マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート76 七色夏模様 うたかたの波打ち際のよびごえ編

 

 死に物狂いで駆け抜けるRTA、はーじまーるよー。

 

 あっつ~! グリーフシード! グリーフシード! 

 やってきました幾度目かの夏。いくら季節イベントを経てもみなさん学年が変わってませんが気のせいです。まともに考えたらいろはちゃんが卒業してもおかしくないってどうなっちゃってるんだよオイ!

 

 そして夏と言えばイベント。イベントといえば退場フラグ。

 

 明言します。

 この夏こそ本RTAで最難関の大ロス&リセット&再走案件エリアです。数多の走者がここで散っていきました。アーメン。

 

 というのも、後半特有の増えまくったあらゆるキャラにイベントが発生するので、くれはちゃんが不眠不休で走り続けてもカバーが限界。溺れるわ永遠の夏休みの囚われるわどいつもこいつも退場の危機です。

 なお水名勢は臨海学校で元気にやってますし、莉愛様はギャグに片足突っ込んでるので放っておいても平気です。

 

 現在地は学校。教室に南凪魔法少女が勢ぞろいしていますが……。 

 

「都市伝説ならめぐるも知ってますよ! 幽霊の子供たちが出るあの世に繋がるひまわり畑、お手伝いしてくれる妖精さん、高速で駆け抜けていく女子高生!」

「いや……最後のはくれはだろそれ」

「でも二つ目のはひなの先輩ですよ?」

「ウソだろぉーッ!?」

「最初のは学童保育でよく行くあの辺りかしら……」

「なあ、全部お前サンたちが関係してないか?」

「│もしかして、紗枝もそんな話あるんじゃない?│」

「――あー……ドッペルゲンガー、とか……になるのかな……」

「こりゃ観鳥さんもネタに困らないわけだ」

 

 そんな感じで都市伝説には都市伝説を、南凪区を責められたら北養区へも駆け出し、真夏のなんでも屋になっていきましょう。

 まあチャート上、南凪でやるイベントに乗り込む南凪専門イベント遂行師になるんですが……。

 

 おっと電話。ハロハロ~?

 

『もしもーし。わたしよわたし。いつもの頼れる調整屋さんよぉ。実はね――』

 

 来た、来た、来たなぁ!?

 

 みたまさんがこのやべー時期に市外の海に行くと言い出したら付いて行きましょう。

 こいつは『なだのよびごえ』というイベントです。里見グループの保養所に行ったら例のごとくトラブル発生。運良くTRUE ENDで成功してくれないと、ももこちゃんが魔女化、みたまさんは退場という結果になります(散々)。影響範囲が広すぎるッピ!

 

 しかし本質は時女キャラとの信頼度上げ、『時女一族』自体との関係を良好させることが可能な便利イベント。以前稼いだ分があるので今回は必要ないんですが……退場を防くのは必須でしょう。

 

 おっとまた電話。

 

『もしもーし、くれはお姉さまー? 里見グループが持ってるプライベートビーチがあるんだけどにゃー――』

『もしもし、巴よ。実は海に行く話――』

 

 う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 里見灯花ァ!! 巴ェ!! お前らにとりだからなお前!!(意味不明)

 

 落ち着きました。

 指名入りすぎ……入りすぎじゃない?

 

 灯花ちゃんのお誘いは『うたかたの夏夜』です。幸い行先はこちらも里見グループの保養所なのでマシですが、失敗すると天音姉妹が退場します。

 

 続いて、マミさんのは『波打ち際のリボン』ですね。こっちはさやかちゃんの親戚が経営する民宿です。失敗するとまどかさんとほむらちゃんが退場する致命的ダメージ。無事終わっても『ナハトメルヒェン』に続く可能性もあるってヤバイわよ。

 

 今からリセットしたところでこの展開は変わらず!

 どれかひとつを選ぶと誰か退場待ったなし!

 誰が欠けても先の展開がチャートから外れる! オラこんな神浜嫌だ!

 

 つまり……地獄の水着イベント三連続リカバリー祭の開催です。バッカじゃねぇの!?

 

 発生時期がランダムだとこういう弊害があるのがねーもう無理無理! だからハードで走るのは無茶だって言ったでしょ! バカ! おバカ! なんで水着イベントで退場者が続出するんですか!!

