あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その2

 その日の夜。

 開催された食事会。そこに掲げられる看板は多種様々である。

 コトブキ飛行隊の任務遂行達成、アレンの回復祈願、カナリア自警団の歓迎会と大騒ぎ。

 仮設で開かれたジョニーズサルーンは人だかり。主役の一人であるアレンは、好きなだけお酒が飲めることもあり、幸せな表情を浮かべている。

 

「アレンさんの足の治療をしたのが、ハルトさんだとは思いもよりませんでした」

「マダムからアレンさんの話し相手として雇われたとは聞いていましたけど、こんな騒ぎにまで発展するなんて」

「みんな理由を見つけて騒ぎたいだけなんじゃないかな」

「あはは! それ言えてるかも!」

 

 お互いに顔を会わせながら笑い合うアンナさんとマリアさん。

 私が相手でも態度を変えず気さくに接してくださるが、これでもお二人は羽衣丸の操舵手と副操舵手である。あんなにも巨大な飛行船を操舵するなんて肝が据わっている。

 それをいってしまえば管制官として働いているアティさんにベティさんシンディさんも。羽衣丸の女性陣は大変お強い。

 

「気になっていたんですけど、ハルトさんはどうしてカウンター内で調理をしているんですか?」

「パンケーキの使者とカレーの使者から約束を守れとせがまれまして。二人とも飲み物のおかわりは如何です?」

「あ! それじゃ同じので!」

「私も!」

 

 手渡された樽ジョッキに同じ物を注ぎ入れていく。こうした作業を行っている方が性に合うのだろう、落ち着ける。

 おかわりをお二人に手渡して最後の仕上げを始める事にした。

 

 パンケーキに関してはリリコさんお手製に少しばかり材料と手順を変更していただいただけであるが、リリコさんから評価を得られたので一安心。

 カレーに関しては一晩寝かさないといけない物……とまでは言わないけれど、時間が足りない事も事実なので、日本から持ってきたレトルトで対応をする。チカ以外はカレー中毒者ではないだろうからね。

 

 今回一番手間取ったのがハンブルグサンド。なんせイジツで食べれる魚はお値段が非常に高いらしい。一般人がおいそれと食べれるものではないと。

 では、イジツのハンブルグサンドとは一体なんぞや? 話を聞く限りでは何かを揚げた物がパンズに挟められた食べ物らしい。手堅く考えれば肉だと推測出来るのだが。

 そうなるとハンブルグサンドとは名乗ってはいるけどハンバーガーなのだ。それを目指して作ればイケるのでは。駄目だろうか。

 不安に駆られつつも用意していただいた材料を使い作り上げていく。

 

 作るからにはユーハングの食感と味を再現した物にしようと思い、白身魚と触感が似ているといわれる鳥のささみから手を出す。本当は鶏がいいらしいのだが、そこまで望んでも仕方なし。

 塩胡椒を振りまいてマヨネーズで揉み揉み。衣も付けて油でじゅわーっと揚げる。いい香りが辺りを漂い始め、食いしん坊さんがこちらの作業を見つめてくるが見て見ぬふり。

 切り終えて水に浸しておいたタマネギをパンズにのせ、きつね色に揚げたささみのフライをその上に追加する。マヨネーズを一列ささっとかけて蓋をするようにして完成。

 味付けが塩胡椒とマヨネーズという素材の味しかなさそうな作りなのだけど大丈夫なのだろうか。やや不安を感じる。

 お皿にのせて形を綺麗に整えてからケイトの元へ運んでいく。

 

「ケイト。ユーハ……私の地元で食べられているハンブルグサンドをこちらの食材で再現してみたけどよかったら試食してくれる?」

「是非。一つ疑問がある」

「なに?」

「ハルトは何故、ケイトにハンブルグサンドを用意してくれたのか」

「アレンから好物だと聞いて。折角のお祝い事だから作ってみようと思ってさ。二人分も三人分の好物を作るのも大して手間は変わらないから」

 

 咽るような声と胸を叩く音が聞こえたが気にしない。

 ハンブルグサンドをのせたお皿をケイトの前に置き、空いた席にお邪魔する。

 大きな円形のテーブルにはコトブキの皆にアレンと自警団のお二人。そこへ所狭しと並べられた料理の数々。どれもが良い匂いを漂わせて胃袋を刺激する。

 何から頂こうかと考えていれば、隣にいるシノさんから話しかけられる。

 

「貴方って本当に変わっているわね。昼間は足の治療をしたかと思えば、夜はこうして誰かの為に料理をしているのだから」

「こちらでお世話になる方々へ私が出来る恩返しですから」

「会談の時から気になっていたけれど、貴方ってラハマ出身ではないようだけど?」

「物凄く辺鄙な場所で田舎暮らしですよ。おかげでこのような騒ぎを引き起こしてしまうぐらいに」

「そうよね、このタイミングで震電に搭乗して現れるぐらいですものね」

 

