あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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カナリア自警団 その18

「すまない、待たせたね」

「議長! こちらも丁度良い休憩時間がとれましたので気になさらないでください!」

「ありがとう、アコ。早速だけどこれからの事について作戦会議を開きたい。カナリア自警団は全員揃っているかい?」

「勿論です! 会議室も手配済みです!」

「アンタって子は……ここ最近の騒動も悪い事ばかりじゃないと思わせてくれるわね!」

「そんな事はありません! 私に出来る事を日々こなしているだけです!」

「時間があればいくらでも撫でまわしながら褒めてあげたいところだけど、今は早さが重要だ。ハルトはいるかい?」

「はい、こちらにいますが」

「本来であればアンタは、カナリア自警団が護衛をする対象でもあるんだが、事が事だけにアンタの意見も伺いたい。会議に出席しな」

「了解しました」

「アルバート!! 会議室を借りるわよ!」

「はい! お好きなだけご利用ください!!」

 

 会議室へと集まるカナリア自警団と私と議長の面々。私の意見と言われても何を聞かされるかは分からない。

 ただ、ここまできたらお手伝い出来ることがあるならば、可能な限り力を貸したいと思うのも心情。

 

「まず簡単に本日の出来事を振り返るわよ」

 

 一つ目は地上で起きた出来事から。アコさんとミントさんから話始める。

 小型飛行船の引き渡しに元議員が立ち会う事になっており、アコさん達はその方の護衛も含まれていた。

 ただ、小型飛行船へと乗り込もうとした際に、自警団諸君はそこで待ちたまえと元議員から指示が下され、渋々ながらも待機をしていた。

 その後、イヅルマへ向かう所属不明機が発見されて、其々に無線を通じて指示を出していたところ、小型飛行船に搭載されている発動機が動きだし、離陸を始めようとしていた。

 停止させる為にミントさんと小型飛行船へと近づいた矢先、甲板から元議員がこちらに向けて警告射撃を行ってきた。

 要求はただ一つ、何もするな、と。

 

「その時に投げ捨てられたのが、辞表でした……」

「考えたくはなかったが、当初現れた空賊は奴等に時間稼ぎとして雇われた可能性が高いわな」

「でも、あそこまでのリスクを抱えてまで飛行船を手にいれる目的は?」

「一つだけ思い当たる節がある。イケスカ騒動時のオウニ商会が行った方法だ」

「それって……まさか! 飛行船に爆薬を積み込み、ブースターを利用した超高速による穴の破壊!?」

「そう、当時はそれでイケスカの穴を封じる事が出来た。だがそれを穴ではなく町に利用されたら?」

「そんな事が起きてしまえばイヅルマは致命的なダメージを受けてしまい、全ての機能が停止……そこまでしようとする人達って!」

「元自由博愛連合の連中である可能性が極めて高い、ということだよ。物流の要である飛行船の生産を止め、イジツに物が出回らなくさせ、弱り切ったところを叩き潰して制圧する。誰が考えたのか知らんが、中々のエゲツない作戦である事は確かだね」

 

 飛行船にブースター。確かにその話はイサオさんやアレン達も含めて聞いた。穴の破壊に使われた方法を、今度は町で利用しようと考えているのか。

 

「二つ目。これはハルトにお願いしたい」

「何でしょうか?」

「市長室に向かい、電話を利用してイヅルマの現状をルゥルゥに伝えてほしいのさ」

「電話って、ラハマと繋がるものが存在していたんですか!?」

「あぁ、あるんだよ。使える様にしたはいいが、すこぶる維持費が高くて飛行機を飛ばした方がマシな程にね」

「では、今回もそうされた方が良いのでは?」

「時間との勝負だ。ここで僅かにケチって町が消える可能性がある限りは私が許さん」

 

 リスクを可能な限り潰していく方法なのだろう。それについては異議なしである。レオナさんがイヅルマから去って一日でこんな事になろうとは。

 

