ガンダムビルドダイバーズRe:RISE RTA   作:奇人男

5 / 11
 
なんか日刊ランキング入りしてたので初投稿です



僕達の翼①

 

初めて飛び込んだGBNの世界は、何もかもが広くて、雄大で――同時に、否応ない孤独を感じさせた。

 

GBNは自由だと、尊敬する兄は言う。

人種も国籍も、身分も階級も関係ない。現実(リアル)にどんな障害(ハンデ)があっても問題ではない。ただガンプラへの愛こそがダイバー達の共通語(リングワ・フランカ)だと。

 

兄の言葉を疑うわけじゃない。間違いだとも思ってない。きっとそれは正しい。

 

けれど、現実(リアル)の身体にまとわりつくものを脱ぎ捨てた後に残ったものは、何者でもない僕自身でしかなかったんだ。

 

 

 

ガンプラが好きな気持ちがあればいい。GBNには同じ『好き』を持った人達がたくさんいる。

だけど所詮僕はチュートリアルを終えたばかりの初心者で、一緒にやる友達もいないし、ディメンションを行き交う人達に声をかけることもろくにできなかった。

 

誰も僕の現実(リアル)を知らない。

色眼鏡をかけて見られることがないということは、誰も僕のことなんか気にも留めないということだ。ここにいるのは、臆病で小心な初心者ダイバーがたった一人だけ。GBNでの僕は誰にとっての何でもない、ただのパルヴィーズだ。

 

そりゃあ僕だって、GBNのパーティプレイには憧れがあった。あのビルドダイバーズみたいなフォースを結成して、ガンプラを愛する仲間と一緒にこの世界を冒険したい。そう思ってはいても、僕にはできなかった。他人に挨拶したり声をかけたりなんて、こんなに難しいことだったっけ。

自分に自信が持てないっていうことは、自分自身の存在まで朧になることなんだと、僕は思い知らされた。

 

きっと彼女(モルジアーナ)だって僕を笑うだろう。いや、情けないビルダーだって失望してしまうかな。

君を好きだという気持ちだけで、何もできないパルヴィーズを。

 

 

 

そんな僕にとっての転機は、偶然となりゆきで参加することになったストーリーミッションだった。

 

子犬のようなNPDに導かれてやってきた初めてのディメンション。初めての多人数参加型ミッション。初めてのチームバトル。初めてのフォース結成。

情けないけど、僕が何かできたわけじゃない。デスアーミーをベースにしたらしい敵NPDに銃口を向けられて、身体が竦んでろくに動けなかったし、同じミッションに参加していた皆さんに助けてもらわないとどうなっていただろう。

 

そんな混迷の中で、僕は目の前の光景に心を奪われた。

 

身体の奥から青い燐光を滲ませながら、金と青の残光を尾羽のように煌かせて荒野を舞う黄金のガンプラ――ユニコーンガンダム3号機フェネクス。背中の2枚のシールドを広げた傷だらけのその姿は、まさしく不死鳥を体現していた。

磨き抜かれた黄金の装甲はビームの弾痕で焼け焦げ、煤で薄黒く汚れている。けれど内奥から溢れ出すサイコフレームの輝きは、傷ついてもなお戦いを諦めない不死鳥の生命の光そのものに思えた。

フェネクスは大地を蹴って翔び、目にも留まらぬスピードで手刀を振り下ろす。そして頭のてっぺんから股下まで真っ二つになったデスアーミーの残骸を蹴り、不死鳥は次の敵を求めて跳躍する。

一瞬のうちに距離を詰めたフェネクスの鉈のように重く鋭い蹴りがもう1機のデスアーミーの頭をもぎ取って、青い光を纏わせた貫手が胴体を貫いた。デスアーミーから噴き上がった爆炎に照らされて、不死鳥の身体が朱く彩られる。

この荒々しくも気高く、雄々しくも美しい黄金の不死鳥の勇姿は、僕に震えるような胸の高鳴りを感じさせた。

 

驚くべきことにフェネクスのダイバー――ユリさんは、ミッション直前にチュートリアルを終えたばかりの、正真正銘のGBN初心者だった。

 

 

 

ユリさんからフレンド申請のメッセージが届いていたのは、その翌日のことだった。

僕にとって初めてのフレンド申請、それも向こうから送ってきてくれるなんて。バトルの前にちょっと顔を合わせただけなのに。一も二もなくフレンド申請を承諾すると、すぐメッセージが送られてきた。

