑張った甲斐がありますよ。なんて自分で言うのも変ですけど」

「良いんじゃないかしら。本当の事を馬鹿にする様な人はいないわよ」

 

 肘をついた腕に顎を乗せたまま、こちらに視線を配り、微笑みながらリリコさんが言う。

 自分で冗談交じりで言う言葉よりも強烈に心へと刺さる。

 恥ずかしさの余り机に顔を伏せるようにして隠れていると、クスクスと笑うリリコさんの声が聞こえた。

 

 

「やぁ、ここにいたんだね、ハルト」

「見舞いに来たのに当の本人がいないから探しちまったぞ」

 

 あの後もリリコさんと相談というお喋りが続いた。

 ここ最近の出来事についてであったり、私が居ない頃のコトブキの話であったりと話題は絶える事無く。

 そうしていたところ、車椅子に乗せられたアレンと、それを押すレンジさんがやってくる不思議な組み合わせに遭遇する。

 

「ケイト以外の人に車椅子を押されているなんて珍しいですね」

「コトブキに急な依頼が舞い込んだみたいでね、待機組も整備班の機体や赤とんぼを借りてお仕事に出掛けて行ったよ」

「妹がいない事をいい事に、オマエの病室で飲んでいたんだぞ、コイツ」

「いやはや、自分の部屋で飲んでいる姿を病院の人に見られると怒られてしまうもので、ついつい」

「怒られるのは当たり前だろ! 病人がどうの以前に昼間っから酒を飲むな!」

 

 お怒りのレンジさんを、いつも通りのらりくらりと交わしていくアレン。

 私の部屋に酒瓶が転がっていたら、病院の人から怒られるのは私なのだろうか? 

 疑問が湧く中、もう一つ気になる事がある。

 

「アレンは私に何か用事でも?」

「穴について報告する事があってね。二週間後にハルトが利用してきた穴が再び開くよ」

「そうでしたか、なんだかあっという間にこの時を迎えてしまったという感覚です」

「寂しくなるなぁ、僕の喋り相手になってくれる人がまた減ってしまうよ」

「おいぃ! シレっと重大発表をしておいて何和んでいるんだよ!? イジツに穴が開くんだろ!?」

「気にするだけ無駄よ、貴女もハルトがイジツへ来た経緯は知っているのでしょう?」

「生きてるか死んでるかも分からない家族を探しに来たんだよな。そうだよ! あと二週間で見つけなきゃいけないんだろ!?」

「まさにその事をリリコさんにご相談しておりました」

 

 現在の進展状況を確認する意味も含めて、アレンとレンジさんに状況報告。

 障害として立ちふさがるのが、崖下に下りるという行動。

 私の肩の治療にもうしばらく時間の猶予があれば……って、肩さえ問題なければ下りれる事が前提で話が進んでない? 私イジツ人じゃないよ? 

 

「崖かぁ……。レンジ、君に一つお願い事があるんだけどいいかな?」

「お? アタシになんか用か?」

「ハルトを背負って崖を下りてきてくれないかな?」

 

 唐突な提案をレンジさんにするアレンの行動に、こちらが驚いてしまう。

 だが、レンジさんは腕を組みながら思考中。まさか考える余地があるとでも言うのですか。

 解かれた腕と共に、こちらへ向かってくるレンジさん。

 私の腰を掴んだと思えば、掛け声を一言、苦も無く持ち上げられてしまう。

 この視点から人を見るのは、赤ん坊の頃以来ではないだろうか。

 

「うん、問題なさそうだね」

「私の精神力がズタボロなのですが」

「ハルトの精神を天秤に掛ける事で探し人が見つかるかもしれない、どうする?」

「レンジさん! 是非ともお願いします!」

 

 持ち上げられたままの体勢で頭を下げてお願いをする。

 レンジさんは口の端を上げて笑う。

 赤毛混じりの髪に、ひょこっと生えるように頭の先に立つ髪が揺れる。

 見つめ合う瞳は何時だって情熱に満ち溢れている。

 

「あちらの問題は無事解決。あとはリリコ次第かな?」

「ここから先は有料になりま~す」

「こちらも問題なさそうだね。よろしく頼むよ、リリコ」

「私が断るって選択肢は浮かばないのかしら?」

「リリコが特別手当ても貰わずに、話し相手になっている時点で浮かばないなぁ」

「……はぁ、仕方ないわね、あの綺麗な青空を見えてくれた分ぐらいは働くわ」

 

 

