マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート93 喜びと悲しみの終幕流転

 

 最後のフラグを立てるRTA、はーじまーるよー。

 

 というわけでやってきました、くれはちゃんハウス開かずの間こと書斎前。

 おっ開いて……ないじゃ~ん。ここにファイナル化に必要なフラグがあることはわかってんだぞ! 開けろ! 神浜市警だ!

 

 おうおう、ついてきた紗枝ちゃんとこのみちゃん鍵持ってねぇかい!

 

「……鍵の場所は?」

「それなら前、くれはさんが家の鍵は全部自分の部屋にあるって言ってたけど……」

 

 (自宅なんだから自分が管理してるのは)当たり前だよなぁ?

 

 しかし戻るのは面倒。開けるのにパズルも合言葉も必要ないなんの変哲もないドアなんて壊せばいいんだぜ? 変身カトラスだオラァ!

 

「ちょっと!?」

「……え? ドアが、壊れた?」

 

 これぐらいで驚いてもらっちゃあ困るぜ。魔法少女何年目だ?

 

 それでは探索としゃれこみましょう。

 一見するとただの書斎ですが、ここにあることは瀬奈みことの台詞でわかっています。僅かなヒントも見逃さない走者の鑑(自画自賛)。

 

 どこだぁ~? 探すぞ~!

 

 本棚の本を片っ端から引っ張り出し! 机の引き出しをフルオープン!

 明らかに情緒不安定な行動も探すためには良いですね、ええ。見つかったらイベント発生なので地道に探すよりこの方が早いです。

 

 いいぜ、くれはちゃんはどうせソウルジェムボロボロなんだし、心配した目線で見てやがる奴にはとことん不審行動を見せ付けてサービスしてやるぜ!

 

「くれはさん……」

 

 あ り ま し た。

 

 見つけてくださいとばかりに目立つハードカバーな日記が固有イベント発生の最後のフラグなようですね。

 通知からして他の条件はなんとここまでに達成できていたみたいです。運も実力のうちなんだよね、すごくない?

 

 さっそく読みましょう。内容は?

 と言いたいところ、読むと長いので読みません。これRTAなんですよ。読んだという結果だけいただいていくぜ?

 ただ、ソウルジェムくんの穢れがまた上昇してる時点で察しがつきますね。人間の屑がこの野郎……(義憤)。

 

 ってうおわあああああ! 勝手に変身するな止まれ止まれ! カトラスでソウルジェムを割ろうとするんじゃない! 止めて! このみちゃんと紗枝ちゃん止めて!

 

「あ……!?」

「やめてっ!」

 

 一般魔法少女と比べるとまだ高めなパワーのせいでじりじりとソウルジェムに寄っていく! ヘルプ! ヘルプ! 誰かー! 助けてー!

 

「くれは嬢!」

「勝手に死ぬなッ!」

 

 呼びかけでエントリーしてくれたのはペレネル先生とラピヌのフランスコンビ。

 ラピヌお姉さまの強制変身解除と飛び蹴りは暴走魔法少女に゙実に効果的で無事に地面にダウン。連れて来てて良かった~って思うわけ。

 

 精神ダメージが多くて不安定なときにさらにダメージを受けると、デメリットとして突発的な行動をしてしまうので大変ですね。こういう面倒があるので、普通はさっさと人間らしさを取り戻したほうがいいです。

 

「こっちよ!」

「キミも早く!」

「くれはっ!」

 

 織莉子にキリカ、ついでにどこからか帆奈ちゃんまで飛び込んで来てもう部屋が狭い狭い狭いんだよぉ!

 

 両手両足影の手で拘束されるし、ラピヌお姉さまはずっと見てくるし、もう待遇が捕虜のそれなんだよなぁ。くれはちゃんの顔を見てください! え!? 悪いことできる顔じゃないでしょうこれ!

