マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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本編
パート1 はじめから


 はーい、よーいスタート。

 

 魔法少女になって神浜を駆け巡るRTAはーじまーるよー。

 

 

 

 

 はじめからを選択してタイマースタート。難易度をハードにします。

 

 まずはキャラクター作成ですね。全てランダムも選択できますがそんなことしたらタァイムが死ぬのでキャンセルだ。この辺は後に解説します。

 

 名前は入力速度とシステムを考慮して『帆秋(ほあき) くれは』とします。くれは → 紅葉 → もみじ、つまり略せばいつものです。

 

 スタート時期はレギュレーション通りに『1年前』。1年程度なら能力値の減少もないから安心!

 

 学校は当然『南凪自由学園』を選択。学年は高校1年生、16歳に設定します。

 

 そしてお待ちかねの『願い』の設定です。ここは一覧から選択ではなく自由入力をします。

 そんなことしたら一門のガバ運が働いて固有魔法が悲惨なことになるだろ! いい加減にしろ! と思うかもしれませんが、ここで『大人になりたくない』と入力すれば確実にある固有魔法になります。

 

 自由入力した『願い』から固有魔法を作成する場合は少々時間がかかりますが、今回はもう終わってる!

 というわけでこれで固有魔法が『停止』になりました。

 

 細かい部分は出身地を『南凪区』に設定して残りはフヨウラ! 終了! 閉廷! 君もう帰っていいよ!

 

 キャラクター作成が終わったためオープニングが始まりましたね。

 他のムービーやらなんやらはスキップできるのにここはスキップできません。なんでも作成したキャラクターの経歴やらの辻褄合わせをしてくれているみたいで、凝ったキャラクターを作るとオープニングが終わってもまだ設定中でダーク♂尺余りになります。

 飛ばせないので早速ですが、退屈であろうみなさまの~ため~に~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後回しにした解説をします。

 

 キャラクター作成をランダムにしなかったのは難易度がハードであるためです。

 ノーマルまでならランダム作成キャラでも余裕のよっちゃんでクリアできるのですが、ハードにした途端、神浜が修羅の国と化します。

 

 本来なら放っておいてもチームみかづき荘が本編通りの活躍をしてワルプルギス撃破まで導いてくれます。変に干渉しない限りイベントが進むので初心者でも楽しめる安心安全の仕様です。

 

 ところが、ハードだとイベントの成否判定もランダムとかいう畜生です。いろはちゃんが魔法少女になるイベントすらすっ飛ばしてマギアレコードが始まらなかったことすらあります(2敗)。

 当然それを踏んだらリセットです。試走中はなかったのでヘーキヘーキ、ヘーキだから、タイム欲しいでしょ?

(イベントがランダムなのにキャラもランダムじゃチャートなんか組めるわけ)ないです。

 だから、キャラクターを作っておく必要があったんですね(例の構文)。

 

 ゲームの開始時期を1年前にしたのも失敗できないイベントに干渉して確実に成功させるためです。というか干渉しないと神浜があーもう滅茶苦茶だよ(11敗)。

 

 そしてこの帆秋ちゃんですが、お気付きの通り名前を『秋野(あきの) かえで』に少し似せています。これは意味があります。

 

 隠し効果なのかシステムの穴なのか名前が似ているキャラは序盤に遭遇する可能性が高くなります。多分乱数が固まってるんだと思うんですけど(名推理)。

 似れば似ているほど確率が上がりますが、似すぎていると発生しません。微妙な塩梅が重要です。例えば二部のミスドの鬼と『くれは』が丸かぶりですが試走中に遭遇したことはありません。ここを同じにすることで確実にかえでちゃんを呼び出す完璧なチャートです。

 

 かえでちゃんは簡単に信頼度を上げられるうえに、出会うのが難しいキャラと仲良くなっていることが多い優秀キャラです。そういうわけで序盤に彼女と出会い、そこから交友関係を広げていくのが序盤チャートの一つですね。一応会えなかった場合のルートもありますが、いずれにせよその交友関係で短縮していきます。

 

 このようにして難易度ハードは複雑怪奇なイベントをいかにリカバリーして本来のチャートに乗せるかの勝負です。走者の腕の見せ所さん!?

