あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その7

 私の言葉を信じてもらえるか、信じてもらえないか。それはまた別の問題として。

 目の前には、私が搭乗してきた震電の機体。イヅルマへ辿り着いてから格納庫に仕舞われ、丁重に扱われているようだ。議会からすれば重要な証拠品となりうる機体だからか。

 

「いやはや、生きてるうちにこんな機体を見ることになろうとはね」

「もう少し丁重に触らんか、ババア」

「私ほど機体を優しく扱う人間は他にいないわい、ジジイ」

 

 あの後、議長さんが震電を直接見たいとの要望に応えるため、格納庫まで足を運んだ。

 その際に格納庫にいらしたジノリさんと出会うことで始まる口喧嘩。というよりもじゃれ合いかな。二人の間をハヤトさんが困り顔で右往左往としている。

 

「アコさん、あのお二人はお知り合いで?」

「そのようですね……私も初めて知ってびっくりしています」

 

 震電の機体をぐるりと周りながら尚も機体に触り続ける議長さんに対してジノリさんが抗議の声を挙げる。

 それはまるで大切なおもちゃを好き放題にされている子供の抗議にも見えてしまう。

 

「あらあら、あの様子だとお二人の付き合いは長そうね」

「口喧嘩をしているようにしか見えないのだが……」

「喧嘩するほど仲が良いって事ですよ。多分」

 

 これはもうしばらく経過を観察する他なさそうである。

 

 

「あの騒動以降、噂として聞いちゃいたが、本当に後ろにプロペラがあるとはねぇ」

「ユーハングがまだイジツに居た時ですら製造はされず、設計図のままだった機体をイサオは作り上げたんじゃ。その熱意だけは羨ましいわい」

「それは技術者としての本音かね。実際に使用された側はたまったものじゃなかっただろう?」

 

 議長は私の後ろにいるレオナさんに向けて言い放つ。なんとも言いようがないといった感じの表情をしているレオナさん。

 

「それじゃ再度確認だよ。この震電はイサオの機体ではないんだね?」

「見れば分かるじゃろうに。鷹の目と呼ばれたその目もついに耄碌しおったか」

「ハッ、私は外見じゃなくて中身で信じるタイプなのさ」

「よく言うわい。機体後方、発動機が搭載されている部分をよく見るんじゃな。本来であれば震電の形体を見れば空冷の発動機が使われていたんじゃろうが、この機体はまるで飛燕のようなじゃ」

 

 ジノリさんが議長に向けて説明をしている最中、時折こちらに視線を向けてくる。

 

「コヤツから詳細な説明を受ける前でも分かる。空冷式の機体を液冷に転換しおった。そしてこの発動機は異質じゃ。ユーハングともイジツとも受け取れぬ違和感を感じて仕方ない」

「ハルトや、この機体を用意し、改修を施したのはお前さんの家族なんかい?」

「そうです。技術者である曽祖父が本来であれば自分で探索の旅に出る為に用意した機体です」

「その曽祖父とやらの名前を聞いても?」

 

 曽祖父の名前。私にとっては馴染み深い名前であるのだが、いかんせんガッチガチの日本人名である。イジツに居た頃のユーハングを知っていそうな年代の議長に教えた場合、疑われるのではないかと。

 せめてユーハングと関わり合いのあったイジツ人辺りで話を収めたいところではあるが、直ぐに思い浮かぶのは名字ぐらいだ。誤魔化せるかな? 

 

「えっとシキモリと言います」

「シキモリ? こういっちゃなんだが変わった名前だねぇ」

「何でもユーハングがまだイジツに居た頃に関わり合いがあったらしく、その時に名前分けをしてもらったと聞かされています」

 

 何かを突っ込まれるぐらいなら先にこちらから仕掛ければいけるかな? 嘘の中にほんの僅かに本当の事を言うと真実味が出るとかなんとか。

 周りの反応を見れば特に問題なさそうに見えるのだが、レオナさんまでそうなのかって表情をされているのが少し不安である。演技だと思いたい。

 それでも無事にやり過ごせた。その考えが甘いとも露知らず。

 

「その名前、何かが引っかかるな」

「は、はぁ。まぁ本人もユーハングの人たちと交流出来た事を今も自慢げに喋るぐらいですし」

「そうではないのだが……あぁもう時間切れか」

 

 ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する議長。気が付けばお昼も近い。

 

