あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

77 / 100
カナリア自警団 その10

 本日の朝食の時間は、反省会の一言である。

 お互いがお互いに思うところがあり、自身の行動について見直さなければならないと思う出来事が起きた。

 私は自信過剰と甘え癖。レオナさんは帰り道での出来事についてだそうだ。

 尚、私の事を心配して議会に乗り込んできた事は問題とは考えていないとのこと。そういうところが卑怯だなぁと思う。

 

「昨日は大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

「いや……こちらこそ醜態を晒してしまい申し訳ない」

「それについてですが、事前にザラさんから聞いておりましたので問題はございません」

「ザラから? それは……少し恥ずかしいな」

 

 イヅルマに来てからレオナさんの様々な一面を見てきたが、この恥ずかしそうな表情は心に突き刺さるものがある。格好良くて綺麗なお姉さんの照れた姿。ここがラハマで限られた場所であれば写真に収めてザラさんと共有できたものを。

 とはいえ、そのままモジモジとされている姿を観察し続けるわけにもいかないので、気になった事を幾つか聞いてみることにした。

 

「あの、レオナさんは身体を鍛えるのが趣味なのですか?」

「そうだ。最初は自己鍛錬のつもりで始めたのだが、いつしか身体を動かしていないと落ちつかなくてな」

「鍛えられた身体を見るのは好き?」

「……」

 

 言葉に出さなかったけれど、親指と人差し指を薄く重ねるという仕草をしてくれたおかげで分かった。好きなんだ。

 

「あの客寄せの人の肉体はレオナさん的にはどうだったんですか?」

「全体の筋肉のバランスよく鍛え上げられていたな。だからといって見せ筋と呼ばれる筋肉とは違い、日頃から肉体を使う職業に就かれているのは間違いない。あの腹筋が私にそう訴えかけてきたのだから」

 

 恥ずかしがり屋のレオナさんを見ていた方が良かったのかもしれない。こんなに筋肉について流暢に語りだすとは思いもよらなかった。

 

「確かに。肩なんか小さな雷電でも乗ってるかと思うぐらい盛り上がってましたけど」

「小さな雷電? 面白い例え方をするんだな、ハルトは」

 

 イジツに来る前に見たあるモノを思い出してしまったのだ。決して悪意のある言い方をしているつもりはない。イジツでならどう例えるのだろうかと考えていただけなのだから。

 

「ハルトからしたらあの男の大胸筋から腹筋にかけての線はどう例えるんだ?」

「飛行船の駐機所」

 

 だってあの大きな身体にムキムキに鍛え上げられたお腹とお胸。二隻は停留出来るんじゃないだろうか? お胸の先に係留柱が立っていたし。

 口元をプルプルと揺れ動かしている人物が一名。ツボにでも嵌ってしまったのだろうか。実際に私も聞いた時は笑いを堪えるのに必死だったから分かる。

 幾度となく顔を上げたり下げたりして正気に戻ろうとするレオナさん。それでも最後に聞きたい事があるようでもう一か所について聞かれる。

 

「す、すまない。最後にもう一つだけ。あの男が逃げ出した際に見えた広背筋についてはどうなんだ? 背中だけあって先程より範囲も大きくても広いぞ?」

「アレと争ったレオナさんに言っても大丈夫なのか不安なのですが」

「大丈夫だ。いくら私でも何となくだがハルトが言おうとしている機体は察しが付く」

「ならそれでおしまいでいいじゃないですか?」

「ハルトの口から聞いてみたいんだ」

 

 真剣な目つきで私を見つめてくるポンコツお姉さん。どうしても口に出して欲しい模様。それで気が済むならいいですけれどね。

 

「背中に富嶽が宿っていそうな大きさでしたよね」

 

 当然のように笑いを抑えつけようと必死になるレオナさん。顔は手で覆い隠され、体を折り曲げて耐えるその姿は、私の中の幻想が綺麗に消え去っていくように感じる。

 コトブキの皆から話に聞けば、富嶽を相手に相当苦労をされたようなのに。いや苦労したからこそ笑い話に変換できるのだろうか。それは当人が知るのみである。

 