 

 ここまで重なるのはマギウス時代の恨みでしょう。そうに違いない。とにかく走り切れれば世界一なのでこのまま行きます。

 暑い真夏の夜、加熱したフラグは、ついに危険な領域へと突入していた……?

 

「おいおい、オマエまさか全部に行く気か?」

「めぐるもさすがに無茶だと思いますけど……」

 

 あっおい、待てぃ(南凪っ子)。

 さすがに全部やってたらロスして終ゾ。

 

 こうなったら『なだのよびごえ』は灯花ちゃんたちに任せましょう。マギウス3人と追加で超強化かりんちゃんを送り込めば頭脳面も戦闘面も問題ありません。時女もいるので手数も多く、ついでに『うたかたの夏夜』も成功することでしょう。

 

 では『波打ち際のリボン』はどうするかというと……。

 

 

 

 

 

~少女移動中~

 

 

 

 

 

 たのもー!

 

 やってきました雫ちゃん家の喫茶店。

 チラっと店内を見渡すと黒江ちゃんが読書中。レアだぜ! 元黒羽根同士の繋がりもあり、魔法少女ファイル登録後ならたまーに彼女がいるのを確認できます。魔法少女の日常を確認するのも面白いですね。

 

 そんなことよりヘイ雫ちゃん! 海行かない!?

 

「なになに!? 真夏のお笑いライブ!?」

「ちょっとあやか……」

 

 頼むべきことは、またどっか行った杏子ちゃんやゆまちゃんを見滝原組のところに送り込むことです。さらにみゃーこ先輩を始めとしたエミリー先生の相談所組にも声をかけて同じ海に放り込みましょう。

 

 なお、スケジュールが合わなくても必ず『五十鈴 れん』だけは投入します。

 必須なのは彼女の固有魔法『成仏』です。このイベントがれんぱすの正念場。魔女退治とミラーズ探索で鍛えまくったマギア『ソウル・サルベーション』が雄叫びをあげることに。未だ成仏していない魔法少女が1人、干渉できる魔法少女はれんぱすだけ。

 

 なんだよ……結構、リカバリー簡単じゃねぇか……。

 思いっきり慌てて雫ちゃんに話しかけるまでしてやっと気づいたようですね。バカじゃねぇの(自嘲)。

 

 あとは……水名でやちよさんが演技を練習するイベントなどがありますが、退場フラグはないのでスルーします。『水名 露』といった過去の魔法少女の話だったり昔の東西を知ることができますがそんなことしてる時間ないんじゃい! 

 余裕があったらやっとくと後で面白いことになるので通常プレイではオススメです(媚びを売る)。

 

 となると当初の予定通り、くれはちゃんは"ビーチでドキドキ! 夏の創作料理大会"に出場することになります。

 当然のようにみたまさんも参加して来てとんでもない料理を作るので、失敗すると来た魔法少女たちが全員能力デバフor退場の地獄が展開されてプロミストブラッドに負けます。先述のイベント群より被害が広い……広くない? あいつ夏の魔物か?

 

 じゃ、余計なイベント踏まないように必要ない誘いは断りつつ流しますね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やってきました太陽サンサン南凪のビーチ。

 ここかぁ……夏の創作料理大会の会場は。

 

「今日は~よろしくお願いしますぅ~」

 

 壇上で挨拶している審査員の一人はここ最近引っ張りだこのさゆさゆです。

 勝者はライブのスペシャルチケットを貰えるので、レナちゃんが異様に張り切っています。さらに万が一にもさゆさゆに毒料理を食わせるわけにいかないので、なぎたんや参加する他の魔法少女の手を借りてフォローしようという話ですね。

 

 開催地は南凪なので蒼海幇と共に美雨や、料理関係なのでまなかちゃんがいたりします。しかもまなかちゃんのお父さんは審査員の中にいるので、ダウンするとソウルジェムが濁るねんこれじゃあ!