「残念ながらこの話の続きはまた今度聞かせてもらうさね。ハルト、明日からアンタも議会に登壇してもらう事になるから覚悟しておきな」

「はい! と言われましても何を喋れば良いのやら」

「聞かれた事を素直に答えればいいさ、それに……」

「それに?」

「未だイヅルマに蔓延る膿を吐き出す絶好の機会になりそうで私は楽しみだよ」

 

 高笑いをしながら格納庫から出ていかれる議長。あの人怖い。

 その姿を溜息を吐き出しながら見送るジノリさんの愚痴に近い独り言。

 

「まったく、久しぶりに会ったかと思えば何一つ変わらん」

「昔からあのような感じの方なのですか? ジノリさん」

「何一つ変わらんよ。アコはあぁならんでくれよ」

 

 疲れたわい。そう言い残してジノリさんとそれを追いかけるようにハヤトさんも格納庫から出ていかれた。

 

「この震電。議会の方々はどうなさるおつもりなのかしら」

「どうしてもイサオと同じ機体だと通したい方もいらっしゃるようですけど……」

「イザとなれば私も証言に加わろう。あの空でイサオの搭乗する震電と対峙しているからな」

「でもあの議長の口ぶりだと、まるで泳がせろと言わんばかりの台詞にも聞こえたのですが」

 

 事の発端は、アレシマでユーリア議員の説明を無視してまで、この震電がイサオさんの機体であると実物を見せても信じ切り、私を呼び出したという事。

 呼び出した人達がエンジンを換装させた姿を見て見ぬふりをしているのか、そもそもイサオさんが搭乗していた時の震電を知らないだけなのか。

 私が議会にお呼ばれするまで一日残されている。何を求められ、何を行えばよいのか。考えるにはまだ時間が残されているのが幸いだ。

 

 

「それが何でいま私は空の上に居るんですかね!?」

『当たり前でしょう! 今回の事が無事に済んでもハルトの旅は続くのだから、変な所で死なない為にも今のうちに私が訓練してあげないと!』

 

 突如として始まるシノさんの熱い教育。それもこれも食堂での出来事が原因である。

 

 あの後、お昼が近い事もあり食堂へと案内されたところ、警備に出掛けていた団員の方々が戻られた。

 丁度いいからと交流会の意味も含めて皆さんと食堂でご飯をいただく事になったのだが……。

 

「はい、ハルトさん。あーん」

「あ、あーん?」

「あら、もしかしてハルト君と呼んだ方がよかったかしら?」

「そういう問題ではないと思いますが」

 

 隣に座られたエルさん。食堂には無い豪華なランチが並ぶ中、どれも美味しそうだと眺めていたら始まる餌付けタイム。

 当初は上記のとおりお断りをさせていただいたのだが『私、悲しいわ』と言わんばかりの仕草をされ、カナリア自警団以外の人たちからは殺意の視線を一身に浴びる羽目に。

 どうすればいいのさ!? 周りにいる皆さんに視線を配れば大人しく食べさせてもらえといわんばかり。え、これエルさんにとって日常的な行動なの? 

 悲しむエルさんの姿、はよ食えという皆さんからの視線。諦めていただく事にした。

 一口、二口、時折口元を拭き拭き。なんだか子供の頃に返る気持ちで一杯。そして増々強まる視線。美味しいはずのランチの味がしねぇ。

 餌付けされていた最中にふと気づいた事がある。エルさんは私に食べさせるのに夢中でご自身は食べていらっしゃらない。それはよくない。元々私が自分で注文をしておいたカツ丼を箸で一口サイズに。

 

「エルさん、お返しのあーんです」

「あら? まぁ! 私、誰かにしていただくのは初めてです!」

「そうなんですか? エルさんの食べる分を大分頂いてしまったのでお裾分けも兼ねてと思いまして」

「誰かに食べさせて貰えるなんて嬉しいわ! それじゃ頂いてもよろしいかしら?」

「どうぞどうぞ」

 

 エルさんの小さな口が開かれて、箸にのせられたカツとご飯が無事にエルさんの口の中へ。

 可愛らしく動かされる口元。飲み込む姿。同じ物を食べているとは思えないほど上品である。

 

「美味しいわ! アコが毎日食堂で選ぶのも分かる気がしてきたわ!」

「そうでしょ! カツ丼が一番です!」

「あぁ、お姉様の食生活を見直す為に私が料理を学ばなければ……!」

「この間のシノさんみたいなのは勘弁してくださいね」

「あれは少し間違えただけよ! 今度は上手く出来るわよ!」

「パンとミルクがあればいいや~」

「なんというか、コトブキの隊員たちも大分個性的だとは思っていたが、意外と普通なのだろうか……」

 

 自警団の皆さんの姿を見ていたレオナさんが自問自答をし始めちゃってるし!? レオナさんが標準ですから! 正気に戻って! 

