あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その17

『ハルト! その二一型は放っておいていいわ! 今すぐ私の後ろに付きなさい!』

「うい!」

 

 シノさんの指示通り、震電を操り再び定位置へと舞い戻る。先程まで追っていた機体へ僅かに視線を移せば、二一型は既にイヅルマから逃げ去るような進行方向を飛行している。

 

『お待たせ、リッタ』

『エルさん! ヘレンさん! 来てくださったのですね!』

『正直、あたしまで来る必要あったー?』

『あるに決まっているでしょう! 自警団なんだから!』

『おふぅ……シノは厳しい』

 

 アコさんの緊迫した声とは裏腹に、空にいる隊員たちの声は賑やかだ。それがとても心を落ち着かせてくれる。

 リッタさんを追い回していた敵機もこちらの味方を確認したのか、二一型と同じく撤退を決めたようだ。

 けれど、アコさんの言う飛行船とは一体なんのことだろうか? 

 

『アコ、そちらはどういう状況なのかしら?』

『パロット社から引き渡しが完了した小型飛行船が、こちらの指示を無視して飛行を開始し始めたんです!』

『このクソ忙しい時に何を考えているのよ!?』

『こちらにも護衛がいるから問題ないと一方的に告げた後、無線を切られてしまいまして! それ以上にこちらでも大変な事が起きています!』

『団長! 一体何が起きたというんですか!?』

『あの小型飛行船には立ち合いで訪れていた議員が搭乗されていたのですが、先程甲板に現れたと思ったら何かを落としまして……それです! ミントさん!』

『団長、なんだったー?』

『文字が書かれています! ってこれはユーハング語? 見た事がある文字なのですが、確か意味は……辞表?』

 

 辞表。役職についている者や、公務員を務めていた方が辞める際に使用する言葉。このタイミングでお仕事辞めますってどんな状況だよ! 

 

『こんな時にふざけるのも大概にして欲しいわね! 一体どこの誰よ!!』

『えっと……震電の聞き取り調査の為、格納庫へ訪れた際に、最後までイサオの機体だと主張をされていた方です!』

『ソイツって! 自分の意見を無理矢理押し通してハルトをイヅルマへ来させた張本人じゃない!』

『こちらも理解が出来なくて混乱しています! ですが例え元議員になられたとしても、調査の為には飛行船を止めなくてはいけません! カナリア自警団はこちらの援護を!』

『分かったわ、アコ。空の事は任せておいて。ミントはアコの安全を任せたわよ』

『了解しました! お姉様に害をなす者達は全て排除します!』

『最後に一つだけ! 護衛と呼ばれていた機体は疾風! 私たちが確認出来ただけでも三機です!』

『いくら疾風とはいえ、足の遅い飛行船で三機だなんて。随分と余裕があるようじゃない』

『実際によゆーだと考えているんじゃないのー?』

『それはそれで腹が立つわね……』

『はいはい! 質問です! ハルトさんはどうされますか?』

 

 足手まとい一号です。一号しかいませんが。

 どう考えても邪魔にしかならない状況下。空賊らしき相手も去った事を考えれば、私は地上へと戻り皆さんの足枷を外した方がいいと。

 

『ねー、もう遅いみたいだよー』

 

 ヘレンさんの声に皆が集中する。護衛と主張する疾風が三機、こちらに向かってくる姿が見えた。

 

『なら、私はハルトの護衛を務める事に集中するわ。エル、今更だけど指揮系統を貴女に返すわね』

『はい、返されました。リッタ、ヘレン、私たちであの三機の対応をするわよ』

『了解です! エルさん!』

『ほーい』

 

 三機は編隊を組み、疾風に対して警戒態勢へと移行する。シノさんは相手との距離を図りながらも小型飛行船の動きに注意をするようだ。

 

『こちらは飛行船の護衛を務めている隊の長だ。カナリア自警団と敵対する理由はこちらには無い。このまま飛行船を離陸させ、引き渡しを完了させて欲しい』

『そうはいきません。例えパロット社から引き渡し済みとはいえ、現在イヅルマ上空は警戒警報が発令されています。こちらの指示に従って頂きます』

『……その指示に従えない場合は?』

『私たちもそちらと敵対するつもりはありませんが、自警団としての職務を全うするまでです』

 

 緊迫した空気が無線から通じてくるのが分かる。その間にも小型飛行船は離陸を始め、イヅルマから離脱を図ろうとしている。

 

『元議員については、こちらから雇い主に便宜を図るようお願いしよう』

『もしもあなた方がこちら側の立場であればそのような主張が通るとお思いですか?』

『まぁ……無理だろうな。だが、それでも我々にも矜持というものがある。それに自警団……イヅルマ所属であれば尚の事、あの飛行船を止める事は不可能だという事は理解しているはずだ』

