キリエの気持ち   作:ユーユーリ

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護衛任務も終盤を迎えたが・・・


衝撃、安らぎ

アレシマの飛行場に、コトブキ飛行隊が到着した。いよいよ、シマヒロ飛行隊との護衛任務も、今週いっぱいとなる。だが、飛行場に到着したものの、ユークにカトウが見当たらない。エンマが隊員に尋ねると、皆で100式輸送機に乗って、シンヤの捜索に向かったようだ。午後には帰ってくるらしい。残っていた隊員や、ヒノボリ商事の社員を集めて、空賊に自由博愛連合機がいることを改めて伝えた。整備士たちが、私たちの機体を入れてくれる。ユークの三二型が目に入る。キリエは、ユークと一緒に飛ぶとき、地上にいるときの彼とは違う印象を受けた。いつも口数が少ないのだが、空を飛べばもっとである。最低限の連携はとるが、終始無言である。でも、最近、会ったときとは比べものにならないほど、和やかな表情を飛行中に見せてくれる。そんなユークを見るのが嬉しい。そんなことをキリエは思いつつ、彼らの帰りを待っている。

「キリエ、チカが呼んでますわよ?パンケーキにカレーをかけてしまうって仰ってますわよ?」

「いい・・・ええーっ!!すぐに降りるよっ!」

エンマに急かされ、機体を降りる。

「ユークさん、大丈夫なのですの?」

「だ・・・大丈夫だよっ!いいっしょ!・・・それより、パンケーキ!!!」

物凄い勢いでチカのもとに向かう。

 

「ユーク、シンヤは本当にこの辺りにいると思うかい?俺たちが戦った場所から結構離れているぞ。奴は満身創痍だったんだよな・・・。頼む、生きててくれ・・・」

カトウが何度もシンヤの生還を口にする。ユークも冷静ではいられなかった。

「12.7食らっても生きているような男だから。」

ミホが呟く。すると隊員の一人が叫ぶ。

「見えますか!あの平地の部分です!!ん?墜落ではなく、着陸しています!!」

100式輸送機が着陸してみる。なんとか降りられそうな場所を見つけて、ユークたちが着陸している零戦五二型に向かう。間違いない、シンヤの機体である。機体の至るところが穴だらけである。修復はできそうにない。風防は開いたままだった。血がコクピットにこびりつく。しかし、シンヤの姿はない。主翼に点々と血がついている。自力で外に出たのだろうか。一体どこに行ったのか見当がつかない。皆で困惑していたところ、周囲を警戒していた味方機から無線が飛び込む。付近を飛んでいた、1機の紫電改から、自宅でシンヤを保護していると連絡があったのだ。皆で急いで輸送機に飛び乗り、その紫電改についていくことにした。見慣れない塗装、ラウンデルである。その後、紫電改に乗っていたパイロットに出会う。子供かと思ってしまうほど、背の低い女の子であった。

「わしの紫電改を飛ばしよったら、こやつの機体を見つけたのじゃ。この辺りにはなんにも無いからのう、不思議に思って降りてみたら、こいつがゼロ戦の近くで倒れとった。可哀そうじゃったから、うちに連れ帰ったのじゃ。酷い怪我をしよったから、簡単な手当をしてやった。12.7が体を掠めとる。息はまだあるのう、おぬしらの仲間で間違いないかの?早く医者のところに連れていってくれんかの。」

