あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その8

 ついにイヅルマ議会へ登壇をしなければならない日がやってきた。

 議長さんからのアドバイスを素直に聞けば、問われた事には素直に答えろと。

 しかし、その後に発言されていた『イヅルマに蔓延る膿を吐き出す絶好の機会』という言葉がどうにも頭の隅に残ってしまう。

 だからといい、直接面会する以上の事をしてしまえば、議会の長である人物が私を呼び出した連中と同じような手法を使うようなものだ。

 流石にそれは避けるべきと判断したのだろう。私を呼び出した人達と同じ穴の狢になるのは誰だって避けたいものだ。

 

 

「ハルトは議長の言葉どおり、素直に問われた事を返す事だけに集中した方がいいと思うぞ?」

 

 朝食後、起きたてほやほやの頭では如何すべきかも思い浮かばず、レオナさんに相談をしてみる事にした。

 寝ぼけ眼の私の話を真面目に聞き、それに対して的確な助言をしてくださる。

 

「やはりそれが無難ですよね」

「そうだ。何よりハルトは政治家でもない。ましてやイヅルマの所属でもない。立場だけで言ってもイヅルマからの無理筋な要請を正そうとしてこの場にいるんだ。それ以上の事には深入りすることは無いと私は思う」

 

 レオナさんの言葉は至極真っ当で、私の考えもそれと同じに変化してきた。

 イヅルマの問題はイヅルマの人間が解決すべき事だもんね。緊張からなのか少し考えすぎていたようだ。

 こめかみをグリグリと押して軽い痛みと共に眠気を飛ばそうとする。その姿がおかしく見えたのか、控えめながらも笑うレオナさんの姿。

 

「すまない。何だか無性に楽しくてな」

「イジツの人たちから見れば、私の行動はやはりどこか変わっているみたいなので良く笑われます」

「確かにそういう意味も含まれているのだが、なんて言えばいいのだろうか」

 

 テーブルに肘を立てて両手を合わせたり閉じたり。橙色の綺麗な瞳も右へ左へ忙しなく動く。普通に考えると行儀が悪いのだろうか、なんだか可愛らしくみえてしまう。

 

「変な事を言ってしまうかもしれないがいいか?」

「レオナさんになら何と言われましても。信じてますから」

「ありがとう。実は言うとハルトがこうして私を頼ってくれるのが嬉しく感じるんだ」

「頼られる事がですか? 正直、頼み事ばかりしている気がして申し訳なさで胸が一杯なのですが」

「それはコトブキ飛行隊としての私だろう? 実際に今も仕事でこうして行動を共にしている事は確かなんだが、こういう相談事を聞かされるとコトブキとは関係ない、私個人を頼りにしてくれているんだなと思うんだ」

 

 なるほど、確かに言われてみれば私の悩み事を聞いてくれる相手は酔っ払いが多かった気がする。なんせ雑談しているだけでお給金が貰える立場だったもので。

 

「多分、イヅルマに滞在中はこういう相談事が増えると思いますけど……」

「ほう、それは一つ楽しみが出来たな。何かあればすぐに私に言うんだぞ?」

 

 指を立て片目を閉じながらそう話すレオナさんはとてもお茶目だ。でもその仕草のおかげもあってとても親しみを感じる。姉がいれば……とは思うが、どちらかといえばご近所にいる世話焼きお姉さんに憧れるような心境だろうか。

 そんなことを思い描いてしまうのは、本日の担当者は弟殺しの異名を持つ方がいらしたからだ。

 

 

「本日お二人の担当を務めさせていただきます、リッタです! よろしくお願いします!」

 

 少し大きめな帽子に赤みを帯びた短めの癖っ毛。笑顔を絶やさずこちらを見つめている紫色の瞳。

 カナリア自警団の中ではミントさんと並んで身長が小さめの愛らしい方である。

 

