「えーっ!私今日から休み貰ったんだよ!!何で病み上がりの人間に仕事させるのさ!!!」
キリエがラハマ飛行場にある公衆電話で大声で喚いている。相手はアレシマにいるユークだ。
「俺も退院したとはいえ、まだ足が痛むし。遠くまで歩けそうにないなぁ。それよりも酷いのが!デスクワークならできるだろって今みんなと一緒に書類整理だよ。あの変態社長め・・・。ヒノボリ商事の社員だけじゃ足らなくてパイロットにまで仕事を押し付けるんだぜ!?カトウさんも隊長も一緒になってやってる。アレシマに来ても会えるのは明日かもしれな-」
「うっそ!!私どうしよう・・・私待つよ!ラハマにいてもみんないないもん!アレシマで待ってるからっ!!」
やっとユークに会えると思ったのにキリエは高ぶる気持ちがどんどん撃墜された飛行機のように落ちていくのであった。仕事が終われば連絡する、とユークに言われ、キリエは電話を切った。せっかく1カ月も休みを貰ったのに、初日からこの調子では・・・キリエは少し落ち込んだ。エンマは実家におり、チカの隼は見当たらず、どこかへ行ったのだろう。羽衣丸にいてもレオナとザラは仕事、サネアツ副船長といても話は相変わらず弾まず、マリアやアンナたちは休みを貰って出かけているという、といってもユークに会えずにアレシマに行くのも・・・、とキリエは悩んでいた。
「やぁ迅雷ちゃん」
後ろから呼び掛けられた。ケイトと車椅子に乗ったアレンがいた。ケイトがキリエに尋ねる。
「アレンがケイトとキリエと一緒にアレシマ空域を遊覧飛行したいそうだ。お願いできるか。」
キリエはアレンを睨みつける。
「また赤とんぼに乗ってあの紫電改に落とされたくないからね!撃墜されるのはごめんなのっ!」
「いやぁ迅雷ちゃん、別に僕は高い所の綺麗な空気を吸いたいだけだよ。あまり長居はしないから大丈夫さ!」
アレンがニコっと笑い、ケイトもどうしてもというような雰囲気を出していた。
「もう・・・大切なケイトの頼みだから聞くよっ!」
キリエとケイトは同じく休みをもらっているので愛機 隼 はラハマで整備してもらっている。最近になって、航空会社が誕生し、旅客機も飛んでいる。空賊の脅威が少なくともラハマ〜アレシマ間では無くなったためだ。キリエは初めて旅客機に乗ったが、操縦桿を握らないとやはり心が落ち着かなかった。アレシマ飛行場に着くと、ヒノボリ飛行隊の機体が数機見えたが、格納庫には人が見当たらない。書類整理や事務で手一杯なのだろう。飛行場で手続を済ませ、アレンが飛行場職員に飛ばせる機体が無いか尋ねる。職員は3人の姿を見て急いで整備士を集め、飛ばせる機体がないか探しに行った。ある程度、3人とも顔が知れているらしい。
「3座ならあそこの九七式艦上攻撃機か彩雲などがありますが。」
もちろん、キリエはどれも操縦したことない。
「ねぇ、ケイトが操縦したらどうかな・・・?」
キリエがケイトに尋ねる。
「アレンはキリエの操縦する機体に乗りたいらしい。ケイトにもよく分からない。」
3人は九七式艦攻に乗って飛行場を離陸した。ユーハングの資料によれば、海に浮かぶ船というものを攻撃するために作られた機体で流星と違い、ダイブブレーキは付いておらず、固定武装も無ければ速度も遅い。しかし、ユーハングで起きた戦いの初期では大活躍をした画期的な飛行機であったようである。ケイトからそんな説明を聞きながらアレシマ中心部や山岳地帯を飛ぶ。離陸して20分ごろのことだった。突然アレンが口を開く。
「一緒に飛ぶっていいよねぇ・・・キリエちゃん?」
「うん、そう・・・ちょっ!アレンが初めて私のこと名前で呼んでくれた!!」
「たまにはいいじゃない。君のこと気に入ってるから。」
「ちょっと!?何なのそれ!?」
キリエが少し動揺しているとケイトの言葉でさらに動揺をする。