 

 そんなわけで、このイベントは事前にみたまさんの参戦を知って人知れず阻止しようとする魔法少女たちの奮闘が見どころ。

 しかしくれはちゃんはそんなことを一切知らないので、こうして紗枝ちゃんと一緒に観客席にいます。がんばえ~(無邪気)。

 

「あれ……めぐるちゃんもこの大会に?」

「めぐるは司会ですよ。最近はこういうのも任せてもらえるようになったんです。まさしく、"心に響いて世界を巡れ"! この決め台詞が羽ばたくときが近いかも、なんて」

 

 あと当然ながらめぐるがこの大会の司会です。南凪なんだから当たり前だよなぁ?

 もし参加するのなら、審査員と司会に知り合いがいるので多少の融通は効きます。大人のコネって……怖いですよ?

 

「ではめぐるはこれで! 先輩方も楽しんでいってください!」

 

 じゃ、みたまさんの実況頑張ってくれよな!

 

 後は開始まで待機。

 基本的には放っておいてもレナちゃんたちがみたまさんの対処してくれますが、ヤツはバーリ・トゥード(なんでもあり)ならこいつが怖い! 的な存在。危ない場面は協力してあげましょう。客席で優雅に座って機を待つぜ。

 

「それでは、南凪創作料理大会! スタートです!」

 

 みたまさんとなぎたんのブースには明らかにヤバい色のソースや生のキャッサバ、フグ丸ごとなど、料理が下手どころじゃなく完全に人を殺す気の食材が並んでいます。

 止める魔法少女が少なすぎる場合、これを食わせることになるのでデッドエンド一直線です。マジかよぉ! チョーS(ATSURIKU)だよな!

 

 というか、一番ヤバイのはここです。

 客席でカトラス振り回して食材をすり替える隙を作る必要……はないみたいですね。次行きましょ。

 

「くれはさん、どこ行くの?」

 

 まだ会場に来てないまなかちゃんを探すために決まってるだろォオン!?

 彼女が来ると料理関係の問題が解決するからか、つむぎちゃんに捕まったり溺れてる人を見かけたり、七瀬ゆきかばりにトラブルに巻き込まれます。彼女をいち早く連れてくるのが解決の鍵です。

 

 というか、毒がないならもう調理を見る必要はありません。

 実はめぐるの固有魔法『実況』はこの場でも有効。みたまさんの実況をすることにより爆発的に料理技能を引き上げます。つまり、食材がちゃんと食べられる物ならなんかうまくいきます。なんかってなんだよ(哲学)。

 

 では魔力反応を探しつつ……おっと近くの海辺にいた。

 

「もしかしてまなかを探して? すみません、さっきまでつむぎさんがずっと話してきたり、迷子の子がいたり妙にトラブルが多くて――ってああっ!? 今度は海に人が!」

 

 落ちていたのは~萌花ちゃんだった~お前またか(困惑)。

 まなかちゃん、ここはくれはちゃんがなんとかするから先行きな……ん?

 

 !(ピコーン)

 

 説得する前にとっとと自分で助けにいったほうが短縮できるんじゃないっすか?

 そう決まればオリチャー発動。行けー! 飛び込んで助けるんだよ!

 

「ちょっと!? 確かあなたは――!」

 

 着水!

 水没!

 

 なんか物凄い勢いで沈んでいきますね。

 いやそんな……冗談はよしてくれ(タメ口)。

 

 ウッソだろお前wwwww泳げないのかよwwwww笑っちゃうぜ~!

 笑いごとじゃねぇよ(正気)。

 

 ご覧の通り、くれはちゃんには水泳が超苦手でカナヅチ設定がついてます。こいつ今までプールでなにしてたんだ? こういう要素はロールプレイ時には嬉しいんですが今は単なる邪魔要素なんだよなぁ……。どうせチャート上じゃ使うところないしとスルーしてたのが仇になりました。オリチャーはやめろ。

 

 だが、これが幸いしたぜ。

 もがき苦しまなければ余計なタイムをロスしないからだ。

 

 くれはちゃんが溺れるという些細なトラブルがありましたが、創作料理大会は無事終了間違いなしなので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節はあっという間に過ぎる。

 肌寒さが強かった冬はいつの間にか暖かくなり、強い日差しが照り付け、セミの鳴き声が聞こえ始めていた。

 

 こんなに暑くなると生命にも関わりそうだけど、成り上がるという目的のためにも休むつもりはない。多少の無茶ができる魔法少女の頑丈な身体がこういう時はありがたく思える。

