「・・・ユーク・・・ユークッ!!!」
ユークの零戦三二型がキリエの隼の横を下降していく。黒煙を吐き、風防にはヒビが入り、コクピットの様子は煙で分からなかった。
「ねぇ!ユーク!!ユークってば!!!」
キリエは必死になって呼びかける。だが、ユークの零戦はそのまま荒野へ落ちていく。至る所に穴が開き、黒煙、燃料が吹いている。前に、ユークが言っていた。自分の機体には特別に自動消化装置と防弾板を搭載していると。だが、あれほどの12.7mmが当たったのだ。言いようのない不安と怖さが襲う。初めて会った日から順に思い出す。同じ孤児院にいただけなのに。私のご飯をいつも食べてた。気づけば、一緒にいる時間が増えた。ユークの笑顔が増えて、彼の笑顔を1日に何度も見た。コトブキのみんなと時間が合わない時は、必ずユークと時間を共にした。そして、あの夜、私の初めての相手はユークだった。この間も一緒に夜を過ごした。お互いの意思を確認できた。でも、辛いときもあった。コトブキのみんなとも関係が変わっちゃうんじゃないかって。本当に苦しかった。みんなのことも大好きだったから。でも、みんなが私を支えてくれた。あの日、リリコさんやザラの言葉があったから、私はより幸せを感じることができている。この任務が終わったらどうすればいいか考えていたところだった。ユークも私に何か言おうとしていた。なのに・・・なのに・・・彼は目の前で・・・。
「・・・・・お前なんか・・・・お前なんかに!!私の・・私の・・・ユークを!!!うあああああ!!!この野郎っ!!!!絶対に落とすっ!!!!!」
キリエの隼が単機でF6Fに向かう。エンマやチカが追随していたが追いつかない。キリエの隼へ後方からキ-88に五式戦が4機近づく。
「キリエ!?どうなさいましたの!?キリエ!聞いていますの?」
エンマがキリエに必死に呼びかける。チカも驚いた様子だったが、機体を旋回させようとロールしたとき、見覚えのある零戦が見えた。はっきりわかる。あの夜のことをチカは決して忘れていない。
「エンマ!右にユークさんのゼロ戦が!!!」
エンマが黒煙を吐きながら落ちていく零戦を見つける。
「キリエ!!落ち着きなさい!!!単機で突っ込むのは何があろうと私が許しませんわ!」
「海のウーミが言ってたことを思い出してよ!キリエ!!イケスカの時と同じだよ!!」
怒りで満ちていたキリエは、その時、自分の中の自分に声をかけられる。(空を飛ぶのに、憎しみはいらない。私は成長した。みんなが支えてくれたでしょ!何のためにみんながいるんだよっ!)いつの間にか、マリアとアンナからもらったお守りを握りしめていた。キリエは応える。
「エンマ!私が後ろの敵を引きつけておく!敵も気づいてエンマも狙ってくると思う!エンマはヒノボリの人たちと一緒に後ろの敵をやっつけて!あの戦闘機はまたこっちに向かって攻撃して速度を使って直ぐに逃げるはず!私とチカであの戦闘機絶対に落とす!2対1だからこっちが大丈夫!!」
「キリエ・・・・分かりましたわ。ヒノボリのヤマダさん、ジョージさん、コンドさん!行きますわよ!」
エンマたちがキリエの後ろに近づく、キ-88と五式戦を狙う。案の定、エンマたちに気づく。キ-88も五式戦も上昇を始めて逃げようとする。隼よりも離昇力がある。宙返りをして上方から狙うつもりだ。敵機が宙返りを終えて上方より急降下を始める。キ-88と五式戦4機がエンマたちへ向かう。
「敵はもの凄い速さで降下して反転して再度攻撃をすると思いますわ。その時に一斉に攻撃を仕掛けますわよ!」
エンマたち4機が敵の一撃離脱を交わす。敵が反転してくる。エンマの隼、ヒノボリたちが乗る零戦二一型に二二型、旋回半径ならこちらが優位。反転中の敵を射線に捉え、撃つ。ほんの一瞬のことである。エンマが五式戦を2機、ヒノボリの隊員たちでキ-88を落とす。炎上して荒野に落ちていく。
「キリエ、ゴミどもを蹴散らしましたわ。」
キリエとチカはF6Fと交戦する。キリエが後ろにつかれ、チカがF6Fを追う。すると上方より、F4Uが迫ってくる。
「チカ!いくよ!!」
「よっしゃあ!」
キリエが上昇し、F6Fも釣られて上昇する。だが、速度は400kmも無い。F6Fの搭乗員はまだこの機体を使い慣れていなかった。ユーハング製戦闘機に慣れていたため、低速で上昇するキリエの隼に釣られて上昇してしまう。チカがF6Fの死角になるように追随する。F6Fがキリエ機を狙って12.7mmを撃とうとしたのだが、そこには隼の姿は無かった。キリエは失速寸前の速度で、ある機動をした、ユーハング伝来の左捻り込みである。F6Fの搭乗員は混乱する。
「どりゃあーーっ!!」
チカがF6Fの主翼にありったけの12.7mm2丁を浴びせる。今回の出撃前にナツオ班長が仕入れた特殊な焼夷炸裂弾がコトブキ飛行隊の隼に積まれた。弾丸が命中し、F6Fの主翼で燃焼を始め、炎に包まれた。F6Fが落ちていく。チカを狙っていたF4Uが上昇しかけてやめる。一瞬、機体の動きが鈍る。
「状況の理解が大切・・・油断大敵」