 

 『南凪自由学園』を選択したのは所属する魔法少女が少ないため序盤に余計なイベントの発生を抑えられるからです。しかもみゃーこ先輩という西のやちよさん、東のなぎたんに連絡を取れるお方がいます。ネームド白羽根もいてマギウスにも繋がってるなんて、良い学校だぁ……(恍惚)。

 

 出身地を『南凪区』にしたのも同様です。東西の争いにあまり関係ない立場にすれば余計なロスを抑えれます。南凪に通っていても出身地が違えば巻き込まれるのはみゃーこ先輩を見ればわかりますね。

 

 『願い』については……もう始まってる!(開幕ロス)

 ですがこの後ノーミスならお釣りがくるので続行します。

 

 

 

 

 

 

 クォクォは……教室ですね。神浜が壊滅状態になっていないみたいなのでリセット回避です(1敗)。

 動けるようになったら早歩きで中等部に向かいましょう。各校ごとに内部が違うので走者を飽きさせない(覚えられない)作りになっています。

 

 ちわーっす! 三河屋でーす!

 

「お、帆秋さん。何か用事?」

 

 観鳥さん! 『観鳥(みどり) (りょう)』さんじゃないか!

 彼女はゴシップ部もとい新聞部の魔法少女です。南凪にいる以上会っておいて損はありません。よっぽどイベントが捻くれてない限りはスタート時には教室にいます(3敗)。

 

 そして指輪確認ヨシ! 既に魔法少女になっています。今後も新しいキャラに遭遇した場合には確認しておきましょう。気づかずに魔法少女関連の話をするとロスります。

 

 彼女と出会ったことで神浜魔法少女ファイルが更新されるので早速確認して即閉じます。小技ですが、観鳥さんが登録された位置でマギウスが存在するか、手遅れになってないかがわかります。

 観鳥さんが魔法少女かどうか、マギウスの翼かどうかは関係無く、正規ルートでマギウスの翼に属している魔法少女に出会えばOKです。いくみんでもいいのですが距離が遠すぎるっピ!

 マギウスは……存在しているみたいですね。マギアレコードはちゃんと始まっています。

 

 では余計なイベントが発生する前に即教室から出ます。こいつすげえ挙動不審だぜ?

 

 

 

 リセットポイントを通過したので、ここで一旦帆秋ちゃんの生成された経歴を確認します。

 自動生成される経歴はクオリティが高く、これだけでも楽しめる一品です。意外なところで原作キャラと関わってたりします。例えば猫が好きだと魔法少女になる前のさなちゃんと会ってたりなどなど色々ありますね。

 なお、時折リセット確定の地雷(アリナ)が埋まっていたりするのでチャートを確認するようにちゃーんと確認しましょう。

 

 今回は……交友関係が観鳥さんとみゃーこ先輩だけですね。モブの友人すらいません。魔法少女以外の友達とか……いらっしゃらないんですか? え、そんなん関係ないっしょ。

 これはむしろ好都合です。最低限の繋がりがあれば問題ありません。むしろ下手にモブと交友があると時間をロスします。

 

 気になる点としては観鳥さんの信頼度が少し高いとこですね。開始前に何かやらかしてる可能性がありますが……まあ誤差だよ誤差!

 

 ランダム設定された魔法少女歴は1年……普通だな!

 

 性格が冷静になっているので人付き合いが悪い子なんじゃないっすか?(適当)

 しかしこれはRTAなのでガンガン人に関わってもらいます。通常プレイならロールプレイするんだけどなー俺もなー。

 

 

 

 確認が済んだら早速学校を出ます。ステータスの割り振りをするために調整屋にイクゾー!

