あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その5

 イヅルマで起きた出来事。それは、ラハマでユーリア議員の口から耳にしたパロット社から始まる一連の事件に纏わる話であった。

 この町にもなかなか強欲な有権者たちがいらっしゃったようで、裏から町を実質的に支配をしていた。

 その強欲な有権者たちは、イヅルマを栄える機会となったあるモノを手に入れて独占したいと考えていた。

 私の旅が始まった理由でもあるモノ。それは穴である。

 その為には自分たちの都合のよい駒として利用する為、自警団の上層部にも首輪が付けられる事となり、これが原因で自警団員が亡くなる事件が発生する。

 この事件を境に自警団から離脱する者もいた。その中の一人がパロット社の社長であったウタカと呼ばれる人であり、イヅルマを巻き込んだ騒動の実行者でもある。

 

「イヅルマにも穴が開いていたのか!?」

「はい。とはいっても突如現れた濃い雲に阻まれて視認する事は出来なかったんですけどね」

「突然無線が通じなくなるし、あの時は焦ったわよ」

「その雲もあっという間に消えていったもんね~」

 

 その空にいたであろう三人が状況を語る。

 話を聞いていると穴は不完全なモノだったのではないかというのが一つ。

 もう一つが行方不明となられているアコさんのお父様が搭乗していたとされる機体を見たというアコさんの証言。

 その場に出現したであろう穴が開いていたのか、不完全だったのかは誰にも分からない。だが事件はウタカを捕まえる事により終わりを告げ、ウタカ自身はイヅルマに悪習をもたらしていた有権者たちを白日の元に晒すことに成功した。

 

 しかしこれで話が終われば苦労はせず、物語は次の舞台へと移る事となる。

 町を守る為にあるはずの議会に市民の目は厳しく、古くからいる議員と若手議員の間では新しいイヅルマの有り方について連日討論が続く日々。

 そしてその厳しい目は自警団にも。

 

 自警団上層部が関わりを持っていた事に加えて、それを暴く為に自警団の範疇を超える行動を取ってしまったカナリア自警団には、一部の人たちから批判の声もあったようで。

 それでも彼女たちは自分たちの行動に悔いは無いようだ。

 市民の皆さんから信頼を取り戻す為、日々任務と活動を続けていた矢先の出来事が今に繋がる。

 

「ユーリア議員には、あの様に言っていただけましたけど、私たちにも非がある事は確かなのです」

「そうは言うけれど、あの時アコが行動を起こさなければイヅルマはどうなっていたか分からなかったわ」

「そうよ、アコ。それにカナリア自警団はみんなアコを信じて行動をしたのだから」

「お姉様ならきっとやり遂げてくれると私は信じていました!」

「自分もです! 団長についていけばきっと解決できると!」

「団長が私を必要だって言ってくれたから~」

 

 カナリア自警団の団結力を見せつけられる。お互いを信じ合い、お互いの為に行動を起こせる勇気のある人たち。

 隣にいるレオナさんの瞳が緩みかけているのは、何かしら共感を得る部分があったのだろうか。そっとハンカチを手渡す。

 

 しかし、ここに来て再び穴の問題に遭遇する事になろうとは。小さくて短い時間のモノであればそれなりに出現するとはイサオさんからも含めて聞かされていたけれど。

 しかもアコさんはご家族でいらっしゃるお父様が穴が原因で行方不明になられている状態という。

 もし、本当に穴の先へ向かわれてしまったのならば、その穴の先が私の知る世界へと繋がっているのであれば。そんな余計なお節介が浮いたり沈んだり。自分の目的すら達成出来ていないというのに。

 

「あ、あのハルトさん? 私はお父さんは必ず生きていると信じていますので、そんなに暗い顔をなさらないでください」

「すみません。他人事の様には思えなくてつい。私もアコさんのお父様は無事でいらしていると信じておりますよ」

「ありがとうございます! ハルトさん!」

 