ケイト機が発砲する、F4Uに煙を吹かせた。搭乗員が脱出し、撃破に成功した。
「おい!コトブキ飛行隊!!大丈夫か!こっちも損害喰らったが敵は大方片付けたぞ!!」
無線からカトウの声が聞こえて、その後レオナの声も聞こえてくる。
「エンマ、ケイト、キリエ、チカ!大丈夫か!!こちらは何とか片付いた・・・」
「もう、レオナったら、また単機で突っ込もうとして」
「すまない、何だかリノウチを思い出してしまった・・・」
「何とか食い止めたわね・・・」
上空で編隊を組む。するとカトウ機から驚きの声が聞こえる。
「お前!落ち着け!うるせー!分かったから、よくやったな・・・」
興奮した様子のミホからの無線が聞こえる。
「やっと・・・カトウさん!落としたわよっ!!シンヤの敵よ・・・思い知りなさい」
キリエがミホの乗る零戦五二型を見つける。被弾が酷いがなんとか飛べそうだ。ミホがキリエに向かって拳を見せて喜びの表情を見せる。すると、ザラとカトウがみんなに伝える。
「あらあら、敵さんがお帰りよ〜?」
「おい、敵が逃げていくぞ!」
コトブキ飛行隊とヒノボリ飛行隊で、敵機70機のうち、30機ほど落としたところであった。敵が急に空域を離脱する。また、体制を立て直して襲ってくるに違いない。コトブキ飛行隊とヒノボリ飛行隊は計50機ほどの構成であったが、35機ほど未だに帰ってきていない。一方で、飛行船や輸送機隊には損害が見られなかった。
既に目的地のショウト近郊であった。ショウト自警団機が護衛に向かってくる。ヒノボリ飛行隊長とレオナから通信が入る。
「被弾の多い機体はショウトの飛行場に着陸しろ!残りは羽衣丸もしくは、アレシマ空運局保有のニッコー丸に着艦せよ!」
コトブキ飛行隊の機体は損傷が少なく、羽衣丸に一旦戻った。キリエは咄嗟に機体を降りてナツオ班長に向かう。
「ねぇ!班長!!フクセン、いいやルゥルゥに捜索機出すようにお願いして!ユークが・・・ユークがぁっ!」
班長はすぐに答えた。
「何馬鹿なこと言ってんだ。お前たちが着艦する前に捜索機を出したよ。ショウト自警団からも捜索隊が交戦空域へ向かってる。レオナやエンマはいるだろ・・・誰だ?ユークって」
「コトブキのみんなと同じくらい大切な人・・・」
キリエは倒れてしまった。班長が潰される。
「おいっ!こいつを医務室に!!」
「私が連れて行く!班長や整備員のみんなは安心してくれ・・・」
レオナが抱えて、キリエを医務室まで運んだ。ザラやエンマも医務室へ向かう。
「キリエが倒れるなんて・・・初めて見たよ。」
チカが心配する。ケイトとチカも医務室に向かおうとする。
「ケイトも心配。今日の戦闘はオフコウヤマで戦った時と同じくらい、乱戦となった。だが、キリエは精神的負担もかなり大きい・・・っ!」
「ケイト?なんで格納庫に戻るの?」
「ケイトも捜索に加わる。アレンのように・・・ユークにはなって欲しくない。」
「ケイト待って!私も行くよっ!!痛てて!これくらい・・平気!」
すると班長が注意する。
「気持ちは分かるが、お前たちも疲労が溜まっている。ケイトの機体には少し修理がかかる。チカの機体も燃料漏れ起こしていたぞ。だが、捜索隊には一機でも多い方が現場も助かる。絶対に帰って来いよ。今すぐに飛ばせる機体はあの赤トンボと私が乗る隼しかない。まあ、お前たちの壊れた機体を組んだものだが、ちゃんと飛ぶから安心しろ」
「班長、感謝する。ケイトが九三式中間練習機に乗る」
「行くよ!ケイト!!」
2機が羽衣丸から離陸する。捜索隊と合流し、墜落機を探す。
「まぁ・・・キリエ・・・。」
エンマも思わず目に涙を浮かべる。レオナとザラも心配する。
「疲れが溜まったのだろう、私がずっと付き添っている。」
「私もエンマも一緒よ」
その後、一晩中、レオナとザラ、エンマはキリエに付き添った。
ショウトの飛行場ではカトウと隊長が言い合っていた。
「俺にも捜索に行かせやがれっ!!この通りまだ体もだい・・・ううっ・・・」
皆、力戦したものの、戦力がまた低下したのだ。このままでは安全に輸送任務が果たせない。すると1人の男がヒノボリ飛行隊長、カトウの目の前に現れる。男らしい声、固めたリーゼントに目が向く。後ろには黄色い塗装の隼3型に真っ赤な隼3型が止まっている。
「エリート興業のトリヘイだ!あんたらの任務は聞いている。是非俺たちを使ってくれないか!いいや!!あんたらが嫌でも一緒に飛ぶからな。このショウトであいつの絵をお前らの輸送物資に載せる。ラハマで個展があってな。俺たちも護衛に加わる。そうだろう!人事部長!営業部長に広報部長!!」
「おっす!社長!!」
「社長と絵を絶対にお守りします!!」
「これで活躍すれば給料が上がるぜっ!」
「おいっ!言っただろう!広報部長!すぐに儲かりはせん!!今回の護衛任務をしっかり果たせばそれ自体が広報活動になるんだっ!」
カトウがトリヘイの手をガシッと掴む。
「あんたらの名前、忘れん。俺からもお願いする」
ヒノボリ飛行隊長とカトウが最敬礼する。
「よし、決まりだな!お前ら!!行くぞっ!」