「アレンはキリエに特別な好意を持っている。」
「えっ・・・?そんなっ!私には・・その・・・」
「落ち着いてよ、迅雷ちゃん。僕は飛んでいる姿の君が好きなんだよ。いつも楽しそうに飛んでいるところ。空を飛ぶことが大好きな君のことが大好きさ。」
「えぇーっ!!!ケイトがいるのにそんなこと言わないでよーっ!!!!」
キリエは顔が真っ赤だ。驚いたケイトがキリエの感情を抑えようとする。
「キリエ、アレンはキリエに対して恋愛感情は持っていない。まず冷静になった方が適切。」
「ちょっと意外な反応だったね、キリエちゃん。僕は要するに、どんなことがあっても自分を見失って欲しくないってことを伝えたかっただけさ。人と一緒になれば、その人には言えない悩みも出てくると思う。だんだん悩みに体が蝕まれて、空も飛べなくなったら、後は荒野に真っ逆さまさ。悩みそうになった時は、君の大好きな空を飛んで、周りの人の援護を貰って欲しいということを言いたかっただけなんだけどなぁ。」
「あっ・・・、ごめん、アレン・・・・・。えっ?人と一緒って・・」
「そうだよ、迅雷ちゃん。ちゃんとお二人で飛んでいかないと。僕もたまには君たちのところへ遊びに行こうかな〜」
「アレン、それは却下。」
キリエは驚き、少し感激しかけていた。アレンとケイトはこのことを伝えるために時間を作ってくれたのだ。みんな自分の幸せを願ってくれていると心から感じた。
アレンとケイトはこの後、アレシマの市立図書館に行くという。2人に改めて礼を言い、別れた。少し感動しながら飛行場を出て、アレシマ市内を歩く。以前よりも自動車が通るようになり、道路が騒がしい。ラハマよりもやはり活気があると思いながらふと横を見ると、そこは小さな服屋だった。お客さんはそこそこ入っている。もともと、アレシマはファッションの中心地でもある。アクセサリーなども豊富だ。年頃の女の子は必ずここで買い物をする。マリアとアンナが典型例だ。それよりも、キリエはショーウィンドウの中にある服に目がいく。ワンピースなど色んな服が飾られている。値段も何とかお手頃だが。
「私まだ服とかよく分かんないんだよなぁ。マリアとアンナたちがいたら教えてくれるのかも・・・」
そんなことを思いながら店を去ろうとするとちょうどその店から頭の中に浮かべていた2人組に会った。
「あっ!キリエー!休暇中だったわよね〜。アレシマにいるとは思わなかったわ。」
「私たちも3日だけ休暇をもらったの!明日はドルハで泳ぐんだよねぇー!キリエも予定空いてたらおいでよ!」
マリアとアンナは手にいっぱい箱やカバンを持っている。この店でも何か買ったようだ。キリエは2人に尋ねてみる。
「あのさ・・・私何が似合うのかな、なんて。」
すると2人の顔がキラキラ輝いた途端にキリエは腕を引っ張られ、店の中に強引に吸い込まれた。
その頃、エンマは実家のソメイヨシノの手入れをしていた。枯れかかっていたのだが少しずつ花が咲いている。タミルも手伝っている。
「あら、あのエンマともあろう方が浮かない顔をしていますわ。」
「そうでございますわね。少し考え事をしていましたの。」
「あなたがそんな顔をして考え事をするときは、絶対に叶わないことを考えているときですわね。」
エンマの顔が赤くなる。
「そうですわね・・・あまり言いたくないのでございますけれど、もし私が男として生まれていたら、どんな人生だったかしら・・なんて考えてしまいましたわ。」
「ふふっ、とても興味深いことでございますわ。気づいていないかもしれませんけど、女の子なら一度は考えることですわよ?例えば、心を通わせたい相手のことを思う時ですわ。」
「ちょっと!タミル?恋愛のことなんて私何も口にしていませんわ。ただ、今から言うことは私が男性だったらという仮定の話でございますわよ?その・・・幼馴染みの女の子やクラスメイトの子のことは多少気になっていたかもしれませんわね。」