 少しだけ話から脱線をする事を考えていたとは言いにくく、誤魔化してしまった。それでも無事でいられることを信じているのは本心に違いはない。

 こちらに向けられたアコさんの無垢な笑顔。短めに整えられた赤色の髪がサラりと動く。

 他の団員たちとは違い動きやすさを重点においているのか、制服にショートパンツを着用している。おかげで綺麗なおみ足が丸見えでございます。

 団員たちにも慕われており、まさに団長として相応しい人物なのだろう。時折、悪意のない言葉が放たれるのは……ご愛敬なのかな。

 

「本日お越しいただいたにも関わらず、ずいぶんと長話をしてしまいましたな。今日はこのぐらいで終わりにしましょう。議会には私の方から連絡を入れておきます」

「よろしくお願い致します」

「ところでお二人は、本日はどこへお泊りになられる予定で?」

「急な事もあり特に決めてはいないんだ。町のどこかで空いている宿があればいいのだが」

 

 イヅルマへ行く事が決まってから一晩明けての行動。宿を決める時間も無く、気が付けば空に浮かぶ太陽は沈み、辺りは既に夜の景色。

 そこへアコさんから提案される。

 

「それでしたら私たちの寮で良ければお部屋を用意させていただきますよ!」

「いや! 流石にそこまで面倒をかけてしまうわけにはいかない!」

「ですが、ご協力していただけるハルトさんとその護衛に携わるレオナさんを町の宿に泊まらせるというのも警備上の問題がありまして……」

「自警団としてお願いの意味も含まれていますから、考えてはいただけませんか?」

 

 エルさんの言葉に腕を組んで悩み始めるレオナさん。貸し借りが苦手な人だから色々と葛藤があるのだろう。

 私にも一つ問題が。その寮は私が踏み込んでもよい場所なのだろうか。カナリア自警団だけでも女性が六人いらっしゃる。つまりは女性寮ではないかと。

 今聞かないで後々騒動になるのもゴメン被るので手を挙げて聞いてみる事にしよう。

 

「すみません。その場合、私も寮へお邪魔させていただく事になるのでしょうか?」

「もちろんです! エルが言っていたように歓迎会も行いたい事ですし!」

「それは大変嬉しいのですが一つ気になる点がありまして」

「気になる点? 何かありましたか? ハルトさん?」

「私まで女子寮へ連れて行こうとは考えていませんよね?」

 

『あっ』何かに気が付いたと言わんばかりの空気が当りを包む。

 

「よく考えてみたらハルトさんってお名前は……」

「小柄で髪も長いとはいえ冷静に考えてみればそうよね……」

「でも温厚そうな方ですし、寮の決まりを守っていただければ大丈夫ですよ」

「わ、私は不安です……」

「ミントさんが不安になる理由ってあるんですかね……。まぁイザとなれば自分が弟と同じ目に遭わせてあげますから!」

「zzz」

 

 賛成が一と反対が一、そして眠りについている方がいる。こればかりは流されてたまるものか。女子寮でお世話になるのは文字通り世界が違い過ぎて胃にまで穴が開きそうだ。

 首を横に振り拒否の態度を示す。

 

「世間からの目が厳しい時に、取るべき行動ではないと思うぞ?」

「レオナさんに激しく同意。私も気疲れして明日以降の行動に支障をきたすことになりそうですので」

「まぁそうですよねぇ……」

「ハルトの護衛であれば元より私の仕事だ。気持ちだけ有難く受け取っておくよ」

 

 隊長と団長の間でしばし話し合い。

 聞こえてくる内容によれば、どうやら町の中を移動する際には自警団から一名同伴させて欲しいとのこと。

 彼女たちの立場から考えれば見張りの意味も勿論含まれているだろう。それでも先程聞かされたイヅルマで起きた一連の出来事を包み隠さず教えていただいたこともあり、純粋に自警団としての任務を全うしたいという気持ちがあると信じたい。疑い始めるとキリがないから。

 

「それでは行きましょうか! ハルトさん! レオナさん!」

「よろしく頼む」

「どこへ行かれるので?」

「話を聞いていなかったのか? アコに我々が世話になる宿を案内してもらうことになったんだ」

「大丈夫ですよ! ハルトさんがおっちょこちょいなのは何となく察していましたから!」

 