「三つ目については全員が戻ってきてからとする」

 

 

『あら、ハルト君から電話なんて思いもよらなかったわ。一体どうしたのかしら?』

「マダム、イヅルマで起きた事について手短に説明をさせて頂きたい事が発生しました」

『聞かせて頂戴』

「イヅルマでパロット社より小型飛行船の引き渡しが行われました。その時にイヅルマへ空賊らしき機体が現れ、その対応をしている最中に小型飛行船が可動し始め、離陸。止めようにも街中である事と、護衛に疾風がいた事もあり、見送るしかないまま戦闘は終了しました」

『その小型飛行船、何が目的で利用されるとハルト君は考えているかしら?』

「皆さんと考えた結果、最悪の場合はイケスカに現れた穴を破壊する為に使用された羽衣丸と同じような用途で町に向けて使われるのでは、と」

『でしょうね。イヅルマの造船能力を奪い、物資の流れを停滞させるつもりでしょう』

「こちらにいる議長も同じ事を言っておられました。マダムとは知り合いだとも」

『議長? あぁあの人の事ね。随分とお世話になった事は確かよ。それでこうして電話会談を設けさせていただいたのね』

「私という護衛対象がいる以上、マダムに連絡を入れるのが筋だと申しておりました」

『あの方らしいわ。でもありがとう。最後に一つ聞いても良いかしら?』

「なんなりと」

『護衛に付いていた疾風、機体は何色だったか覚えているかしら?』

「全て黒色でした」

『……そう。相手は間違いなく自由博愛連合の残党。その中でもイサオ直属部隊に所属している奴等ね』

「そうでしたか……そちらは議長に伝えさせて頂きますね」

『よろしくお願いね、あとレオナから話があるようだから聞いてあげてくれるかしら?』

「勿論、喜んで」

 

 受話器の先から薄っすらと聞こえるレオナさんの声、遠慮をしているようだが、マダムに押し切られて受話器を受け取ったようだ。

 

『ハルト、レオナだ。そちらは無事か?』

「おかげさまで五体満足で生きております」

『それはよかった……私もラハマへ戻ってから可能な限りの事はしているのだが、イヅルマへ戻るにはしばらく時間がかかりそうだ。すまない』

「気にしないでください。むしろこの状況下。もしかしたらラハマにも何かが起きるかもしれません。その際にはレオナさんがいらっしゃればコトブキの皆も安心して任務を行えるでしょうし」

『だが、その……私はお前が心配なんだ。ハルトは少し抜けているところもあり、目を放せば直ぐにどこかへ行ってしまいそうな気配もあり、私が手を握ってあげないといつの間にか消えてしまうのではないかと』

 

 レオナお姉ちゃん。心配してくれるのは嬉しいのだけれど、完全に孤児院の子供たちと同じ扱いに突入し始めましたよね。そんなレオナさんも勿論好きだけどさ。

 

「ちゃんとレオナさんの言付通り、一人では町を歩き回るような事はしていません。必ずカナリア自警団の方と一緒にいますから。約束を破ったりはしていませんよ?」

『……うん、そうだな。ハルトは約束を守れる人間だ。私がいない間でも約束を破らないように気を付けるんだぞ?』

「あい、レオナさんもそう遠くないうちに何かが起こるかと思います。お気をつけて」

『ありがとう。マダムに……代わる必要はもうないようだ。これで切らせてもらうぞ』

「了解です。また会える日を待っていますね」

 

 受話器を置いて通話を終了させる。

 何時も通りのマダムの声色。イヅルマでしばらく一緒に生活をしていたせいなのか、レオナさんは大変心配症になっている模様。

 それでも久しぶりにお二方の声が聞こえ、お互いの無事を喜びあえるのは、凄く嬉しい。

 さて、用件も済んだことだし、市長にお礼を伝えて詰所に戻るべきだろう。

 

