あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第7話

 翌日、ラハマ自警団より引継ぎを行った後、コトブキ飛行隊は一路、穴が出現している場所へと向かう。

 ケイトが搭乗する赤とんぼにはアレンも搭乗している。

 徒歩で移動するのであれば長い距離だが戦闘機であれば直に見えてくるだろう。

 

『行っくーぞコートブキ飛っ行ー隊 希っ望ーの朝がっ来るぅー』

 

 突然聞こえるキリエの少し音程が外れた歌声。周りを見ればまたか、といった表情。

 新作のパンケーキを食べる予定を潰され激怒していたので少々不安になっていたが、本人は相変わらずといった感じである。

 キリエの正確無比な操縦技術はコトブキでも指折りだ。その点には不安はない。ただ隊長としては再訓練で確認が出来てから仕事を任せたかったが。

 我慢が出来なくなったのかエンマがお黙りと一言。やーだよーと言い返すキリエ。この二人は幼馴染だ。これぐらいでは喧嘩にもならないだろう。

 

『迅雷ちゃんは相変わらず楽しそうだね』

『その呼び方はやめて』

『ははは、ゴメンゴメン。歌うのが駄目ならこれならどう』

 

 アレンに何か言われたのか、ケイトが隊列から外れて大空に向かっていく。

 あたしもーとチカやキリエ達まで自由に飛び始めた。

 任務中だというのに何を始めてるんだ。注意しようとした所、ザラに止められる。

 

『みんな揃って飛べるのは久しぶりじゃない。今の所は空賊の様子を見られないし、ね』

「前回と違って目標はもうすぐだというのに」

 

 頭を軽く押さえてしまうが止めても無駄だろう。

 

「命令があったら即戻る事、いいな?」

 

 はーい。と元気のいい声が返ってくる。日頃からこれだけ素直に聞いてくれると助かるのに。

 

 

『うわっ! 本当に穴がある。しかも開いてないこれ?』

『大きさはそれほどでもないけど、安定して開いてるね。さて一体なにが出てくるやら』

『キリエとチカは遊撃担当。エンマはケイトの護衛を。ケイトはアレンの指示に従って飛行をし、穴の調査を手伝ってあげてくれ。ザラは私と周囲の警戒を』

 

 了解! 威勢の良い返事が来る。

 穴はラハマ上空で見たものよりも一回り小さいのではないだろうか。

 だがまだ穴に関しては謎な部分が多い。アレンが研究をしているが現在の所、分かるのは出現位置の予測ぐらいだ。

 そしてこの穴はアレンでも予測出来なかった物。今までとは何か違う事が起きてもおかしくない。

 

『んーこんなに間近で見るのは初めてだけど、分からない事が余計に分からなくなりそうだよ』

『はぁ、それじゃダメじゃん。何か目新しそうなものはないの?』

『肉眼で確認できる範囲では特になし。開いた状態での変化も以前見かけたものと変わらず。結論、分からない』

『ケイトでも分からないんじゃ誰にも分からないんじゃない?』

『このままですと、自然消滅を見届けるのがお仕事になりそうですわね』

『本当に行き詰まったら飛び込むのも手かもね。どこに通じるかはお楽しみって所だけど』

「そんな無茶は許可できない。予定通り調査が終了次第、帰還だ」

 

 それは残念とアレンが呟く。しばしの雑談後、穴に変化が訪れる。どうやら消滅するようだ。

 

「全機、穴から距離を置け。消滅の際に何が起こるか不明だからな」

『りょうかーい……ってあら』

「どうした? ザラ」

『レオナ、私達以外の機体の音がしない?』

 

 そう言われ耳を研ぎ澄ます。ここにいるのは隼一型が五機に赤とんぼ一機。だがそれ以外に別の、聞いた事もないエンジン音が聞こえた。

 周囲を探索するが、機影らしき姿はない。地上は何一つ生えていない不毛な大地があるだけだ。

 

「キリエ! チカ!」

『ないないない! こっちは何も見当たらないよ!』

「エンマ!」

『空賊の類は見当たりませんわ!』

『穴の中』

『そうだね。穴の中から聞こえてるよ』

「ッ! 全機散開! 穴から何か来るぞ!」

『うっそマジで!?』

 

 それには私も同意見だ! 

