あの穴の先にあるモノは   作:星1頭ドードー

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第9話

 同志認定をされたあの後、ユーハングに関する質問で一杯になった。

 食べ物、お酒、植物、文化に技術の話と多種様々。

 

『はーいストップ。いきなり質問攻めにしてもハルト君が困ってしまうわ。せっかくだから昨日の続きも含めてハルト君の歓迎会も開きましょ』

 

 とザラさんが言う。こんなユーハングから来た事以外に身元不明の人間に対してなんて寛大な人でしょうか。

 

 

 しばらくするとラハマと呼ばれる町が見えてきた。町の端には滑走路が見える。航空技術が発達した世界とは聞いてはいたが実際に町に滑走路と格納庫があるのを見てしまうと驚きを興奮を隠せない。

 その状態で飛行を続けていたらレオナさんからの無線が入り、先に降りるよう指示を受ける。

 何度も練習した着陸。一呼吸を置いてから慎重に機体を安定させて着陸をする。尻のデカイ子なので隼とはまた違った緊張感のある着陸である。

 毎回の事だが地面に車輪が接地した後の振動に妙な心地よさを感じる。

 ここから先は誘導員の指示に従い、エンジンを切り格納庫の隅へと押し入れられる。そのまま待機するようにと指示を受ける。

 銃を携帯している人達が機体の周りを囲っている。当たり前ではあるが疑われているよね。大人しくしているに一票。そこまで緊急にやばい事は起きてない。具体的に言えば大とか小の話。

 あぁでもこの状況下がある種の独房状態なのだろうか。あの幻聴は未来の自分が語り掛けてきたのか。やはりパンケーキの呪いは恐ろしい。

 

 

 暇な時間をくだらない妄想とこれからどうするか。そんな事に費やしていたら機体の叩く音が聞こえた。ふと音のする方向に首を動かすとレオナさんがこちらを見上げていた。周囲にいた銃を携帯していた人達はいつの間にか消えていた。

 

「すまないがこれからお会いしていただく方がいる」

「分かりました」

 

 防風を開けて機体から降りる。地面を踏みしめて脳みそを切り替える。しかしどうなるんだろう。私も、震電も。

 

「機体が気になるか?」

「知らない場所で置いていくのは初めてなものでして」

「すまないが、外観だけは布で隠させて貰う。この機体がこれ以上、他の人達の目に触れられる状況にしておくのは余りに危険なのでな」

「それはイサオさん絡みのって事でしょうか」

「そんな所だ。さ、ついてきてくれ」

 

 格納庫から街並みに向かい歩き始める。

 道中、辺りを見渡すが事前に聞いていたイジツはもっと危機迫るようなイメージではあった、だが少なくともここは治安も良さそう。道端にゴミもない清潔な街だ。

 

「どうだ、ラハマは?」

 

 レオナさんが話しかけてくる。キョロキョロと挙動不審な動きをしていたからだろう。少し恥ずかしくなる。

 

「町の上空から見た時も思いましたが綺麗な街ですね。つい視線が移動してしまう」

「そうか、そう言ってもらえるのは嬉しいな」

 

 嬉し気に笑みをこちらにくれるレオナさん。あんな事があったのに微笑みまでくれる優しい人。赤髪のポニーテールに胸元に青いリボン。緑色の袖なしのワンピースジャケットの姿。背も高くてとても凛々しいお姿。一言でいえば美女。頭にとびっきりのが付くぐらいに。はぁーと溜息も出てしまう。

 

「大丈夫か?」

「あー……はい。ありがとうございます。これから慣れない事をすると思うと緊張してしまいまして」

「なに、マダムと面会する時は私も同席している。いつも通りにしていれば大丈夫だ」

 

 そう言って微笑むレオナさん。見知らぬ人間にここまで親身になってくれるなんて。勿論、ユーハングから来たという理由もあるのだろうけれど。その後もレオナさんは私の緊張を解すかのように話かけてくれた。

 そして案内された前には大きな建物。

 

「ここにオウニ商会の社長。マダムルゥルゥがいらっしゃる。ハルトの事に関しては報告済みだ。色々と聞かれるだろう。答えにくい事もあるだろう。

 それでも嘘だけは止めておけ」

 

 レオナさんの言葉に頷く。後ろについて行き、一つの扉の前で止まる。モコモコ帽子を今の内に脱いでおく。

 

「コトブキ飛行隊隊長のレオナです。ハルトを連れて参りました」

 

