任務を受けた翌朝、私とエンマは派遣先に向けて、羽衣丸からの離陸準備を進める。
「おい、キリエ!向こうの整備員には迷惑をかけるなよ!!変な機動し過ぎて機体ぶっ壊すなよな。まあ、それに比べりゃあんたの命が大事だ。絶対に戻ってこい。」
「ありがとう班長」
「ありがとうございます。班長、感謝いたしますわ。」
格納庫には、レオナ、ザラ、チカ、そして病院から帰ってきたケイトもいる。マダムやジョニーにリリコさんもいる。格納庫に向かう前に、マリアやアンナにも会った。
「ねえねえキリエ?シマヒロ輸送隊って若い人がたくさんいるそうよ?美男子がいたら私どうしよう・・・!」
「ちょっとマリア!何考えてるの。こういうことになったらすぐに目を輝かせるんだから・・・。キリエさん、エンマさんお気をつけてください。お二人に・・・これを」
「私も二人に渡すものが・・・はい!」
二人から私とエンマに渡されたものは、お守りであった。
「初詣の時に行った神社で買ってきたんだよね~、これを身に着けていたら、どんな敵も倒せるし、いいことが起きるんだって!」
「お二人ともお気をつけてくださいね。」
「二人とも気を付けるんだ、任務を果たして、絶対に羽衣丸に帰ってきてほしい。」
レオナが真剣な眼差しで二人を見つめる。
「早く帰ってきてね。待ってるわよ。二人が帰ってきたら、私の料理を食べてほしいわ。」
キリエ、エンマともに期待が膨らんでしまう。
「キリエ、エンマ。健康に気を付けてほしい。特にキリエ、パンケーキを過剰に摂取すれば、脂肪、糖分などが溜まる。生存に必要ではない質量も増えてしまう。まず、野菜から食べて・・・」
キリエには耳が痛い。だが、彼女なりに心配してくれているのは十分にわかる。
「エンマ気を付けてねー何かあったらこの一番槍のチカが真っ先に飛んでいくからね!
キリエも落ちちゃダメだぞー 私がいなきゃ張り合う相手もいないよねー」
チカは相変わらず・・・
みんなの見送りを受けて私とエンマは離陸した。しかし離陸直前、風防を閉めるときに、チカの姿が目に入った。どこか寂しそうに見えたのは気のせいではないはず。 絶対に帰ってきて戦果を自慢してやるんだ!
ハ25が唸りを上げる。私とエンマは飛び立った。今日の空はとても綺麗だった。まるで、私たちの任務の安全を空が祈るようにも感じた。ふと、遠くに、濃緑色をした零戦三二型が見えた気がした。幼い時、孤児院にいたころ、私はたびたび、サブジーと呼ばれている老人のもとを「勝手に」訪れていた。イサオが、イケスカ動乱の時、私にいった。ユーハング、即ち、日本軍の軍属であるということを。やはり、ユーハング人だったのだ。幼少の時、彼はもう老体だったので、今はもう生きていないのかもしれない。また会えるなら伝えたい。「空とはこれほどまでに自由で、美しいものなんだ」と・・・。
「キリエ!聞こえていますの!?集中力の欠如は飛行機乗りとして失格ですわ!頭がスポンジなのではありませんこと!!」ほら!、迎えのヒノボリ商事の機体が来ましたわ。」
「ああ・・・ごめん、エンマ」
我に返ると、ヒノボリ商事の機体が4機、編隊を組んでバンクをしていた。先導機は一式陸攻、護衛機は、零戦二一型2機と三二型1機であった・・・。
「あれ!?三二型じゃん!!サブジーとナオミが乗っている以外に初めて見たよ!!!!」
「キリエ、それほど驚くことですの?私にはよく分かりませんわ。」
途中、ウタミにある空の駅で休憩をし、ヒノボリ商事の人間と顔を交わした。
「初めまして!ヒノボリ商事所属シマヒロ特別飛行隊副隊長のカトウだ。こっちは、ミホ、シンヤにユークだ。2か月ほど、よろしく頼む。あなた方がいれば、医薬品などを無事届けることができる。」 私とエンマが自己紹介をするうちに4人とも同年代らしく、気が合いそうである。そんな時、私の頭の中は、あの三二型に乗る、ユークのことで一杯だった。私より背が高くて、誠実な印象を受ける男であった。時折見せる笑顔が眩しい。何かが心に芽生えた。何なのかよく分からない。よく分からない感じがするもの・・・。
「あのう・・・ユークさん?聞いても・・・いいかな?」
「何か・・・?」
「何で・・・三二型乗ってるのかなあって」
私は何やらモジモジしながら聞いたようで、ユークは困惑気味である。
「零戦だけど・・・零戦らしくないところかなあ。みんな乗りたがらないというか、扱いにくい機体だって言うんだけど。そうでもないかなと。あと小さい時に家の庭で遊んでて、空を見ると、多分この零戦三二型が飛んでたんだよ。雲の上まで飛んで行って・・・飛行機に憧れたなあ。あの姿を見て」
「ふーん、そうなんだ。思い入れがある・・・機体なんだね」
「あと孤児院にいたんだけど、同じ院の女の子が戦闘機に乗せてもらったって騒いでて、みんな信じなかったけど、飛行機に乗るきっかけに・・・」
「ちょっと・・・ちょっとまっ・・待って!!!」
「どうかしたのか?」
「どこの孤児院にいたの・・・」
「ラハマ第三孤児院」
「私と一緒ー!!!!それにその女の子私だよっ!!!!キリエだよっ!!!!」
「・・・・・・・・嘘だろ!?」
二人して横を見ると、エンマやカトウたちが驚いてこちらを見ていた。
「まあ、キリエ、ユークさんとお知り合いでしたの?」
「はははは!盛大にコーヒーを零したぜ!」
「まあーう・ん・め・い・て・き」ミホさんがからかう。
私はユークと顔を見つめあった。