「まあっ、嬉しいですわ。キリエさんもどんな顔をするかしら?」
「もう、話がおかしくなっちゃいますわ!!」
エンマは顔を真っ赤にして木の手入れをした。タミルがそういえばと口にしてエンマに伝える。
「明日の予定、空いているかしら?私の知り合いがアレシマのエアレースに出ますの!飛燕や零戦、それにユーハングの試作機も競争機として飛びますの。」
「私も聞いたことがありましたわ。是非、見に行きたいですわね。前から気になっていましたの。」
「うふふっ、では決まりですわ。」
いつもの赤いコートからアンナとマリアたちがコーディネートしてくれた服にキリエは着替えた。女の子らしく、デニムのショートパンツにオフショル気味のトップスに身を包んでいる。キリエも私服に着替えるときはあるがチカやエンマと出かける時くらいだ。だが、キリエは他に着替えを持っていない。
「アレシマに泊まることになったらどうしよう!さっきはあんなこと言ったけどそんなつもりじゃないんだよな〜」
今のところ、行く当てが無いのでただ街を歩いている。
「あっ!キリエさんだ!!」
前からハルカゼ飛行隊のユーカとエリカが走ってくる。
「げっ!どしたのさ。」
「私たち、商会の任務で寄って来たんです。キリエさん似合ってますね。」
「そうだよね!エリカ!!このサンダルも可愛い〜!私もキリエさんみたいな美人さんになる!」
「空戦はまだまだ私には敵いっこないからね!せいぜい頑張るんだね。」
「はーい!ところで、キリエさんはどこに行くんですか?誰かに会いに行くとか・・・?」
エリカが察した。
「キリエさん、邪魔してごめんなさい。またレオナさんたちと飛びたいです。ほら、行くわよユーカ!」
そう言って2人は走り去っていった。
「はぁ・・・アレシマって結構狭いんだね、知り合いに会いやすいや。」
キリエは少しお腹が空いたのでパンケーキ屋を探した。郵便局を曲がったところに一軒あったはずだ。予想通り、あった。お客様も少なそうだったので店に入った。
「おっ、疾風迅雷のキリエちゃんだ?」
店の先客はその2人組だけだったが、キリエは驚いた。どうやらパイロットの様である。1人は美形な男性であり、もう1人は中性的な雰囲気だ。だが、キリエにはそれが女性だと分かる。
「えーっと、どちら様・・・?」
「ただの飛行機乗りさ。前にも君に会ったけど、覚えてないだろうね。俺は覚えてるよ?君可愛いから。こんな所で会えるとは思ってもいなかったよ。」
キリエは全く分からない。
「快人、彼女困ってる。女の子を困らせたお前は悪い」
「そっかー、無理もないよな。ごめん!!おっと!そろそろ、時間だぜ。ラプちゃん。」
「だからせめて僕のことをまとも名前で呼んでくれないか。キリエさん、うちの快人が失礼なことをした。ごめんなさい。」
2人組はキリエの横を過ぎ去り、店を後にしようとした。快人と呼ばれた男はふっとキリエの方を振り返る。
「俺の勘だが・・・、もう大切な僚機があんたにはいるみたいだな。またどこかで。」
キリエはずっとあの2人組が誰なのか分からなかったが、何故か遠い過去に会ったような不思議な感覚に陥った。キリエにはよく分からなかったが、とりあえず、空腹を満たそうと店員にパンケーキを注文した。
ちょうどチカもアレシマにいたのだが、市立図書館でありったけの本を読んでいた。隣にはハルカゼ飛行隊のダリアとガーベラがいる。ユーカたちと同じく、任務でやってきたようだ。
「この犬が出てくる漫画面白ーい!だって〜ガーベラみたいに好きなものたくさん食べてたくさん遊んでいっぱい友達いるもん!」
「その犬、普段は寝てばかりだけどしっかりしてるところはあるね・・・。さすがにパイロットになろうとしてもよく落とされちゃってるけど、あはは・・チカさんは何読んでるの?」
