あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 if20話
カナリア自警団 その1


「はぁ……いざとなれば私が立て替えるよう伝えておくわ。それじゃまたね、ルゥルゥ」

 

 ち、ちょっと待って!? 流石にそこまでお世話になるわけには! 伝えようとする前にユーリア議員は飛行船に搭乗するため歩みを始めた。その時、マダムから声がかかる。

 

「ユーリア議員、このままお帰りになられると後悔をされるかと」

「それはどういう意味かしら? ルゥルゥ」

 

 こちらに目配りをするマダム。私ですか? 

 

「用事があるのはハルト君なの。だけど貴女がハルト君とここまで仲が良くなっているとは思いもよらなかったわ。だから引き止めたの」

「回りくどいわね、一体何があるっていうのよ?」

 

 お別れの挨拶をして再び会いましょうで終わるはずの流れが一転して不穏な空気に包まれる。

 その原因は私に関する事らしい。一体何があったのだろうか? それはマダムの口が開かれることにより判明した。

 

「イヅルマから使者がいらしているわ。現在は町長が対応してくれているのだけれど。その時に伝えられた用件はイヅルマでの震電の再調査の要望、所有者であるハルト君の議会への出頭要請よ」

「わ、私がですか!? それって何かエライ人たちの前で喋らないといけないやつですよね?」

 

 この世界に辿り着いてからそれなりの時間が経過したが、まさか証人喚問のような事を要請される身になるとは。

 彼等の言い分をそのまま受け止めるとすれば、震電の所有者が私だからという。

 アレシマで演説を聞いた後も披露した震電が、イサオさんが搭乗していた機体であると疑いを続けているのだろう。

 実際にそれは事実である。しかしこれを公表すれば話は複雑化する事は間違いない。

 そうなればイジツで曾祖叔父を探す目的がある私の旅に制限がかかる事は考えるまでもなく。マダムから聞かされた内容が頭の中をぐるぐると。

 結局のところはここで悩んでいても始まらない。イヅルマからいらしたという使者の方からお話を伺わなければ詳細は分からないのだ。

 

「ルゥルゥ、今すぐその使者に会わせなさい」

「ユーリア議員。仮にもラハマとイヅルマの話し合いの場にガドール議員である貴女が現れたらまた好き放題言われるわよ?」

「私がアレシマであの震電とイサオの関係性は無いと発言した内容を否定するような行動を起こしているのよ。話を聞く権利ぐらい私にはあるわ」

「呼び止めた私が言う事ではないのだけれど、大人しくしていて頂戴ね」

 

 マダムとユーリア議員の話し合いは一先ずついたようだ。こちらを向いて話を始めようとするマダムの表情は申し訳ないという意志が伝わる。

 

「ごめんなさいね、ハルト君。こんな事につき合わせてしまって」

「いえ! あの震電の所有者は私ですから。ですがイヅルマに震電が運ばれてしまうような事になってしまったら」

「そうね、あまり良い事にならないのは確かだわ。可能な限り私たちがそういった事態にならないよう努めるわ」

 

 マダムの憂いを帯びた表情を見つめていると罪悪感で胸が苦しくなる。ラハマに戻ってきたばかりなのに空気が重く苦しい。

 それを打ち払う様に挙手をして発言をするアレンの姿。

 

「今回は僕も同伴させてもらうから大丈夫だよ。ハルト」

「アレンも来てくれるのかい!?」

「もちろん。色々とキナ臭い感じがするしね。何より僕のお喋り相手を正当な理由なく取り上げられるのはゴメンだから。リリコも付いてきてくれるからイザという時も安心さ」

「マダムからのご命令でもあるから気にしないで」

「そうだとしてもありがとう! アレン! リリコさん!」

 

 二人が来てくれるというのは大変心強い。そうだ、まだ要求が通るわけではないのだから。

 それにこれだけの人たちが私の力になってくれると明言してくれる。これ以上、頼りになる言葉は他にあるだろうか。

 そしてもう一人この場に現れた方がいる。駐機場からこちらにやってきたのレオナさんだ。

 