 

「お待たせしました。本日は私ミントが担当をさせていた……レオナさん? どうかされたのですか?」

「そっとしておいてください。昨日の今日で反省点があると自問自答をされていたようですから」

「はぁ……分かりました。何かあれば気兼ねなく相談してくださいね」

「あぁ……ありがとう、ミント……」

 

 息も耐え耐えといった様子のレオナさんにどうしても不安を感じる様子のミントさん。

 

「(ハルトさん、本当に大丈夫なのでしょうか?)」

「(リッタさんから昨日の出来事について何か聞かれましたか?)」

「(町に上半身裸で逃げ回る露出狂が現れたとの報告は受けましたが……)」

「(あんな変態を見たのは初めてだったんですよ。それでびっくりしているだけかと)」

 

 実際はあの後も話が続いてレオナさんはずっと笑い転げていただけなんですけどね。その疲れが出てるだけかと。

 

「レオナさん! 元気出してください! もしよろしければ私が身に着けた実戦古武術をお教えいたしますから!」

「は、はぁ? ありがとう?」

 

 イヅルマに来てから混乱の種を撒いているのは、私ではないかと思い始めてきた。

 

 

 昨日伝えられたとおり、震電が置かれている格納庫にはそれなりの人数が集まっている。

 議員と呼ばれているだけあって派閥とかの問題もあり人選を選ぶのも大変なんだろうなと他人事のように考えながら、彼等はジノリさんから話を伺っている。

 

「何遍も言うようじゃが、イサオうんぬん以前にこの震電は設計図にあるはずの正規の発動機とはまったく別物を積んでおるんじゃぞ」

「私がアレシマで見た機体そのままの状態だな」

「だが! 富嶽生産工場を襲撃したという友人からの証言ではイサオの機体そのままだと!」

「だ、そうだ。コトブキの隊長さん。済まないが話を聞かせてもらえないかい?」

 

 議長の言葉に頷き、口を開くレオナさん。

 

「私が見たイサオの搭乗していた震電は、エンジンが空冷でプロペラももう少し大きい。それに対してハルトが所有している震電は、エンジンが液冷に転換されており、後方部分に関しては大分様変わりをしている。イサオに落とされた私の言葉を信じるのならね」

 

 皮肉を交えながらのご説明。

 

「それにイケスカ戦では震電は羽すらついていなかったんだ。そして奴の最後は欲望のままに穴の中へと突入して消え去った。そこまでが私が実際に見てきた光景だ」

「だが、震電の形をした機体は目の前に存在する。多少の差異はあれどね」

「震電の設計図は、既にイケスカから流出したと耳にしておるんじゃが?」

「ハルトや、そこについてお前さんが言うべきことはあるかい?」

「震電に関しては曽祖父が全てを知っているとは思うのですが、確認をする場合は一度戻る必要がある為、事実確認も含めて数週間のお時間が必要となってしまいます。ですが曽祖父はユーハングの人達がイジツに居た頃に付き合いがあると言っていました。もしかしたら……という推測程度の事しか私には分かりません」

 

 各々思考に耽り格納庫はしばし静寂に包まれる。

 

「イサオが穴の向こうへと消えたのは誰もが知っている。だが奴は穴の先で生き延びていた! そしてイサオは自分が戻る前に自身の震電を改修させ、自分の代わりの者を用意し自由博愛連合の残党と接触しようと企んでいる可能性だってある!」

「……その想像力は捨てがたい。が、それならば何故身代わりとなるハルトはわざわざ家族探しという名目で敵対していたラハマへ現れるのかい? 機体にある自博連のマークだって残すだろう? 今ではこんな洒落たパンケーキに食器まで描かれているというのに」

 

 すみません。それは酔っ払い二人の犯行です。そしてかなり答えに近い回答をされていて私の動悸が激しくなる。

 