 耳を澄ませていなければ聞こえなかったであろう、エンジン音が次第に大きくなっていく。

 そして音の元凶であろう一機の戦闘機が穴から飛び出してきた。

 

「あれは!?」

 

 機体全体が赤く染められ、独特の形状をしている戦闘機。震電であった。

 

『あの機体ってもしかしてイサオの?』

 

 皆が思っていた考えをザラが言葉にして発するよりも先にキリエが動く。その後ろを脊髄反射的反応でチカが援護に入る。

 あの戦闘機が本当にイサオの機体だとしたら非常に危険だ。

 ここにいる全員で相手をしても撃墜できるか……最悪のシナリオが頭をよぎる。

 いや、とにかく今は行動を起こさなければこの場にいる全員が危険な事になる。

 

「ケイトはラハマまで一時撤退。アレンを降機させ、機体を隼に乗り換えて再出撃。エンマはケイトの護衛として共にラハマまで同行。ケイトの乗り換えが済み次第、共に合流してくれ!」

 

 了解。と返事。だがケイトの後ろに乗っているアレンがストップをかける。

 

『ちょっと待って、あれ本当にイサオのかなぁ』

「どういう事だ?」

 

『機体と塗装は確かにイサオが搭乗していた時のに酷使しているけど、富嶽生産工場襲撃とイケスカ上空、二つの空で見かけた時とはまたエンジンが違うみたいだよ。それに操縦がふらついてる。こちらを撃墜しようとするというより……逃げ纏ってるみたい』

 

 そう言われ、視界に入る震電に再度集中する。

 イケスカ上空でキリエが被弾させた時の震電ではなく、富嶽生産工場の時にケイトが撃墜したプロペラ付きの震電だ。

 高度を上げて逃げようとしているようにも見える。だが隼一型の上昇力は他の機体と比べても軽量な為、引けを取らない。

 震電が高度到達地点まで逃げ切れるか、あるいはその前にキリエが撃墜するのか。

 キリエも撃墜させようと機銃掃射をするが避けられる。だが震電はイサオの操縦とは思えないほどおぼつかない。あれではまるで……。

 

『ねぇレオナ。あの機体に乗っている人って』

「あぁ、イサオとは思えない」

 

 だとしたらまずキリエを止めなければ話し合いも出来ないだろう。

 そう思いキリエに指示を出そうとした時、チカが何かに気づいたように叫ぶ。

 

『あーーーっ、キリエ待って! そいつのマーク、イサオのじゃなくてパンケーキだよ!』

 

 パンケーキ? と一瞬頭に疑問が残ったが、震電の機体に描かれていたマークは自由博愛連合のものでは無く、その代わりに描かれていたのはキリエの好物であるパンケーキであった。何故か片翼だけ線で消すように隠されているが。

 

「キリエ! 攻撃は中止だ、一旦距離を取れ!」

 

 そう指示を出すと応じるように距離を取り始める。チカがパンケーキと叫んだおかげで頭に上った血が落ち着いたのだろう。

 上昇し続けた震電も追撃の様子がない事を確認できたのか、水平に飛行し始める。

 よし、このタイミングでなら話し合いが始められる。ザラに私の援護をするように指示する。

 ゆっくりと震電に近づき交渉を始めようとした瞬間。どこからか無線に雑音混じりの声が聞こえる。

 

『……丈夫かい? な……かった! ハルト君に死な……ら隣のジイサンに僕も同じ所に送…………だったよ!』

「イサオ!!」

 

 その声の主は間違いなくイサオから発せられたものであった。




立飛に行ってきたよ。
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