 

 本来、調整屋はキュゥべえが追い出された後に開かれるものですがゲームの都合上か早まっています。

 他にもやちよさんとももこの仲が悪くなる時期やメルの生存時期などはプレイごとにまちまちです。現在の状況を把握してどの程度ズレているかはきちんと確認しましょう(73敗)。

 

 こうして移動していればかえでちゃんにエンカウント……しないですね。なんで? バイトでもしてるんでしょうか。

 とか言ってたら調整屋に着いちゃいました。(名前を付けた意味が早速消滅し苦悶の表情を浮かべる帆秋ちゃん)。

 

 まあ出会えなければそれはそれで大丈夫です。リカバリーはねぇ、自信あるんですよ。出会えるのは110分後ぐらいでしょうねぇ、最近走ってないからわからないですけど。

 

「いらっしゃ~い、調整屋にようこそ~」

 

 廃墟みたいな場所にあるここがレズ風俗と噂される調整屋です。

 初回は調整屋さんこと『八雲(やくも) みたま』さんによるチュートリアルが入りますがスキップだ!

 

 ステータスは当然『攻撃力』と『速度』に全振りします。当たらなければどうということはない、死ななきゃ安いを地でいきましょう。RTAだからね、仕方ないね。

 割り振りが済んだらもう用はないので即退出します。今後はイベント終了時などの節目で訪れるので親しくしておきましょう。

 

 

 

 それでは帰宅中に今後のチャートについてお話しします。

 これから半年後、忌々しいキュゥべぇが神浜から姿を消します。その前に発生するイベントをこなしつつ、終盤に向けて必要な分だけレベル上げをしておきましょう。

 特にやちよさんに一度でも出会うことが重要です。メインストーリーの要となる存在ですし、数々のイベントに主人公であるいろはちゃん以上に関わってきます。各種イベントに出現するところを狙いましょう。

 

 

 おっと帆秋ちゃんが何かに気づきました。これは魔女の反応です。へっへっへ、カモがネギしょってやってきたぜ。

 (魔女の結界に)イッキーマウス……。

 

 

 おうおう帆秋ちゃんのお通りじゃー! 初戦闘いくぞオオオオオオオ!

 

 ですが、まずは変身したら装備を確認します。たまに変なことになってるのでちゃーんと確認しておきましょう。

 

 今回は……いつも通りですね。

 この『願い』の場合、武器はカトラスになります。衣装はフリフリした緑の服に羽帽子ですね。多分ピーターパンモチーフなんでしょう。自動生成の衣装は有志によって纏められていますので解説は君の目で確かめてみてくれ!

 

 問題はソウルジェムです。魔法少女の体力とソウルジェムの耐久値は別に設定されています。体力がなくなってもそのうち復活しますが耐久値がゼロになるとゲームオーバーです。

 この衣装のソウルジェムの位置は首のチョーカー部分ですね。こんなとこ攻撃されたら普通に危ないので守りやすい良い位置です。籠手にソウルジェム付けてる人は命を大切にして。

 

 早速使い魔が来てますのでかわしてカトラスでざっくり斬りましょ。避けきれない攻撃は固有魔法の『停止』で動きを止めて反撃します。

 なお、まだドッペルシステムは解禁されていません。調子に乗って使いすぎると魔女化するので無理は……やめようね!(6敗)

 

 序盤も序盤なので楽ですね。調整を受けていない魔法少女はステータスの割り振りなしで戦ってるのでそりゃ大変です。そういう縛りプレイもありますしね。しかしその状態で普通に戦えるマミさんとは一体……?

 

 

 なぎ倒しつつ進むと奥には魔女が……おや、先客がいますね。魔女結界の中ではたまに別の魔法少女と出会えます。今回は……観鳥さん! 観鳥令さんじゃないか! さっきぶりじゃないっすか!

 マギウスの翼になった後は単独で魔女と戦闘することは珍しいので、まだ白羽根になっていないと考えていいでしょう。キュゥべえ追い出し前にマギウスの翼が集まっているパターンではないみたいです。

 

「帆秋さん! こいつ、強い!」

 

 ってやっべなんか苦戦してる急げ帆秋ちゃん! カトラスを魔女の腕にシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!!

 魔女を『停止』! カトラスを新たに生成して細切れだぜ! 