 

 ただ、いつもくれはさんに頼まれているラピヌちゃんのお世話は諸事情でお休み。「フランスはこんなに暑くなかったらしいわ」って、ぐだーっと犬のように伸びている姿を見せられたら納得した。日本の夏は湿度でキツいって聞くもんね。

 

 空いた時間を知り合った魔法少女との魔女退治に費やし、コネを広げていく……その一環で、調整屋に訪れることも多くなっていた。

 

「あら、紗枝ちゃん」

 

 声をかけたのは、スマートフォンを片手にソファに座っていたみたまさんだ。どうやらどこかに連絡しようとしていた途中らしく「ちょっと待っててね~」と笑顔で付け加えた。

 

「もしもーし。わたしよわたし、うん、連絡はしたのよぉ」

 

 電話先は誰だろう。変わらぬ調子で電話をしているものの、その声には心配の色が感じられて、どことなく"調整屋さん"のイメージとは異なる本質があるように思えた。

 

 ただの客にすぎない存在が言うのもおかしな話だ。

 でも、私と同じように、彼女もまた"調整屋"という役として私たちに接しているのかもしれないと見えた。私が知らないだけで、みたまさんにも家族がいて、学校があるのだから。

 

 あるべき姿や憧れの姿をイメージして行動する。ある意味それは演じているのと同じであって、いくつもの仮面という側面を持つ人間には重要なことなんだろう。

 

 そうやって仮面を被る者として眺めていると、みたまさんは口で「ぴっ」と電話を切ったアピールをして私に振り向いた。

 あからさまというか古いというか……たびたび思うんだけど、本当に17歳なのかな。

 

「そうそう、紗枝ちゃんにも教えておこうかしら。実はね、南凪で――」

 

 なんて、南凪のビーチで行われる創作料理大会を知ったのはそんな理由からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海の香りに満ちた風。雲一つない晴天の下、暑さを避けるように人々が建物の陰に入り、その中に知った顔を見つける。視線の先にはふわりと揺れる綺麗な髪があって、ここが待ち合わせ場所だと理解するのに時間はいらなかった。

 

「お待たせ、くれはさん」

「待ってないわ」

「そう?」

 

 正直に言えば、くれはさんを誘ってみたのは半ば諦めを含んでいた。

 彼女はいつも忙しそうに神浜中を駆け回ってる。最初はどうして学校をあんな速度で出ていくんだろうと思ったけど、異様に広い交友関係を知った最近は納得している。

 

 それだけに、今日の創作料理大会に来るかどうかダメ元で誘ってみたらOKされたのは驚いた。

 常日頃学校やアルバイトの関係で会ってたり昼ごはんを食べたりするものの、それらは別の目的がある()()()であって、遊びだけのプライベートな用事というのは久しぶりだ。もしかしたら初めてかもしれない。

 

 なにせ、彼女の近くにはいつも誰かがいる。クラスも学年も学校も違う、共通点といえば魔法少女らしいということだけのバラバラの人たちが。そうでなくとも以前の観鳥さんのようにすぐに誰かしら来るものだ。

 

 今日はラピヌちゃんはともかく、もう一人の彼女の同居人は……あれ?

 

「帆奈ちゃんは? てっきり一緒に来ると思ってたんだけど」

「自由研究だってどこか行った」

 

 珍しい。思わずそう口にした。

 帆奈ちゃんはくれはさんと同じクラスとはいえ学校でもずっと近くにいるほど仲が良いのに、行先も告げずに離れることがあるんだ。もっとも、彼女の人となりを詳しく知っているわけでもなく、そういうこともあるんだなと、それ以上の疑問が浮かぶことはなかった。

 

 創作料理大会の会場はすぐ近くで、肩を並べて歩いたのは僅かな時間だ。

 ビーチは潮風と遊びに来ている人たちの声で夏の海らしさが溢れている。生まれも育ちも南凪の彼女にとってはこういうのは当たり前なのかな。

 

「これあげる」

 

 急遽こしらえたような客席にスペースを確保すると、彼女は道中買った缶ジュースを渡してきた。当然のようにメロン味。

 意地の悪いことに、自販機で気軽に買えるという些細な違いが、いくら仲良くなってもそっち側の人間なんだなと結露した冷たさをより強く感じさせた。

 