「俺たちの大切な仲間なんだ・・・ありがとよ、こいつがくたばっちまってたら、俺はどうなってたことか」

カトウがひたすら少女に礼を言う。ユークは、ずっとシンヤの手を握っている。後ろからミホがユークに囁く。

「よかったわね・・・ほんとに」

ミホが慌てて部屋を出ていく。外から物凄い泣き声が聞こえてきた。いや、叫びの方があっているかもしれない。

シンヤを担架に乗せ、少女に何度もお礼をいった。シンヤはかなりの重傷だ、急いで大病院に搬送する。帰り際に、ユークが少女に改めて礼を言う。

「彼は、俺にとって大切な人なんです。本当に感謝します。」

「大切な人が見つかってよかったのう、お役に立てて何よりじゃ。」

頭を下げ、輸送機に乗ろうとした時、彼女の紫電改が視界に入る。特徴的なラウンデルも見える。はっと思い出す。この辺りに、稲妻紫電と呼ばれる、伝説の空賊団の末裔がいるという噂を・・・。だが、ユークは本人に悪いと思い、輸送機に乗り込み、その場を発った。機内では、なぜか皆、無言を貫く。禁断の地に足を踏み入れ、命からがら帰ってきたようであった。だが、息があるシンヤを見て、一堂が安心する。だが予断を許さない。

 

飛行場にユークたちが乗る100式輸送機が到着した。シンヤはすぐに大きな病院へ搬送される。カトウが素早く、トラックの荷台を片付ける。

「荷台が狭い!乗れる奴はさっさと乗れ!!」

キリエは迷ったが、足が動きそうであった。

「レオナ、私も・・・。」

「ああ、大丈夫だ。心配だな・・・」

キリエもユークとともに病院へ向かった。ユークがコトブキのみんなと目があう。礼をし、トラックに駆け込んだ。コトブキのみんなも、シンヤのことを心配する。残ったレオナたちは、残った隊員たちとともに打ち合わせをする。空賊の中に自由博愛連合機がいる以上、状況は複雑化する。幸い、アレシマ近郊であるため、飛行警備隊や私設自警団機の警備範囲となる。カミナシ組やオニシマ団の拠点が近くにあると睨む警備隊などは一斉検挙や捜索を行うとの話も聞く。羽衣丸もアレシマ近郊を周回するため、被弾が軽微であれば、補給も望める。

 

「そんなわけあるかっ!!あいつはいいゼロ戦乗りなんだ!畜生!手を出来るだけ打ってくれ!」

カトウが病院で叫び、医師や看護士に宥められる。病院で、カトウたちが医師から、シンヤの前線復帰にはかなり時間がかかり、最悪、もう飛行機には乗れない可能性があると伝えられた。飛行機乗りにとって、空を飛べなければ、死も当然である。医師の言葉を聞いたとき、ユークは何も考えられなくなってしまった。今後、シンヤは飛行船勤務か地上勤務に移される可能性がある。自分の居場所は本当は空なのだろうか、シンヤと一緒に飛べて、楽しさを感じた。だが、翼を重ねられないかもしれない。カトウ、ミホ、ユーク、そしてキリエも病室でシンヤの様子を見守る。当分、目覚めることはないものだと思っていた。任務に備え、病室を後にする。カトウは空賊を殲滅させることばかり口にする。終始、ユークは不安げな顔を浮かべている。シンヤが落とされてから、あまり表情を表に出さないユークにしては、珍しいのかもしれない。キリエがそっとユークの側に寄る。「・・・また、飛行機に・・・乗れるよ。」

ユークは強く唇を噛んだ。

「ユーク、あのシンヤのことだから・・・」

ミホも声をかける。だが不安でたまらなかった。

 

ヒノボリ飛行隊の隊員たちやレオナたちと夕食を摂る。カトウは格納庫で寝るらしい。愛機、零戦二一型の操縦席でシンヤを気遣う。食堂では、ユークを心配して、エンマやチカがユークにいろいろ話しかけてくれた、だが、その顔は浮かなかった。ユークが一番初めに自室へ戻った。