 めり込んでいた言葉の槍が奥深くへと押し込まれる。そう、純粋なだけで悪意はないはずだから。シノさんを含め同情的な視線をいただく。言葉を放った張本人はそんな視線も露知らず。

 

「無事に話も決まりました事ですし! 本日のカナリア自警団の業務は終了です! みなさんお疲れ様でした!」

『お疲れ様でした!!』

 

 

「こっちですよ! ハルトさん! レオナさん!」

 

 宿へ直行するのかと思えば、少しだけ寄り道をさせて欲しいとアコさんからのお願い。

『何かあるのか?』とレオナさんが問い返すも『着くまで秘密です!』と言われてしまい、二人して頭を傾げながらアコさんの後ろをついて行く。

 外灯が灯された石畳の道を歩き、辿り着いた先は広場。ここが町の中心地であり、街中で迷った場合はここを目印にすれば一先ず安心と教えられた。

 

「私がお二人に見せたかったのは広場から見える景色です!」

 

 辺りを一望するように見渡す。広場を中心に各方面へ続く道があり、建物からは光が漏れる。

 道先には駐機している飛行船の姿と係留柱。その先端から光が灯る。他の道先には造船中と思しき骨組み姿の飛行船も見受けられた。

 ラハマとは、また別の世界を感じられ、これがイヅルマの世界であり日常風景なのだろう。レオナさん共々感服の思いに浸かり、自然と溜息が漏れていた。

 

「これは凄いな」

「夜限定の景色って感じですね」

「はい! 日中は市民の皆様が外出していらっしゃいますからゆっくりと見る事が出来ないんです。その光景も私は好きなんですけどね」

「今回はたまたま夜景を見る時間だったと?」

「そのとおりです! 夜なので周りは暗くて当たり前なのですが、所々から人のいる気配を感じられる光が見える夜景も私は大好きなんです!」

「確かに。誰かが居てくれるという安心感は代えがたいものがあるな」

「それに私の両親が守ってくれていた町、私が守る町と考えると愛着が沸くといいますか……えへへ」

「帰る場所があるというのは素晴らしい事だ。その場所を守る職務についているのなら尚更だろう」

 

 レオナさんは、羨ましそうにアコさんを見つめている。

 私の帰る場所は決まっている。けれどイジツに来てから一つ増えた。そしてこの町もそうなると良いなと、素晴らしい景色と照れ臭そうにしているアコさんの姿を見て思ったのだ。

 

 

「それでは、私はこれで失礼しますね! おやすみなさい! また明日です!」

「ありがとう、アコ。おやすみ」

「また明日もよろしくです」

 

 敬礼をして去っていくアコさんの後ろ姿。自警団でもない自分が敬礼で返すのも失礼だと思い、姿が見えなくなるまで手を振っていたり。

 宿の紹介から手続きから始まり自警団のお墨付きの方だと紹介してもらえ至れり尽くせり。宿の主人の表情を見ていれば、にこやかな笑顔。日々の活動の積み重ねを見ていた人たちは事件の一つや二つでは信用は揺るがないのだ。

 

 案内をされた部屋で荷下ろし。それほどの量は持ち運んでいないので対して時間もかからずに終わる。

 どちらかといえば、この後に行われるレオナさんとの話し合いだ。

 コンコンと控えめに扉の叩く音。小さめな声で返事をし、扉を開けるとレオナさんがいらした。両手にはお盆に乗せられた食事まで。

 

「主人から夕食の事を聞かれてな。まだだと答えたら残り物でよければ食べてくれと言われて持ってきた」

「そう言われてみれば、昼食も取る暇がありませんでしたね。ありがたいことです」

「自警団には、昔から世話になっているからと主人から聞かされてな。断りきれなかったよ」

 

 苦笑い気味なレオナさん。ご年配の方であれば人一倍気になさる方もいらっしゃいますよね。

 部屋の中へと案内し、付属されている丸いテーブルへと食事を置いてもらった。

 

