あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その15

「ヘレンさん、遅いですねぇ……シノさんからの伝言をちゃんと聞いてくれたかな?」

 

 提出された書類には、外泊の事は記載されていなかった。

 でもそんな心配は杞憂に終わる。考えてみればヘレンさん、それにお父さんのジョージさんもいらっしゃるのだから、むしろ襲撃があった場合は相手を心配すべき程だ。

 それにハルトさんの操縦は、シノさんの訓練により日に日に上達しているのが分かる。一緒にいらしたレオナさんと共に訓練を眺めていた時があった。

 

 

 双眼鏡を片手に詰所の屋上でレオナさんと空を見つめている。

 

「シノは教え上手なのかな。ハルトの危なっかしい操縦が格段に減っているのが分かるよ」

「上手だとは思うんですが、訓練内容が厳しくて。それに文句を言いながらも淡々とこなしていくハルトさんもなんていうか……」

「本人もずっと気にしていた部分でもあるからな。イヅルマで教えてもらえる機会に巡り合えるとは思わなかったんだろう」

 

 そうは言うけれど、スパルタの領域を超えていると思うんだ。シノさんの教え方って。

 私たちに教えてくれようとしていた頃と同じぐらいの熱量で叩き込んでいて、それを吸収していくハルトさん。あの二人、相性が良いのかな? 

 

「赤とんぼを使った実戦訓練に座学か。図書館で調べ物をしながらよく頑張るよ」

「きちんと寝れているのか不安ですよ」

「それについては大丈夫だ。私がしっかりと体調管理をしているからな」

 

 軽く胸を叩くレオナさん。こんな方だったんだ。コトブキ飛行隊の隊長をされている方だから、どちらかといえばシノさんの様な方だと勝手に思い込んでいた。

 担当したみんなが言っていたなぁ。仲良く談笑しながらご飯を食べてる姿は姉弟の様だと。

 お二人も出会ってからそれほど時間は経っていないと伺っているけれど、今こうして会話をしているレオナさんは、どうみてもハルトさんのお姉さんだ。

 

「あぁ! それは駄目だハルト! 中途半端な操縦は叱られ……やはりシノから怒られているではないか。今の操縦は後ろに私がいても怒るぞ?」

 

 ……ちょっとだけ、心配性なお姉ちゃんって感じかな? 

 

 

「焦っては駄目よ、アコ。ヘレンの事ならそのうちやってくるわ。彼女の性格も考えればね」

「どうして泊まる事になったのか聞き取りをしなければいけないのに」

「きっとお父様が焼きもちを焼いてしまわれたと思うわ。当初ヘレンも日帰りの予定だったのだから」

「本当かなぁ?」

「ふふっ、ならヘレンのペースにハルトさんが苦戦を強いられた結果、というのはどうかしら?」

「あぁ……それなら分かる」

 

 ヘレンさんは、普段の生活がとにかくだらしない。脱いだ服はそこら辺に放り投げっぱなしだし、私が何度注意しても直らないのだから、ハルトさんも苦労したんだろうなぁ。

 

「念の為、リッタには先に上空パトロールへ向かわせたわ。ヘレンが戻ってきたら私もそちらへ向かうわね」

「うん! お願いね、エル!」

「私とお姉様は地上から小型飛行船の警備ですよね?」

「そうですよ、ミントさん。頼りにしていますからね!」

「はい! お姉様に近寄る不届き者は全て私が排除します!」

「いやぁ、今回は私じゃなくて小型飛行船なんだけど……まぁいっか」

 

 ミントさんが同行してくれるなら百人力だ。傍にいてくれれば地上では間違いなく安全だと言い切れる。

 

「ただいま~」

「あっ! お帰りなさい! ヘレンさん! 聞きたい事は山ほどありますよ!」

「手短におねがいねー」

「はい! 分かりま……ってちがーう! ヘレンさんからお話を聞きたいんです!」

「泊まった以外は、何も問題なかったよー」

「そこの泊まった部分をもう少し詳しくお願いします……」

「んーとね、お父さんがハルトに喧嘩を売ってね、そのせいで配達が遅れたんだー」

「まぁ! そこを更に詳しく教えてくれないかしら? ヘレン」

「えーとねー、お前はヘレンの何なんだーって」

 

 一人感極まる様子のエル。好きだよね、そういう話。ってまた脱線してる!? 