 

 しかしフラグは無事に入手したのでイベント進行のお知らせ。あとは最終決戦の流れを待つだけなので加速していきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんと、なにもしないまま数日が経過しました。お前ちょっと遅すぎなんじゃねぇのか?

 流れには乗ってるので大丈夫ではあるんですが……タイムがちょっと心配よ心配。

 

「ねーねー帆奈は? また出かけてんの?」

「そうみたいですね。くれは嬢、醤油は必要ですか?」

「ふーん……」

「ずっと変身していますし、魔法の使い過ぎで穢れには……と、ラピヌには無用でしたか」

 

 ペレネル先生が普通に朝食食べてますがずっとこんな感じです。日本に馴染んでんじゃねーよオォン!?

 

 彼女の監視の目に加え、ラピヌの強制変身解除は変身時も魔女化後も使えるので、くれはちゃんの変身はどうあがいても延々と封印中。動きづらい身体のまま日常生活を送るしかありません。心がね……。

 

 ピィィィンポォォォン(ねっとりインターホンくん)。

 

「くれはさん、おはよう。今日は良い天気だよ」

 

 それに加えてこのみちゃんが毎日お花の世話に来る有様。そんなことしなくていいから……(良心)。

 

 というかこの家、なんで赤色と桃色のゼラニウムと白のガーベラが配置されてるんですかね? こんなに手持ちにいらないんじゃい!

 

「健気なものです。掃除もしますし、あなたの姉妹との繋がりを失わせたくないのでしょう。帆秋るいが好んだゼラニウムと、帆秋あかりが好んだガーベラを……」

 

 あっそっすかぁ!?

 そういえば以前、カタコンベでの結菜さんでもそんな話ありましたね。くれはちゃんのイベント飛ばしてるんでぜんぜんわかんないですけど。

 

「そうだ、今日ね、いろはちゃんたちが自動浄化システムの制御を取り返しに行くんだって。見に行く?」

 

 来たっ、来たっ、来たなぁ!?

 

 これを待っていました。

 第11章『喜びと悲しみの終幕流転』への突入条件は自動浄化システム奪取作戦の開始です。白タヌキをしばきに行く章ですね。

 

 なぎたんとみたまさんがエターナルダークネスな感じになっている場合は、ピュエラケアと共に説得しに行くイベントが挟まりますが今回は関係ありません。

 

 このみちゃんの言う通り、この後選抜メンバーが中央区の自動浄化システム中枢へと入っていきます。

 なぜか入れるのはキモチの石の数だけという露骨な人数制限がかけられるので選出が重要です。

 

 自動的に編成されるのは基本的に各グループのリーダー。最近出会ったばかりのラビさんや、つい先日とんでもないことしたひめなも選出されます。あとはいろはちゃん、ういちゃん、結菜さん、静香ちゃん、かごめちゃん。そしてなぜかカウントされるモキュの7人と1匹です。

 

 しかしこの自動編成、エモさと引き換えに大きな問題を引き込みます。

 

 ひめなの仕掛けを破壊していない状態でラビさんを送り込むと、以前解説したようにパーフェクトキモチラビさんがご登場。いろはちゃん、ういちゃん、モキュのキモチ合体インフィニットいろはちゃんで対抗できますが、時間を取られて白タヌキに好き勝手やられてしまい、自動浄化システムのためにかごめちゃんが願うしかなくなります。

 

 というか、戦闘力のないかごめちゃんとモキュを突っ込むと合体前が非常に危険。ブーメランで一掃されることもあります(1敗)。

 こんなとこでリセなんてやってらないので、スマホ破壊ルートに入っておく必要があったんですね。

 

 そして、この辺のイベントを丸っと飛ばすと言いましたが、実はこれが重要。

 

 一度でも瀬奈みことにインフィニットいろはちゃんを見せていると、自動浄化システム奪取後にモキュが狙撃されて非常に面倒なことになります。かばうのも手間なので見せないでおくと良いぜ。

 

 まあ一応、こっちのルートでも登場させる方法はありますが……チャートに入ってないのでスルーだスルー、次行くぞ次。

 