 

『フレンド登録ありがとう。早速だけど、今からレベル上げのためにシチュエーションミッションを攻略するの。一緒にどう?』

 

肩肘張らない気安いメッセージに僕はどこかホッとした。ユリさんはきっとGPDとか、別のゲームを経験している人だと思って、少し緊張したから。会うのは2回目だけど、昨日同じミッションに居合わせた皆さんがどんな人かなんてわかりようもないままに強制ログアウトさせられてしまったし。

 

もちろん、僕はユリさんのお誘いを受けることにした。

総合受付エリアに行ってみると、昨日会った時と同じ、エゥーゴの黄色いノーマルスーツ姿のユリさんをすぐに見つけることができた。

 

「やっ、パルヴィーズくん! 来てくれて嬉しいよ」

「あっ、ど、どうも……こちらこそ誘って頂いてありがとうございます」

 

人懐っこい笑顔で手を振るユリさんには昨日のバトルで見せた悪魔(シャイターン)のような鬼気迫る迫力はなく、むしろその溌溂とした明るさは敵意や悪意というものとは無縁に見えた。

明るくて優しくて、他人を安心させる柔らかさのようなものがある人なんだというのが、僕から見たユリさんの第一印象だった。

 

ただ、彼女の本質的なところが結構体育会系というか、アスリート気質であることはこの後すぐにわかったのだけれど。

 

 

 

「う、う……うわああああぁぁぁぁっ!?」

『パルくん、焦らない! 敵の動きをよく見る!』

 

高速で迫ってくる敵NPDシナンジュの動きを目で追いながら、僕は必死になって操縦桿(スティック)を動かしてジグザグに宇宙空間を進む。

被弾するたび、パニックになりそうになる僕の頭を横から殴りつけるような、鋭い通信が飛んでくる。声の主は当然ユリさんだ。

 

メガ粒子弾の光軸がすぐそばを掠めて通り過ぎるのを感じて、思わず息を呑んだ。飛散したビームの粒子がヴァルキランダーの装甲の表面を焦がし、数値化されたダメージ表示がコックピットのバーチャルディスプレイにポップアップする。

敵の、いや味方の位置は?

レーダーの表示は?

現在の機体のステータスは?

刻一刻と目まぐるしく流れていく情報の波に溺れそうになりながらも、そのたびにユリさんの声が無線をつんざいて響き、僕を正気に引き戻す。

 

『私がシナンジュを引き付けるから、パルくんが攻撃! 私を見失わないでよねっ!』

「は、はいっ!」

 

言うが早いか、ユリさんのフェネクスは急制動をかけて反転しシナンジュを迎え撃つ。不死鳥の背から解き放たれた2枚のアームドアーマーDEは獰猛な猟犬のように一直線にシナンジュを襲う。シナンジュはフェネクスの意思を受けて飛来するアームドアーマーを軽くいなして、ビームアックスを2基連結させたビームナギナタを振るってフェネクスに挑みかかる。

 

『見せてもらおうか……新しいガンダムの性能とやらを!』

『上等ッ! 見たけりゃ見せてやるよ!』

 

ガンダムUCのシチュエーションミッションに登場するシナンジュはフル・フロンタルを再現した上級AIを搭載していると聞いたことがあるけど、この反応速度を見れば納得の話だった。

シナンジュは明らかな負けイベントか、敵が一定時間経過で撤退するまで耐えるタイプのバトルで登場することが多い敵NPDだから、原作再現で思いきり強くできるんだろう。

 

だけどユリさんは、上級AIなど知ったことかと言わんばかりの気迫でシナンジュとの鍔迫り合いを演じている。

いかに強敵だろうと耐久度が設定されているなら倒せるという確信の下、シナンジュの攻撃をかわしながらやり過ごそうという選択肢を最初から除外して戦っていた。

 

星々の光の濁流の中を駆ける金と紅の流星となって、フェネクスとシナンジュは切り結ぶ。僕はついていくだけで精一杯だったけれど、それでも目を離さず食らいついた。

 

そして、決着の瞬間が来た。

 