 

「ジョージさんがハルトさんに喧嘩を売る事が原因で配達が遅れ、帰還する事が困難だった。で合っていますか? ヘレンさん」

「さすが団長。大体合ってる」

「これで大体なんですね」

 

 ヘレンさんのペースは本当に独特だ。無理に合わせようとするれば、こちらのペースまで崩されてしまう。

 聞き取り調査を書類に記載して、一先ずこれで昨日の件については〆にしておこう。

 

「あーそうだ、団長ー」

「どうかしましたか? ヘレンさん」

「お父さんから伝言を預かってたー」

「ジョージさんから? 一体なんでしょうか?」

「ハルトにお父さん達が写ってる写真を見せてあげてってさー」

「お父さん達の? って事はイカルガ自警団の写真で良いのかな?」

「たぶん、夜二人で何かを話していたみたいだけど、それの事じゃないかなー」

 

 ジョージさんとハルトさんと話し合い? 気になる部分も多いけれど、まずは今日の任務をこなさなければならない。

 

「分かりました。その話の続きは本日の業務が終わってからにしましょう!」

「今日の楽しみが増えたわっ」

「エルさんが考えているような事では無いと思いますけど……」

「団長ー、あたしはどうすればいいのー?」

「ヘレンさんは詰所で待機しててください! 私とミントさんは地上から小型飛行船の警備。エルとリッタさんは上空パトロールを。シノさんはハルトさんの護衛と訓練が本日の予定です!」

「うえーい、寝てていい?」

「誰かいらした場合は起きてくださいよ?」

「おっけー」

 

 起きなさそー。けど、そうも言っていられない。そろそろ出動しなければ。

 

「それでは! カナリア自警団! 出動!」

『はい!!』

 

 

「イヅルマへ来る時に比べて大分上達したじゃない! 意味のないふらつきも減って様になってきたわよ!」

「教官殿のご指導のおかげであります!」

「ふふっ、そう言われると悪い気がしないわね! 今から私の指示通り操縦して、リッタに訓練の成果を見せつけてあげなさい!」

「了解であります!」

「なんですか、この茶番は?」

 

 ご機嫌取りです。冗談は置いといて、こういう風に会話をすると訓練が円滑に行える事が判明したのです。

 シノさんの指導により叩き込まれた操縦技術と知識。実際に反トルクの影響でふらつきながら飛行していた震電は、訓練のおかげで形になりつつあるのではないかと自分でも思うほど。赤とんぼという偉大な機体に感謝しなければ。

 

「それじゃいくわよ! 右ロール三百六十度!」

 

 操縦桿を右へ倒し、世界が回転する。倒すなら倒す、戻すなら戻す、中途半端は事故に繋がると散々叩き込まれた。

 備え付けられた計器の針が素早く動き、瞬間的に重力を頭の先で感じた後、再び機体は水平へと戻される。進行方向、機体の向き、計器を確認して動作を行う前に近い状態になっている事を確認した。

 

「震電に搭乗してからの初訓練としては上々ね、ハルトが震電の感覚を覚えるまでは赤とんぼで行った訓練の反復よ!」

「教官殿! ありがとうございます!」

「感謝は行動で示してみなさい! 次! 左ロール三百六十度! 先程と同程度の精度でやりとげなさい!」

「自分で行うならまだしも、人の操縦を見ていると目が回りそうですねぇ」

 

 実際、自分で操縦している分には特に気分が悪くなったりはしない。イサオさんとの訓練も最初は脳味噌が認識しないのか、辛い事も多々あったが、日が経つにつれて身体が慣れたみたいだったから。それでもイサオさんの操縦は、大丈夫だと分かっていても怖いのだ。

 再び来た道を戻るかのように震電は回転する。操縦桿を戻した瞬間ばかりは、身体が持っていかれそうになるが、計器を見る限りでは無事、指示通り行えたようだ。

 

「まぁまぁね、どちらでも同じ精度で行えるように続けていくわよ」

「それじゃシノさん。自分はこれよりパトロール先に向かいますね! ハルトさん! 震電の訓練が終わったら紫電が待っていますよ!」

「特別メニューまであるんですか!?」

「もちろんです! その時は自分が教官になりますから、覚悟していてくださいねー!」

 

 ふっふっふーと不気味な笑い声と共に機体を傾け、離れて行こうとする瞬間、シノさんの声が聞こえた。

 

「待ちなさい! リッタ!」

「どうかしました? シノさん」

「貴女の仕事が舞い込んできたみたいよ。前方に複数の機影! イヅルマへ真っ直ぐ飛んで来るわ!」

「えぇ!! 団長たちに連絡は!?」

「今からするわ! 悪いけど、パトロールよりもこちらの手伝いをしてもらう事になりそうね!」

「もちろんです! ハルトさん! 私たちの後方について絶対に離れないで下さいね!」

「了解しました!!」

 

 もしこれが空賊であれば二度目の遭遇戦となる。前回のコトブキのように攻撃を止めてくれる相手ではないだろうが、今回はシノさんとリッタさんがいる。指示に従い、欲を出さずに飛ぶ事に集中すれば。

 高まる鼓動を押さえようと必死になりながら、先程までいた位置から移動をして、お二人の後方へと移動する。

 出来れば違うと思いたいが、胸騒ぎがする事も確かだ。




私事で19,20,21日はお休みします。
今月末で一区切り出来る予定です。
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