『今なら飛行船のガスを抜く程度の事は行えると思いますわ』

『それをさせないのが、我々の任務だ』

 

 三対三。お互いを睨み合うように、戦闘状態に突入しても優位に立てるように、位置を細かく変更していく。

 もしもだ、私が震電の特性を生かして可能な限り上空へと逃げた場合、シノさんがあそこへ加われたならば、この展開に動きがみられるのだろうか。

 それとも、逆にそれが引き金となって戦闘開始に陥るのだろうか。こればかりは経験がない私には理解は出来ず、シノさんと共に小型飛行船が悠々と空を飛び始める姿を眺めるだけの状況だ。

 外見は通常の飛行船と同じく、船内にガス袋を配備する船体であり、操舵室となる部分がその下に付くように。

 唯一違うのは、操舵室の下には私が知っている海や湖などの水に浮かべるような形の船体が付けられている事。地上に着陸出来るようにした為か、船底は平面となっているが。

 

 このまま見つめるだけで終わるのだろうか。地上にいるアコさんやミントさんが何か手を打つ方法を考えているのだろうか。それもこれも、全ては無線から聞こえる議長の声によって終止符を打つ事になる。

 

『イヅルマ上空にいる全ての戦闘機に告ぐ、小型飛行船をそのまま通し、全ての戦闘行為を一切禁ずる。これはイヅルマ議長である私の命令だ。全ての責任は私が取る』

『議長!? ですが相手はこちらの指示に従わず、明確に拒否を続けたままです。何より市長を無視してまで私たちに命令を出すおつもりですか?』

『あぁ、そうだよ。だからこそ責任は全て私が持つのさ。アンタたちには迷惑をかけるつもりはないよ。そこの疾風、聞こえているだろう』

『聞こえている。我々とて敵対する理由はない。この様な判断を下して頂いた事に感謝する』

『ハッ! あくまで今回は見逃してやると言っているだけさ! さっさとあのボンクラごと飛行船を連れて消え去りな!』

『……了解した。ご婦人とは近いうちにまた会う事になるだろう』

『もう少し女性の扱いに慣れてから来るんだね! 小僧!』

 

 議長の言葉に疾風の隊長は笑いを隠さずにいる。そして翼を振り、相手の味方機と共に小型飛行船の方向へと進路を変えていった。

 私たちはそれを見守るほか、無かった。

 

「一体なんなのよ、あいつらは!」

「分かりません。ですがパロット社に対して聞き取り調査を行わなければならない事は確かです」

「何名かは拘束したのですが、上からの指示だとしか聞けませんでした」

「あの疾風、最初に相手をした奴等とは全然違って統制が取れていましたもんねぇ。何者なんでしょう?」

「ただ者ではない事は確かね。私と交渉していた際も、焦りの色を感じさせなかったのですから」

「でも、町と飛行船を人質にされていなければ、あたし達が勝つよ。それはぜったい」

 

 ヘレンさんの言葉に頷くカナリア自警団の皆さん。

 私が……という考えは捨てよう。ここで自虐的な事を発言しても何も価値がない。シノさんの指示通りに動けただけ良かったと。そう思う事にしよう。

 アコさんが意識をこちらへ向ける為に軽く手を叩き、笑顔で言葉を伝える。

 

「後で議長がこちらへとやってくるはずです。それまでは一旦休憩にしましょう。町を守る。という義務を果たせた事は、素直に喜びましょう!」

 

 その言葉に皆さんの強張った肩が、一旦下ろされる。私も深呼吸をしてようやく鼓動が収まる感覚を受け入れそうだ。

 

「ハルトさん、本来であれば予定していた震電の訓練をこのような形になってしまい申し訳ありません」

「アコさんが謝る事はありませんよ! それに私はずっとシノさんの命令に従って機体を動かしていただけですから!」

「あら、久しぶりに操縦する機体であそこまで動かせれば上々だと思うけれど?」

「あまり褒めないでください。それだけしか出来ていないとも言えるんですから」

「ハルトさん! シノさんのお尻はどうでしたか? とーっても魅力的だったと思うのですが!」

「リッタ! 機体で後ろに付くのと私のお尻がどう関係あるのよ!」

「シノは見た目よりも大きいから」

「ヘレン! 貴女まで何を言っているのよ!」

「すぴぃー」

「寝たふりをして誤魔化すんじゃないわよ!!」

 

 そのやりとりのおかげか、笑い声が聞こえ、先程までの空気は消え去り、私の知っているカナリア自警団が戻って来た。

 議長が訪れる僅かな時間かもしれないが、全身の力は抜け、今になってようやく地上に戻ってきたのだと実感する。

 一丁前に足の先で地面をグリグリと動かしてみた事は、ここだけの秘密である。

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