「分厚い本があったから手に取ってみるとたくさん絵が描いてあったよ!魚とか犬や猫にトラの絵もある!辞典?ってやつかな。」
チカは借りていた本を返しにアレシマ図書館に向かったところ、偶然、ダリアとガーベラがいたのであった。2時間ほど図書館で時間を過ごし、一緒にカレーうどんを食べたあとにチカはラハマに戻ろうと飛行場に向かっていた。すると、前の方から背の高い若い男性が歩いてきた。
「あっ・・・。」
「あ!!ユ、ユーク・・さん・・」
ユークの姿は、いつも見る飛行服や会社の制服ではなく、アレシマらしくスタイリッシュさがある服装だ。ユークが口を開く。
「その・・キリエさんがアレシマに来ているらしいんだけど見なかったかい・・・?」
「うん・・、どこにいるか私にも分かんないかな・・・。」
チカは何か言いたげな様子だったが、ずっと思っていたことをはっきりユークに伝えた。
「その・・ああ見えてキリエって寂しがり屋だから、誰か一緒に飛んであげてないと・・落っこちちゃうからね!コトブキではお互い、ただの勘で飛んでるけど・・・!えっと・・つ・・つまりこのチカ様が言いたいことは、あんたも私もキリエと一緒に飛ぶことには変わりないから!何かあったらこの一番槍のチカ様が許さないからねっ!」
そう言い残し、チカは走り去って行った。ユークが振り返って後を追いかけようとしたが、その背後から聞き覚えのある声が聞こえる。そこには、いつもの赤いコートを着ていない、ボブカットの女の子がいた。ユークの目にはそれしか見えていない。
「その・・仕事終わったんだね。今チカみたいなのが走っていったけ-」
キリエが言葉を続けようとすると体を抱きしめられて何も言えなかった。お互い、任務が終わって初めて会うことができた。ユークが小さな声でキリエに伝えてる。
「キリエ・・今日から・・・俺も一緒に飛んでいいか?」
「・・・・空は繋がってるから、お互いいつも一緒だよ・・・」
2人は顔を見合わせて太陽を一緒に見つめた。ちょうど夕方だったので日が沈もうとしている。綺麗な夕日が目の前に広がっていた。
それから、20年ほど月日が経ったイジツ・・・。衰退への道を進んでいた各都市であったが、ある時、再び小さな穴が開き、色々なものが降ってきた。綺麗で美しいものも、汚いものも全て混じっていた。中にはこの世界を激変させるものもあった。それを巡って、再び戦いが起きたが、ほとんどのイジツ人たちは和平を望み、互いに助け合おうと行動した。
「ほら、早く行かないと幼稚園遅れるでしょ!!お母さんも仕事あるし!」
「お母しゃん、飛行機乗っていかないのー?」
「今から乗るけど!それは仕事!!今日は夕方、お兄ちゃんが迎えに行くからね。お母さんは夜の8時くらいになっちゃう。ごめんね!すぐ帰るから!今日はウーミおばちゃんとカレーうどん食べよう!」
「やったぁ」
ラハマ郊外にある、小さな家からとある親子が自転車を漕いで出てきた。自転車を物すごいスピードで走らせるその女性は既に飛行服を身に纏っている。髪が少し跳ねているがさほど気にならない。後ろの籠に座る女の子はその子供らしい。次女だろうか。とはいえ、イジツの家庭事情も変化を余儀なくされた。空戦や戦いを根絶することはできず、どうしても孤児が生じてしまう。そんな孤児を無くすために、法律により養子縁組の制度が定められた。実の子供ではないが、本当の子供のように育てる家庭がそこそこあるらしい。この子もひよっとしたら、養子として迎い入れたのかもしれない。子供を幼稚園に預けたその女性は、そのまま飛行場に向かった。ふと、上空を見上げる。気づけば、空に轟音が響くようになった。まだこの音は聴き慣れない。