「どうする? もしよければ見送りに行く?」

 

 連れ出されると面倒ですね。このみちゃんに車椅子で運ばれるのはなんかエモいですがこのまま置いといてくれてイーヨー……。

 

 

 

 ~少女休憩中~

 

 

 

 延々と自室で待機していたところ、急に空の色が地獄絵図。

 察知するまでもなく周辺に魔力反応が多数出現しました。不思議ですねぇ。

 

「くれはさん! 周囲に結界が……!」

 

 まだ帰っていなかったこのみちゃんが部屋にエントリー。

 神浜市全域に鏡の魔女の結界が広がり、ミラーズのコピーも株分け鏡の魔女も大量出現というこの世の終わりみたいな状況を教えてくれました。つまり、第二部最終決戦の開催です。

 

 細かい進行条件などは後で解説しましょう。

 まだくれはちゃんのイベント進行中なのでこれが終わったら決戦に行きます行きます。

 

 おっとペレネル先生からテレパシー。

 

(遠方からミラーズのコピーがこちらに向かってきています。私とラピヌで迎撃はしますが……脱出も考慮しておいてください)

 

 なんかwwwwwこっち来てんだけどwwwww草生やすな。

 

「私も行ってくるね。……今度は、絶対連れて行かせないから」

 

 だから前ってなんだよ(哲学)。

 ミラーズのコピーが外に出てくるって相当な事態2回も起こるわけないだろ! いい加減にしろ!

 

 くれはちゃんハウスに敵も大集合してるので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あの夏の日から、嫌な予感はしていた。

 

 とても大きなお屋敷のような家は私の家とは大違い。されど成り上がった先の未来予想図を見ているようで、奮起はすれど妬んだことはない。

 なにより桐野紗枝と帆秋くれはの関係は、その程度のことで壊れることなどなく、私のすべてを知られているからこそ、すべてを受け入れられるつもりでいた。

 

 だけど今見上げる建物は、現世と隔絶されたような、とても歪なものに見えた。

 

 くれはさんが魔女の攻撃を受けて寝込んだという話は、ひなのさんから直接聞いている。

 元々同じ学校であり、ラピヌちゃんとの関係でそれなりに近い立場にいる身としては、お見舞いに行くのは当然のこと。それとは別に、心配で仕方がなかったというのが大きかったけれど。

 

 そんなことを考えて来た人は私以外にもいるようで、途中で工匠学舎の制服を着た三人組とすれ違った。

 

「くれはさん……」

「水樹……死相、見えたんだよね」

「……心配デース」

 

 ふと聞こえた言葉に冷や汗が流れた。

 魔力反応がある相手に、なにを不謹慎なことをなどと一喝はできない。そういう固有魔法ならば十分あり得る範疇だ。

 振り返って呼び止めれば事実かどうか確認できる。来たのも同じ目的なんだ。知りたいと言えば教えてくれるだろう。

 

 だけど、知ることがなによりも怖かった。

 

 真実とはいつだって正しくて、なのに、常に良いものとは限らない角ばったもの。

 偽りの仮面で不都合な己を隠し続けてきて、知られることを避けていた意味がそこにある。知ること知らせることは即座の幸福に繋がるわけじゃない。最低限、一瞬の知識欲を満たせるだけだ。

 

 真実を見聞きすることで己の心に大きな傷を負う。あるいは知らされることで歩んできた道とその先を閉ざされる。だから隠す。

 されど明かして受け入れられたのなら、良いものへと転化することもある。

 

 ……そのことはよくわかってる。

 

 結局のところ、間近に迫るくれはさんの死の真偽に怯えているだけ。仮に真実なのだとしたら、私は……この世界に唯一の存在を失うことに耐えられるんだろうか。

 

 杞憂で終わることを願いつつ、内部へと入った。

 外観からわかる通りこの家は非常に大きい。くれはさん一人暮らしでは持て余すし、同居している帆奈ちゃんとラピヌちゃんを数えてもまだ余る。

 

