あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その4

『ハルトさん! レオナさん! イヅルマの町が見えてきましたよ!』

 

 無線から聞こえるアコさんからの声に視線を動かす。飛行船の造船業で栄えたと言われているだけの事はあり、町の隅には幾つもの駐機場がある。造船所も含まれているのだろうか。

 

『いつ見ても圧巻する光景だな』

「レオナさんは来た事がおありで?」

『仕事で何度かな。だが、用事が済めば次の町へと移動の繰り返しだったから、ゆっくりと滞在した事はない。今回も仕事……とは余り思いたくないが、ハルトの件が無事に済んだらお二人に町を案内してもらえるのは楽しみでもある』

 

 その言葉には、照れ臭そうな思いがのせられている。でも言葉を聞いた二人は嬉しそうだ。

 自分たちの町を紹介できることを喜びで表現できるのであれば、それは素直に羨ましい。そういう意味でいえば、私が穴の先から来た事を伝えられないのは少しばかり寂しい。

 

 

 アコさんからの指示に従い指定された駐機場へと着陸を行う。

 震電において着陸とは大変細かな作業が必要である。今更言うまでもなくお尻が大きい子であり、それ故に重心が後ろに下がり気味。プロペラを破損させないよう機体を水平を保ちつつ速度を落とさなければならない。

 隼一型から転換訓練を受けた際に散々言われた注意事項を何度も繰り返して思い出す。地上と接地した事を計器で確認、身体でも感じ、押し付けるように機首を動かす。

 静止距離はどうしても他の人たちよりも長くなってしまう。これは機体の問題というよりも操縦者の技能が未熟なのが原因。

 この旅の目的を無事に終える事が出来たら真面目に考えよう。イジツに来る前の限られた時間で空を飛ぶことと降りることが出来るようになったとはいえ、周りの人たちから見れば不安を覚える光景だろうから。

 

 指定された格納庫の場所まである程度近づいたところで指示が出る。エンジンを切り、全身を座席の背もたれに委ねる形になってようやく一息つくことができた。

 操縦席から見える三つの人影。一人はアコさんやシノさんと同じ制服を着ているのでカナリア自警団の隊員であろう。もう一人は幼い男の子といった印象を受ける。

 そして三人目、底の厚そうな丸眼鏡をかけており、口周りは髭で覆われているご老人の姿。この方が震電の調査に携わる責任者なのだろうか。

 風防を開けて立ち上がろうとするが、静止するよう合図を出される。

 

「そのまま乗っておれ。いまから押して格納庫に入れるからな」

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 言われたとおりそのまま操縦席に。ゆっくりとだが押される事で動き出す震電。指示に従い機体の操作をしていく。そして機体は無事格納庫の中へと収められてた。

 冷静に考えると三人で震電を押しているの? 改めて思うけれどイジツ人ってやばくない? アレシマでイナーシャハンドルを回した私が言う台詞じゃないかもしれないけどさ。

 

 

 自警団の方に荷物下しを手伝っていただいた後、慎重に操縦席から降りる。これがまた結構な高さでおっかない。主翼の根本辺りは乗っても平気みたいなのだけど、今回は降りるだけなのでぶら下がりながら。搭乗する時は流石にはしごが欲しいけどね。

 

「貴方がハルトさんでよろしいですか?」

「はい、間違いありません」

「自分はカナリア自警団所属のリッタと申します! こっちにいるのは弟弟子のハヤトです! そしてこちらにいらっしゃるのは私の師匠でありますジノリさんです!」

「ハヤトです! よろしくお願いします!」

「ジノリじゃ。この馬鹿弟子どもには師匠などと呼ばれとるよ」

「もう! 師匠は何時になったら馬鹿弟子呼ばわりを止めてくれるんですか!」

「尻が青いうちはまだまだじゃな」

 

 もう! と怒りながらも表情は嬉しそうなリッタさんを見ていれば、師弟関係は良好のようでなによりだ。

 

「遅れてすみません! みなさん自己紹介は済みましたでしょうか?」

「団長! シノさん! いましがた終えたばかりですよ! って団長の後ろにいらっしゃるのはコトブキ飛行隊の隊長さんじゃないですか!?」

「そう畏まらないでくれ。えっと……」

 

 シノさんがフォローするようにこの場にいる人物の名前をレオナさんに伝えていく。

 

