レ級は出ないよ!北上様だよ!
「バイクはいいよねー、バイクはさー」
深緑に塗装されたホンダのカブに跨りながら、深緑のヘルメットをかぶる深緑の制服を着た美女艦娘。北上は上機嫌で道を行く。
「非番もいいよねー、非番もさー」
バイクとヘルメットの色は余ったゼロ戦の塗料をぶちまけたという簡易的かつ頑丈なものだ。軍用塗料は塗ったら最後。なかなか取れない。ただし彼女の制服の色は最初から深緑であり、特に塗料をぶっかけたものではない。
ちなみに北上の乗るカブは実際はリトルカブである。タイヤサイズのインチアップとリアキャリアの交換でスーパーカブっぽくはなっているものの、エンブレムにはしっかりと『リトルカブ14』の刻印がなされている。
日本の下駄バイク。それがカブシリーズ。壊れない、燃費がいい、パワーもある。整備もしやすい。最高の一台だ。そしてなにより小柄な女性に似合う。
エンジンの音はまさに「トコトコ」。流れる景色を楽しみながら北上は上機嫌で鎮守府へと向かう。
「非番といっても鎮守府に入っちゃいけないなんて道理はないもんねー」
北上がわざわざ非番の日に職場に来た目的は特にない。ただ、ちゃちゃを入れに来ただけである。
◆
北上が属する鎮守府は特に切羽詰まった地域ではない。どこなのかと言うと戦局が比較的安定している北方の要所である「大湊」だ。例えば戦艦レ級が来るような事は間違ってもないぐらい安定している。そう、戦艦レ級が来ることはないったらないのである。
なので、艦娘は今は非番が多い。比較的閑散としている鎮守府にカブのエンジン音が響いているが、特に出てくる艦娘もいない。しいて言えば、提督がいるぐらいだ。
駐輪場でヘルメットを脱ぎ、バイクから降りたところで、提督と出くわす運命である。
「おーす、提督。元気ー?」
片手を上げて笑顔で気だるげ。まさに北上である。
「お、北上か。非番じゃないのか?」
「宿舎は落ち着かなくてねー。執務室でコーヒー飲んでていーい?」
「かまわんよ。私も書類を出したら戻るから、それまでのんびりしててくれ」
「うぃー」
上下関係が一切感じられない会話だが、艦娘と提督の間柄なんてそんなものである。個々人、というよりも個々船の感覚に近いので殆ど上下関係なんて無いようなものなのだ。『北上という個人の中に下から上までの階級が存在している』といった具合である。過去の歴史に左右されるが、現提督の上の階級なんて場合もあるのだ。
だからこそ、気にしない。
「おーす。今日の秘書官は金剛だったっけー」
「oh。非番のキタカミじゃないですカー」
「どーもー。非番のキタカミデース!コーヒーあるー?」
「ありマスよ。沸かしてあるので好きに入れてくだサイね」
「心得たよー」
コーヒー豆が煮込んであるともいえるポットから真っ黒な液体をコップに入れる北上。妙に絵になるのは気のせいだ。ちらりと北上は金剛に目線をやると、やはり金剛の手元にはティーカップが置いてある。
「相変わらず金剛は紅茶かぁ。オシャレさんだねぇ」
そういいながら金剛の近くのソファーへと座り込む。来客用らしくふかふかである。
「口に合いますからネ。ただ、別にコーヒーが嫌いってわけじゃないデスよ」
「へぇ、そうなんだ」
「印象ってものがあるでショウ?」
「ああ、そういうことねー。ッカー!艦隊の人気者は辛いねぇ」
にやにやと金剛に視線を送る北上に、苦笑を返す金剛。しかたないですねーという言葉が聞こえてきそうだ。
「で、北上は何しに来たんデース?」
「いんやー、本当はバイクで出かけようとおもったんだけどさー」
北上はコップを適当な机に置くと、天井を向いて、左手の人差し指を天に突き上げた。
「ちょーっと嫌な予感がしてね。非番しつつ鎮守府にはいておこうかなーと」
「アァー。北上の直感は当たりますからネー。ま、コーヒーのお代わりはたくさんあるノデ、くつろいでいてくだサイ」
「はいよー」
そして間髪入れずに金剛は電話へと手を伸ばして、艦ドックの明石へと一つ、命令を飛ばした。
「こちら金剛。明石?…ええ、緊急です。北上の重雷装、至急使えるように整備を。ええ、非番ですが、『嫌な予感がする』そうで、執務室に来られています。はい、はい。では、準備をよろしくお願い致します」
「悪いねー」
「これが秘書官の仕事デスからネー。で、今回の嫌な予感はどこら辺からデスカ?」
北上はソファーから立ち会があると、日本地図へと歩みを向ける。そして、ある一点を右手の人差し指で指差した。
「北海道。数はいないと思うけれど、なんか突拍子もない奴のような気がする」
「安定している、北ですカ?しかもよりによって、北海道限定?」
本当か?といった顔の金剛に、
にへらと笑みを浮かべ、北上は答えを発する。
「うん。突拍子も無い奴って言ったじゃん。あと、勘だけど、多分私と気が合いそうな気がしてならないんだよねー」
「気が合いそう?どんなところがですカ?」
「それは
-二輪乗りの深海棲艦が陸からくる、なんて予感、誰も信じないでしょ-