 動きを止めて火力全振りの攻撃を叩き込むコンボは単純かつ明快です。魔力がガンガン削れてますがグリーフシードを回収すればお釣りがくるので問題ありません。むしろドッペル解禁後は即ドッペルでトドメに使えます。

 

 工事完了です……(撃破)。既に体力を削っていたからかあっという間でしたね。

 結界が消えたのでグリーフシードが落ちています。穢れが結構溜まったので貰う気満々ですが一応観鳥さんに確認しておきしょう。

 

「グリーフシード? 観鳥さんはまだ余裕があるから帆秋さんが使ってよ。また助けられちゃったし」

 

 やったぜ。こう言ってますし問題ないです。またってなんですかね。まま、ええやろ。

 ではグリーフシードで回復を……あれ、持ってないですね。使った? 使ってないですね。なんで? は?

 

 これはアレですね。『御園(みその) かりん』に盗まれたみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、ちょちょちょっと待ってください! 待って! 助けて! 待ってくださいお願いしまワアアアアアアアアア!!!!

 かりんちゃん許してリセットはタイム壊れちゃーう! グリーフシード盗まれるなんて嫌! 魔法少女が、魔女になっちゃう! にゃ、にゃっ、にゃ、ホワーッ!

 

 

 落ち着きました。とにかく観鳥さんに事情を話して助けてもらいましょう。

 ただし、まだマギウスの翼になっていないみたいなので魔法少女の真実の辺りはぼかしつつさりげなく言います。帆秋ちゃんの演技力、見せてやるぜ!

 

 観鳥さんグリーフシードのストックくーださーいな!

 

 え? 持ってない?

 ……と、とにかく他の魔法少女か魔女を探しましょう。このままでは寿命がマッハです。

 

 そもそも、このイベントはかりんちゃんの魔法少女ストーリーの一部です。彼女が狙う対象は魔女を倒した直後でグリーフシードを持っているソロ魔法少女なのですが、これは神浜全域が対象です。なのでピンポイントでプレイヤーが狙われることは稀なんですが……ちなみに高確率でソロ活動中のやちよさんが狙われます。

 

 あ、そういえば彼女のイベントってかえでちゃんが関わってきますよね。

 名前を似せると遭遇しやすくだけでなく序盤の関連イベントも発生しやすくなる……? これは要検証ですね。誰か検証してください! オナシャス!

 

 本走中は焦って気づいてませんが、これは早めにかえでちゃんに出会えるチャンスですね。正にガバの功名です。

 

 こんな序盤に発生したならリセットをするという選択肢もありますが、まだそのタイミングではありません。というかリカバリーできるポイントで一々リセットしたらこの先のリセットポイントに辿り着かないんですよ許してください!

 

 観鳥さんにも協力してもらったところで今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観鳥さんが帆秋くれはという人物に出会ったのは、魔法少女になってから少し後のことだった。

 

 それは『シャッターチャンスを逃さない』という『願い』の元になった轢き逃げ事件が解決した後、病院にお見舞いに行った帰りのこと。

 観鳥さんは珍しい事によく遭遇するし、今思えばこれもその体質のせいだったんだろうね。

 

「あれ……うちの制服だ」

 

 見えたのは青のセーラー服。それにふわふわとした淡い栗色のロングヘアをした女の子。モデルをやっているような綺麗な人で、学校で何回か見たような覚えがある。

 そんな子が、すたすたと路地裏に向かって行ったんだ。

 

 怪しい。観鳥さんの勘がそう囁いた。

 魔女の口づけを受けているのかもしれない。そうでなくても何かあるに違いない。そんなジャーナリズムか野次馬根性かわからない考えでいっぱいだった。

 

 気づかれないように後をつけて路地裏に入ると、そこで見たのは――

 

「……なに?」

 

 猫を見つめる、その子だった。

 

「キミが人気の無いところに行くのが気になってね。観鳥さんは別に怪しい者じゃないよ」

「観鳥……そう、あなたが観鳥令ね。轢き逃げの話は聞いたわ。じゃ」

「ちょっと待ってよ。こんなとこでなにしてたのさ」

「……猫を追いかけてたのよ」

 