 入って頂戴。その声に従い部屋の中へ。

 そこには赤で統一された服装を身に纏う女性がいた。美しい。という言葉よりも妖艶の方が似合いそうな雰囲気を漂わせている。

 

「いらっしゃい、ハルト君。会いたかったわ」

「お会い出来て光栄です。マダム」

 

 会釈をして顔を上げる。

 

「こちらから呼び寄せたもの、もう少し砕いて接してもらえると助かるわ」

「……善処はしてみます」

「そうして頂戴」

 

 マダムが微笑みながらそう言い、ソファーに座るように勧めてくるのでお言葉に甘える。

 対面にマダムとレオナさん。目の前に紅茶。銘柄などは詳しくないが良い香りがしている。

 どうぞ。と勧められたので頂く。ほんの一時間程度しか経過していないはずだが、こちらに来てから怒涛の展開で喉も乾いていた。

 紅茶の香りを楽しんだ後、一口。美味しい。思わず言葉として出てしまった。

 

「口に合うようでよかったわ」

「はい、とても美味しいです」

 

 紅茶の良い香りと暖かい飲み物。もう一口頂いて上がりきった肩を少し下す。自分が想像していたよりも緊張でガチガチの状態だったみたいである。

 

「話し合いを始めても大丈夫そうね」

「はい、お待たせしました」

「お互いに聞きたい事があると考えて良いかしら」

「その認識で間違いはございません」

「そうね……呼び出しに応じてくれた手前、先に聞きたい事があればどうぞ」

 

 マダムはそう勧めてくれる。聞きたい事……第一としては曽祖父の弟さんの事だけど、イサオさんですら不明な事を聞いてもあまり意味はなさそうな気がする。

 せっかくお先にどうぞをされたのに思いつかない。あれ、むしろお先にどうぞをした方が探り合いで有利なのかな。そうなのかな。そうかも。もう駄目だ。

 嘘をつくなとレオナさんに言われていたが、嘘すら浮かばない。浮かんだとしても、隠し事が顔に出るとイサオさんに揶揄われるぐらいなので無理です。でもイサオさんにだけは言われたくなかった。結局、気になる事といえば……。

 

「では確認を。この世界はイジツと呼ばれる世界で合っていますか?」

「えぇ、ここはイジツと呼ばれる世界でラハマと呼ばれている町よ。そして貴方がいる世界はこちらではユーハングと呼ばれている事も」

 

 おまけ付きで返事をもらう。よかった。兎にも角にも目的地の世界には辿り着いたようだ。

 

「ユーハングから来た貴方はイジツに何か御用かしら」

 

 いきなり本題をぶち込まれる。そりゃそうだよね。イサオさんの機体に乗ってイジツの事を知っているユーハングの人間が来たのなら目的があるに決まってる。イサオさんの事を最初に聞かれないのはマダムの優しさなのだろうか。

 どうしようと考えるが、こんな与太話を信じてもらえるのだろうか。曽祖父の弟さんを探しに来ましたなんて。

 頭の中で小人が白旗を全力で振る。せめて誤解を招かないように伝えるしかない。視線の斜め上にいるレオナさんに視線を移すと嘘は駄目だぞ。といった視線を返される。

 

「こちらの世界に探し人がいる可能性がありまして、唯一辿れる細い糸を頼りにここまで来ました」

「探し人……七十年前にこちらにいたユーハングの人達に関する事かしら」

「はい。その通りかと思います」

「でもユーハングの人達は穴が閉じると同時に消え去ったと聞いているわ」

「一人だけ、残った方もいらっしゃったという事も知っております。でも探し人はその方ではありません」

「断言できる理由は?」

「性別は一致していますが、名前と風貌。それに年齢でしょうか。もし今も生きてましたら百歳は超えていますので」

 

 それを聞いたマダムは少し表情を崩す。レオナさんはやや落ち込んだ顔。

 そうだよね、百歳越えてますなんて言ったら人間五十年な世界のイジツでは生存している可能性なんてほぼ皆無だ。

 

「貴方は探し人の遺品となる物を求めてやってきた」

「はい。痕跡だけでもいいので生きていた証を見つけたいのです」

 

 マダムが紅茶に口をつける。一息ついて一言。

 

「穴からは色々な物が降ってきたわ。良い事も悪い事も。だけどこちらの世界に探し物を。ましては人を探しに人間がやってくるなんて初めてだわ」

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