「マダム、コトブキ飛行隊はどうすればよろしいでしょうか?」

「会談が終わるまで待機してもらえるかしら。これ以上は連れていけないわ。ごめんなさいね」

「いえ! 了解しました! 連絡があるまでコトブキ飛行隊は待機します!」

 

 背筋を伸ばしたままの状態で視線がこちらへ。マダムも気づき、何か伝える事があればと仕草で返す。

 

「ハルト、不安かもしれないが決して一人ではない事を忘れないように」

「はい! ありがとうございます! レオナさん!」

 

 私からの返事に頷きコトブキの皆の元へ踵を返すレオナさん。

 よし、後ろ向きに考えず頼れる人たちに甘えながらも乗り越えよう。お世話になった分は後で返していけばいいのだから。

 

 

「イヅルマ所属カナリア自警団の団長を務めておりますアコと申します!」

「同じく隊員のシノです!」

 

 町長室にいらしたのはイヅルマのカナリア自警団。白い制服に身を包み敬礼の姿勢で自己紹介をしてくださる二人に名前を告げてから頭を下げる。

 座るようにと町長から勧められ腰を下ろすが、気が付けばど真ん中に座らされている形に。

 

「いやぁー戻ってきて早々に呼び出す形になってすまないねぇハルト君」

「いえ、私の問題ですから気になさらないでください。町長」

「使者のお二人には申し訳ないのだけれど、先程の要求をもう一度喋っていただけるかしら?」

「あ、あの! 皆さんの後ろにいらっしゃる方は……」

「私の事なら気にしないでくださる? 話を聞きに来ただけだから」

 

 団長のアコさんからのご指摘も何のその。表情を一切動かすことなく鉄仮面のまま淡々と返答するユーリア議員。

 ただし圧が凄い。背中越しからでも感じ取れる程に。ピリつく場の空気と終始引き攣った表情をされている自警団のお二人。

 

「は、はい! では先程お伝えさせていただいた内容を確認の意味も含めて復唱させていただきます!」

 

 対面する形で座っていたアコさんが再び立ち上がり内容を伝えてくる。

 

「イヅルマ議会より、アレシマで行われた評議会で幾つかの疑問が残されており、それらを払拭する為にもラハマに駐機されている震電の再調査の要望と、その所有者であるハルトさんから詳細な説明をお聞きしたい為、イヅルマへの訪問をお願いに参りました」

「何よ、私の説明だけじゃ足りないわけ?」

「ひぃ! い、いえ! そうわけではないと思いますが! 私たちも命令を受けてから即飛び立つようにと言われまして……」

「そんなに怯えなくてもいいじゃない。ここに議会の連中ではなく自警団がいる時点である程度は想像できるわよ」

「ご、ご理解感謝致します」

 

 声を張り上げるわけでもなく一定の音量を保ち続けるユーリア議員の喋り方に、お二人は恐怖を掻き立てられているご様子。

 私の隣にいらっしゃるマダムも呆れ気味。町長はその間でまぁまぁと口にしながら落ち着かせるような仕草。

 

「先程も伝えたけど、ハルト君はラハマの所属という訳ではないから私に出来る事といえば、こうして場を設ける事しか出来ないんだよ」

「所属。という意味ではオウニ商会の預かりとなるわね」

「そして私の良き理解者でもあるわ」

 

 女性が二人、腕組みをしながら私にとって心強いお言葉を頂く。

 マダムのお言葉は客人であった私を食客へと格上げしていただけたという事だろうか。

 時間が経つほどユーリア議員の中で私の立場が謎の右肩上がり。始めてお会いしてからしばらくは罵倒される側だったというのに。

 

「立場の話は一旦横に置くとして。ハルトはどうしたい?」

「どうしたいかと問われてもお二人の言葉だとほぼ強制のような」

「そんなことはないよ。嫌なら嫌だと言えば終わる話さ」

 