 それに今さら違和感を覚えることはなく、リビングにいた魔法少女たちに意識が向く。

 

「あっ……!」

 

 ゆったりと身体を預けられる椅子に座っていたのは、自らをペレネルと名乗った魔法少女。

 以前、あした屋で妙な質問を投げかけてきた人だ。もっとも、くれはさんの知り合いであり、二木市の戦いで協力してくれたそうだから、敵ではないんだろうけれど……苦手意識はそのまま残っている。

 その近くでラピヌちゃんが珍しく大人しくしているし、いることに意味はあるんだろう。

 

 それよりも気になったのが、ソファに座って俯いている春名このみさん。

 彼女のことも知っている。調整屋さんや相談所でお花を用意してくれることが多くて、くれはさんとの関係でも顔を合わせることが多い。花のことになるとしばし過ぎた行動をするものの、優しい性格で笑顔が素敵な、まさしくお花屋さんのお姉さんという人だ。

 

 けれども、私に気づいて上げた顔は記憶の中とは異なり、彼女の目は泣き腫らしたのか赤かった。

 

「紗枝さん? そっか、もうそんな時間だった?」

 

 なんて微笑むけど、心が苦しいままなのはよくわかる。私だって同じだ。

 

 くれはさんが寝込んでからというもの、彼女はここで看病していることが多いらしく、今日来ることも伝えてあった。

 

 彼女に連れられて向かった部屋のベッドには、くれはさんが寝ている。

 いつもの真顔ではなく、うなされて苦しそうで、助けを求めるように指が動いていて――

 

 それを前にして、私は手を握ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、まだ私はくれはさんの家にいた。

 単純に帰っておらず泊まっただけだけれど、私にしては珍しい。

 

 もちろん、私がいないで家族は大丈夫だろうかという心配もある。

 だけれど後押ししたのもその家族で、1日はいることにしていた。いつもいつも騙される人の良い両親や、弟と妹たちにまで見透かされるなんてよっぽどの表情をしていたらしい。

 

 朝一番に帆奈ちゃんから話を聞いたという白色と黒色の魔法少女がやってきたり、このみさんが部屋の前で寝ているのを見てそっとしておいてあげたりして、時間は過ぎていく。

 

 起きる出来事にわかりやすい予兆なんてなくて。

 くれはさんが目を覚まして起きてきたのは、あまりにも唐突なこと。

 

 後ろからは慌ててこのみさんがついてきて、様子を見に行った黒色の魔法少女も来ていた。

 

「帆奈さんからは勝手にしていいと言われていたから頂いていたのだけど……やっぱり悪いわね」

「そうかしら? ……あらくれは嬢、動けるようになったのね」

「も、もう、心配したんだからね……」

「お姉ちゃんが料理作ってあげようか~?」

 

 口々に声をかけて、それに対してくれはさんはいくらか反応するけれど、どこか上の空で焦っているようにも見える。

 

 確信となったのはその後。

 私たちと話していたかと思えば突然歩き出して、廊下へと向かっていく。どこへ行くのとこのみさんが問うと「書斎に行く」とだけ。

 

「書斎って……あの鍵かかってるとこ? あそこは気にしないでいいって、くれはさんが言ったんじゃない」

「そーそー、ドアを壊しちゃダメだって私に言ってさ」

 

 何度かラピヌちゃんの関係で来ることがあって、その何度目かのうちどこかで言われたはずだ。

 

 尋常じゃない様子に私とこのみさんは顔を見合わせると、くれはさんを追いかける。

 

 その部屋は二階の角、そこそこのスペースを取って存在する。

 くれはさんはドアノブをガチャガチャと動かしてみているものの、やはり開かない。そんなことはわかってるはずなのに、普通の判断ができていないのが焦燥感を駆り立てる。

 