 もっとも、缶ジュースはすぐに温まる。

  

「ぬるっ」

「今日暑いから」

「……にしても、ほんと涼しい顔してるよね」

 

 こんな暑いのに汗ひとつかいてない。毎日毎日外でなにかしてるのに、肌は美しさを保ち続けている。まったく変わらないなんてどうなってるのよ、ほんと。

 

「ええ」

 

 ……なんか、反応が薄い。いつも真顔だけど、特に。

 この話題はやめといたほうが無難だ。別の話にしようと、気になっていたことを聞いた。

 

「ペレネルって人、知ってる? ラピヌちゃんとあした屋に行った時に来たんだけど……」

 

 彼女は無言のまま頷く。

 

「ああ、やっぱり。それじゃ――」

 

 『願い』とそれに至る心境を聞いてきたと言おうとして、しまったとばかりに咄嗟に他人への"仮面"を被った。

 なにやってるのよ私。"聞いてきた"などと言えば、話題がそれになる。また自分の口から人間関係に亀裂を生み出すことなどできやしないし、そんなプライベートな領域に軽々しく踏み込むわけにいかないじゃない。

 

 途端に言葉を止めた不自然さは隠しきれず、くれはさんがじっと私を見る。

 

「ええと、その……」

「イカ焼きってタコ焼きの仲間?」

 

 ……。

 

 ……は?

 

 急になに言ってるのこいつ?

 

「あそこ」

 

 指さした場所には海の家があり、大きくイカ焼きの宣伝のぼりが立っていた。

 くれはさんなりに話題を作ろうとしてくれたのか、それとも単なる好奇心かはわからない。ひとつ言えるのは、イカ焼きとタコ焼きはぜんぜん違う。それだけだ。

 

 はあ、一気に緊張も仮面も解けた。

 周囲の人の目があるから気は抜けないけど、こいつは全部わかってる。それだけで普段より遥かに楽な気がした。

 友人だからこそなにも言わない時間を共有しても良い。言葉にできない安らぎがある。

 

 どうやら開幕まではまだ時間があるらしく、私たちはその様子を眺めていた。みんな準備に慌ただしく動いていて、中には見知った魔法少女の姿も見えた。

 

 あの赤髪の子はくれはさんを治療してくれた伊吹れいらって子だったよね。

 ああ、莉愛さんもいる。こっちをチラチラと見て……いや、くれはさんを見てるのかな?

 

 ……あれ? みたまさんまでいる?

 彼女、確か料理が壊滅的だって聞いたんだけど、これ大丈夫なの? 

 

「みたまの、料理は、ダメ」

「なんでカタコトなの」

「とにかく、ダメ。まなかも来るらしいし、止めてもらわないと」 

 

 まなかとは、胡桃まなかちゃんのことだ。北養区にある洋食屋ウォールナッツの娘さんで、そこはゆうなさんもたびたび来店するような名店。お父さんは今回の創作料理大会の審査員に呼ばれているらしく、多方面への伝手もあるのかもしれない。

 そんな彼女と仲良くなることは成り上がる目的にも繋がるわけで、相談所で出会った莉愛さん経由で何度か会ったことがある。

 

 会場内を見渡してもまなかちゃんの姿はない。裏方にでもいるのだろうと気にせずその場は流した。

 それから司会をするというめぐるちゃんが来て、創作料理大会が始まって――しばらくしても、彼女の姿はなかった。

 

 来ると言ったら来るタイプだろうし、なによりお父さんもいる。料理に関してもきっと譲れないものがあるはずだ。会ったのは少しだけでもそういう人だとわかっている。

 

 そして、予想通りくれはさんが立った。

 

「くれはさん、どこ行くの?」

「まなかを探しに」

「やっぱり。いいよ、私もついてく」

 

 くれはさんなら、そうする。

 これはもっと深く、確信めいた気持ちで宣言できる。 

 

 夏の海は楽しいけれどトラブルも多い。巻き込まれていたら大変だ。

 とにかく手数がいると他の魔法少女の子たちとも話して、魔力反応を探して海辺を進むと、意外にもまなかちゃんは結構あっさり見つかった。

 