二振りのビームの刃が交錯し、2機が肉薄するまさにその瞬間、1枚のアームドアーマーDEがシナンジュの死角を突いて、深紅の機体に牙を突き立てようと迫る。だけど上級AIのシナンジュはこの奇襲にも対応して見せた。

 

『当たらなければどうということはーー』

『射撃! 今ッ!』

 

ユリさんの声が通信で届くのと同時に、僕はトリガーを引いた。死角からの一撃を避けたシナンジュに生まれた、一瞬の隙。それこそ僕達が待ち続けたチャンスだった。

ヴァルキランダーの口から吐き出された竜火球(メテオブレス)がシナンジュに命中して、赤い彗星のMSは炎に包まれた。

 

『まだッ! 墜ちるまで撃ち続けて!』

「はいっ!」

 

被弾してよろめいたシナンジュへ火球が殺到する。

シナンジュは追い討ちの攻撃を回避しようと動き出そうとしたけど、この好機を逃すユリさんではなく、時間差で飛来したもう1枚のアームドアーマーが、シナンジュを磔にするかのように突き刺さった。

その身を竜の吐き出す火球に焼き尽くされたシナンジュは沈黙し、やがて虚空に爆発の光球を膨れ上がらせた。

 

 

 

荒い息遣いを整えながら、操縦悍(スティック)を痛いほどに握り締める手を自覚した。頭の芯がジンと痺れるような感覚の中、バーチャルディスプレイに表示される『MISSION COMPLETE』のシステムメッセージを、どこか他人事みたいに認識した。

 

僕にとって、チュートリアル以来初めての敵機撃墜。それも上級AIのフル・フロンタルのシナンジュをだ。ユリさんのフォローがあったとはいえ、にわかには信じられなかった。

 

『お疲れっ! パルくんのおかげで助かったよ~』

「えっ、あっ、は、はい……?」

 

通信ウインドウにユリさんの朗らかな顔が映し出された。

バトル中には画面の一点を見据えて瞬きひとつしなかった眼差しは、今は緊張のない柔和な笑みを形作っていて、真横に引き結ばれていた口からは僕を褒める言葉が出てくるものだから、まるで別人のような切り替わりに僕は少し困惑してしまった。

 

『いやぁ強かったよね~あのシナンジュ! 私もソロじゃ厳しかったかな。パルくんがいてくれて良かった!』

「でも、僕はユリさんの指示に従っただけですし……」

『謙遜しなくていいよ、どうせ私もパルくんも初心者じゃん。そんなことより2人でフロンタルをやっつけたことのほうが大事よ!』

 

殊更自分が強敵相手に一歩も引かずに渡り合っていたことを誇るでもなく、このミッションをクリアしたのは2人の協力プレイの賜物とユリさんは言う。

 

僕はまた、胸が大きく高鳴るのを感じた。憧れていたGBNのパーティプレイっていうのはこういうことなんだという確信にも似た直感があった。

強敵を倒すとか、難しい目標を達成するとか、それも大事だけど、ミッションクリアの喜びを分かち合うことの充実感に比べたらきっと些細なことなのだろう。

何より今、僕は、特別なことなんて何も必要とせずに僕を仲間と認めてくれる人と一緒にいる。僕はゲームはそんなに得意じゃないしスーパープレイなんてできないけど、そんなことは気にする必要もないと言ってもらえたみたいだった。

 

「僕も……」

 

ふと、考える。

ひょっとしたら僕もユリさんも、GBNがなければ出会うことはおろか、互いの存在を認識することさえなかったかもしれない。

それは僕がすれ違ってきた数えきれないダイバー達も、いや、GBNにいる誰も彼もが同じなんだ。

 

でも僕達は、ガンプラが好きだという気持ちを胸にGBNというひとつの世界に集い、巡り会うことができる。

そこには国家も民族も宗教もなく、ただ共に手を携えて楽しい時間を過ごすことができる。

 

それはきっと、奇跡みたいに素敵なことだと思えた。

 

「……僕も、ユリさんがいてくれて良かったです」

 

だから僕も、一緒に戦う(遊ぶ)仲間への感謝だけを口にした。それ以外の言葉はきっと必要じゃないと思ったから。

 

 

 

『よっし、それじゃあこの調子で次のミッションもやろっか』

「え?」

『今日中に全部クリアしちゃおうぜっ! U.C.0096は私達の時代だー!』

「えええええぇっ!?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。