「……鍵の場所は?」

「それなら前、くれはさんが家の鍵は全部自分の部屋にあるって言ってたけど……」

 

 このままにしておけないし一旦戻って――と、提案しようとした時だった。

 

「ちょっと!?」

「……え? ドアが、壊れた?」

 

 ほんの一瞬の出来事。変身したくれはさんは、その鋭利なカトラスをドアに叩きつけると真っ二つに両断した。 

 

 乱暴な手に驚く反面、常識から一歩横にズレた行動にらしさを感じた。ああ、そういう人だよね――と、窓から飛び降りる効率的な埒外に慣れていたせいもある。

 だけど、このみさんの驚きは別の個所に向けられているようだった。

 

 閉ざされていた書斎は、本棚と机という一般的なイメージそのものの配置で、豪華な家具だなとは思いつつもそれ以上のものはない。

 くれはさんはずんずんと中に入っていくと、本棚の本を取り出して確認しては投げ捨て、そこに目当てのものがなかったのか、次は引き出しを開けて中を漁り始めた。

 

 行動の理由もなにを探しているのかもわからない。

 ただ、崖へ向けて進んでいるような緊張感だけがある。

 

 私たちは、それを見ることしかできなかった。異様な空気に呑まれたのかもしれない。

 

 くれはさんが止まったのは、鍵がかかっている引き出しを無理やり開けて、一冊の本を取り出した時だ。

 

 それを探していたんだろう。すがりつくようにページをめくる。1枚、1枚と進むごとに、読む速度もめくる速度も上がっていく。最後のページまでたどり着いて本が裏返ったあと、また初めから読み直す。見落としがないか探すみたいに繰り返し、繰り返し、繰り返し……遂には、膝をついて本を落とした。

 

「パパ、ママ……――あ、う、ああああ……!」

 

 子どものようだった。

 感情のまま泣きじゃくる姿に、いつもの様子はない。

 

 このみさんが駆け寄っていって、私も続く。

 そして落ちていた本を拾い上げたのは、彼女をそこまでさせる内容が気になったから。どうして泣き出してしまったのかがわかれば、より良い慰める方法が見つかるかもしれないと思ったんだ。

 

 だけど――読むべきじゃなかった。

 真実っていうのはどこまでも残酷になれる。そう、思った。

 

 それは日記だ。

 書いてあったのは、くれはさんに対する怒りと失望だった。

 

『家業はるいに継がせる』

『くれはには結婚させて外に出す』

 

 初めのうちはそういった考えがいくらかの優しさを持って書かれていた。自分勝手ではあるものの、くれはさんには向いていないという理由で別の道を模索しているようでもあった。

 

 だけど、姉妹の"るい"と"あかり"の死がきっかけだ。

 

 筆跡も文体も、考えさえも変わっていく。

 すべてをくれはさんに押し付けるような内容と毎日が繰り返されていた。外側からしか鍵のかからない部屋を作り、そこに閉じ込めたこともあったとさえ。

 

 書斎には入らせないようにとも書かれていて、この部屋が閉じられていた理由が察せられる。

 

『いくら言い聞かせても間違いばかりを繰り返す』

『るいとあかりはあんなに優秀だったのに』

 

 そうして、最後のページに書かれていたのは周到に練られた交通事故の計画。なにを考えてそれを選んだのかはわからないけれど……最後に、"くれはは"とだけ書かれていた。

 

 本を閉じて、理解した。

 "家族"に対する彼女の重みと、泣き出した理由を。

 

 ……じゃあ、なに。

 

 くれはさんは両親も姉妹も亡くして、なのに他人のことばっかり気遣って、私の家族まで心配してくれてたの?

 だってのに、そんな人がこんな目に遭わなくちゃいけないの?