「キリエ?あなたももう寝たら?」

ザラがキリエに言う。

「もう寝ますわよ?キリエ、あなた、顔が疲れてますわよ?」

エンマまで急かすが、眠気が無い。仕方なく、部屋に戻る。

宿舎だからか、羽衣丸にいるときよりも部屋が広く、寂しくも感じる。眠りに就こうとしても、やはり寝付けない。また、ユークのこと、コトブキのみんなのことを考える。おやつに食べようと思っていた、保存用のパンケーキも久しく喉を通らない。キリエは部屋を出てユークの部屋へと向かっていた。そばにいてあげたいと感じたのである。隣部屋にはチカがいた。チカも眠れなかったのだが、キリエの後を追ってしまっていた。既に宿舎は非常灯しかついておらず、ほぼ真っ暗である。キリエがユークの部屋に着き、戸を叩く。チカは廊下の隅から息を殺してキリエをみつめる。キリエがドアノブを回すと、鍵がかかっていなかった。

「・・・開けるよ?ユーク・・・」

部屋は、かすかに蝋燭が灯っていた。キリエがユークの部屋に入っていく。

「キ・・・キリエ・・・」

チカはまた、あの光景を思い出す。

キリエが部屋に入ると、ユークはうずくまっていた。

「何しにきたんだ・・・、明日早いだろう」

「最近ずっと顔が浮かなくて、レオナやエンマもユークのこと心配してたよっ!私だって、シンヤさんのことは心配だよ。でもそんなことで・・・」

「シンヤは!俺に命を与えてくれた!! 空を教えてくれた・・・。キリ・・あんたは、俺に本当の幸せってものを教えてくれた・・・。だが、飛行機乗りってのは・・・明日までの命かもしれない、コトブキにいるとはいえ・・・キリエ、お前のことが心配だ。心配でたまらない・・・」

キリエは少し考え込んだ後、ユークに涙目で伝える。

「空飛ぶのって、楽しいし自由だけど・・・。いつも怖いんだよ?イケスカで、イサオと戦ったときなんて、みんな落とされちゃって、最後は少しカッとなっちゃったけど、あの戦いを乗り切れた。みんなが・・・レオナにザラ、ケイト、そしてエンマにチカがずっと支えてくれたから。みんなと明日も一緒に空を飛びたいから。怖さより、楽しさが増しちゃう・・・かなっ!」

「俺は・・・あんたと一緒に時間を過ごせて、一緒に飛んで・・・・楽しかった、空賊なんかと戦って、落とされて。いつも怖かった。操縦桿を握ると、いつも死を覚悟した。でも、あんたは楽しく空を飛ぶ・・・。空を飛ぶあんたは、美しい・・・」

ユークが泣きながらキリエに抱きつく。

「・・・・・いいよ、ユーク・・・?」

蝋燭が灯る中、キリエはまた、自分の身体をユークに委ねる。彼の大きな力強い手が、キリエの柔らかい太ももをなでる。互いに激しく口付けする。身体が本能に、自然に従う。互いに抱き合い、身体を揺らしあう。ユークは泣いていたが、身体が止まらなかった。汗が身体を伝っていく。キリエも激しく、その腰を動かす。何回も抱き合い、口を重ねあう。ユークは何度も、キリエの髪に触れ、柔らかい胸に顔が向かう。ちょうど3時を回って、互いに服を着た。ユークは悪く思っていた。一線を越えているとはいえ、キリエがずっと飛ぶことができるように配慮している。だが、身体は求めていなかった。まさしく本人に、気持ちを伝えたかっただけであった。

「キリエ・・・悪かった、そんなつもりじゃなかった・・・」

キリエは無言を貫くが、表情は穏やかだ。そしてこう言い残し、部屋を後にした。

「私は・・・コトブキにいる限り、ずっと飛び続けるよ。いつもみんながついてくれてる。空って・・・広くて自由なところなんだよっ!空は怖くないよ・・・みんなに、ユークもいるから空を飛べる。」

キリエは部屋に戻った。隣で寝るチカの部屋から、何か物音がした気もするが、気にかまわず、眠りにつく。まだ息が荒い。心臓の鼓動が聞こえる。この鼓動をユークに伝えることができた。目を瞑り、最後の任務のことを考え、コトブキのみんなのことを考えた、その晩、空を飛ぶ夢を見た。

 

 

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