「さて! 本日の予定なのですが、昨日と同じく自警団の詰所に一度足を運んでいただく事になっております! その後については歩きながらお伝えします!」

 

 エルさんの時と同じように二人してお願いしますと伝え、リッタさんの後ろを歩いて行く事に。

 

「どうやら議会の方から詰所にお迎えが来るように手配がされているみたいなんですよ」

「その場合、私はハルトと一緒に行動を共に出来るのか?」

「問題はそこなんですよぉ。ハルトさん側にも護衛の方がいらっしゃるからその方も同伴出来るようにしないと協力してくれませんよ! って伝えてはいるんですけどねぇ……」

 

 お二人の話を聞いている限りだと、議会へは私一人で行く。というよりも連れて行かれるようだ。

 

「護衛の任務を任されている以上、同伴が出来なければ意味がないのだが」

「そうですよねぇ。団長や部長が色々と頑張っているみたいなのですが、本日のところは難しいかもしれません」

「参ったな……」

「一先ず今日は何が何でも自警団から一人派遣しようという方針で決まりましたので、不肖ながら私リッタがハルトさんと議会へ行く事になりそうです!」

 

 こちらを振り向いて敬礼の姿勢をとるリッタさん。親しみやすい口調で話してくれるが彼女も団員。やはり何か護衛術でも学んでいるのだろうか? 

 こちらの不安をかき消すかのように眩しい笑顔を向けた後、再び身体を前に向けて詰所までの道を歩く。

 ここまで思った事が一つ。リッタさんは少し大げさな程、身振り手振りを行いながら全身を使い自分の意志を伝えようとしている。

 その度に揺れる短いスカート。ふわりと舞うことで綺麗なおみ足はさらによく見えてしまい、片側の足にはホルスターが装備されているのが見える。その存在のおかげで私は正気でいられるだから不思議である。銃は怖いのだ。

 カナリア自警団って上半身はきっちりと制服で決められているのに、それ以外はかなり服装自由だよなぁ。

 

 

「失礼します。こちらイヅルマ議会から派遣されてきた者です。ハルト様はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 宿から詰所に辿り着き、しばしの雑談を楽しんでいれば、もうお呼ばれされる時間となっていた。手を挙げて私だという事を議会からの使者に伝える。

 

「恐れ入りますが、我々と共に議会までお越し願いたい」

「その前にカナリア自警団より議会に対し要望がございます」

「一体なんでしょうか? 護衛であれば私共が責任をもってお連れいたしますが」

「その事について疑うつもりはございません。ですがハルトさんがお連れした護衛の方もご一緒させてください」

「それにつきましては我々に申されましても返答致しかねます。我々はハルト様をお連れする様にと命令されておりますので」

「でしたらカナリア自警団より一名同伴させてください。イヅルマ議長に対し証人の護衛に関して意見書を提出させて頂きたいのです。それに本日はハルトさんが議会に登壇される大事な初日。少しでも緊張をほぐす意味も含めて」

 

 アコさんが背筋を伸ばし、堂々と使者に意見を伝える。その姿は様になっており、まさにカナリア自警団を率いる団長として相応しい姿といえる。ミントさんが両手を組んで瞳を潤ませながらお姉様と独り言を呟いているのがちょっと怖い。

 果たしてどうなるや、と思えば相手の対応は柔らかくアコさんからの申し出はすんなりと通る事となった。

 

 

「結局、議会からいらっしゃった人たちも元自警団であったり、それに関わり合いのある人たちが多いんですよ」

 

 議会に向かう道中にリッタさんがそう教えてくれた。つまるところ最低限仕事はするけれど面倒事は対処したくないから直接エライ人達に伝えてくれという事だろうか。

 

「なので団長が議長に対して意見書を提出するから一名連れて行けーって申し出をしたのが、彼等にしてみれば、これを断れば発生するかもしれない責任を誰が取るんだーって話になり、自警団から一名同行させるだけで責任が逃れられるなら連れて行くのが良いと判断したからではないでしょうか」