 あからさまに目が泳いでる。ここまでバレバレな嘘は見たことがない。呆気に取られて、観鳥さんにしては珍しく追求する気が起きなかった。

 でも、観鳥さんのことを一方的に知られてるのはフェアじゃないかなって。そう思って名前を訊いたんだ。

 

「帆秋くれは。同じ南凪の高校一年生」

 

 それを聞いて観鳥さんはこう思ったのさ。年上だったんだ……ってね。

 

 

 

 

 

 魔法少女になってからというものの、観鳥さんのカメラは願い通りにシャッターチャンスを逃さなかった。

 

 例えば、先輩の実験失敗の現場。

 もしくは、使われていない教室での先生同士でのろくでもない話。

 近所の人の密会現場だって。

 

 『逃さない』というのは厄介なもので、撮りたくないものでも撮ってしまう。

 

「帆秋さんも気をつけなよ。前にウソツキ観鳥なんて呼ばれてたし……今度はみんなの弱みを握ろうとしてるんだって」

「私に弱みとかないわ」

「相変わらずクールだなぁ……」

 

 その結果、校内には良くない噂が流れて、あの日出会ってそのまま別れた帆秋さんにも観鳥さんの話が回っていた。

 

(好きでこんなのばかり撮ってるわけじゃないんだけど……)

 

 写真で証拠を残せるようになってからはウソツキ呼ばわりはだんだん消えていったけど、万事解決なんてうまくいくわけがなかったんだ。

 

 『シャッターチャンスを逃さない』という願いと『珍しいことに会いやすい体質』が観鳥さんを現場に引き寄せる。けど、大きな事件なんてそうそう起きるはずもない。

 結果、望まなくとも撮ってしまうのはゴシップ写真ばっかりだ。弱みを握るつもりなんて欠片もないのに、他人の粗探しをしているみたいで観鳥さんはそれに耐えられなかった。

 

 大きく変わったきっかけは、そのゴシップ写真の一枚。

 去年のクラスで一緒だった友人がイジメに加担する場面が映ってたんだ。

 

 その子と観鳥さんは、イジメを止められなくて悔しい思いをした。だから彼女がそんなことをするはずない、なにかの間違いだ。前は証拠がなくて止められなかった。今度こそ潔白の証拠を必ず撮ってやるって意気込んだ。

 

 だけど、撮れたのはイジメに加担していることを裏付けるものばかり。

 気がつけば、写真を持ってその子に会っていた。私は友達なんだから止めさせないとって思ってさ。

 

 ……その子は、イジメられたくなくてイジメる方に回っていた。一見真面目に見える委員長に逆らったらなにされるかわからないからだって。

 そのことは頭に来たさ。でも、心を揺さぶることを言われたんだ。

 

「ホントのことを言ったって信じてもらえないと意味ないの! 証拠があったってムダだよ! あの委員長は水名出身で、令は大東の出身だもん!」

 

 正直、なにを言われたか一瞬理解できなかった。言葉の意味を一つ一つ咀嚼して、やっと飲み込んだ。

 

 東の出身というだけで、信じてもらえない。

 

 大東区があるのは神浜市の東側。水名区があるのは西側。歴史的に見ても互いに仲が悪く、西側が東側を下に見ている。

 これを知らないわけじゃなかった。東西の問題は否が応でもいつでも透けて見えていたから、そういうことがあるとは知識としてはあった。

 

 けれど、その問題とは縁が薄い南凪区に通っていた観鳥さんは、この時まで関係ないと思ってたんだ。まるで外国の話を聞いているようで、自分の日常に触れることはないとぼんやりと信じていた。

 

 でも、そうじゃなかった。すぐ側にあったんだ。

 受け入れがたい言葉を突きつけられては逃げるしかなく、辿り着いたのは人気のない化学部の部室。その隅でしゃがみこんで、どうすればいいのかもわからずに震えていた。

 

 昨日まであった日々が崩れていくみたいで、ただただ怖かったんだ。

 今まで見ないフリをして気づかなかっただけで、同じようなことが周囲に転がってるんじゃないかって思えてしまった。例えば、たわいない会話をしたあの子。挨拶をした大人。いつものように教壇に立つ教師。その人たちも、悪意の手を伸ばしているのかもしれない。