 車椅子に座るアレンから与えられた選択肢。嫌か、そうでないか。

 

「この説明だけでは、拒否をする以外に選択肢が浮かばないのですが」

「まぁそうだよね。素直に従えば震電は調査の名目でくまなく調べ上げられて、ハルト自身もしばらくの間はイヅルマから身動きが取れなくなると思うよ」

「震電の再調査だけを許可をした場合はどうなります?」

「却下。一つ要求をのみ込んだらそのまま身ぐるみ剥がされて何も残らなくなるわよ」

「私たちは悪党でも空賊でもありません! 自警団です! そのような事は決して致しません!」

「アンタたちに文句を言っている訳ではないわよ。問題は議会の方。大方パロット社絡みで起きた事件の対応が遅れた事に批判がきて、その帳尻合わせも含めてアピールでもしたいんでしょ」

 

 前後左右と各所から聞こえる声。パロット社絡みってなんだろう? 

 疑問が浮かび聞こうか聞かまいかと考えていたその時、隣いるマダムが手を叩くことにより慌ただしい空気が静けさを取り戻す。

 

「私たちが協議をしていても仕方ない事よ。ハルト君、答えを聞かせて頂戴」

「ごめんなさい」

 

 両手を前に揃えて頭を下げる。

 その答えに深い溜息をつく自警団のお二人。彼女たちにとってもこの命令は本意ではないという事だろうか。

 

「まっそうよね。私だって同じ立場ならそう答えるわ」

「シノさん!」

「取り繕う理由が無くなったのだからいいじゃない。私たちだってこの内容を知らされた時は部長に抗議したじゃない。こうして伝えて返事が貰えただけ上出来よ」

「そう言っていただけると助かります」

「あの、やはり駄目でしょうか? ハルトさん」

「震電は先程申し上げたとおり。私自身についてはやるべき事があり、時間制限付きなのです」

「やるべき事? 時間制限?」

 

 不思議そうにオウム返しのアコさん。拒否する理由を伝えれば諦めてくれるだろうか? 喋れる事といえば家族を探しに来たと濁すぐらいだけれど。

 悩みながらも周りを見渡すと視線が合う人物がいる。しばらくそのまま目で通じ合えるのかどうかを試してみたが、彼は微笑みを返すだけであった。

 ごめん。言い訳として使わせてもらうね、アレン。

 

「車椅子に座っているアレンの足を治さなければならないのです。本当に足が動かなくなる前に」

 

 

 機能回復訓練。いわゆるリハビリと呼ばれている行動。

 おぼろげながらに思い出す訓練方法と、旅立つ前にナツオさんへ依頼し用意をしていただいた機材。

 それらを並べるにはアレンの部屋では手狭という事もあり、病院から少し広い部屋をお借りする事となった。

 アレンの前には車輪の代わりにゴムでしっかりと固定されたU型の歩行器。

 後ろには倒れ込んだ場合でも怪我をしない為にベッドが用意されている。

 その上では大人しく私の手により足へ処置を施されているアレンの姿と、処置方法を学習兼お手伝いをしてくれるケイトの姿。

 

「大勢の人たちに見つめられると照れるなぁ」

 

 気が付けば広いはずの部屋には大人数。コトブキの皆にマダムとユーリア議員。そしてカナリア自警団の二人もいる。

 

「足になんか巻いてるけど、それだけでアレンが立てるようになるの?」

「さぁ? 答えを知るのはハルトのみですわ。チカ」

「案外お酒飲ませた方が動けたりして」

「その案はいいね、実にいいよ。迅雷ちゃん」

「いい加減その呼び方はやめて!」

 

 飄々とした姿で会話を続けているアレンたち。こちらはケイトの質問や疑問に答えながらの作業。意外と身体が覚えているものだなと思う。

 