 からかうように笑うシノさんにつられて私も笑う。この騒ぎもきっとイサオさんの想定内なのだろう。

 でも、こうして様々な人に出会うきっかけにもなるのだから不思議なものだ。

 私の横からそっと腕が伸び、テーブルの上に置かれた物はリリコさんお手製のパンケーキ。首を動かせばご本人がいらっしゃる。

 

「キリエたちの相手も済んだのだからそれでも食べて休憩しなさい。ラハマに戻ってきてからロクに落ち着けていないでしょう?」

「言われてみれば確かに。お言葉に甘えさせてもらいますね、リリコさん」

「素直でよろしい」

 

 リリコさんからの微笑み。料理を置く為に伸ばされていた手は、私のいつもの場所に撫でる様に置かれる。よほど良い高さなのだろうか。

 折角のご褒美を冷ましては勿体ない。ナイフとフォークを使い一口サイズを作りあげて口の中へ。うん、凄く美味しい。

 テーブルを挟んで反対側にいる神妙な顔をしたキリエから意味深な視線を浴びる。あれはきっと『パンケーキいいよね……』『いい……』的な多くを語らずとも分かるだろう。私は分かっているぞアピールだ。

 実際に晩御飯の時間にお互いしてパンケーキを食べているのだから否定が出来ない。美味しい物は美味しいのだ。

 

 

「ハルトさんは、ご家族の方を探す為にラハマへ来られたという事ですか?」

 

 食事を挟みながらも自警団のお二人とも会話が進む中、私の事について話題が挙がる。

 その事について疑問を抱いたのであろうアコさんから問いが飛ぶ。

 

「そうです。本当は私ではなく曽祖父が探索を始めようとしていたのですが、諸事情がありこうなりまして」

 

 素直に穴の先からやってきましたとは言えるわけもなく、アレシマで行われたユーリア議員の演説をお借りして対応。

 その言葉を聞いたせいなのか、今度はレオナさんが神妙な顔つきで相槌を打つように頷いている。あれは何であろうか? 隣にいらっしゃるザラさんは頬を掻きながら困り顔。

 

「そうでしたか……ハルトさんの大変な時に、一方的にこちらの要望をお伝えてしまい申し訳ないです」

「いやいや! そちらもお仕事でありますでしょうから気にしないで下さい! ご期待に沿う事は難しいですが……」

「けど、チャンスなのかもしれない。意外とね」

 

 酒瓶を口に付けて好き放題飲み続けていたアレンから予想外の発言が飛ぶ。

 

「日中、あれだけ人を脅かす事を言っておいてどうしたの? アレン?」

「いやぁーお酒が入って頭が回るようになってね。一つ思いついた事があるんだ」

「一応聞いてみる」

「うんうん、人の話をきちんと聞いてから判断が出来るのはハルトの良い所だね」

「それでチャンスってどういう事なのかしら?」

「ハルトの事情は二人にも伝わったと思うけれど、彼は自分の家族を探しにここまでやってきたんだよ。それも生死不明のね」

「生存されている方を探しに来たのではないのですか!?」

「残念ながら棺桶に片足を突っ込むどころか亡くなっている可能性の方が高いのが現状ですね」

「失礼な事を聞くけど、そこまでして探す理由って何?」

 

 当事者である曽祖父なら即答出来るのだろう。けれど今ここにいるのは私。であればなんて答えればいいのだろうか。

 イサオさんが日本へとやってきた事で始まったこの騒動。それでも曽祖父にとっては蜘蛛の糸を辿る唯一の機会。

 それらを含めて考えれば、答えは一つなのかな。

 

「残された家族の為、曽祖父の為ですかね」

「家族……」

「生きていれば丸儲け。亡くなっていたとしても墓場が分かればお参りに行けるようになりますし。どちらにせよ八十年近く離れ離れだと聞かされば何とかしてあげたくなるのも曽孫の思いであります」

「……ちょっと待って。八十年って言ったわよね? ハルトの曽祖父さんっていま幾つなのよ?」

「百歳超えてからは数えてないみたいですよ」

 

 開いた口が塞がらないとはこのような光景を指すのであろうか。

 既に聞かされていた方々は『やっぱりそうだよねぇ』といった反応を示している。

 

「そんな状況なので生存は当てにせず、町を巡りながら情報を得るのが主な行動でしょうか。手詰まり気味になっていますけど」

「そこでだ、話を戻すけどこれを良い機会だと考えてイヅルマへ足を伸ばしてみたらどうだい?」

「向かう先で起きるであろうリスクはどう回避するつもりで?」

「生死不明の家族を探す為に遥々やってきた若者を議会の人間たちが政治利用の為に扱う事は、イヅルマ市民が許すであろうか? 愛と正義で平和を守る自警団が許してなるものだろうか~?」

 

 酔っ払いが芝居がかった口調でお二人に訴える。そうはいっても自警団にそんな権限はあるのだろうか? 大人しくオフコウ山を探索した方が大穴狙いになるがイヅルマへ行くよりはリスクは低いのではなかろうか? 