全てはあの小さな穴が開いた時からだ。あの時、色々な出来事が起きて、この女性もいろいろな出来事に直面した。だが、大切な仲間と共に、それを何度も乗り越えてきた。ふと、そんな事を考え込んでしまったその女性は慌てて自転車を漕ぐ。そしてラハマ飛行場に入る。時間には間に合ったようだ。ここの飛行場で働いているらしい。準備をして駐機場に出る。隼や零戦が相変わらず並んでいるが、6機ほどジェット機もいる。乗ったことが無い、というよりも乗るつもりが無いの方が彼女には正しい。ジェット機やターボプロップ機といった機体は非常に貴重な存在で、約20年前に起きた、イケスカ動乱で初めて使用されたF-86Dの技術を利用して生産した機体か、穴からやってきた機体しか存在していない。まだ燃料や電子機器といった問題がある。このイジツには全く無縁とされた存在であったためだ。まだ実験段階にあり、15機ほどしか作戦能力を持てていない。イジツの飛行機乗りの中でもごく一握りしか乗ることができない。依然としてレシプロ機が主力としてこの空を飛び回っている。
「教官に敬礼っ!!」
飛行服に身を包んだ人たちが彼女に敬礼をする。10人ほど並んでいるが、皆若い。最年少は18であるらしい。ラハマには航空保安隊という組織の基地が置かれている。穴が消えた後、ガドールやアレシマを中心に統一国家が作られた。各都市が助け合うためには繋がらなければならなかった。当然、根強く生き残る空賊も力を増している。そんな空の安全を守るために、自警団を発展させた組織として航空保安隊は作られた。ラハマ飛行場には練習隊と一部実戦部隊がいる。その女性は練習隊の教官であった。
「よーしっ!今日も練習機の隼と零戦二二型に乗ってイヅルマの部隊と模擬空戦をする。いいか!動物になって獲物を探すつもりで空を飛べ!虎のようにガォーっと襲いかかるつもりで!!猫みたいにチョロチョロ飛んだら落とされると思え!!」
その鬼教官は顔は美人だが隊員から恐れられていた。昔、用心棒として名を馳せた飛行機乗りであったようだ。今やその飛行隊は伝説的存在として語られている。あのイケスカ動乱に、第二次オフコウ山空中戦、カイチ解放戦も戦ったとか。
「お前たちにまだジェット機は早いっ!F-1とか!F-4もダメ!!練習機のT-33とか86なんて以っての他!乗るのはもっと後だ!まず、空を実感できるレシプロ機でみっちりと訓練だ!」
教官の合図で隊員たちが乗り込む。栄エンジンがかかり、飛行場はレシプロ機特有の音で満たされる。教官たちも乗機に乗り込む。同じく隼だ。
「やっぱ、隼が1番だね。」
「これほど長く使用するとは思わなかった、意外。」
「後ろのウーミがまたハゲてるから直してもらわなきゃ・・。」
教官機も同じく隼一型であるが、所々に塗装を塗り直した跡がある。これほどまで機体の構造がしっかりして空を飛び続けているのは、これに乗っているパイロットたちの空に対する気持ちの現れなのかもしれない。
「おーっ!パパさんの機体じゃん!」教官の1人が手を振る。
「うっさい!もう!」
舗装された滑走路を2機のジェット機が離陸していく。凄まじい轟音だ。音をかき消してしまい、声も聞こえないほどだ。うち1機の尾翼には赤い鳥が描かれている。どうやら旦那が乗っているようだ。イジツでも指を数えるほどしかいない存在だ。いつものテスト飛行だ。機体はイーグルと呼ばれているF-15、穴からやってきたオリジナルの機体である。僚機のパイロットは穴の向こうからやってきたというが信じられない。コクピットを見せてもらったが、同じ飛行機とは思えなかった。2機はあっという間に雲に隠れてしまった。続いて、3人の教官たちは、使い古された隼に乗り込み、真っ青な空へ飛び立っていった。
1人の女の子が、色んな人と空を飛んでいる。これからどうなっていくか分からないイジツの世界だが、ずっとこの空を飛び回るだろう。空を飛ぶことは何より自由で楽しくて、大好きだと感じるから。