「んっんーママぁ……」

「よしよし、市長は疲れているのですよ。甘いものでも食べて心を豊かに致しましょう。はい、アーン」

「アーン」

 

 イヅルマの闇を見た。

 

 

「ただいま戻りましたわ」

「ただいまですー」

「お帰りなさい! エル! ハルトさん!」

「あら? アコだけ残っているの?」

「はい、他の隊員の皆さんは議長からの指示もありまして別々に行動を開始しています。私はその連絡員とでも言えばいいのでしょうか」

「それも重要な仕事よ。こちらに関してはハルトさんがラハマへ連絡を入れてくれたわ」

「どうでしたか、ハルトさん?」

「報告すべき事が一件ありました」

「なんでしょう?」

「護衛と呼んでいた黒い疾風は、イサオ直属部隊に所属していた者だという事です」

「イサオの……という事はやはり、自由博愛連合が絡んでいるという事なのでしょうか?」

「確証はありませんが、恐らく。そして議長とマダムのご意見は同じで、小型飛行船には十中八九、イケスカの時のような利用方法をされるであろうと申しておりました」

 

 神妙な顔をして思考に耽るアコさん。イジツではどう捉えられているのかは分からないが、明らかにミサイルとしか思えない。

 だけどミサイルは機械制御で撃ち放たれた後は自動で飛んでいく。イジツの飛行船を利用する時点で人が……ってあれ? 確かイヅルマでも自動操縦が絡んだ話があったような……。

 

「アコ、眉間に皺が寄っているいわよ」

「エルぅ、それはどうしたって無理だよぉ」

「大丈夫よ、みんな出来る事を精一杯こなして、最悪を回避しようと動いているのだから。皆を信じて、ね」

 

 エルさんが優しくアコさんを包むように抱きしめる。この二人は幼馴染なんだっけ。素敵な距離感があって羨ましいなと思う。

 

「私は防空パトロールに向かうわ。アコの事はお願いね、ハルト君」

「エル! そんなに根を詰めなくても!」

「そこまで疲れたわけではないのよ。私も私に出来る事をって思っているだけなのだから」

 

 軽く手を振って詰所から出て行かれるエルさん。アルバート部長すらいないアコさんと二人だけの空間。

 考えてみたらこんな状況は初めてかもしれない。必ず誰かがいたから。

 

「そういえばハルトさん。イカルガ自警団の写真を見たいとジョージさんから聞いたのですが?」

「ジョージさんが? いつの間に」

「ヘレンさんに伝言を託していたみたいですよ。よろしければご覧になられますか?」

「その、よろしいのですか?」

「問題ありませんよ! むしろお父さん達の事を知って頂けるのは嬉しいものです!」

「あらぁ、アコったらそんな事を考えてくれていたのね。お母さん嬉しくて涙が出そう」

 

 聞き慣れない声が扉から聞こえる。視線をそちらに向ければ赤髪の綺麗な女性が立っていた。その後ろにはまさかのジョージさんも。

 

「おおお母さん!! どうしてここに!?」

「少し気になることがあったから、お忍びで来ちゃったわ」

「どこがお忍びなんだか」

「あら、ジョージ。貴方もヘレンが心配でやってきたんじゃないのかしら?」

「俺はたまたまだ。配達のついでに立ち寄っただけだ」

「相変わらず素直じゃないんだから、そちらにいらっしゃる方がハルトさんかしら?」

「はい! 申し遅れました。私、ハルトと申します」

「あらご丁寧にどうも。ジョージからは聞いているかもしれないけれど、私はアコの母親のミヤコよ。よろしくね」

「うぅぅぅ、なんでこのタイミングで来るのかなぁ」

「女のカン、ってやつかしら。余り良い状況とは思えないみたいだもの」

「ヘレンは?」

「ヘレンさんであれば、議長と共にパロット社へ立ち入り調査へ同行しています。最初はかなり渋っていましたけれど……」

「相変わらずな子で安心したわ。それで私たちが来る前に、二人は何をしようとしていたのかしら?」

「ジョージさんからの伝言を思い出して、時間のある今の内にハルトさんにイカルガ自警団の写真を見て頂こうかと思っていまして」

「まぁ! 若い頃の写真を見られるのはなんだか恥ずかしいわ」

「今も大して変わらん」

「あはは……少しだけ待っていてくださいね!」

 