 事が決まれば即実行。

 その日の内に必要な物は揃えられ、日が沈んで昇り始めた頃には空の上。

 リリコさんが操縦する赤とんぼと、レンジさんの隼一型は何事も無くオフコウ山へと降り立つ。

 念の為、数件ある建物を覗き込み、へそくり術を行使するが何も出ず。

 壊れた鉄塔がある観測所らしき建物も調べる事にした。

 広さに関してはさほど変わりない。

 中に置かれている物も机や椅子、違いといえば、剥き出しの地面でも木板の床ではなく、石床だ。

 気になって触っていたところ、レンジさんが何処からか床をひっくり返すのに適した棒を拾ってきてくれる。

 幾つか気になる場所を、棒を利用してひっくり返してみたところ、棒が出て来た。一瞬、頭にハテナマークが浮かぶ。

 一緒に鍵もあった事で救われた。

 

「鍵が見つかるとオタカラに近づいた! って気がするな!」

「オタカラと言っても墓場だけどね」

「そう言うなよリリコ、ってアタシも人の事は言えないか」

「気になさらず、墓場である事は確かですし、イジツ的に考えればオタカラが眠る場所でも合っていますから」

 

 気重に考えても仕方ないですしね。

 結局、山頂部分で見つかったのはこれだけ。

 後はこの崖を下りていく他は無さそうだ。

 

「私が道を作るわ、後からゆっくりと教えた通りに下りてきて」

 

 ユーハング工廠跡地へと一緒に足を運んだ時と似た、動きやすい服装へと身を包んでいるリリコさんは、手慣れた手つきで崖に杭を打ち込みながら下りていく。

 この高さから眺める地面は恐怖でもあるのだが、人間こんな時でも邪な事を考えてしまうもの。日頃着ているウェイトレス姿だったらこの世の絶景ともいえるお山と谷間が見えたのだろうな、とか。

 追加料金頂きます。とか言われてしまいそうな思考を頭から振り払う様に、軽く頭を動かす。

 そうこうしている内に、リリコさんの素敵なおみ足は、無事に崖下にある地面へと辿り着く。

 レンジさんと二人して拍手なんかしてみたり。

 崖下からの合図を受け取り、今度はこちらの番。とはいえ私は薪を運ぶような背負子に座っているだけ。

 僅かにあった不安は、レンジさんにあっさりと背負われてしまう事で、逆に凹む事になる。

 

「ちょいとばかし怖いかもしれないが、目でも瞑ってれば直ぐ済むさ」

 

 アタシに任せとけ。その頼りになる発言は、一人っ子の私によく効いてしまう。

 もしも自分に姉と呼べる人がいたのならば、こういう事を言ってくれたりもするのかなって。

 現実? そんな世界の事、私は知らない。

 

 

「うーっし! 一先ず難題はクリアしたな!」

「出来るとは思っていたけど、実際に見せつけられると驚きだわ」

「この際、出来ると思われていただけ、他の連中よりマシだと考えていた方が良いんだろうな」

「レンジさん、ありがとうございます。おかげで探し人が見つかる可能性が広がりました」

「おぅ! オマエはホント素直で良いよな!」

 

 頭に伸びてきた手が私の髪をわしゃわしゃとする。ここまで連れてきてくれた事を考えると、好きにして下さいと言いたい気分だ。

 その様子を呆れ気味な態度を取りつつも、見守ってくれるリリコさんにも感謝を。

 

 再度、仕度を整えて辺りを見渡す。

 アノマロカリスはおろか、生物がいるのかすら怪しいぐらいに、何かが動く様子が無い。

 離陸に失敗したと思われる機体や、油が染み込んだ地面。時折、渓谷に吹く風の音だけが聞こえる。

 レンジさんには休憩と荷物の見張りも兼ねて待機してもらい、リリコさんと共にオフコウ山を一周してみる事にする。

 岩肌に触れながらリリコさんと一緒に何かないかと、お互いに意見交換をしながらも探すが、残念な事に何も見つからない。

 

「何もありませんでした」

 

 気が付けば目の前にはレンジさんの姿。

 現状報告をしてガッカリとしていると、何処かへ向けて指を指すレンジさん。視線をその先に向ける。

 

「ここで休憩させてもらった間、辺りを見回していたんだがよ、意外とソウウン峡谷の方にあるんじゃないか?」

「そう思いついた理由は?」

「山を掘った所で出来る空間は限界があるだろ? それなら一層、地面と繋がっている峡谷側を掘り進めた方が可能性があるんじゃないかってな」

「確かに、見つけようとする場所が墓場であれば、それなりの空間と換気が出来るぐらいの大きさは必要ね」

「だろ? 他に手が見つからないなら行ってみようぜ」

「はい、是非とも」

 

 こうして再び三人で行動を共にし、ソウウン峡谷へと足を運ぶ事となった。

 

 