 

 大きな悪意が頭を支配して、誰かが近づいてくることにすら気づきもしなかった。 

 

 

「どうしたの。あなたがそんな顔するなんて」

 

 不意にかけられた声に反射的に見上げると、以前会ったときと何一つ変わらない帆秋さんがいた。観鳥さんがどう言われてるかを知ってなお、不快な表情一つ見せずに。

 彼女は持っていた丸めたポスターや布が入った段ボール箱を机に置くと、しゃがんで視線を合わせてきた。青みがかかった黒色の瞳で観鳥さんをじろりと見る。

 

「その指輪。魔法少女でしょ?」

「……えっ?」

「ほら私も。ついでに言うとひなの先輩も」

 

 視線を遮るように差し出された左手には、中指に魔法少女の証の指輪があった。偶然出会った彼女や、以前から知り合いだったひなのさんまでも魔法少女だったことに驚いたのは言うまでもない。

 

「悩みがあるなら聞くわ。同じ魔法少女なら、少しはわかると思うけど」

 

 そして、急にそんなことを言われたものだから目が点となった。

 けれども彼女は真剣そのものだったんだ。それに自分以外の魔法少女に出会ったのはこれが初めて。だから話せたんだと思う。隣に座った帆秋さんに口を開くのは、思ったより簡単だった。

 

「神浜の東と西の問題って……知ってる? 東が下に見られてるってやつ」

 

 観鳥さんにしては珍しく、自分が大東の出身だとかぺらぺらと話してしまった。どう思われるかなんて考えずに、一方的に喋り続けた。救って欲しいとかじゃなく、ただ聞いて欲しかっただけなのかもしれない。

 返答を待つことなく一通り吐き出した後、帆秋さんはぽつりと、けれども力強く呟いた。

 

「……私は一つしか言えない。あなたは間違ってない」

「それって……」

「だって、あなたが決めたことなんだから」

 

 呆気にとられている間に立ち上がった彼女は、さっきよりもほんの少し柔らかい表情だったんだ。

 

「さっきも言ったけど、ひなの先輩、知ってるでしょ? 化学部の背が低い人。呼んでくるから相談してみて。この問題はあの人から聞いたほうがいい」

 

 返事をする間もなく、帆秋さんは廊下に向かってひなのさんを呼ぶ。

 

「なんだ帆秋ー? 準備終わった――り、令!? どうした!?」

「じゃ、これで」

 

 その嵐のような振る舞いに少し気が楽になった観鳥さんは、ひなのさんからも大事なことを教わったんだ。

 観鳥さんの人生も、契約で得た力も観鳥さんのもの。辛いからって誰かに判断を委ねることはしない。最後は自分で決めるんだ、ってさ。

 

 

 その後、ひなのさんに紹介された大東の十七夜(かなぎ)さんとも話して、心を決めた。

 

 ひなのさんみたいに強くはいられない。

 十七夜さんみたいに真っ直ぐでもいられない。

 帆秋さんみたいに変わらずにもいられない。

 

 だから自分の道を選ぶ。

 大東に生まれたことで負った負債も、魔法少女になって奇跡を得て帳消しになったと思えばいい。観鳥さんは願いで得た力で真実を伝えられる。善悪清濁関係なく、ただ真実を伝えるために力を使う。

 それでゴシップ部……もとい、新聞部を立ち上げたんだ。

 

 

 

 こうして発行し始めたのが後の名物新聞『観鳥報』。掲示板に勝手に貼り付けたそれは色んな意味で良い反応を貰えたよ。

 もちろん、帆秋さんにも。

 

「観鳥。この『怪奇! メロンジュースを買い続ける女子生徒』なんだけど」

「それは帆秋さんだね。珍しくどうしても紙面が埋まらなくて」

「私の行為を撮るより猫でも撮ったほうが良いわ。少なくとも私は見る」

 

 まあ、変な人だとは思う。この前はスーパーでメロンパンを買い続けていた。

 他にも観鳥さんに会いに来たと思ったら即出て行ったり、聞いた話じゃ調整屋でもそんな感じらしい。

 