「折角いただいた食事だ。暖かいうちに頂いてから今日の事を振り返るとしよう」

「賛成です。いただきます」

 

 両手を合わせてからそう呟く。お盆にのせられた食器の上には色々な食べ物がのせられている。

 パンから始まり暖かなスープ。中途半端に千切れた葉っぱ類から唐揚げにジャガイモまで。ここら辺がご主人曰く残り物の部分なのだろう。

 それでも空腹には耐え難い匂い、口に含めば美味しさが広がる。

 自警団の皆様の第一印象から先程アコさんに見せていただいた夜景の話まで、話題は尽きる事無く食事が終わる。

 

 ごちそうさまでした。水を一口飲み落ち着いたところで話は本題に入ることになる。

 

「イヅルマでも穴が開いていた可能性があったとは」

「驚きですね。それもこの町の有権者たちが独占を企んでいたとも」

「あのような考えを持つ者がイサオ以外にもいたとはな……」

 

 レオナさんからすればイサオさんの野望を打ち砕く事に成功した事で、コトブキ飛行隊の実力は証明され、名誉を得た。

 だが、現状はイサオさんがイジツから消えた事により空賊が活発化。治安悪化の一方である。

 そこへ今回の出来事を聞かされてしまえば、コトブキの隊長として何か思う事があるのかもしれない。それについて私が何かを言える立場では無いことも。だけどこれは伝えておこう。

 

「イジツに来る前に、イサオさんは自分か消えた後のイジツは闇鍋だと例えていました」

「イサオが?」

「自分以外の人間が成り上がる最大のチャンスではないかとも。実際に空賊も活発化し始めていると聞いて、イジツの各所で綻びが見え始めているようにも感じられます」

「確かに。あの騒動が終わりを告げた後も飛行隊としての仕事は増える一方だ」

「この闇鍋はいつしか爆発するとイサオさんの執事さんとお会いさせていただいた時に仰っていらっしゃいました」

 

 レオナさんが神妙な顔をしたまま黙っている。自分たちが命懸けで阻止した出来事が他の者たちも企んでいた事、巨悪の根源を叩いたはずなのに収まる事を知らないイジツの治安悪化。どうしたって考えてしまうものだと思う。

 このままだと重たい空気のまま進行せざるおえない。少しだけ話の舵を切ろう。

 

「アレンが私をけしかけてイヅルマへ向かわせたのは、こういう事が各地で起きていると伝えたかったのかもしれません」

「町ごとに穴の研究は進められおり、穴から恩威を受け取る為に独占をしようと?」

「全てが全てとは思いたくはありませんが、そういう一面もあるよと」

 

 お互いに項垂れて溜息。一つを超えればまた一つの問題が浮き彫りとなる。

 

「とはいえ、考え始めたら本当にイジツ全体の問題となってしまいます。これは私たちだけで何かを出来る範疇では無いかと」

「そうだな。まずは自分の出来る事を確実にこなしていくのが一番なのだろう」

「私もそう思います。という事で暗い話は止めにしましょ!」

 

 控えめな手拍子でこの話はおしまい。考えてもキリがないからね。

 レオナさんも顔を手で覆い、軽く頬を叩いて気持ちを切り替えた様子。

 

「自警団の話を聞いていて気になる事が」

「アコの父親の話だな。突如開いたであろう穴に飛び込む形になりイジツから消え去ったと」

「これがもし私の世界へ繋がっていれば……と考えてしまうのは変でしょうか?」

「いいや、ハルトらしいなと思う。だがハルトにも目的がある。それを達成するまでは自身が穴の先からやってきた事は伝えない方が良い。下手な希望は時として人を傷つけるだけだ」

「同感です。イジツの出来事であればついでに……という言い方も失礼ですが、ユーハングとなると捜索規模が広すぎて難しいの一言です」

「結局、自分の手の届く範囲が限界なのだろうな」

「それでも先へと進まなければ、ですよね?」

「あぁ、その中には私たちでなければ救えない事もあるはずだ。腐っている暇はないさ」

 

 決意を新たに今できる事を精一杯頑張ろう。そう誓うのであった。

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