 彼女はこちらに気づくと小走りで駆け寄って来て、申し訳なさそうな表情を見せた。

 

「ふぅ、良かった。来ないからみんな心配してたよ」

「無事なら良かった。プロミストブラッドに狙われてたら大変だから」

「もしかしてまなかを探して? すみません、さっきまでつむぎさんがずっと話してきたり、迷子の子がいたり妙にトラブルが多くて――」

 

 だから到着が遅れた……にしてはずいぶんと時間がかかったように思う。準備とかあるだろうし、相当なトラブルに見舞われたに違いない。海辺だし、例えば溺れてる人がいるとか……。

 

「ってああっ!? 今度は海に人が!」

「えっ!?」

 

 なんて、まさか本当に!?

 まなかちゃんが見た方向には、確かにバチャバチャと水音をあげて溺れているような人がいた。オレンジ色っぽい髪で、あれは栄総合学園の制服だろうか。

 

 そんな判断は一瞬で、すぐに私たちの足はそちらへ駆け出す。

 当然と言うべきか、一番早く動き出して、一番速かったのはくれはさんだ。あっという間に私を通り過ぎて行く。

 

 ただ、通り過ぎる瞬間、「あーちゃん――タルトなら――」とつぶやきのような途切れ途切れの小声が聞こえた。一刻の猶予もない状況と水音が心をかき乱す中、ほんのそれだけの言葉でも聞き取れたのは奇跡に近い偶然に違いない。

 

「ちょっと!? 確かあなたは――!」

 

 静止を呼びかけるまなかちゃんの声を無視して、くれはさんは海に飛び込んでいった。

 溺れている栄総合の子に近づく……前に、ブクブクと沈んでいく。

 

「……えっ?」 

「帆秋さんは泳げないんです! 水波さんがそんなこと言ってました!」

「じゃあ、なんで飛び込んで……」

「胡桃さんこんなところに……って帆秋さん!? なにやってるのよあなた!?」

「先輩いいところに! 帆秋さんのほうお願いします!」

 

 気が動転している間に、やってきた莉愛さんがくれはさんを引き上げて、まなかちゃんがもう一人――恵萌花さんという、これまたくれはさんの知り合いの人を引き上げた。魔法少女は見た目以上の力がある。比較的簡単にできるのだろう。

 

「うぅ、すみません……子犬が溺れてて……」

「まったく、それであなたまで溺れたら本末転倒でしょ……。ほら、帆秋さんも、あなた泳げないじゃ……あ、あら? ちょっと!?」

 

 助けられたくれはさんは目を閉じたまま。

 息はしてるようだけど、酸欠か、頭でも打ったのか、はたまたショックか気絶している。

 

 思い出したのは、とある噂話だ。

 

 北養区のパワースポットの滝に制服のまま飛び込んだ子がいるって話を聞いたことがある。泳げないのかたくさん水を飲んで、偶然近くに来た人が引っ張り上げてなんとか助かったらしい。

 

 ……まさかとは思ったけど、くれはさんだったんじゃ。

 いつもの変な行動で片づけていいのか。今の後先考えない行動といい、自分から死に向かっているようにしか見えない。

 

「勝手に覚えたままで、勝手に死なないでよ……」

 

 あなたはみんなに頼れる人でしょ? そう教えてくれたんでしょ?

 だから、私に頼ってくれていいのに。

 

 お嬢様だから取り入るというのは真実だけれど、建前だ。

 本当は、一番大きな理由は、会いたかったから。誰も知らない私の姿を知っていて、素をさらけ出せる居場所が、あなただったから。"ほんとうの私"も、家族に言えない魔法少女のことも、みんなが忘れた過去だって、包み隠さず話せる相手なんてあなたしかいないんだよ。

 

 『頼ってばかりだから頼られるようになりたいのよ』、だったよね。

 あのボランティアの日、くれはさんが言ったことだ。彼女にしては珍しく自分を押し出した言葉だったから印象が強く残っていた。

 

 そんな彼女が、今や真逆の放っておけない妹のように見える。

 まるで小さな子供が悪夢を見るように、時折意味の通らないうわごとを言ってうなされている姿は胸が締め付けられる。たった一度だけ「助けなきゃ」と聞こえたものの、余計に心配になった。

