荒野が続くイジツの空。なんて広いのだろう。あの時、あの零戦に乗ったことで、今の私ができている。
「戦闘機隊は直ちに出撃ぃ!!民間の輸送機から救難信号を受けた!!」
いつもの慌てた声が聞こえてくる。サネアツ副船長だ。私は、レオナたちと一緒にジョニーズ・サルーンで軽食を摂っていた。
「えー!今からパンケーキ食べるところだったのに!!レオナー!一口だけー!」
「キリエ!空賊の襲撃かもしれないんだ。この先は、羽衣丸の航路上だ。脅威があれば危険が迫る。帰ってからでも食べれるだろう!ジョニー!また、戻ってくる。」
「お気をつけて・・・」と、ジョニーはグラスを拭くのをやめて不安気に見送ってくれた。
あの、イケスカ動乱から少し日は経ったとはいえ、空賊や自由博愛連合の残党がどこかで襲ってくる可能性はある。危険を取り除くために、私たち、オウニ商会所属コトブキ飛行隊は用心棒として、空を飛び回る。格納庫に着いた。ナツオ班長や整備員たちが、せわしなく離陸準備を進めてくれる。愛機、一式戦闘機「隼」に乗り込んだ。機動性がよく、鳥のように、空を飛び回れる。私にぴったりの飛行機だとずっと思っている。計器類、燃料、エルロン、ラダー、そしてエレベーターに異常は無さそうだ。
「始動準備!!」
私の掛け声を聞いた班長がイナーシャハンドルでエンジンをかけてくれる。
「また無茶な飛び方はするなよ!!機体は丁寧に扱ってくれよ!」
「行ってくる」
スロットルを上げて、エンマの後ろにつく。
「キリエ、今日はケイトがお兄様のお見舞いに行っているから、少し大変になりますわよ」
「大丈夫だよー早く終わらせてジョニーのパンケーキ食べないと」
エンマと他愛ない話をしていると離陸準備ができた。発艦ランプが離陸の合図を示す。レオナ、ザラ、エンマ、キリエ、チカと順番に飛び立っていく。
「みんな聞こえるか?レオナだ。これより、救難信号を発信する輸送機の支援に向かう。急いで向かうぞ!いいな?」
「分かったわ、レオナ。みんな行くわよ?」ザラはさっきまでビールを飲んでいたが、いつも通り、酔っても変わらない。
編隊を組んで、目標地点に急行する。およそ50キロクーリルの地点。
「キリエおっそ!私がキリエの分まで敵をおとしちゃうからねっ!」
「はぁー?チカが敵を見つけた頃には私が全部落としちゃうからね!」
チカとはいつもこんな感じ。結局、二人とも言葉を実行できないんだけどね。
「レオナ、あれじゃないかしら?双発機が5機・・・煙を出してるわよ!それに曳光弾も見えてる。」
「ああ、恐らく、カミナシ組に襲われているのかもしれない。急ぐぞ!」
レオナが輸送機部隊に通信を試みている。すると、
「こ・・・こちら!シマヒロ特別輸送隊!コトブキ飛行隊か?救援求む!!もう7機ほど落とされた!護衛機もやられちまった!」
百式輸送機や零式双発輸送機、さらに爆撃機として使われる一式陸上攻撃機もいる。
「私とザラ、エンマは輸送機部隊を掩護!敵重戦闘機を狙う!キリエとチカは、敵戦闘機を撃退してくれ!!恐らく三式戦飛燕だ!」
レオナが指示を出す。そして、深く息を吸いながら・・・
「コトブキ飛行隊!一機入魂!!」
掛け声とともに散開した。
輸送機を襲っていたのは、カミナシ組で間違いなかった。三式戦闘機と二式複座戦闘機「屠龍」が15機以上見える。私とチカで飛燕を相手にする。照準眼鏡に捉えて、12.7mmを撃ち始める。飛燕は隼と違って、液冷エンジンを搭載している。ラジエーターに弾を当てれば、長く飛び続けられないと班長やケイトが言っていた。空が、景色が目まぐるしく変わる。私とチカで敵を追い続ける。うまく主翼に12.7mmを当てる。2機は落とすことができた。「キリエ何機落としたのー?もう私は3機落としたよ!」
「うっさい!!私も今3機目を落とす・・・ところ!よし、星1つ!」
飛燕が錐揉みを起こして落ちていく。落下傘が見えるので何人かは脱出できたのだろう。
「こちら輸送隊。コトブキ飛行隊、掩護感謝する。」
「我々の方こそ到着が遅れて悪かった。商会とラハマ自警団に離脱機の捜索を要請する」
その後、私たちは無事羽衣丸に戻った。
「わーいパンケーキ♪」「ぷはーっ!生きてるわー生き返るわー♪」
みんな食欲のままにパンケーキ、から揚げなどの食べ物、ビールやジュースにありつける。ジョニーが作るパンケーキは本当に身に染みて甘い。美味しい。
「レオナ、あの輸送機部隊は大丈夫でしたの?」
「ああ、ラハマに医薬品や医療設備、食料品を届けた帰りに襲われたようだ。カミナシ組は物資強奪目的だったんだろう。撃墜された搭乗員たちは、重傷の者もいるが、全員無事だったようだ。」
「それは何よりも幸いなことでしたわ。」
輸送機部隊は無事であったようだ。レオナの安堵した顔を見て、さらに安心する。
「ねーキリエ、結局何機落としたの?あとバレルロール?少し失敗しちゃったよね~」
「うっさい!バカチ!!錐揉みしかけたチカに言われたくないやい」
突然、チカがマロちゃんと名付ける、アノマロカリスとかいうぬいぐるみに襲われてしまい、今度こそとバレルロールで後ろをとり、攻撃を仕掛ける。
「マロちゃんは私を守ってくれたのーキリエが変なこと言うから!」
「何をー!」と空中戦を始めようとしたとき、ジョニーズ・サルーンに、マダム・ルゥルゥが入ってきた。
「みんな、ちょっといいかしら。」
「マダム・・・どうしたのですか」
「あなたたちに新しい仕事を依頼してもいいかしら。ラハマ、アレシマ、ラーナの企業が合同で設立した、ヒノボリ商事が保有する飛行隊の護衛任務を受けてもらいたいの。およそ2か月ほどの派遣になるわ。任務はラハマやアレシマの間で輸送隊を護衛。人員は最高で2名欲しいそうよ。あなたたちがさっき掩護したシマヒロ特別飛行隊が所属しているわ。報酬も弾むそうよ。」
「2名か・・・誰が適任だろうか」
「またアレシマに行けるんでしょ?私行きたい。新しいパンケーキ屋さんがあるし♪」私は咄嗟に手を挙げた。
「よし、キリエで決まりだな。あと一人は誰がいいか・・・」
「私が行ってもよろしいかしら。最近のキリエは、何だか不安でとても心配でありますわ。
「キリエと一緒なんて嫌だよ~いつぶつかってくるか分かんないし」
チカが横やりを入れる。
「うっさいバカチ」
ということで、ヒノボリ商事への派遣は私とエンマで決まった。護衛部隊の編制に時間がかかるらしく、人員が早く欲しいそうだ。明日にはもう羽衣丸を発つ。この派遣で、もっと広い空を見ることになるとは思いもせず、パンケーキを口に入れ続けた。