「なんとも言葉にし難い状況ですね」

「それだけあの事件の反響が大きかったって事なんでしょうね。イヅルマの治安も不安定になっていますし」

「幾つかの町を訪れましたが、イジツ全体が不穏な空気に包まれている。という言葉はよく耳にしましたよ」

「やっぱりそうですかぁー。大丈夫かなぁ?」

 

 歩きながらも器用に顎に手を当てて悩み事のリッタさん。自警団員としては頭の痛い問題なのだろう。空賊は増加の一途を辿っているようだから。

 

 

 使者の方に案内をされ辿り着いた先にある建物は、周りにある物よりも随分と大きい。議会を開催するだけの場所だけある。ラハマなんて土俵で議会を開催すると聞いたのに。

 

「では、こちらへ」

 

 そう告げられ建物の中へ。幾つもある部屋の一つへ連れていかれた後、呼ばれるまで待機をしていて欲しいと言い残し、部屋を出た一部の使者はそのまま扉の前で左右に分かれ私の護衛を開始する。

 

「意外とガチガチに守ってくださるんですね」

「要請ともいえる要望に応えてくれたハルトさんに何かあれば、市民の皆さんから無断行動を行った議員以外の方も一緒になって叩かれるでしょうからね。呼ばれるまでは何も出来ませんし気楽に過ごしましょう!」

 

 そういうとリッタさんは靴を脱ぎ始め、部屋にあるソファに横向きに座り足を伸ばしている。朝の時以上に全体がよく見える綺麗なおみ足に拝みたい思いで一杯になる。特にホルスターが巻かれている部分を。銃の恐怖をふとももが超えてしまったのだ。

 

「ほらほら! ハルトさんもそんなに礼儀正しく座っていないで、ヘレンさんみたいに寝ててもいいんですよ?」

「流石にその度胸はありませんが、お言葉に甘えてみます」

「それがいいです! さぁさぁさぁ!!」

 

 リッタさんと同じ様に靴を脱ぎ、肘置きに頭を乗せて試しに横になってみる。何故だろうか、この狭さからくる窮屈な思いが苦痛ではなくちょっとした幸せと安心感をもたらしてくれるのは。

 折角だから目を閉じてみよう。あ、これ寝れる。一人っきりで連れて来られたらこんなことは考えもしなかっただろうけど、傍にいるリッタさんのおかげで緊張や不安と戦わずに済むかも。

 これを見通してアコさんはリッタさんを選んだのだろうか。なんて敏腕な団長だろう。あとは悪意のない言葉が無くなれば……。

 

「いやいや、自分が言っておいてなんですけど、実際に寝るとは思いもよりませんでしたよ、ハルトさん……」

 

 

「ではこちらへ。議長から名前を呼ばれたら登壇していただき、自己紹介をお願い致します」

「……あい、あい」

「ハルトさん! 起きて下さい! そろそろ出番ですから! そこまでヘレンさんの真似をしなくてもいいですから!」

 

 気づけば眠りに落ち、聞こえてくる声に従い目を開けてみれば私の身体を必死に揺り起こそうとするリッタさんの姿。

 夢心地のまま指示どおり身なりを整えて、気が付けば扉の前に立っていたわけで。

 

『ではこれより、議題となっております震電の所有者であり、我々議会からの急な要請に快く応えていただいたハルト氏に登場していただきます』

「ハルトさん! 大丈夫ですからね! 自分もついていますから! ちゃんと名前を言うのを忘れないでくださいね!」

 

 弟さんと妹さんを持つお姉ちゃんが私に発破をかけてくる。ここで頬っぺたを引っ張ったりと物理的な起こし方をしてこないのがリッタさんの優しさだと思いたい。

 一度深呼吸をして酸素を送り込む。聞かれた事には素直に答える。自分の名前をきちんと伝える。使者の方によって開かれる扉。

 よし、覚悟を決めて行こう。

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