 私のそんな考えも他所に盛り上がりをみせる一部の界隈。

 

「カナリア自警団の団長としてハルトさんの身は、誰が相手であろうと絶対にお守りします!」

「アコがそう言うなら私は従うわ。この命令自体、怪しくて仕方ないもの。それでもハルトがイヅルマへ来てくれるなら自警団の職務を全うするまでよ」

「イヅルマへは私も同伴しよう。ハルトに関してはマダムから一任させていただいているからな」

 

 まさかのレオナさん参戦。何だろう。私以外から漂う一体感。今までにない何か熱い一体感を。

 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私以外の方に。

 どこかで見たような文面が頭を過っていく。このままだとお酒と場の雰囲気に流されてイヅルマへ行く事になりそうなのですが。

 置いてきぼりの私を差し置いて盛り上がる四人組。そこへ参加者が増えることにより始まる作戦会議。私の身の安全から始まり震電の調査回避までを練り練りし始めるほどの状況に。

 そりゃ私だってイヅルマへ行けるのであれば行ってみたい気はする。図書館があれば調べたい事は山ほどあるし、その町特有のユーハングに纏わる事も知りたいのは確か。

 だけど、このタイミングは本当にチャンスと呼べるのだろうか? 一人疑いの眼差しでアレンを見つめていると聞き慣れた声が、部屋の出入口から聞こえた。

 

「流石はハルトね! 行動が早いことは良い事よ!」

「ここでそんな台詞を聞かされましても何の事だかさっぱりなのですが、ユーリア議員」

「アレンから話は聞いたわよ。私の演説を聞いた後にこんな戯けた事を要求してくるイヅルマの連中相手に、むしろこちらから乗り込んで黙らせに行くと。大人しそうに見えてやるべき事はきっちりとやりに行くなんて私の理解者なだけあるわ!」

 

 開いた口が塞がらない。隣にいらっしゃるマダムはおでこに手を当てて呆れ果てている模様。それが普通の反応ですよね。

 

「アレン、ユーリア議員に何を言ったの?」

「もしユーリア議員のお怒りが収まらなかった場合、ハルトが切っ掛けで町同士の問題に発展してしまう可能性があったからね。そうならない為にも今回の件についてはハルトが自分自身で解決するみたいだよって伝えただけなんだけどなぁ」

「私がそんな性格だと何時何処で何時何分に判断したんだよぉ!」

 

 アレンの肩を掴み顔を近づけて叫ぶ。本来なら揺さぶってやりたいところだけどアルコールを摂取している人間にそれは危険だ。

 そのまま威嚇する様にアレンを見つめていたが、私の肩に誰かの手が置かれる。

 

「ハルト、気持ちは理解できる。もう少し力を込めても良いとケイトは提案する」

「ケイト、真剣な眼差しをしていても口の端にマヨネーズを付けたまま喋っても可愛いだけだよ」

 

 ケイトの方へ振り向き、ポケットから取り出したハンカチを渡そうとするがピクリとも動かない。この兄妹はちょっとしたところが良く似ていると思いながらそのままマヨネーズを拭い取る。

 幾度か瞬きをしてケイトが再び口を開く。

 

「だが、アレンの言うとおりチャンスでもある。この問題をハルト自身が対処出来れば震電に関する出来事にある程度の解決策となり、今後の探索活動がしやすくなるとケイトは思案する」

「後の事も視野に入れて今動けって事かな?」

 

 頷くケイト。ユーリア議員に用意してもらったシナリオに震電だけでなく私自身が現れる事で今度こそ潔白を証明する必要があると。

 正直、中身は真っ黒でなんとかグレーに薄めている状態であり、私が口を開いたら全ておじゃんになるのではないかと不安にもなる。

 ……私の頭では答えはいつまで経っても決まらない。ならば友人たちの提言を信じてイヅルマへ行こう。

 

「イヅルマへ向かいます。カナリア自警団のお二人にはもの凄くご迷惑をかけてしまいそうですが」

「それはなんていうか」

「今更って感じよね」

 

 お互いに顔を合わせて笑い合う二人。信頼し合っているのがよく分かる。

 

「ほら! 言ったとおりでしょ! ルゥルゥ!」

「……はぁ。貴女と親しくなれるだけの事はあるわね」

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