「では、レオナさんはハルトさんの護衛のような形でいらしたという事ですか?」

「そのようなものだ。私の雇い主であるマダムからの命令と、私個人の要望でここにいる」

「アレシマでガドールの高飛車が震電について説明をしていたんじゃ。オウニ商会とも繋がりがあるのは一目瞭然じゃな」

「にも関わらずイヅルマ議会から震電の所有者へ突然の訪問要請。一体どうなっているのかしらね……」

「それについては団長たちが留守の間、エルさんが色々と調べてくれましたよ! 戻って話を聞いてみましょうよ!」

「エルが!? 分かりました。一度自警団の詰所に戻って情報を整理しましょう!」

「賛成よ。ただジノリさんに聞いておきたい事があるわ」

「なんじゃい。これがイサオの震電かどうかって話しか?」

「そうよ、見て思った事を教えて欲しいわ」

 

 シノさんからの言葉を聞き、顎髭を触りながら思考に耽るジノリさんの姿。私の心中は気が気でない状態。

 

「調査も何もしていないから確証はない。イサオが搭乗していた震電かと言われれば違うと答える。だが、幾つか疑問は残るところもある」

「疑問って何かしら?」

「発動機じゃよ。元々震電に搭載されていたとされる発動機とは全くの別物じゃ。ここへ降り立つ前から震電から聞こえていた発動機の音は、他の機体も含めて聞いた事もない。小僧、これをどこで手に入れたんじゃ?」

「辺鄙な田舎暮らしをしていたらたまたま手に入れた物だと曽祖父から聞きましたが」

「ならその辺りの話をうまく誤魔化すんじゃな。これ以上の面倒事は避けたいじゃろ?」

 

 おっかないと思い込んでいたご老人から助言を頂いてしまう。真実を伝えられない事が心にチクチク。

 

「一先ず情報を共有する為に全員で集まりましょう! ハルトさん、レオナさん、一緒に自警団まで来ていただけますか?」

「了解した。現状確認は大切だからな」

「私も了解しました。むしろお願いします。一人にされると何が起こるか分からないので一緒に居させてください」

 

 私の情けない要望に皆さんの表情が緩まる。呼ばれた理由も含めてイヅルマで一人ぼっちにされるのは流石に怖いのである。

 

 

 イヅルマ。

 前もってレオナさんから聞かされていた、穴からもたらされた飛行船の技術によってイジツでも指折りの造船業として栄えている町。

 人の数も多く活気に溢れている反面、荒くれ……というのは適切ではない。ちょいとばかりガタイのよい男性の姿をよく見かける。

 

「すみません。本来なら直ぐにでも町を案内したいところなのですが」

「気にしないでくれ。全てが終わってからでも遅くはないさ」

 

 レオナさんに賛同するように頷く。観光ができる機会があるのならゆっくりと周りたいもんね。

 申し訳なさそうな顔をしつつ、アコさんの歩みは止まる事なく自警団があると思われる方向へと進んでいく。

 そして一つの建物の前で歩みは止まり、一緒に建物の中へ入るようにと声がかかる。

 いくつかの扉を通り過ぎた後、一つの部屋へと案内された。

 

「ただいま戻りました!」

「お姉様!! ご無事で何よりです!」

「アコ、シノさん、お帰りなさい」

「ただいま。色々とあったけれど議会の命令通り、震電とその所有者に来ていただく事ができたわ。あくまで協力って姿勢でね」

「その意味も兼ねてラハマからコトブキ飛行隊のレオナさんにもお越しいただけました!」

「オウニ商会所属コトブキ飛行隊隊長のレオナだ。しばらく世話になる」

「まぁ! それなら歓迎会を開かないと!」

 

 こちらが嬉しくなる言葉を発言をするエルと呼ばれた女性。

 自警団の制服を身に纏い、穏やかな微笑みを配る。艶やかな金色の髪は腰の辺りまで伸びており、温和で気品に満ち溢れる雰囲気をお持ちのお方だ。

 それ以上に気になるのが制服の上からでも分かる気高き双丘。制服の上からでも分かる母なる大地の恵みと癒しはそれだけにとどまらず、エルさんが両手の指先を首元の辺りで組む仕草のおかげで気高き双丘は両腕に挟まれる事により、一つの形へと変貌を遂げる。

 大地の勝手気ままな行動により呼び起こされた天変地異。制服の一部は双丘の間へと吸い込まれていき、辺りは一転して地獄となる。

 これが正統派の地力。肌色成分を一切見せることなく魅せつける色気と母性、そして自身を包み込む制服を利用してしまうほど無慈悲な力。なんとか殺しとはこういう事を言うのか。自警団の愛はここにあり。

 