 

 

 怒涛の昼食も一息。食堂の片隅にあるラジオからは議会の喧嘩にしか聞こえない討論が聞こえてくる最中、シノさんから一つの提案をいただく。

 

「ハルト。貴方はしばらくイヅルマに滞在する事になるのよね?」

「期限がどの程度かは分かりませんが、そうなるかと」

「ならその間、私がハルトの操縦技術を一から叩き直してあげるわ」

「申し出はありがたいのですが、一応証人として呼ばれているわけでして」

「それなら問題ありません! ハルトさんはお昼前に議会へ向かわれて二時間ほどお時間を頂く予定となっておりますが、それが終われば自警団の同伴があれば行動に制限は無いと通達がありました!」

「なら問題ないわね。ハルト、機体性能に任せきりではなく技術も身に着けないと震電に乗り続けるのは命に関わるわ」

 

 シノさんの真面目な声色。心配してくださっての提案だというのがよく分かる。やはり震電に乗り続ける以上は避けて通れない道なのだろうか。

 

「ついにその時が来たという事かな」

「レオナさんまでそう言いなさりますか」

「良い機会じゃないか。私のような我流に近い飛び方よりも正規の訓練を受けた者から教えてもらえた方が学ぶのは早いぞ?」

「そうですよ! ハルトさん! 例え今のハルトさんが人よりも操縦技術がどうしようもなく下手であっても一般人ぐらいまでは引っ張り上げられるのが自警団の強みですから!」

 

 アコさんの容赦ない言葉によって心に刺さっていたのは、槍ではなくて銛なのではないか? 引き抜きたくてもかえしが付いており引き抜けない。

 周囲も明らかに……ってヘレンさんは寝てるし。いつもの事なんですね。

 

「ま、まぁアコの言っている事も一理あるわ。私でよければ指導するわよ。どうする?」

 

 少し考える。実際にこれからの事も考えれば、自警団から操縦技術を教えてもらえるのは貴重な機会だ。

 ここへ来る前にケイトにも言われた。今後の話と後の事も視野に入れて今動けという話を含めれば答えは一つか。

 

「シノさん。よろしくお願い致します」

「了解したわ。私の訓練は厳しいわよ! ちゃんと最後までついてきなさいよ!」

「うえーい」

「そこは『はい!』でしょ!」

 

 

 こんなやりとりがあり、今に至る。まさか即行動となるとは思いもよらなかったけれど。

 

『忙しなく操作をして機体を動かしているのに泣き叫ばないなんてやるじゃない!』

「ここへ来る前は習うより慣れろでずっと後部座席に座らされていましたから!」

『あらそうなの? それならこれはどうかしら!』

 

 私たちが搭乗している機体は、赤とんぼと呼ばれている機体。前の操縦席と後部席があり、当然私は後部席に搭乗している。

 シノさんは操縦席に搭乗しており、操縦桿を握りしめて機体を激しく揺らす機動を行っている。

 右ロール、左ロール、時には空と大地がひっくり返り、バレルロールで元の姿勢へ。

 それでも割と平気でいられるのはイサオさんの地獄のような訓練の賜物だと思う。あれに比べれば今のところ目を回さずにいられるし、酔って何かを吐き出したくなるような事もなく済んでいる。

 

『あらあら、ハルト君ってば意外と頑丈なのね』

『こちらへやってくる前に相当扱かれたとは聞いていたが、あれだけ揺さぶられても泣き言一つ言わないとは驚きだ』

『意外とシノさんの指導に堪え切って立派な自警団になれるかもしれないわね』

『いや、自警団に入団はしないとは思うが……それでも可能性が広がるのは良い事だな』

 

 

『これだけやっても平気だなんて腹が立つわね!』

「そこは褒めてくださっても良いのでは!?」

『私を本気にさせるなんていい度胸してるじゃない! これならどう!!』

「おぉ……飛行機ってこんな動き方出来るんだ」

『何を感心してるのよ! もう!』




書き貯めココマデ。

#KΓTΓBUKL卓_立川CC
なるイベントがTwitter上で開催されるようです。
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