 でも、きっかけをくれたのはあの人だからさ。今度は観鳥さんが助けられたらな、と思ってよく一緒に行動してる。抜けてるところもあるしね。

 ひなのさんもきっと、観鳥さんと同じで帆秋さんが心配なんだろう。ことあるごとに面倒を見てるみたいだ。

 

 

 学生をして、写真を撮って、観鳥報を書く。そして魔女を倒す日々。

 この頃の観鳥さんの生活はそんな感じ。

 

 その日も偶然魔女に遭遇して戦っていた。そいつは強くてさ。正直、怖かったんだ。

 だけど、やっぱりあの人は助けてくれた。飛んできたカトラスを見た瞬間、観鳥さんは叫んでたよ。

 

「帆秋さん! こいつ、強い!」

「止まれ!」

 

 帆秋さんの固有魔法で魔女が止まって、そこからはあっという間。舞うようなカトラスの連撃ですぐに魔女は倒されて結界が消えた。

 

「これ、いる?」

「グリーフシード? 観鳥さんはまだ余裕があるから帆秋さんが使ってよ。また助けられちゃったし」

「じゃあ使うわ」

「アハハ、相変わらずだなぁ……帆秋さん? 使わないの?」

「ない」

「え?」

「ないわ。グリーフシード」

 

 そんな馬鹿な。帆秋さんはグリーフシードをさっきまで持っていた。ソウルジェムは穢れたままだし、使ってもいない。

 周囲を見渡しても――その瞬間、観鳥さんの指が勝手に動いてシャッターを切った。

 

「観鳥?」

「これは……魔法少女……そうか! 怪盗かりん、グリーフシードを盗んでいくっていう噂の魔法少女だ!」

「なによそれ」

 

 怪盗かりんってのは、魔法少女からグリーフシードを盗む魔法少女。この頃流れていた噂で観鳥さんも知っていた。

 原因がわかったところでこれからどうするかを聞く前に帆秋さんはおもむろに話し始める。

 

「……あなたは知らないかもしれないけど、このままだと体調が悪くなるわ。物凄く。二徹明けの目眩ぐらい」

「それぐらいかぁ……」

 

 言っていることは観鳥さんにもわかっていた。穢れが溜まると動きが鈍くなるし気分も悪くなるって知っていたからね。

 冗談めかして言ってるけど、なにかもっと嫌な予感がした。明らかに目が泳いでいる。この人はこういうところが抜けてるんだ。

 

「その怪盗かりん、追いかけるわよ」

「じゃあ二手に分かれよう。見つけたら念話で」

 

 逃げて行った先は『西』のテリトリーだ。昔よりは対立が軟化しているらしいけど、追いかけるならあまり派手なことはできない。

 でも――これはスクープだ。噂の怪盗、真実を暴いて記事にしてやろうじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別方向に走り去る後ろ姿を見て、ふと頭に過ぎったことがある。

 命を懸けて戦っているあの人を、()()魔法少女をどうして誰も知らないのだろう。

 このときは雑念にも満たないほんの些細な棘だった。

 

 だから、牧野チャンとも出会っていなかった頃の観鳥さんは、自分がなにをするのかなんて思いもしなかったのさ。

 




■今回の内容
 観鳥令 魔法少女ストーリー2話『生まれた時から与えられた宿命』
 観鳥令 魔法少女ストーリー3話『この運命は受け入れられない』
 御園かりん 魔法少女ストーリー1話『怪盗かりん』(一部分)

■帆秋 くれは
 RTAの宿命で奇行を繰り返す。不審者。
 クーほむ+やちよさん+ドア様。

■観鳥 令
 一人称が『観鳥さん』な魔法少女。エモい。
 魔法少女の契約をするときは普通に『私』なので素はこっちなのかもしれない。エモい。

■都 ひなの
 みゃーこ先輩。
 魔法少女歴5年の高校三年生18歳の大ベテラン。しかし合法ロリ。

■メロン
 ピーターパンといえば緑。緑といえばメロンパン。
 帆秋ちゃんの好物。



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