「あれ? ヘレンさんはどこへ? 集合するようにって連絡を入れておいたはずですが」

「んぁ……お帰り……」

「あっ! ただいまです! ってまたそこで寝ていたんですか! 今日は来客者がいらっしゃるんですからきちんと身支度を整えてください!」

「ふぁーい……」

 

 ソファからむくりと起き上がってきた一人の女性。ふわふわとした長い緑色の髪には可愛らしいリボンが付けられている。

 寝るために制服のボタンを外していたのだろう。自警団の制服を着崩し、スカートの深いスリットからは綺麗なおみ足が垣間見ることが出来る。

 スラっとした足からふとももへの黄金ライン。本来ならばこの光景だけでも私の心は激しく舞い踊る。

 だが、そうならない理由がある。ヘレンと呼ばれたこの女性からは恥じらいを感じ取れない。この姿が彼女にとって自然体であり、ありのままの姿なのだろう。そう、それで終わればよかったのだ。

 ヘレンさんが軽く欠伸をしたあと、硬直した身体をほぐすかのように両手を上げて伸ばす。その際に私は見てしまったのだ。幼き頃、決して直接見つめてはならないと言われていた太陽の存在を。

 横から見ても分かる存在感。制服の下に身に着けている布を邪魔だと言わんばかりに主張するその丸み。脇からそっと光を照らす肌色は熱を帯び、腕を通じて指先へ。解き放たれるのは太陽の恵み。

 

 ひーじぃ。イジツの母なる大地と太陽の恵みは私には眩しすぎたよ。気が付けば私の頭は項垂れ、目を瞑っていた。

 その様子を不審げに見ていたリッタさんから声がかかる。

 

「ハルトさん、急に項垂れてどうしたんですか?」

「見ないふりをするのも人生にとって必要なんだなと」

「あー……私たちからすれば日常風景ですけど普通は違いますもんね……」

「察していただけて何よりです」

「でも、安心しました! ヘレンさんのだらしない姿をジーっと見つめる人だったらどうしてやろうかと思っていたので!」

「リッタさんも結構過激ですよね!?」

 

 両手を顔の前に出し、指をわきわきと動かすその姿。その愛らしい動きから推測するにくすぐり攻撃でも仕掛けてようと企んでいたのだろうか。

 

「ハルトさんからは、何やらフッチと似た気配を感じますよ!」

「フッチ?」

「私の弟です! 何度殺しても悪戯を止めない悪ガキですよ!」

 

 素敵な笑顔と、にひひーという声が聞こえる。兄妹のお姉ちゃんでしたか。

 となると、姉が弟を殺すという表現と悪ガキという言葉。絶対にくすぐりなんてヤワな攻撃ではない事だけは確かだ。イヅルマへ滞在中の間はいつも以上に気を引き締めなければ。

 

 

 私が夢と希望と他人の身体的特徴に視界と思考を奪われ自己嫌悪に陥っているその間に、アコさんとシノさんは部長と呼ばれる方へ今回の任務について報告をしているようだ。

 エルさんに『腰を下ろしてお待ちください』と言われるがままに先程までヘレンさんが寝転んでいたソファへと案内をされる。

 何故かヘレンさんがそのまま端に座ったままでいらっしゃり、ポンポンとした手つきでここへ座るように仕草を送ってくる。

 少しばかりの気恥ずかしさを感じつつもお邪魔させてもらうことにし、私の隣にレオナさんが座る。最近は何故か中央に座らされる事が多いとか考えながら。

 

 エルさんから差し出された紅茶を口にし、レオナさんと自警団の方々と会話をしているところへ、一人の男性が近寄ってくる。

 制服の上からでも分かる恰幅の良い体格、口には立派なお鬚が蓄えられている。アコさんたちからは部長と呼ばれている方だ。

 

「ラハマから遥々お越しいただきありがとうございます。イヅルマ航空自警団で部長を務めておりますアルバートと申します」

「これはご丁寧に。オウニ商会所属コトブキ飛行隊で隊長を務めているレオナだ。そしてこちらが今回イヅルマ議会からの要請にご協力していただくこととなる」

「ハルトと申します。よろしくお願い致します」

 

 私の頭がペコペコと下がるのは先祖代々の遺伝なので仕方ないのである。

 

「お二人は現在のイヅルマの状況についてご存じでしょうか?」

「いや、一時町が封鎖される程の事件が起きていたとしか」

「私は元々辺鄙なところから来たので何も」

「では、私どもの恥を晒す話になりますが、よければ聞いてもらえますかな?」

 

 何の事だろうか。レオナさんと顔を合わせ、同時に頷づき、部長さんの話に耳を傾ける事となった。

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