「なによりも重要な事がある。もし百歩譲ってアンタの言い分が正しいとしてもだ、この子にはガドールの女とオウニ商会がバッグについている。反イケスカ連合の中核にいた二人がだ。それさえも無視して決めつけようとするのならば、議長としてイヅルマを守る為に行動を起こさないといけなくなる。その意味は分かるね?」

 

 その言葉に黙るしかない議員。あのお二人にご助力をいただけたという事はイジツにおいて大変な強みであったのだと実感する。

 

「イヅルマの未来の為にはアンタのような発想も必要さね。その力を今後も貸してはくれんか?」

「もちろんです。イヅルマの為であれば。震電の真相も諦めたわけではありませんが、今は飲み込んでおく事にします」

「ありがとう」

 

 

 議会の人達は各々思い耽ながらも格納庫を後にする。残された私たちに議長から挨拶があるようで残って欲しいと言われた。

 

「これで一先ずは震電に関する話に一区切りがついたかね。ハルトや、アンタが協力してくれたおかげで助かったよ」

「私もイヅルマ議会からの誤解が解けて安心しております。これで再び家族を探しに行けると」

「イヅルマからもう旅立つつもりかい?」

「出来ればこの町でも情報収集をしたいなと考えてはおりますが」

「ならこの騒動のお詫びと早期問題の解決に手を貸してくれたお礼をしなければならないね」

「イエ、ケッコウデス」

「素直に受け取りな!」

 

 もう政治家と関わるのはこりごりです。地味コツ作業に戻って本を読んだりユーハング工廠跡地に向かってお宝探しをしたいのです。目標が変わっている気もする。

 

「とはいえ、私の権限で出来ることは少ない。騒動の後という事もあり市民の目も厳しいからね」

「あの、本当に結構ですから」

「カナリア自警団の諸君。整備顧問のジノリ、整備員のハヤト。ハルトがこの町にいる間、この子が困るようなことが起きたならば手助けをしてあげてはもらえないだろうか」

 

 私の言葉は華麗にスルーされ、議長の頭が彼女らへ向けて下ろされる。正式な命令は出せず、けれど個人的なお願いをしたいという意志の表れからくる行動であろうか。

 

「もちろんです! 我々カナリア自警団は困っている人を見捨てたりは致しません!」

「家族探しとなれば機体の整備も必要じゃろ。可能な限り力になってやるわい。なぁハヤト」

 

 其々の言葉に頷く人達。どうしよう、嬉しくて涙腺が緩んできた。二度も断ったのに。

 

「しばらくイヅルマに滞在するのなら、訓練の続きが出来るわね!」

「頭を怪我したのでちょっとだけお休みさせてください」

「……治ったらちゃんと私に報告するのよ?」

 

 頭部に怪我をした直後は危険だとシノさんも判断してくれたようで。

 

「そういえばハルトさんは、ラハマでご家族の方を探すためにイヅルマの図書館や本屋に行きたいと仰っていましたよね? 問題も無事解決したことですし、よければ案内をさせていただきますよ!」

「お姉様! 私も付いて行ってもよろしいでしょうか!?」

「もちろんですよ、ミントさん! 本に詳しいミントさんが来てくれるなら百人力です!」

「あぁ! お姉様が私を頼りにしてくださっている! それだけで私は……!」

 

 うっとりとした表情をしたまま虚空を見つめているミントさん。出会ってまだ期間は短いが分かることがある。団長であるアコさんが好きと。やはりラブの方だろうか。

 

「アコさん、ミントさんがどこかの世界へ旅立たれていますけれど」

「大丈夫ですよ、ハルトさん。何時ものことです!」

 

 ニッコリという表現が正しいと言い切れるほどの素敵な笑顔を向けてくれるアコさん。個性的なカナリア自警団をまとめている団長である貴女が一番の……いや、これには触れてはならない気がする。やめておこう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。