「キリエ、もう体調のほうは大丈夫なのか」
ケイトがキリエに尋ねる。コトブキのみんなと1日休んだものの、長時間の飛行中、新たな空戦が起きるかもしれない。少しでも疲労があれば、命に関わる。
「もう大丈夫だよ、ケイト。あと少し飛べばラハマに着くし、私の隼も直ったから!」
ケイトがハンブルクサンドを口にしながらキリエが食べるものを見つめる。
「チカと私は、あれだけ飛行しても疲労で倒れることは無かった。もしや、疲れが溜まっているのか」
「大丈夫だよケイト。少しカッとなって貧血になったんだよ、でもなんか最近、クラーっとするようなしないような・・・」
「貧血は鉄分不足が原因。肉類や卵を摂取すべき。パンケーキにも含まれている」
「じゃあたくさん食べるよ!二ヒヒーッ!」
キリエが目を輝かせる。するとチカがゲラゲラ笑い始めた。
「キリエそれ以上食べたら本当にパンケーキになっちゃうよ!!パンケーキリエだあ!やーいやーい!パンケーキリエ!!」
「うっさい!!バカチ!!じゃあチカレーライスだねっ!!チカレー!チカレー!!あはははっ!こっちの方が呼びやすいじゃん!」
2人でいつもどおり言い合う。今度は紅茶を飲み終えたエンマがキリエに尋ねる。
「ねぇキリエ、ユークさんは大丈夫でしたの」
「明日か明後日には戻ってこれるって。でも、乗る機体が無いけどね!」
「ゼロ戦の三二型に乗っていらっしゃるなんて珍しいですわね。機体を見るに、相当乗りこなしていらっしゃったようね。」
「大事にしてたからね・・・そうだよねぇ、珍しいよね・・・。でもユークが助かって本当に安心したよ。疲れもとれたし!」
疲れも不安もキリエの体には無かった。いつもどおり、みんなでジョニーズ・サルーンに集まり、朝食を摂る。すると、レオナとザラがなにやら小声で会話をしている。突然、レオナが見たことも無い顔をしてキリエを見つめる。ユークがどうのこうの聞こえた気もするが気のせいだろう。
「なぁキリエ・・・その・・・ほどほどにな」
レオナが顔を赤らめているが、当の本人は全く汲み取れていない。
「ちゃんとチカから離れず飛ぶから。分かってるよ、レオナ。レオナの方こそ大丈夫なの?なんか顔が赤いけど」
「いやっ!私は大丈夫だ・・・。9時には離陸するからな。しっかり食べておけよ。キリエ、チカは食べ終えたら会議室へ来てくれ。」
「はーい」
二人仲良く返事をする。するとキリエの前にパンケーキが置かれた。
「はい・・・、これ僕からの気持ちだよ・・・。いろいろ大変だったねえ・・・。」
ジョニーがキリエにもう一つ分、パンケーキをサービスしてくれた。
「あ・・・!ありがと!!ジョニー!!」
キリエはニコニコしながらパンケーキを頬張る。
「ねぇー!私もカレー食べたいー!!」
チカがジョニーを急かす。
「冷蔵庫にリリコが作ったのがあったけど・・・今朝来てみたら無くなってて。誰か食べちゃったんだろうね・・・。」
「ええ~?なんでだよー!ブーブー!!」
「あら、カレーならあちらの方が注文したわよ」
リリコが示す。
美形な顔をした男性と、一見して男性か女性か分からない2人組がいた。
「リリコさんのカレーは美味しいよな。ラプちゃん。」
「快人、僕はやっぱりそれで呼ばれるのは慣れない。もっといい呼び方はないのか」
快人と呼ばれた若い男は唐揚げを食べ、一方のラプと呼ばれた人はカレーライスを食べていた。
「じゃあ、サンドバックってか?」
「うるさい」
するとチカが槍のように突きいる。
「ああっ!カレーライス!!リリコさんの最後ー!」
「えっ?そうだったの、ごめんね・・・僕もカレー好きだから。ここのカレーライス、美味しい。君には悪かったね。」
「まっ、カレー好きならこの一番槍のチカ様が許すからね。でも、ショウトの町ならカレー屋さんいっぱいあるのに。2人は何か用があって羽衣丸に居るの?」
快人が口を開く。
「俺がここの班長と古い仲だからな。ちょっといろいろあって燃料補給しに来たんだ。挨拶ついでだよ」
するとキリエがパンケーキを食べ終わる。
「じゃあ、ジョニー、リリコさん行ってくるね!チカっ!早く行くよっ!お客さん困ってるでしょ」
「分かってるよ!!キリエ!じゃあバイバーイ」
キリエとチカが2人組を後にしてジョニーズ・サルーンを後にする。
「あの子たちがコトブキ飛行隊か・・・。一番槍のチカに、疾風迅雷の・・・キリエか・・・」
「どうしたの、快人」
「ふん、何でもねーよ。いろいろこっちの事が終わったら、キリエちゃんにまた会ってみたいねぇ」
今日明日、ツチカワ経由でラハマに向かう。迂回するので、飛行距離は400キロクーリルある。コトブキ飛行隊にはあまり損害は見受けられなかったが、ヒノボリ飛行隊の損害がかなり深刻であった。だが、ショウトから積み込んだ輸送物資の中にエリヰト興業の所有物があることから、トリヘイたちも護衛任務に加わる。数で言えば、離脱したヒノボリ飛行隊機の埋め合わせができる。正式に護衛部隊の指揮下に入った。輸送船と護衛機が離陸していく。羽衣丸も、輸送隊に続く。途中までショウト自警団が護衛したこともあり、午前中は、敵の襲撃に遭わなかった。予定より早く、ツチカワに到着した。3時間後にまた出発するという。コトブキのみんなと昼食を摂った後、仮眠しようとキリエは部屋へ戻る。入るとエンマが眠っていた。起こさないように自分のベッドへ向かおうとする。
「ジリリリリリリリ!!!!!!」
静寂な部屋を電話機のベル音で満たされる。
「まあ!誰ですの!!」
エンマが飛び起きて電話に出る。そしてキリエを呼ぶ。
「船橋のアンナからですわよ」
「ごめんね、エンマ・・・起こしちゃったね」
キリエは受話器をとる。
「キリエ?今ナオミって人から電話があって、今繋ぐわね」
キリエは少し驚きながらも電話に応じる。
「久しぶりね、第二羽衣丸がホテルから見えたからと思ってね、あんたに電話したのよ。会えるかしら?」
「私がホテルまで行くよっ!待っててね」
キリエはレオナに外出許可をもらって、ツチカワの町に出た。相変わらず旦那のアドルフォの方は変わらないままのようだ。ツチカワに来たのは、愛機の部品を買うため、とナオミが電話で言っていた。キリエは2人が宿泊する宿の待合室でナオミを待つ。
「まあ!しばらく見なかった間に色気づいたわね!?」
「久しぶりだね・・・ナオミ!」
「この後も任務があるんでしょ?ちょっとぐらい時間あるわよね。」
「あるよっ!2時間ちょっとかなあ。ちょっと小腹空いたなあ」
「あんたって本当によく食べるわね、ここの向かいのお店に行くわよ。パンケーキちゃん食べ尽くさないようにね」
2人はホテルを後にして、小さなBARに入った。