キリエの気持ち   作:ユーユーリ

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ナオミから色気づいたと言われたキリエ 僅かな時間でお互いの近況を語る


色といろいろ

ナオミは明後日ツチカワを発つらしい。旦那のアドルフォの方はまた変な女でも引っ掛けている、とナオミは言う。よく夫婦喧嘩をして、この間はオフコウヤマ上空で空中戦をしたようだ。なんだかんだ言ってお互い大変な時は助け合っているとナオミは続けた。ナオミはラムランドエール酒にハムと希少なサカナであるらしいイワシを摘みにする。もちろん、キリエはノンアルコールビールを飲みながら、パンケーキを摘みにする。

 

「ところで、あんたさぁ、どうしてそんな可愛くなっちゃったわけ?」

「えぇ・・・?そうかなぁ・・・自分を気にし始めちゃって・・・」

キリエは戸惑う。あの時からザラがよく私を気にかけてくれる。ザラからいろいろ化粧について教えてもらうようになった。ユークと顔を合わせる時はいつもそうするようになった。エンマやケイトからはもっと明るい雰囲気になったと言われ、チカからは顔が変わったと変な反応を受けた。ただ1人、レオナは全く変化に気付いていないようだ。

「ほら、覚えてる?ラハマであんたと初めて会った時に、あたしがあんたに何て言ったか。ガキんちょかと思ってたけどね。でもあんたってね、意外と可愛いとこあるの。」

「そんなことないよ・・・ナオミ。でも、いつか芋っぽいって誰かから言われた時は頭に来たけどねっ」

「ふ〜ん、あんたも空戦以外で頭に来ることがあるのね。」

キリエはノンアルコールビールをくいっと飲む。実はあまりビールの味が好みではない。パンケーキを絞れば美味しくなるかなどと考えてしまう。キリエはナオミに聞きたいことがある。

「ねぇ、ナオミに聞きたいことあるんだけど・・・」

「どうしたのよ、そんな深刻な顔して?」

「夫婦って・・・何・・・?」

キリエから意外な言葉を聞いたナオミは可笑しさに耐えられなかった。

「あんたって、どうしたのよ、いきなり!!それノンアルでしょ?」

夫婦生活はどんなものか、キリエは詳しく聞きたくなったのだ。とにかく何かしらそう言ったことを聞きたいのである。ナオミはジョッキをグッと持ち上げ、四口ほど飲み、口を開く。

「あたしたちって、フツーの夫婦とかじゃないと思うの。どっかの本で読んだ、奥さんが朝ご飯作ってる最中に旦那が起きてきて後ろから抱きついたり、子供と一緒に散歩したり。そんな生活は2人とも望んでないの。あんたに夫婦ってものをうまく伝えられないかもしれないけど。あたしが言えるのは、お互いのやりたいことをやって、絶対にお互いを嫌うことなんてないことよ。あのボンクラだって、私だって空を飛ぶことが一番気持ちいいこと。一緒に空飛んで気持ちいいこと感じたらそれが幸せだと思うの。それにね、今まで言いたいことが食い違って、空中戦とかしたことあったけど、最後にはボンクラと一緒に笑い合ってたわ。ちょっと前に、あらあんたもいたわね、ボンクラ野郎が可愛い女の子口説いていた時はめちゃくちゃ切れたけどね。なんだかんだ言って、お互い一緒にいると気持ちよく感じるわ。そんなもんかしら。」

キリエの頭の中はユークのことでいっぱいだった、パンケーキからシロップが溢れそうなほど。キリエの顔を見てナオミは気付く。

「分かったわ。あんたにもいるのね。気になる人が」

「いやっ!その・・・アハハハハ・・・、ありがとうナオミ。色々あってね・・・。」

「どうってことないわよ。色々悩んだことあったらあたしにぶち撒けてもらって構わないから。」

2人はほんの少し会話を続け、BARを後にしようと席から立ち上がる。入り口から新しい客が入ってきたのだが、見覚えのある顔である。

「おっ!やっぱりここに俺が惚れ込んだカワイ子ちゃんがいたぜ!!誰と飲ん・・・コトブキの!!キリエ・・・・ちゃんか!!」

アドルフォが店に入ってくる。目がまん丸になっている。後ろにはフェルナンドにロドリゲスもいる。後ろの二人は特に変わった反応は見せていない。

「ナサリンのおじさんたちじゃん!ナオミが言ってたよ。口説くなら男にしとけって」

「バカいえ!俺はもうそういうのは若い奴らに譲ってやったんだぜ。カワイ子ちゃんを引っ掛けるこたぁねぇぜ。」

後ろの二人は肩を震わせている。

「それよりもアドルフォ、この間はナンコーの親爺さんに泣きついていたじゃねぇか。ここで喋ったらお前のカミさんに怒られちまうな。あれだけ、飲むとはなぁ。」

「おい、あの日のことは言うな!黙ってろ!」

「ロドリゲス、たまには心の内を男にぶつけるというのも良いものだ。神に相談しても明確な答えは返ってこないからな。」

「フェルナンドに話したらいつも悔い改めろってうるせぇんだよ、ロドリゲス。」

三人で言い合う様子を眺めて、ナオミはフッと笑う。

「ほんっと、男って飛行機乗りか酒飲みか馬鹿しかいないわね。」

「そうだね・・・」

ユークにも馬鹿みたいなところはあるのだろうか。何だか、彼が馬鹿みたいに振る舞う部分を見たくなった。キリエは、ユークのことをもっともっと知りたいと思った。

「そうよ、あんたに一つ良いこと教えてあげる。」

「何?ナオミ。」

「男って凄く馬鹿な生き物だけど、脆かったり弱い部分が結構あるの。あのアホンダラにもある。あんたの大切な人にもいる。表には最後まで出さないつもりだから・・・あんたがいつも支えてあげることね。」

キリエはナオミにニッコリ微笑んだ。ナオミとアドルフォたちに別れを告げた後、羽衣丸に帰る。

 

飛行場のゲートを潜ると、ヒノボリ飛行隊機や輸送船がラハマの方へ飛び始めていた。予定の出発時間より15分ほど早かったが大丈夫であろう。係留場に着き、羽衣丸のタラップを上がろうとすると、中からエンマが出てきた。

「やはり、そろそろお帰りになる頃だと思いましたわ。予定より出発の時間が早くなりましたの。船長がお迎えに参ろうとしてましたわ。」

「ペシャンコに踏み潰された人の気持ち考えたことあんの!?」

羽衣丸がツチカワを離陸してすぐにキリエに向けた連絡が入った。ユークが退院したという。キリエは誰よりも喜んだ。コトブキのみんなと夕食を食べ、明日の航路について説明を受けていた時、警報が鳴る。

「レーダーに機影、多数機が編隊を組み高速接近中。」

「空中哨戒を行なっていたヒノボリ飛行隊機が交戦中とのこと。」

副船長の出撃命令を聞き、すぐに格納庫へ向かう。燃料のチェックやエンジンチェックを行い、エンジンを始動させる。離陸すると、大きな満月が輝き、綺麗な夜空が広がっていた。ヒノボリ飛行隊機と合流し、レオナの掛け声を聞き、散開する。

 


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