 アコさんは自室に置いてあるのだろう、写真を取りに部屋から出て行った。

 取り残された私は、アコさんのお母様とヘレンさんのお父様と対面するようにソファに座っている。圧迫面接であろうか。

 

「ジョージ、聞いてもいいかしら?」

「コイツに何故写真を見せようとしている事か?」

「えぇそうよ。見せる事については問題ないけれど、貴方がヘレンを通じて見せる様にと耳にしたものだから」

「相変わらずの地獄耳だな。だが理由はある。コイツは穴について詳しいという事だ」

「穴に詳しい? 彼が?」

「あぁ、理由はそれだけだ。何かを期待しているわけではないが、穴の事を知っているのであれば、トキオの顔ぐらいは覚えておいてもらえれば何かあるかもしれないとな」

「……貴方はまだ」

「アイツは死んじゃいない。それだけは確かだ」

 

 確かにトキオさんのお顔を拝見させていただければ、可能性はある。それは日本に戻った後の話になってしまうけれど。

 扉から息切れをしているアコさんの姿が見える。走って取りに行ってきたのだろう。

 

「遅くなってすみません! 仕舞っておいた箱を探すのに手間取りまして」

「日頃からちゃんと整理しておかないとダメよ? お母さんが手伝ってあげましょうか?」

「それだけはご勘弁を!!」

 

 親子の会話を尻目に、ジョージさんが写真を選別していく。そして一枚の写真を私の前に出す。

 

「これがアコの父親にして、イヅルマの英雄であるトキオの顔だ」

 

 テーブルの上に置かれた写真には、笑顔でこちらを見つめる一人の男性。英雄と呼ばれている方とは思えない程、親しみやすい表情をしている。

 

「懐かしいわねぇ。一人で写る写真は余り好きでは無かったはずなのに」

「誰かが隙を付いて撮影したんだろう。広報用にも使いたがっていたからな」

「……あの、ハルトさん、大丈夫ですか? お顔が優れないようですが」

 

 ジョージさんから見せていただいたトキオさんの顔写真。それを見た瞬間、脳が極端なまでに思考を開始する。

 これはどこかでみた事のある顔だと、既に日本で見た顔だと。脳が叫んでいるのが分かる。

 心配をしてくれるアコさんが、私の手を握って下さるが、それさえも反応が出来ない程に身体まで硬直している。

 そしてどの程度、時間が経ったかは分からない。ただ答えがはっきりとした。私はこの人と出会っている。

 だが、それを伝えれば私が穴の先からやってきた事がバレる。震電に関しても嘘をついていた事がバレる。嘘で塗り固めた設定が、たった一人の男性に全て崩されようとしている。

 

「……その様子だと、お前さん。トキオと出会った事があるみたいだな」

「えぇ……それも何年も前というよりも、つい最近とも受け取れる表情をしているわね」

「ハルトさん……」

 

 嘘をついた代償か。軽蔑をされても仕方のない事だ。自警団に拘束されても仕方のないほどに。

 レオナさん『希望は時として人を傷つける』と言いましたが、相手にすら本人だと確信させられる物を所持している私は、どうすればよろしいのでしょうか。

 アコさんの手を握り返す。アコさんも握り返してはくれるのだが、その瞳は不安の色が隠せない。

 逃げ出す事も出来ない、回避をすることも出来ない。ならば打ち明けるしかない。これが私にとってどうなるか、全くの不明だが。

 

「一つずつ、お伝えさせて頂いてもよろしいですか? もう嘘を付く理由が無くなってしまいましたので」

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