 

「――バッカじゃないの!? こんの……ッ! くれはさんを何だと思ってるわけ!?」

 

 私だって両親に怒りを抱いたことはあるけれど、まったく違う。根底に信頼があるから言える訳であって、人間じゃなく道具を使うような扱いに嫌悪感を抱いた。

 

「……滑稽でしょ?」

 

 くれはさんが、私を見てそう言った。

 

「私のせいなの。私が殺したの。壊してしまったのよ。パパも、ママも、るいお姉ちゃんも、あーちゃんも……」

「違うよくれはさん! そうじゃ――」

「だって、みんな幸せだったんじゃない。私が、ふたりのために願っていれば……いなければ……」

 

 違う。そんなわけない。

 ソウルジェムの穢れが悪い方向に考えさせているだけなんだ。

 

「魔法少女として戦える力がなくて、家族にも嫌われていて、裏切っていて、ずっとこのまま生きていかなくちゃいけないなんて――あんなこと、願うんじゃなかった」

 

 そうして、緑の衣装を身に纏うと。

 出現させたカトラスを、己に向けた。

 

 鈍く光る鋼が頬を伝う雫を受け止める。一歩遅れてその意味を理解する。

 

「あ……!?」

「やめてっ!」

 

 私とこのみさんが変身して飛び掛かったのはほぼ同時。

 あと、ほんの少しだった。ほんの少し遅かったならば、切っ先がソウルジェムを割いていた。

 

 本気の刃は強力な力を持っていて、腕を抑えてもまだじりじりとソウルジェムに近づいていく。机に寄りかかる体勢のせいで地面に押さえつけられない。

 

 そんな中、ふっとカトラスが消えたのは彼女が来たからだ。

 

「くれは嬢!」

「勝手に死ぬなッ!」

 

 入って来たのはペレネルさんとラピヌちゃんで、その上では浮かんだウサギのユニットがしっかりとくれはさんを見つめている。

 あれはラピヌちゃんの固有魔法……だと思ってる、強制変身解除。魔法少女に対して致命的な効果を発揮するそれが命を助けるために使われた瞬間だった。

 

 さらに、あの白色と黒色の魔法少女――織莉子さんとキリカさんまでもやってきて、その背後には……帆奈ちゃんがいた。

 

 その方向に顔を向けて、くれはさんはつぶやいた。

 

「ごめん、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしに謝罪する姿を見て、罪悪感が溢れ出した。

 

 なんであんたが謝んの。

 悪いのは、あんたじゃない。家族だ。そんなことをさせた不条理な世界だ。

 

 ……そんなこと言っても受け入れるわけないのはわかってるけどさ。

 

 くれはが願ったのは、一番悲しくて、なにかが壊れてた時。

 『大人になりたくない』って願いが不変を与えたのなら、じゃあずっと、その感情までも抱えていたわけだ。だから簡単に笑えないんでしょ?

 

 どれだけ優しさが包んでも、どれだけ多くの幸せがあっても、その根本はいつまでも変わらない。失ったあの日がある限り、いつか最初に戻される。だけどあの日がないと、魔法少女としての願いを否定することになる。

 

 くれはは、詰んでる。あり方が矛盾してる。

 

 姉、妹、両親。

 

 たぶん、どれか一つだったらまだ動けた。

 だけど二つになって心が折れた。

 三つになってしまえば……もう、なにもない。

  

 結局、くれはの一番はいつだって家族なんだ。

 その一番に裏切られたら心にヒビが入ってしまう。二度と戻らない傷が刻み込まれてしまう。

 

 こんなものが真実だっていうなら消してしまったほうがいい。全部忘れて、幸せに生きて欲しい。

 

 ……あっは、あたしも瀬奈と同じかもね。

 

 あたしの前にも現れた瀬奈は、手を差し出して『一緒に世界を滅ぼそうよ』と言ったんだ。

 その理由とかも色々と言ったけど、最初からあたしの答えは決まっていたわけで、受け入れるつもりはさらさらない。なにより、ショックを受けるより前に抱いていた覚悟が勝ったんだから。

 

 瀬奈みことは、鏡の魔女になった。

 後回しの逃避の先。真実に辿り着くその日が、その瞬間だったってだけ。

 