 

 地面に寝かせてはおけないし、余計に動かすわけにもいかない。まなかちゃんたちを送り出したあと、木陰に移動して膝枕で目が覚めるのを待った。

 実際に彼女が意識を取り戻したのはすぐのことでも、私にとっては待ち遠しく長いもので、真夏の日差しが傾くとさえ思った。

 

「……起きた?」

「あ――おねえ――」

 

 青みがかった黒い目が私を見つめる。揺れるそれはなにかを確かめるようで――その瞬間、魔法を使ったような波長を感じた。

 

「……迷惑かけたわね」

 

 紛れもなく、いつものくれはさんだ。

 なんでもなかったかのようにむくりと起き上がると、「会場に戻りましょう」とただ一言言う。

 

 そこに、"わたし"を見たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 創作料理大会はめぐるちゃんの『実況』が功を奏して、なんとみたまさんと十七夜さんのペアが優勝した。

 それで無事に終われば良かったものの……私達には、くれはさんという問題があった。

 

 まなかちゃんと莉愛さんにひそかに呼び出されたのは、そのために違いない。

 彼女の様子は普段からおかしいとはいえ、そういう意味とは違うおかしさがあった。それは私よりも付き合いの長い2人にも当然わかっていたようで、「帆秋さんのことです」と予想通りに切り出される。

 

「また、よね」

「ええ……もう大丈夫だとは思ってましたが、なにかあったのか」

「……またって?」

「桐野さんは神浜マギアユニオン結成の後からの付き合いとのことでしたよね。ちょっと前、まだマギウスの翼があった頃なんですが――」

 

 二人が話してくれたのは、私の知らない頃のくれはさんだった。

 彼女と観鳥さんの関係、探し求めて自分の身を犠牲にしていたこと。それでも、立ち直ることがあって自己犠牲はやめたこと。

 

 だけど今日の行動は、自らを顧みないものだった。

 元に戻ってしまったのか、そうせざるを得ない理由があるのかはわからない。でも、良いわけがない。

 

「やっぱり、くれはさんに話をするならあの人しかいないとまなかは思うんですよ」

「それって……」

「もちろん観鳥令さんよ。今は帆秋さんと離れてるみたいだけど、あの子からガツンと言ってあげないと」

 

 くれはさんの過密スケジュールや、観鳥さんの"取材"の件。この前偶然出会った時を思い出すとなかなか出会えないような気がした。

 だから、思いついたそのアイデアを口にしたんだ。

 

「そうだ、もうすぐ全神祭があるじゃないですか。そこで――」

 

 




■今回の内容
『七色夏模様』
『なだのよびごえ』(一部分)
『うたかたの夏夜』(一部分)
『波打ち際のリボン』(一部分)
 黒江(水着ver) 魔法少女ストーリー 1話『私の楽しい夏休み』(一部分)

■紗枝ちゃん
 日頃会いすぎて信頼度がちょっと上がりすぎている。
 もう十分だ! もう十分だろう……。

■くれはちゃん
 プールサイドでは黄昏てたり浮き輪で浮いたりしていた。なのに毎回来る。こころちゃんは苦笑いし、さしものまさらも困惑し、あいみが励ましていたとか。
 急にイカ焼きとか言い始めたのは以前の話に由来する。

■七色夏模様 
 オムニバス形式の夏イベント。まさかの『南凪自由学園編』がある。
 『うたかたの波打ち際のよびごえ編』なんてそんなものはない。二次創作! 二次創作です!

■北養区のパワースポットの滝
 パート65『あなたみたいになれるかな』でのガブ飲みバフのこと。
 HPと世間体を引き換えに止められるまで蓄積し続けた結果。

■南凪
 南凪といえば夏。夏といえば南凪。スパアドベンチャーワイキキもあるわよ。
 課外授業でひまわり畑に写生大会を行ったり海辺で創作料理大会をしたり夏には欠かせない。

■夏イベント
 相変わらず全部詰め込むとスケジュールが大変なことに。
 メインやイベントの時系列を考えると、だいたいこの頃には夏になっている。

■くれはちゃん絶望再走ポイント 
 ももこちゃんの魔女化。
 みたまさんの死亡。


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