 ソウウン峡谷側の崖に近づいてみて分かった事がある。

 道中は油の匂いと機体の残骸。それでも死体……屍と呼べるような物は転がっていないという事。

 一部の崖には機体が突っ込んだのだろうか、自然に出来たとは思えない削られ方がした岩肌と油らしきものが崖に染みついている。

 其々にこの惨状をみて思った事を口にしている。

 私は崖に近づき、指で触れてみる。

 石くず、埃、油と様々な物が汚れとして指先にこびりつく。

 流石に機体がぶつかるような場所には無いだろう。そう考えながら視線を動かすと、ふと気になる場所が見つかる。

 そこまで近づき、再び崖に触れる。

 先程触れた岩肌とは何か違う、試しに軽く叩いてみると、空洞でもあるのか響くような音が聞こえた。

 慌てて二人を呼び寄せる。

 

 三人で辺りを調べていると、人工的に作られたと思われる穴が見つかる。

 そこへ山頂で見つけた棒をレンジさんが差し込み、横から棒を押す様にして力を込めると、静かに壁が動き出す。

 開かれた道筋、そこから漂う匂い。

 人が亡くなられた時にお葬式で嗅ぐ事になる、あの匂いだ。

 

 

 慎重に内部へ潜入すると、横道が見え、覗き込むように中を伺うとちょっとした部屋が見つかる。

 そこには金庫も置かれており、リリコさんが鍵を使い金庫を開ける事に無事成功。

 金庫に入っていた書類の束を手渡され、選別していくと、戦没者名簿と書かれた一つの書類を見つける。

 激しい動悸と短い間隔で呼吸が続く。それを落ち着かせてくれる為に呼吸を整えようと必死になる。

 それに気が付いたのか、レンジさんは頭に手を、リリコさんは背中を擦ってくれる。

 

「大丈夫だ、ハルト。アタシらがついてる」

「少なくとも、一人ではないわ」

 

 その言葉に背中を押され、覚悟を決めて中身を調べていく。何人者の名前が並び、その途中で視線が止まる。

 私が探し求めていた人の名前が、そこにあった。

 

 

 その後、奥へと続く道を進むと墓標が建てられた部屋を見つけ、曾祖叔父が眠っている場所も見つけられた。

 手を合わせてお参りをする。二人も同じ様にしてお参りをしてくれた事がとても嬉しかった。

 曽祖父に報告する為にも、必要最低限、必要な箇所を写真に収めて、墓場があった場所を明記して山頂へと戻る事にした。

 

 オフコウ山の山頂へ戻ってきた頃には日が暮れ始め、安全を期してここで一泊する事になった。

 用意していただいた夕食を頂き、今日の出来事を三人で喋りながら、頭でまとめようと努力をするのだが、注意力散漫状態。

 リリコさんに早く寝なさいと促され、お言葉に甘えて先に寝させて頂く事にした。

 毛布を頭まで被ってしばし目を瞑るが、頭の中はぐるぐると。想像していたより精神力が削られているようで。

 これでは寝れない、諦めて星空を眺めていると、誰かが覗き込んできた。

 イタズラっ子にも似た顔で見つめてくる、ルビーにも似た赤い綺麗な瞳。

 

「やーっぱり起きてたか!」

「やっぱり寝れませんでした」

「そんな気はしてた。様子を見に来て正解だったぜ」

「何なのでしょうね。写真でしか見た事がない顔、実際に会った事もない血の繋がった人、それなのに頭の中はぐちゃぐちゃに」

「見つけてまだ数時間だろ、そんなもんだって」

「そんなものでしょうか」

 

 レンジさんと会話をしつつも、未だに意識はふわふわと。

 何かを考える事もせず、星空を見上げていたら、急に毛布が捲られて誰かが入り込んでくる。

 驚いてそちらに視線を向けると、レンジさんの顔が正面に見える。

 

「今日だけは特別だ。アタシがハルトのお姉ちゃんになってやろう!」

「マジですか、お姉ちゃん」

「おう! だからよ」

 

 伸びた手に頭を抱えられ、胸元へと押し付けられる。

 大きくて、柔らかくて、暖かく、心が落ち着きを取り戻しつつある中で、眼の奥が熱を持ち、涙がこみ上げてくる。

 情けなくも大粒の涙を零しながら、レンジさんの胸元に顔を押し付ける。

 抱えられた頭をあやす様に撫でられて、それがまた心地よさを感じる。

 

「今の内に目一杯泣いて、スッキリさせてまた明日から頑張ろうぜ。なに、アタシもついてるからよ!」




怪盗団アカツキ編は、これで一区切りとなります。
アプリ版の終了告知が切っ掛けで、気が付けば全員分のちょっとした話を書いておりました。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
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