 なんでだろうね、今になって思い出すのは昔のことばっかりだ。

 

 初めてくれはの家のお風呂見たとき、どんなホテル? って思ったよ。ベッドもふかふかだしさ。住む環境が違うってこういうことかと心底思ったわけ。

 ああでも、失敗した目玉焼きも、焦げたトーストも、あんたは食べてくれたっけ。おいしいわけないのに。

 

 あの日々に瀬奈がいたらなんて言ったかな。はしゃいじゃったりしてさ、一緒にキッチンに立ってみたりして、買い物も一緒に行ってさ……わーわー騒ぐの。そんで、ご飯食べてお風呂入ってさ、また明日ってゆっくりと眠る。日常って、そういうものなのかな。

 

 ……こんな夢想をできるとか変わったよね。

 キラキラとした明るい日向に少しでもいられて良かったよ。ほんとはさ、ずーっと憧れてたんだ。普通の暮らしってのを。

 

 だけど、永遠なんてのはこの世界にない。 

 あんたも、あたしも、瀬奈も……もう、あの日には戻れないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 "果てなしのミラーズ"。それは鏡の魔女の結界の通称。

 

 大東区の鏡屋敷に存在するそれを前に帽子を深く被った。

 空は結界内みたいに歪な色を映している。瀬奈の言う"滅びの計画"とやらが始まった。

 

 あたしの命の使い道はここだ。

 そのために必要な手立ては全部やってみせた。調べ事も十分だ。

 

 あの氷室ラビの『概念強化』とかいう魔法で、フェリシアの『忘却』を強化すれば、家族もあたしらのこともくれはから綺麗さっぱり忘れさせることができるだろう。ズルいやり方だけど、ここまで追い詰められていれば誰しもが賛同してくれるはずだ。

 

 あとは、現実的な最良の方法でケリをつける。

 あの方法は……はなからできるとは思っちゃいない。理想も理想だ。

 

 使うのは自分の影を伸ばして操るこの魔法。

 便利そうだけどこんなのコピーしてもって最初は思ったけど、今となっちゃこれ以外の最適な魔法は考えられない。運が良かったね。

 

 なにをするかって、そんなの決まってる。

 

 鏡の魔女を、影の牢獄に堕とす。

 

 瀬奈は自慢げに未来でも過去でも平行世界でも行けるなんてのも言ったけど、いくら鏡の魔女でもそうそう通れる世界じゃない。あっは、だってさ、どうやって影の中に鏡を作るのさ。

 

 瀬奈の意思があたしに宿れば最良だ。自分で飛び込めばいいだけだもの。魔女そのものは手間かかるからこっちが良いな。

 まあなんにせよ、倒せなくてもそれで無力化できる。二度と開けられなくする方法は目の前で見て知ってるから。

 

 

 うん、だから、あたしらはここでお別れ。

 

 

 あたしも瀬奈も、もうくれはには必要ない。

 本来は交わるはずのない道だったんだ。一時の夢だった。もう過去は置いて、明日という未来に進んでほしい。 

 

「……瀬奈、ゴメン。あんたに気づけなかった」

 

 それこそもっと早く、あの頃に勇気を持てたら良かった。こんな結末よりもう少しマシになっただろう。

 

 いつだって後悔ばかりだ。

 ずっと、ずっと、ずっと……最良の選択肢を選べる保証なんてない世界だ。

 

 だから、瀬奈――今度こそ、言うよ。

 

「一緒に消えよう」

 

 そのためなら、邪魔するコピーも株分けの鏡の魔女も、なに一つ残らず薙ぎ払ってやる。

 

 




■今回の内容
 第二部第11章『喜びと悲しみの終幕流転』(一部分)

■くれはちゃんの運命
 書斎を開ける覚悟が出来た時、愛されていなかった真実を知って絶望する。
 もしもドッペルがなければここで魔女化。魔女化を避けられても、もう、二度とは戻れない。
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