「これでアレンが再び動けるようになればケイトの心配事も減るわね」

「逆じゃないかしら? また研究の為に好き放題飛び回るでしょ?」

「ケイトも同感。しばらく大人しくして欲しい」

「だそうですよ、お兄さん」

「善処するよ。とはいえこの足が動くかどうかはハルト次第だけどね」

「そこで私に話を返しますかね。正直分かりませんよ? 本職というわけではないのですから」

「大切な妹のお願い。是非とも叶えてあげて欲しいなぁ」

 

 自分の事なのに他人事の様にそう言い放つお兄ちゃん。ケイトもそんな熱心にこちらを見つめないで欲しい。本当にどうなるか分からないのだから。

 

「あの、これで本当にアレンさんが立てるようになるのですか? ハルトさん?」

「これだけを見ていれば正直なところ、俄かに信じ難いけど」

「お二人の意見はごもっともだと思います。私だってどうなるか分かりません。けど」

「けど?」

「これだけ期待をされたら応えたくなるのも人の性。ですかね」

 

 自分で発言しておいて恥ずかしくなる。本来は誰かにお節介を焼くような人間ではないのだから。

 それでも見ず知らずの人間を向かい入れて、私の目的のお手伝いをして下さる皆さんに恩返しをしたいという想いに嘘偽りはない。

 そのことを証明する為に呑兵衛には頑張ってもらわないと。

 処置が済み、アレンを引っ張り起こしてベッドのふちまで移動させた後に背中を叩く。

 

「みんなアレンの事を心配してくれているんですよ」

「それじゃ、期待に応えないといけないね」

 

 ベッドのふちに腰掛けているアレンはU型の歩行器に手をかける。

 最初は腕の力で起き上がり処置を施した足を直立させるように手伝いをして地面と接地した事を確認。

 私に出来る事はこれぐらい。経験知識としてはあるが付け焼刃なのは言うまでもなく。後は全てアレンに任せるしかない。

 大丈夫、たとえ呑兵衛でもイジツ人。日本人とは身体能力の基礎値が違う。

 アレンの腕からゆっくりと力が抜けていく。歩行器を掴んでいた手は徐々に広がりをみせ、やがて手は歩行器から離され自分の足で立つ姿が目に映る。

 

「不思議だ。足に力を込めている感覚はないのに立っている。震えがきたりもしない。ハルト、君は魔法使いかな?」

「三十歳を過ぎればなれるみたいですよ。悪化させるとまずいからそのままベッドに倒れてください」

「もうしばらくこの高さを眺めていたいんだけど。ダメ?」

「駄目」

 

 ベッドの上からアレンの身体にしがみ付き後ろへと下げる。そのまま重なるように私の上に圧し掛かるアレン。

 よかった。無理矢理感は否めないけれどアレンの足はまだ自立歩行の可能性を残している。このまま訓練を怠らずに進めていけば近いうちに歩く事が出来るのかもしれない。

 そんな事を考えていれば部屋の中はお祭り騒ぎ。放心状態のケイトの両腕を左右から掴んで揺らす者。安堵のため息をつく大人組。何故か『当然よね』といわんばかりの者。驚きを隠しきれない二人組。

 相も変わらず重なったままの状態でアレンが話しかけてくる。

 

「ハルト、君にまた借りが出来たね」

「そういうのはいいからお礼を言って、そっちの方が嬉しい」

「あはは、君らしいね。うん、そうだね。ありがとう、ハルト」

「どういたしまして。これからはケイトの監視下による地獄の訓練が始まるだろうから覚悟してね」

「たまにはサボってもいいかな?」

「その時は呼んでくれれば連れ出すよ」

 

 本当かどうかも分からない他愛のない話。本来予定には無かったイジツでの出来事。僅かだとしても友人の手助けが出来た事は喜ばしく感じる。




愛と正義で平和を守るカナリア自警団編。のはずです。

開始早々ですが頭ドードーなのに風邪を引きました。
書き溜め分は予約投稿の設定をしておくので、更新が止まった場合はしばらくお待ち頂けると幸いです。
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